信楽園病院 岡村 拓磨
皆さん、新潟はお好きですか?
私は大好きです。どこが好きなの?と聞かれたら、本当は胸を張って「引っ込み思案で内気だけど実は優しい人が多いところとか、夏の空や海の青さと冬の雪の白さとか…」と答えたいのですが、なんとなく気恥ずかしくて「米が旨い…」とか無難な答えで終わらせてしまいます。
このようなときの答えとして納得してもらいやすい象徴的な観光地でもあるとよいのですが、なかなか打って付けの場所がありません。みなとぴあとか旧齋藤家別邸とか、もうちょっと魅せ方を変えればもっと人気スポットになりそうな気がしますが、みんなシャイなのでぐいぐいアピールするのが苦手なのでしょう。
手っ取り早く観光地化する方法としてご当地モノの小説、映画などの聖地として売り出すという方法があります。新潟にも伊吹有喜・作の『ミッドナイト・バス』や福士蒼汰・有村架純主演の『ストロボ・エッジ』などがありますが、残念ながら聖地としての盛り上がりは今ひとつの様です。
このようなご当地モノを当地在住の人間が鑑賞する楽しみの一つとして、見慣れた風景を芸術家のフィルターを通して味わえるというものがあります。特に今は変わってしまった街並みなどは、かつての自分の記憶と結びついて、なんとも感傷的な気分になることがあります。そこで本稿では、新潟のご当地モノの中でもあまり語られない作品で、私にとって思い出深いものを3つご紹介したいと思います。
堂場瞬一 著 『雪虫』
新潟県警に三代続けて勤務する警察一家の小説です。湯沢や新潟中央署の付近の情景が描かれており、やすらぎ堤沿いの古い民家を眺めて「あれが鳴沢了の家じゃね?」という推測が楽しめます。かつて私の娘が通っていたピアノ教室の先生に勧められ、読み始めました。先生の中ではなぜか私が無類の読書好きということになっており、いろいろ薦めていただきました。ミステリーで警察ものかあ、正直苦手だな、と思ったのですが、来週また娘を迎えに行ったときに感想を聞かれるからとしぶしぶ読み始めました。ところが非常にスリリングな展開で先が気になって仕方がなく、一気に読み終わらせてしまいました。こちらは11巻まであるシリーズものですが、そちらも続けて読み終わらせてしまいました。残念ながら2巻で主人公は新潟県警をやめてしまいますが、その後もちょくちょく新潟の風景が出てきており新潟市民としては長く楽しめます。主人公の活躍は新潟などという狭い世界では収まらず、最後はニューヨークを舞台にチャイニーズマフィアを敵に回して4人で戦うという、ドラゴンボールもびっくりの設定インフレが楽しめる壮大な物語です。
阪本順治 監督 『愚か者 傷だらけの天使』
当時20歳前で、時間はあるけど金はない、時間があるからどうでもいいことをいつまでもクヨクヨと悩んでいた頃のことを思い出します。別に映画なんて好きじゃないけど、友達もおらず一人でシネ・ウインドに入り浸っていました。当時のシネ・ウインドの座席は死ぬほど固く、長い映画を見終わるころには文字通り尻が二つに割れそうなぐらいでした。今もやっているのかは分かりませんが、その頃は監督や主演俳優といったテーマを決めて、オールナイトで3本の映画を上映するという企画を毎月やっていました。その阪本順治オールナイトで見たうちの1本です。馬鹿で不器用で何をやっても上手くいかないけど、根は優しくて真っ直ぐな男が新潟に流れ着きます。上手く立ち振る舞えなくてもそれが格好いいんだ、別に悩みは悩みのままでいいんだ、と少し楽になった気がします。このオールナイトは企画によって客の入り不入りの差が大きく、当時人気絶頂だった浅野忠信主演企画などは満員でしたが、つげ義春原作企画などはガラガラで、ただでさえ頭がおかしくなりそうな映画を固い椅子の上で夜通し見せられるという新手の拷問のような時間でした。映画好きの振りをして澄まして通っているので尻の激痛に耐えて起きていたのですが、映画館のスタッフが私の隣で椅子を3つ占領して堂々と横になって寝始めたときは、格好つけなくてもそのままでいいんだ、と思いました。
藤田雅史 著 『グレーの空と虹の塔』
おでんやじゅんちゃんとか、Foodelicとか、萬代橋の袂のローソンとか、ご当地モノの中でも作者が新潟在住であるため、ご当地の解像度が違います。かつての栄えていた古町で青春を過ごしていた30代後半から40代の方にはド嵌まりすると思います。作中で描かれる出来事は世の中にありふれたものであり、なんとなく自分の周りの話と重なるところがあってそれがまた入れ込む要因となっています。カミーノ古町の1階のエスカレータ脇は靴屋で、安室奈美恵が履いていた靴下がそのままブーツになっちゃったみたいな靴をみんなが試着するもんだから、そこら中に蒸れた足の臭いが漂っており、「きれいな女の人も足は臭いんだな」と思いながら上階のタワーレコードに向かった記憶が蘇ります。
以上です。これらの作品が、皆さんの新潟愛を深める一助となれば幸いです。
(令和7年10月号)
