大滝 一
皆さんは土橋章宏という作家をご存知ですか。2019年夏に封切りとなった映画『引っ越し大名 三千里』の原作者です。ちなみに映画の主演は、歌い、演じ、執筆もこなす人気マルチタレントの星野 源さんです。
それはさておき、この作家は出世作の『超高速!参勤交代』で一躍有名になりました。2014年に映画化され、日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞しています。その続編の『超高速!参勤交代リターンズ』も前作の好評をえて2016年に映画化されました。今回はこの3冊を極めて簡単に紹介させていただきます。
まずは『超高速!参勤交代』です。東北の小藩、湯長谷藩が幕府の命令により、5日間で参勤交代をせよ、という無理難題を押し付けられます。全くの嫌がらせです。人もいない、金もない、そして何といっても時間がない。さらにその途中で幕府からの邪魔が入るといった具合で、どうみても5日間では無理な命令。しかし、藩主と個性豊な湯長谷藩家臣達が知恵と頓智と自慢の得意武芸でこの難題を見事に乗り越えます。
参勤交代を無事終え、ほっとしたのもつかの間、更なる無理難題が幕府より押し付けられますが、これは読んでのお楽しみとしてください。飯盛り女のお咲にも泣かされます。
さてもう一冊『引っ越し大名 三千里』です。これも幕府から些細なことで目をつけられた、越前大野藩主松平家の血を引く松平直矩(なおのり)にまつわる話で、生涯で7回も国替えを命じられました。国替えは、参勤交代と違い、全ての家臣を引き連れての移動で莫大な費用がかかり、藩財政としての一大事でした。しかも、4回目の国替えは越後村上藩から四国の播磨姫路藩へ、5回目が九州の豊後日田藩へ、そして6回目は九州から東北の出羽山形藩へと、その移動距離が半端ではないのです。その引越しの算段をする大役を、書庫にこもりきりであだ名が「かたつむり」の片桐春太郎という若者が引き受けることになりました。さて、出来が悪いと評判で世間知らずの彼がどのような働きを見せるのか…これまた痛快です。
いずれも、あっという間、新幹線で東京を往復する間に2冊、もしくは2冊半読めます。徳川幕府300年の安泰の世で、幕府と藩の確執を素材とした痛快活劇。読後はスッキリ、ホッコリ、ジンワリで、かつ爽快感200%のこの3作品、超お勧めです!
超高速!参勤交代
著者 | 土橋章宏 |
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出版社 | 講談社文庫 |
定価 | 750円(税別) |
超高速!参勤交代リターンズ
著者 | 土橋章宏 |
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出版社 | 講談社文庫 |
定価 | 750円(税別) |
引っ越し大名 三千里
著者 | 土橋章宏 |
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出版社 | ハルキ文庫 |
定価 | 600円+税 |
(令和2年2月号)