相馬 博志
著者の齋藤孝氏は、著書『声に出して読みたい日本語』で、一躍有名になった明治大学文学部教授です。
本のタイトルとして『知性の磨き方』とありますが、いわゆるハウツー的な、どうすれば簡単に知性が磨けるかという内容ではありません。
「知性」とは広辞苑によれば「新しい状況に対して、本能的方法によらずに適応し、課題を解決する精神機能」とあります。
16ページに及ぶ「はじめに」で著者の「知性」についての考えが述べられています。「知性は、現代社会を生き抜いてゆく上で必要不可欠なものである」「知性は訓練によって高めることができる能力であり、訓練の第一歩は理解することから始まる」「知性は他者からの批判を甘受する」「知性を鍛えるためのロールモデルを持つ」などの言葉が出てきます。
本文は5章に分かれますが、3章目までは、夏目漱石、福澤諭吉、西郷隆盛といった偉人を通して「知性」を語っています。
文豪夏目漱石、著者は漱石を「日本屈指の知性」と捉えていますが、文豪夏目漱石としてではなく、悩む人夏目漱石としてみています。漱石のこうした傾向は33歳でイギリスに留学してから、はっきりあらわれてきたと著者は述べています。そして悩みぬくことで鍛えられる知性を、漱石を通して学ぶことができるとしています。
慶応義塾の創始者福澤諭吉、「幕末から明治にかけての開明的日本人の代表で近代を代表する偉大な知性の持ち主」と記しています。諭吉の生きた時代、それは幕末から明治への激変する時代でした。そこにあって諭吉の治世は精神の安定という面で驚くほどの働きを発揮します。「知性が物事を整理し、心の恐れをも減らす」と著者は諭吉を通して読者に語りかけているのだと思います。
明治維新の英雄西郷隆盛、「日本人全般から『誰よりも肚の大きい男』と評価され、理想像とされてきた人物でした」と隆盛を紹介しています。ここでいう肚の大きいとは、肚のできている人のことであり、それは「心の中の弾力性があるので、その時々の状況に落ち着いて自分を整えて振る舞える、与えられた状況下で何を為すべきか知っている人のことである」という、一時期日本に滞在したドイツ人哲学者の、隆盛に関して記述した文を著者は引用しています。隆盛に備わった「知性」を著者は「身体に宿る知性」と表現しています。
4章、5章は「知性」とは何かを色々な角度と人物から論じています。西田幾多郎、柳田国男、折口信夫、太宰治などの名前が挙げられています。細かい内容については省略しますが、「本当に知性を身につけようと思うならば、格段に優れた人の本を丁寧に読むに限ります」「分析的理解と直感的理解の二つの道を意識するだけでも、知性は確実に磨かれます」と著者は述べていますが、それがなかなかできないので私の「知性」は磨かれていないのです。
『知性の磨き方』
著者 | 齋藤孝 |
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出版社 | SBクリエイティブ |
定価 | 本体800円+税 |
発売日 | 2017年1月6日 |
(平成29年12月号)