新潟臨港病院 内科
窪田 智之
内科医として日常診療で大切なことというと、「正確な診断」や「最新の治療」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、患者さんと向き合う毎日の中で、それらと同じくらい大切にしたい姿勢があります。それが、私が心掛けている「みっつのきく」です。
一つ目は「聞く」です。
患者さんの話を丁寧に聞くこと。症状だけでなく、生活背景や不安、これまでの経験にも耳を傾けます。時にはこちらから問い掛けることで、患者さん自身も気づいていなかった思いが言葉になることがあります。そして、その言葉を先入観や評価を交えず受け止めること。診療の出発点はここにあります。しかし、忙しい日常診療の中で、これを実践し続けることは決して簡単ではありません。
二つ目は「効く」です。
薬や手術が医学的に効果を示すことはもちろん大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。その治療が患者さんの生活に本当に役立っているか、負担が大きすぎないか、その人の価値観に合っているかまで考える必要があります。医学的には正しくても、患者さんにとって「効いていない」治療は存在します。治療の効果を生活の質まで含めて評価する視点が求められます。
三つ目は「利く」です。
「小回りが利く」「融通が利く」という言葉が示すように、状況に応じて柔軟に対応する力です。診療は教科書どおりには進みません。患者さん一人ひとりの事情に合わせ、多職種と連携し、ときには制度や慣習の隙間を埋める工夫も必要です。「この人のために今、自分に何ができるだろう」と考え続ける姿勢こそ、「利く診療」だと思います。また、医療者自身が健康を保ち、「体が利く」状態であることも、良い医療を続けるためには欠かせません。
この三つの「きく」は、それぞれ独立しているようで、実は深くつながっています。よく聞くからこそ、その人に効く治療を選ぶことができる。そして、その治療の効果を最大限に引き出すためには、状況に応じて利く対応が必要になります。どれか一つが欠けても、良い診療は成り立ちません。
これは、新潟大学総合診療学講座の上村顕也教授が常々お話しされている「みっつのみかた(みる)」を学ぶ中で、それを日々の診療で実践するために私自身が考えたスローガンです。
高度な医療技術が次々と生まれる時代だからこそ、医療者としての基本的な姿勢は、これまで以上に重要になっているように感じます。一方で、自分自身を振り返ると、年齢を重ね、経験や専門知識への自信が深まるにつれて、知らず知らずのうちに他者への敬意や素直さを欠いてしまうことがあるのではないかと反省することがあります。
だからこそ、初心を忘れず、「聞く」「効く」「利く」という三つの「きく」を大切にしながら、患者さん一人ひとりに寄り添い、地域医療を支える丁寧な診療を積み重ねていきたいと思っています。
(令和8年10月号)