新潟市医師会 勤務医委員会 委員長
日本歯科大学新潟生命歯学部 耳鼻咽喉科学 教授
佐藤 雄一郎
「これはもう、棚じゃない。舞台だ。」
ある朝ふと、僕は本棚の一角を見てそうつぶやいた。
そこには僕自身のフィギュアが仁王立ちしていて、周囲には球界のスター、宇宙探査機、JOJOの聖地巡礼グッズにロートレックの踊り子まで控えている。しかも、ちゃんと全員が役割を担ってる。舞台装置も照明も小道具も完備。あとは僕がセリフを覚えるだけだ。
この空間に名前をつけたのは、整理整頓のためでも、自己満足のためでもない。いや、ちょっとはあるか。本当は、自分の中の「好き」をちゃんと認めてあげたかったのだ。
だからこう名付けた。「ゆーたん」は僕の呼び名としよう。静謐(せいひつ)というのは、まぁ、ちょっとカッコつけたかっただけである。けれど、静謐という言葉には、雑多なものを集めてなお成立する“秩序”のような響きがある。
この空間には、一貫性はないけれど、統合されたカオスがある。たとえば、左奥には太陽の塔。岡本太郎のエネルギーに押されながらも、探査機たちは黙々とミッションを遂行している。奥の壁にはJOJOの聖地巡礼で得た、江陽グランドホテルの荷物タグと熊野本宮大社のお守りが神妙な顔で見守る。そして、正面に並ぶのはロートレックのアヴリルと、大谷翔平のキケポーズ…似ている。構図が、なんでこんなに似ているのか、なにかを囁きかけるような姿勢で並んでいる。足元では野球をプレーするミニチュアとボブルヘッド、しかも土まである。ここだけ局地的に球場なのだ。
そういえば、自分のフィギュアをこの中央に立たせたとき、ふと思った。「これって、たぶん“好き”のど真ん中に、自分を置いたってことなんだろうな」と。人生って、気づけば“他人に合わせていくこと”がどこか当たり前になってくる。でも、たまにはこうして“自分の好きな世界の中に、自分を置く”っていうことをやってみてもいい。
ちょっとダサくても、ちょっと子どもっぽくても。だって、好きなものを真剣に並べた空間ほど、優しいものはないから。ギャラリーゆーたん、本日も静かに、でもにぎやかに開館中。入館料は無料。ただし、心の波長をちょっとだけ合わせてもらえれば。
(令和7年7月号)