小林 恵子1)、成田 太一1)、関 奈緒1)、齋藤 智子1)、堀田かおり1)、
三浦 智洋2)、星野 洋子2)、山上 明美2)、今井ゆかり2)、八尾坂志保1)
1)新潟大学大学院保健学研究科
2)新潟市西区役所
緒言
新潟市の高齢化率は26.0%(平成26年10月1日)であり、その約半数が75歳以上の後期高齢者である。世帯構成では後期高齢者のみで構成する世帯が全世帯の12.6%(平成27年4月1日)を占めている。
これまで研究者らは、社会的孤立のリスクが高いと考えられる一人暮らし高齢者に焦点を当て孤立防止システムを検討してきた。一方で、先行研究から高齢者のみの世帯の社会参加の割合が低い実態1)や、孤立高齢者は同居者の有無にかかわらず私的・公的なサポートを得にくいなど2)が報告されている。このことから、同居家族がいることによって、要援護者として把握されにくく適切な支援に結びつかないことも考えられ、その実態を把握する必要がある。
本研究は新潟市西区において平成25~26年度に実施した一人暮らし高齢者を対象とした調査3)4)に続き、高齢者のみ世帯の生活状況と孤立の実態および関連要因を明らかにし、支援対策を検討することを目的とする。
研究方法
1.対象
平成27年4月1日の新潟市住民基本台帳をもとに選定した新潟市西区に居住する75歳以上の高齢者のみ世帯2,685世帯のうち、介護保険サービス受給者や死亡、転居、入院・入所中等の者を除く1,500世帯とし、対象世帯から1名の世帯員を調査対象者としてランダムサンプリング法を用いて抽出した。
2.データ収集方法
平成27年10月~28年12月、西区健康福祉課に所属する保健師、地域包括支援センター職員、および西区役所の委託を受けた看護職員の家庭訪問による質問紙調査票を用いた面接聞き取り調査を実施した。留守等の理由で訪問調査が実施できなかった対象者には自記式質問紙調査票による郵送調査を実施した。
3.調査内容
属性(性別、年齢、世帯構成)、生活機能として要介護度と老研式活動能力指標(以下、IADLとする)の手段的自立5項目、知的能動性4項目、社会的役割4項目からなる計13項目5)と地域での役割の有無、交流頻度(家族や親族、友人や近所の人との対面や非対面交流の頻度)である。IADLは各項目の「はい」を1点とし、その合計を得点とした。社会的孤立は、Townsend6)の「家族やコミュニティとほとんど交流がないという客観的な状態」という定義を用い、斉藤らの研究7)をもとに「同居者以外との対面・非対面交流をあわせて週1回未満の状態」とした。社会的孤立の判別は、斉藤らの研究を参考に、別居家族や親族、および友人それぞれとの交流頻度について、対面交流と非対面交流の頻度を7件法で把握した。1か月の平均週数を4.3週(365日÷12か月÷7日)として、7件法の各選択肢に対して、「ほぼ毎日」は21.5、「週に2、3回」は10.8、「週に1回」を4.3、「月に2、3回」を2.5、「月に1回」を1.0、「年に数回」を0.2、「まったくない」を0とする交流頻度の得点化による重みづけを行った。その上で、別居家族・親族、友人それぞれとの対面交流と非対面交流の頻度の得点を単純加算したものを加算得点とし、加算得点が4.3未満(週1回未満)を「他者との交流なし(孤立)」に分類した。閉じこもりについては、外出頻度「週1回程度以下」を「閉じこもり」とした。
4.分析方法
数量データは項目ごとに記述統計量を算出した。社会的孤立と属性および各項目間の関連をみるためχ2検定を行った。有意差のみられた項目を独立変数、社会的孤立を従属変数として強制投入法による二項ロジスティック回帰分析を行った。分析には統計ソフトIBM SPSS statistics 23 for Windowsを用いた。有意水準は5%とした。
倫理的配慮
本研究は新潟大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した(受付番号:2336、承認年月日:2015年10月19日)。
結果
対象1,500人のうち、有効回答1,102人、有効回答率は73.5%であった。
1.対象者の概要
男性が540人(49.0%)、女性が562人(51.0%)、平均年齢は80.6歳(SD3.8)、世帯構成はすべて「夫婦のみ世帯」であった。介護認定については、「受けていない」が1,084人(98.4%)で、「要支援1」が11人(1.0%)、「要支援2」が7人(0.6%)であった。
IADL得点が平均11.6(SD2.0)で、満点が509人(48.7%)であった。
地域や社会で行っている役割について、「ある」と答えた人は672人(63.0%)で、「ない」とした人は394人(37.0%)あった。役割の主な内容は、「町内会等で回ってくる当番」「趣味の活動への参加」「地域行事への参加」であった(図1)。
外出頻度については「毎日2回以上」121人(11.2%)、「毎日1回以上」396人(36.7%)と合わせ、毎日外出している人が517人(47.9%)であった。一方、閉じこもりの基準とされることが多い、週に1回程度以下の外出は146人(13.6%)であった。
ここ1か月間で直接話をした相手の人数は「1~4人」が284人(26.2%)と最も多く、次いで「5~9人」が278人(25.6%)、「10~20人」が277人(25.5%)、「21人以上」が228人(21.0%)であり、「0人」と答えた者は11人(1.0%)であった。
2.社会的孤立の実態と関連要因
「社会的孤立」に該当した者は全体で151人(14.4%)であった。「社会的孤立」かつ「閉じこもり」に該当したものは41人(3.9%)で、男性32人(6.3%)、女性9人(1.7%)であった。
社会的孤立との関連をみると、性別では男性、年齢別では80歳以上で孤立の割合が有意に高かった(p<0.001)(図2)。
社会的孤立の有無別にIADL得点(満点)、主観的健康感(健康)、地域での役割(あり)、ここ1か月間で直接話しをした相手の人数(10人以上)、外出頻度(2~3日に1回以上)の実態を比較したところ、いずれも非孤立の割合が有意に高かった(図3)。
ロジスティック回帰分析を実施した結果、社会的孤立に対する各項目のオッズ比(95%信頼区間)は、男性3.93(2.44-6.32、p<0.001)、IADL得点(非満点)2.96(1.80-4.86、p<0.001)、地域での役割(無)2.32(1.53-3.53、p<0.001)、1か月に話した人数(9人以下)3.55(2.14-5.89、p<0.001)と関連がみられた(表1)。
考察
1.社会的孤立の実態と関連要因
本研究における高齢者のみ世帯の高齢者の社会的孤立発現率は14.4%と、本研究と同様の基準を用い独居高齢者を対象とした斉藤らの調査7)の15.8%とは近似した結果であり、独居と同居高齢者の孤立発現率に顕著な違いはないという斉藤らの研究8)を支持するものであり、高齢者夫婦世帯においても、社会的孤立を防止するための支援策を講じていく必要があると考えられる。
孤立の関連要因として、性、IADL、主観的健康感、地域の役割、外出の頻度、直接話をした人の数があげられた。また、本研究において、孤立かつ閉じこもりに該当した者が約4%出現し、男性が女性の約3倍であった。男性では孤立かつ閉じこもり傾向の人は非孤立かつ非閉じこもり傾向の人に比べ、生活機能が低下するリスク2.01倍であったという藤原ら9)の報告からもこれらをハイリスクととらえた支援が必要であると考えられる。
2.社会的孤立防止に向けた支援策の検討
これまで見守り対象として、独居高齢者が中心に置かれ、特に介護保険等の利用がない高齢者のみの世帯においては、同居者がいるために見守りや支援が必要な対象者として把握されにくいことが危惧される。高齢者の孤立を早期に発見するためには、世帯構成に限らず外出頻度、活動能力、地域での役割の変化等を定期的に把握し、必要な支援につなげるスクリーニングシステムを検討する必要がある。
本調査結果を実践活動に活かすため、西区においては、保健師等による社会的孤立該当者へのフォローアップ訪問を実施するとともに、小地域単位ごとに支え合いの仕組みづくり会議や区だよりにより、調査結果を報告してきた。引き続き、高齢者の孤立を防止するためのシステムを日常生活圏域単位で、地域住民の意見を反映させて検討していく必要がある。
謝辞
本研究にご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
本研究は2016~2017年度新潟市医師会地域医療研究助成(支援番号GC01620162)の支援を受けて実施しました。心より御礼を申し上げます。
引用文献
1)佐藤むつみ,大渕修一,河合恒,他:都市部在住高齢者における社会活動参加者の特性─介護予防の推進に向けた基礎資料─.厚生の指標,59(4):23-29,2012.
2)小林江里香,藤原佳典,深谷太郎,他:孤立高齢者におけるソーシャルサポートの利用可能性と心理的健康:同居者の有無と性別による差異.日本公衆衛生雑誌,58(6):446-456,2011.
3)小林恵子,成田太一,関奈緒,他:新潟市西区独居高齢者の生活機能・社会的孤立に関する縦断調査と支援対策の検討.新潟市医師会報,550:4-11, 2017.
4)成田太一,小林恵子,関奈緒,他:保健福祉サービスを利用していない独居後期高齢者の社会的孤立の実態と孤立移行に関連する要因の検討.新潟大学保健学雑誌,15(1):67-77,2018.
5)古谷野亘,柴田博,中里克治,他:地域老人における活動能力の測定:老研式活動能力指標の開発.日本公衆衛生雑誌,34(3):109-114,1987.
6)Townsend P. The Family Life of Old People: an Inquiry in East London. Penguin Books, Harmondsworth, 188-205, 1963.
7)斉藤雅茂,近藤克則,尾島俊之,他:健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討:10年間のAGESコホートより.日本公衆衛生雑誌,62(3):95-105,2015.
8)斉藤雅茂,藤原佳典,小林江里香,他:首都圏ベッドタウンにおける世帯構成別にみた孤立高齢者の発現率と特徴.日本公衆衛生雑誌.57(9): 785-795,2010.
9)Fujiwara Y,Nishi M,Fukaya T, et al. Synergistic or independent impacts of low frequency of going outside the home and social isolation on functional decline: A 4-year prospective study of urban Japanese older adults. Geriatrics & Gerontology International,17(3): 500–508,2017.
図1 地域での役割の内容(複数回答)
図2 社会的孤立の実態(性別・年齢別)
図3 生活機能、健康感、役割、交流、閉じこもりの実態(孤立の有無別)
(平成31年1月号)