大滝 一
皆さんは”太田 愛”という作家をご存じですか。私は3年前に「幻夏」を面白く読ませていただきました。ただ、面白かったという記憶はありますが、大きな衝撃を受けたり特別強く印象に残ったということはありませんでした。
しかし、今回『未明の砦』と『犯罪者』を読んでこの作家の大ファンになりました。二つとも長編で、前者は文庫本670ページ、後者は上下巻合わせて970ページほどですが、どちらも最初から引きずり込まれ一気読みしてしまいました。特に『犯罪者』の下巻は1日半で読んでしまい、もう少し時間をかけてじっくり楽しめばよかったと思っています。でも、そうさせないほどの面白さがあります。おそらくこの本を手にする多くの方が同じような経験をし感動すると思います。
この二つの作品は大手メーカーが物語のベースにあります。『未明の砦』では自動車メーカーが舞台で、そこで働く従業員、特に若者たちとその上司にまつわる話で、会社への不満と希望、憤り、がたぎる情熱と意表を突いた果敢な行動と共に綴られています。上司の死について疑問を持った若者たちが真相を追求し、会社の労働条件の改善を要求していきますが、何しろ相手は国内最大の自動車メーカー、はたして若者たちの渾身の努力の結果は・・・。
そして『犯罪者』は白昼の駅前広場で一瞬に3人が殺されるという衝撃的な通り魔事件から始まります。その事件で唯一死を免れ重症で済んだ若者と事件を追う刑事、そして刑事の友人がメインの登場人物です。この3人が絶体絶命の危険に何回も会いながら、殺害された3人の関係性を探り事件の真相を追求する物語です。この作品のベースにあるのが大手食品メーカーですが、そのメーカーにどのような深刻な問題があったのか・・・これは読んでのお楽しみです。
2作品に共通するのが、事件そのもの以外に、その根底に潜む大企業の陰の部分があり、また大企業と利害を共にする政治家との関係があります。上司の死と衝撃的通り魔事件はなぜ起きたのか、その裏側で会社と政治家の間のどのような黒いつながりがあったのか?そこにも注目して読み進めると、さらに読み応えが大きく増します。
私は年間80冊から100冊の本を読んでいます。面白い本はたくさんあり、本会報の「マイライブラリィ」に20本の記事を掲載いただいています。その中でも2017年5月(554号)の「東野圭吾の『白夜行』と『幻夜』」は最高に面白かったです。今回の2作品はそれに並ぶハラハラドキドキな最高傑作と思います。もっと詳しく内容を書きたいところですが、まずはご自身で面白さに嵌ってみてください。間違いなく引きずり込まれます。最後にTUTAYAのパネルを添えます。いかにすごい作品であるかが分かります。
『未明の砦』
| 著者 | 太田 愛 |
|---|---|
| 出版社 | 角川文庫 |
| 発行日 | 2023年7月31日(初版発行) |
| 定価 | 1,350円(税別) |
『犯罪者』(上)
| 著者 | 太田 愛 |
|---|---|
| 出版社 | 角川文庫 |
| 発行日 | 2017年1月25日(初版発行) |
| 定価 | 1,140円(税別) |
『犯罪者』(下)
| 著者 | 太田 愛 |
|---|---|
| 出版社 | 角川文庫 |
| 発行日 | 2017年1月25日(初版発行) |
| 定価 | 1,040円(税別) |
〈追記〉
7月23日に東野圭吾さんが亡くなられました。
著作は106作品にも及び、現代を代表する大作家でした。
今後も東野さんの作品を楽しみにしていただけに残念でたまりません。
大の東野ファンの私はちょうど半分の53作品を読ませていただきました。
残りの53作品をじっくり、大事に読ませていただこうと思います。
心よりご冥福をお祈りいたします。
それにしても残念です!
(令和8年9月号)