国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科・神経部長 福多 真史
はじめに
脳神経外科領域の中に機能的脳神経外科という分野がある。これは患者が困っている神経機能の症状改善を目的に、脳や脊髄に手術操作を加え、その機能を変化させることによって効果を引き出す治療方法である。主な疾患として、てんかん、パーキンソン病などの不随意運動、顔面けいれんや三叉神経痛などの神経圧迫症候群、難治性疼痛などで、国内でこれらすべての疾患に対して治療可能な施設は当院以外にはほとんど見当たらない。私は1995年に当時の国立療養所西新潟中央病院に脳神経外科が新設されたのを機会に、機能的脳神経外科に4年間携わった。その後海外留学や新潟大学での勤務を経て、2015年10月から約20年ぶりに再び機能的脳神経外科の診療を行っている。
古往今来という言葉は昔から今に至るまでという意味である。最近の医療の進歩は目覚ましく、10年経てば診療が全く変わってしまう分野も存在する。この機能的脳神経外科という脳神経外科の中の小さな分野が、約20年の間どのように変わってきたのか、あるいはどの部分が変わっていないのか、その内容をご紹介しながら昔から今に至るまでの変遷について述べる。
機能的脳神経外科とは
機能的脳神経外科の対象となる疾患とそれに対する手術方法を表1に示した。主なものはてんかん外科、不随意運動に対する定位脳手術、顔面けいれんや三叉神経痛などに対する神経減圧術である。神経減圧術については、特殊な医療機器や手術機器を必要としないので、脳神経外科手術を行っている一般病院でも手術は可能であるが、前二者は術前評価としての特殊な検査、また手術を行う上での特殊な手術機器や手技が必要となる。当院での2017年の手術内容と件数をグラフに示す(図1)。脳神経外科疾患の中で主流である脳卒中や脳腫瘍に対する手術はほとんどなく、当院が機能的脳神経外科に特化している病院であることがわかる。以下、各手術についての内容と約20年間での変遷について記載する。
てんかん外科
最近、新規の抗てんかん薬が次々と発売され、てんかん患者にとっては福音である。新規抗てんかん薬を含めた薬物治療によって1年間発作が抑制されたのは64%で、そのうち1剤目の抗てんかん薬で発作が抑制されたのが51%、2剤目で抑制されたのが12%、3剤目が4%、さらに4剤目以降になるとわずか2%しか新たな発作消失が得られなかったという報告がある1)。この結果は5年前の報告2)とほぼ同様であり、新規の抗てんかん薬の投与によっても一定の割合で薬剤抵抗性のてんかん患者が存在することを意味しており、てんかん外科はこれらの患者を対象に行われる。てんかん外科を行うためには、術前評価としててんかん発作の原因となっている焦点を検索する必要がある。外来で施行するCTやMRIなどの画像検査や脳波検査の他に、入院して行うビデオ脳波同時記録によるモニタリング検査があり、この検査は発作症状と脳波上の発作起始部を確認する上で重要な情報を与えてくれる(図2)。その他、脳血流やベンゾジアゼピン受容体の分布をみるsingle photon emission computed tomography(SPECT)や糖代謝の分布をみる18fluorodeoxy glucose-positron emission tomography(FDG-PET)なども焦点検索の一助になる。通常てんかん焦点では発作間欠時に脳血流、ベンゾジアゼピン受容体、糖代謝が低下し、発作時には脳血流が増加する。これらの術前検査を総合して評価し、てんかん焦点を予測することになるが、てんかん焦点の局在や広がりが不明だったり、重要な脳機能の近くに焦点が存在する可能性があったりする場合には、次のステップとして頭蓋内電極留置の適応になる。これはてんかん焦点が疑われる場所にそれを含むように脳表に広範囲に硬膜下電極を留置、脳深部には深部電極を留置して、術後2~3週間、頭蓋内電極によるビデオ脳波同時記録を行い、発作起始部を確認するものである(図3)。この頭蓋内電極による脳波記録は開頭術が必要となるが、頭皮上脳波に比べて大脳皮質から直接記録することによって感度が高く、筋電図などのアーチファクトも入らないため、より明瞭に脳波が記録されるという利点がある。また各電極を電気刺激することによって直下の脳に運動機能、感覚機能、言語機能などの重要な機能が存在するかを確認することができる。頭蓋内脳波記録による発作起始部や脳機能の局在を把握した上で最終的に切除範囲を決定する。これらのてんかん外科に至るまでのステップについては20年前とほとんど変わりがない。術前評価のモダリティとして、ベンゾジアゼピン受容体SPECTやFDG-PETなどが広く行われるようになったが、それでも、MRIでてんかん病変が認められない症例でのてんかん外科による発作消失率は50%以下と、さほど大きな進歩が見られていないのが現状である。
てんかん外科におけるもっとも一般的である側頭葉てんかんに対する切除術については、薬物療法との比較において圧倒的に外科治療の予後が良かったと報告されている3、4)。とくに海馬硬化や萎縮、腫瘍性病変などMRIで病変が認められる症例においては術後の発作消失率が60~80%と高い5)。『てんかん診療ガイドライン2018』においても、薬剤抵抗性側頭葉てんかんに対しての側頭葉切除術はエビデンスの確実性が低く、弱い推奨であるが、薬物療法に加えて行うことが提案されている6)。側頭葉てんかんにおいては切除する海馬に機能が残っているかどうかが問題になることがあるが、海馬多切術という海馬の長軸方向と垂直に切れ目を入れて、てんかん発作の伝播を抑えるとともに機能を温存するという方法が本邦から報告されており7)、この20年の間に出現した新たな手術方法の一つである。
てんかん外科において、この20年間での大きなトピックスの一つは迷走神経刺激療法(Vagus nerve stimulation: VNS)の導入であると思われる(図4)。これは開頭術によるてんかん外科を施行できない難治性てんかんの症例に対する緩和的治療として、欧米では1990年代から、日本では2010年から認可を受け広く行われるようになった。報告によりてんかんの原因疾患などでのばらつきが大きいが、メタアナリシスの結果では、おおむね発作頻度が半分以下になる症例が全体の半分程度というのが一般的に言われている治療効果である8)。『てんかん診療ガイドライン2018』でも、薬物抵抗性てんかんにおいてVNSを薬物療法に加えて行うことが提案されている6)。当院でも2017年3月までに32例の難治性てんかんに対してVNSを施行し、刺激後1年以上経過した30例で術後発作頻度が50%以下に減少した症例は15例(50.0%)であった。発作頻度が変わらなかった10例は発作の程度や発作後もうろう状態が軽くなった。発作頻度が50から100%に減少した3例も含めると、2例を除いてVNSによっててんかん発作症状は何らかの改善が認められたことになる。VNSは発作消失を目指す根治的治療ではないが、薬剤抵抗性てんかんで焦点の同定や切除が困難な症例に対する緩和的治療として今後も普及していくものと思われる。
不随意運動に対する定位脳手術
1995年に現在の国立病院機構西新潟中央病院の前身である国立療養所西新潟中央病院が設立された時に、レクセル定位脳手術装置が導入された。当時新潟大学脳神経外科では機能的脳神経外科としての定位脳手術の経験がなく、私はその技術導入のために、故楢林博太郎先生(順天堂大学名誉教授)が診療されていた東京都目黒区にある楢林神経内科クリニックに足繁く通った。パーキンソン病に対する定位脳手術は、楢林先生が独自の定位脳手術装置を開発され、1952年に本邦ではじめて行われた。現在のパーキンソン病に対する薬物療法の主体であるl-dopa製剤が普及してから外科治療は激減していたが、1992年にLaitinenら9)によって、定位脳手術による後腹側淡蒼球破壊術という治療がl-dopaを長期に内服した患者で合併するオンオフの症状やジスキネジアに効果があると報告されてから、外科手術が見直されるようになった。私が楢林神経内科クリニックに通っていた時期が、再び外科治療が盛んに行われていた時期と一致する。当院でも1995年から2000年にかけて、定位的温熱凝固術(熱によって視床や淡蒼球を破壊)を数多く行っていた(図5)。しかし、その後破壊術の効果が一時的であること、両側に行った場合の合併症の問題などにより、2000年以降は徐々に現在の主流である脳深部刺激療法(deep brain stimulation: DBS)に移行していった。電極を入れる場所も当初は淡蒼球や視床が多かったが、現在ではより高い効果が期待できる視床下核が主流となっている(図5)。20年ぶりにこの機能的脳神経外科としての定位脳手術に携わるようになったが、電極や刺激装置に関しては昔とあまり変わっていないなというのが率直な感想であった。しかし、ここ2、3年でDBS治療は大きな発展を遂げている。刺激電極はより副作用を少なくするためにdirectional leadという電極が3次元的に3つの方向に設置されたものが導入され(図6A)、その他、充電装置の進歩(図6B)、MRI対応機器の増加、ブルートゥースを用いたプログラマーの進化(図6C)などその進歩は目覚ましい。さらには脳深部の視床下核や淡蒼球などの電極を留置する場所において、パーキンソン病患者で認められる異常細胞活動を検知して刺激が入るようなシステムも考案されていて、いずれ臨床応用されるものと思われる10)。また最近では、パーキンソン病患者に対するinduced pluripotent stem cell(iPS)細胞移植の医師主導治験が開始され、京都大学で第1例が施行された。iPS細胞移植もパーキンソン病の根治的治療ではないが、今後広く普及すれば、iPS細胞移植、DBS、そして薬物治療などを併用することにより、パーキンソン病患者のQOLが大きく改善することが期待される。
神経圧迫症候群に対する神経減圧術
三叉神経痛、顔面けいれん、舌咽神経痛はそれぞれの神経が脳幹から出る基部、root exit(entry)zone(REZ)で正常な血管に圧迫されて起こる症候群で、圧迫血管をはずすことによって症状の改善が得られる。この治療は脳神経外科手術の中でも標準的なもので、古くから行われており、この20年間で、手術手技などの根本的な部分はほとんど変わっていない。しかし、術前に神経と圧迫している血管の関係を3次元的に捉えて、手術シミュレーションをするという画期的な画像評価方法は新潟大学が先駆けて行ってきた11、12)。この方法により術前に圧迫血管を同定する感度が上がり、シミュレーションによる手術成績の向上にもつながったと思われる(図7)。一般的に三叉神経痛は約8割、顔面けいれんは約9割の症例で術後症状が消失すると言われている。前述したように脳神経外科手術の中では標準的なものではあるが、一般の脳外科医にとっては馴染が少ない後頭蓋窩の開頭、脳神経や正常な脳血管の解剖学的位置関係の把握、血管を移動して神経を減圧する手術手技などが要求されるため、この手術を多く施行している施設での治療が望ましい。新潟県内では新潟大学、長岡赤十字病院、当院で主に行っている。
その他の機能的脳神経外科
その他、難治性疼痛に対する脊髄後索刺激療法や痙性対麻痺に対するバクロフェン持続注入療法、痙性斜頸に対する治療なども行っている(表1)。下肢の難治性疼痛に対する脊髄後索刺激療法に関しては、20年前には4極の1本のリード電極を透視下で苦労して胸腰椎の脊髄硬膜外に挿入しても、術後にレントゲンで確認すると電極が下がっていて思うように刺激が入らず再手術を要したこともあった。最近では16極のリード電極や椎弓切除を行って留置する32極のプレート型電極も出てきて、より確実に電極を留置し刺激することができるようになった(図8A)。また各電極の刺激強度を自由に調節できたり(図8B)、高頻度刺激(1000Hz以上)による新しい刺激法が開発されたりして、脊髄後索刺激療法による難治性疼痛の予後は改善している。
最後に
20年前に楢林神経内科クリニックでの手術中に、当時70歳を過ぎていた楢林先生が私に「福多君、私は生まれ変わってもこの手術をしたいよ」と述べられたのが、今でも印象的な言葉として残っている。機能的脳神経外科は困っている症状をよくして当たり前であり、術者にとってはかなりのプレッシャーのかかる手術ということになる。しかし、手術が成功し症状が改善した患者の姿を見ることは、医師にとってこの上もない喜びである。現在、脳神経外科医全体での人手不足が深刻だが、一人でも多くの若手医師に機能的脳神経外科に興味をもっていただきたいと願い、稿を終えたいと思う。
謝辞
患者の紹介、データの提供および解析におきまして、国立病院機構西新潟中央病院てんかんセンター、パーキンソン病センター、新潟大学脳研究所脳神経外科学教室、脳神経内科学教室およびその関連病院の先生方にご協力いただきましたことに深謝申し上げます。
文献
1.Chen Z, Brodie MJ, Liew D, et al: Treatment outcomes in patients with newly diagnosed epilepsy treated with established and new antiepileptic drugs. A 30-yewar longitudinal cohort study. JAMA Neurology, 75: 279-286, 2017.
2.Brodie MJ, Barry SJE, Bamagous GA, et al: Patterns of treatment response in newly diagnosed epilepsy. Neurology, 78: 1548-1554, 2012.
3.Wiebe S, Blume WT, Gilvin JP, et al: A randomized controlled trial of surgery for temporal lobe epilepsy. N Engl J Med, 345: 311-318, 2001.
4.Engel J, McDermott MP, Wiebe S, et al: Early surgical therapy for drug-resistant temporal lobe epilepsy. JAMA, 307: 922-930, 2012.
5.Tellez-Zenteno JF, Hernandez Ronquillo L, Moien-Afshari F, et al: Surgical outcomes in lesional and non-lesional epilepsy: a systematic review and meta-analysis. Epilepsy Res, 89: 310-318, 2010.
6.「てんかん診療ガイドライン」作成委員会:てんかん診療ガイドライン2018.医学書院,東京,2018.
7.Usami K, Kubota M, Kawai K, et al: Long-term outcome and neuroradiologic changes after multiple hippocampal transection combined with multiple subpial transection or lesionectomy for temporal lobe epilepsy. Epilepsia, 57: 931-940, 2016.
8.Englot DJ, Chang EF, Auguste KL: Vagus nerve stimulation for epilepsy: a meta-analysis of efficacy and predictors of response. J Neurosurg, 115: 1248-1255, 2011.
9.Laitinen LV, Bergenheim AT, Hariz MI: Leksell’s posteroventral pallidotomy in the treatment of Parkinson’s disease. J Neurosurg, 76: 53-61, 1992.
10.Beudel M, Brown P: Adaptive deep brain stimulation in Parkinson’s disease. Parkinsonism Relat Disord, 22: S123-S126, 2016.
11.Takao T, Oishi M, Fukuda M, et al: Three-dimensional visualization of neurovascular compression: Presurgical use of virtual endoscopy created from magnetic resonance imaging. Neurosurgery, 63(ONS Suppl 1): ONS141-ONS148, 2008.
12.Oishi M, Fukuda M, Hiraishi T, et al: Interactive virtual simulation using a 3D computer graphics model for microvascular decompression surgery. J Neurosurg, 117: 555-565, 2012.
図1.2017年の西新潟中央病院脳神経外科での手術件数
定位的温熱凝固術から脳梁離断・後方離断術までがてんかん外科、頭蓋内刺激装置留置術から刺激装置電池交換術までが不随意運動に対する手術、微小血管減圧術が神経圧迫症候群に対する手術のそれぞれの件数である。
図2.ビデオ脳波同時記録検査
A.患者の状態と脳波を同時に24時間自動的に記録できるシステム。西新潟中央病院にはこのシステムが5台設置されている。
B.発作時のビデオ脳波記録。左側のビデオで発作時の症状を、右側の脳波記録で発作起始部、発作時の脳波所見を確認する。
図3.頭蓋内電極によるビデオ脳波同時記録
A.頭蓋内電極留置後の頭蓋レントゲン撮影写真。硬膜下電極と深部電極が留置されている。
B.MRIとCT画像を融合した3次元画像。青丸が個々の硬膜下電極で、右前頭葉から頭頂葉にかけて脳表に広く留置されている。
C.発作時のビデオ脳波記録。左側でビデオでの発作症状、右側で硬膜下電極と深部電極による脳波記録での発作時所見を確認する。
図4.迷走神経刺激療法の電極留置
A.留置後の胸部レントゲン画像
B.迷走神経に刺激電極を留置した術中写真
C.左鎖骨下の皮下に刺激装置を埋め込む術中写真
図5.西新潟中央病院での定位脳手術件数の推移
1995年~2000年頃までは視床あるいは淡蒼球の破壊術であったが、2000年頃からは視床腹側中間核、淡蒼球のdeep brain stimulation(DBS)が主流となり、2006年頃から現在に至るまでは視床下核のDBSが主流になっている。
図6.新しい脳深部刺激療法の装置
A.Directional leadの先端部の写真。真ん中の2つの電極は3次元的に3方向に配列されている(赤の星印)。これにより、3つの電極のうち副作用が出やすい方向の電極を刺激せず、効果が高い電極のみを刺激することが可能になった。
B.充電装置。充電器ホルダーを肩にかけて、充電器を刺激装置が埋め込まれている皮膚の上にセットするだけで充電される。
C.刺激装置の医師用のプログラマーはiPad miniで、患者用のコントローラーはiPod touchになっており、刺激条件の設定方法がよりわかりやすくなった。
図7.左顔面けいれんの術前画像。MRIと造影CT画像を融合させ3次元的に加工した画像
A.左前方から脳幹前側面を見たところ。太い椎骨動脈にはさまれて細い動脈(緑の星印)が顔面神経(灰色)のroot exit zone(REZ、黒の矢印)を圧迫している。
B.Aを拡大してやや下方からみたところ。顔面神経(灰色)のREZ(黒の矢印)と圧迫している動脈(緑の矢印)の位置関係がわかる。
C.術前の術中シミュレーション画像。後頭蓋窩外側の骨をはずして、小脳を圧排しているところ。神経(黄色)、血管(赤)、静脈(青)が奥に確認される。
D.実際の術中写真。Cとほぼ同じ術野が得られている。顔面神経のREZ(黒の矢印)が太い椎骨動脈に後押しされた動脈(緑の星印)によって圧迫されている。
図8.脊髄後索刺激療法
A.32極のプレート型電極挿入後の腰椎レントゲン画像。第10胸椎の下縁まで電極の先端が挿入されている。
B.32極のそれぞれの電極の刺激強度と陽極、陰極を変えることにより、より綿密に刺激部位、条件を設定することができる(Aが刺激のほぼ中心、赤い電極が陽極、緑の電極が陰極、数字が刺激強度の割合を%で示している)。
(平成31年1月号)