張替 徹1)、伊東 浩志2)、本田 智子1)、
小林あかね2)、真柄 悦子3)、豊島 宗厚2)、五十嵐 修1)
1)社会医療法人新潟勤労者医療協会下越病院
2)医療法人社団健進会新津医療センター病院
3)新潟市秋葉区役所 健康福祉課
はじめに
摂食嚥下障害の頻度は高く、地域在住高齢者の14~15%に上ると報告されているが1)、2)、地域での摂食嚥下障害者に対する支援体制は十分ではない。国民健康保険直営診療所を対象にした調査では、摂食嚥下障害者への対応について相談できる窓口がわからない、もしくはないという地域が55.6%であった3)。
摂食嚥下障害者のリハビリテーション(以下リハ)や介護が安全かつ適切に行われるためには、摂食嚥下障害の病態や食物の嚥下動態を的確に評価することができる嚥下造影検査あるいは嚥下内視鏡検査が有用である4)、5)。
そこで、われわれは、新潟市秋葉区において、両検査が実施可能な2つの病院の専門職(医師、言語聴覚士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー)と行政の保健師がチーム(あきは食のサポートチーム6))を結成し、協議を重ね、外来における摂食嚥下機能評価・指導システムを構築した。
われわれの摂食嚥下機能評価・指導システムの概要を示す。
① 対象者のスクリーニング 食べ物が飲み込みにくい、食事や飲み物でむせる、のどに物が残る、痰がからむ、熱が出る、肺炎を起こしやすい、やせてきたなどの摂食嚥下障害が疑われる症状に基づいて、2つの病院(摂食嚥下障害支援医療機関 図1)の摂食嚥下外来を受診する。
② 問診 評価の目的、摂食嚥下障害の原因疾患名、食事形態、水分の摂取状況、食事の介助、食事の姿勢、食事の際に行っていること、リハ内容などの情報を得る。
③ 摂食嚥下機能評価 反復唾液嚥下テスト、改訂水飲みテスト、フードテスト、嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査などを行う。
④ 指導 医師、言語聴覚士が、本人、家族、施設職員などに、検査結果を説明し、指導用冊子7)を用いて、食事形態、水分とろみ付け、食事の姿勢の変更、食事の際に行うこと、リハについて指導を行う。
⑤ 情報共有 摂食嚥下に関する情報、評価結果、指導内容は地域連携手帳の所定の用紙に記載し、関係者間での情報共有を図る。
本研究の目的は、われわれの摂食嚥下機能評価・指導システムの効果、課題を検討することである。
対象および方法
研究対象は、2016年7月1日より2017年12月31日までに2つの病院の外来で摂食嚥下機能評価・指導を行った71名である。
方法を下記に示す。
① 対象者の属性、原因疾患名、依頼元、栄養摂取方法、食事形態、水分の摂取状況、食事の際に行っていること、リハ内容を解析した。
② 嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査の結果を解析した。
③ 食事およびリハに関する指導内容、必要な介入の種類を解析した。必要な介入の種類は、以下の基準で判断した。
a.専門的介入:誤嚥の危険性が高く、リハ訓練やリハ専門職による姿勢・介助方法の検討が必要、口腔の状態が不良で専門的口腔ケア・治療が必要、栄養状態改善、食物形態の変更のため栄養指導が必要
b.介護予防:誤嚥の危険性は低いが、摂食嚥下障害の進行予防のため、自己トレーニング・自己管理の指導が必要
c.対応不要:上記のいずれも不要
④ 3か月後、郵送により追跡調査を行った。その項目は、摂食嚥下に関係する指標(過去3か月の肺炎の罹患、体重、過去4週間の発熱、食事中のむせ、水分を飲むときのむせ、のどの痰が絡んだ感じ、口腔内の食物の残留、1食の食事の時間を2から4段階に分類)、3か月後の指導の実行状況、新たに開始したサービス、指導の効果・検査の流れ・指導内容の評価、要望である。
指導内容の実行割合(実行している数/有効回答数)を求めた。摂食嚥下に関係する指標は初回と3か月後を比較し(体重は改善=1kg以上の増加、悪化=1kg以上の減少、不変=それ以外、それ以外の指標は改善=1点以上の増加、悪化=1点以上の減少、不変=それ以外)、改善、不変、悪化それぞれの有効回答数に対する割合を求めた。指標の変化の統計学的な検討は、初回と3か月後の点数に対してWilcoxon順位和検定を行なった(有意水準5%)。
本研究の実施に当たっては、下越病院および新津医療センター病院の倫理委員会より承認を受け、対象者に対しては口頭および書面で研究目的を説明し同意・署名を得た。
結果
1.対象者の属性、居住場所、依頼元、摂食嚥下状況、摂食嚥下障害の原因疾患
対象者の属性、居住場所、依頼元、摂食嚥下状況を表に示した。
摂食嚥下障害の原因疾患を図2に示した。
2.食事の際に行っていること、摂食嚥下のリハ内容
食事の際に行っていることは口腔ケア以外なかった。
摂食嚥下のリハは10名(14.1%)が行っていた。その内訳は、嚥下体操、嚥下おでこ体操それぞれ3(4.2%)、発声練習2(2.8%)、頭部挙上訓練1(1.4%)、その他3名(4.2%)だった(図3)。
3.嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査所見
嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査の異常所見は、65名(91.5%)に認められた。その内訳は、認知面に問題 12(16.9%)、歯・義歯に問題 5(7.0%)、咀嚼・食塊形成に問題 18(25.4%)、舌の送り込みに問題 22(31.0%)、咽頭残留 49(69.0%)、喉頭流入 30(42.3%)、誤嚥 21(29.6%)、食道残留・逆流 8(11.3%)、その他 8名だった(図4)。
4.指導内容
(1)食事および摂食に関する指導内容
食事および摂食に関する指導を行ったのは、60名(84.5%)だった。
指導内容は、食事形態の変更 15(21.1%)、水分とろみ付け 23(32.4%)、姿勢の変更 14(19.7%)、複数回嚥下 21(29.6%)、交互嚥下 25(35.2%)、その他 27名(38.0%)だった(図5)。
(2)リハに関する指導内容
リハに関する指導を行ったのは44名(62.0%)だった。
指導内容は、嚥下体操 29(40.8%)、嚥下おでこ体操21(29.6%)、発声練習9(12.7%)、咳嗽練習 3(4.2%)、のどのアイスマッサージ 2(2.8%)、頭部挙上訓練、ブローイング各 1(1.4%)、その他 4名(5.6%)だった(図6)。
5.介入の必要性
専門的介入が必要なのは37名(52.1%)、介護予防が25名(35.2%)、対応不要は9名(12.7%)だった。
6.3か月後の状況
(1)食事および摂食に関する指導の実施状況
3か月後調査の有効回答例における食事および摂食に関する指導の実施割合は、食事形態の変更7/12(58.3%)、水分とろみ付け5/17(29.4%)、姿勢の変更1/10(10.0%)、交互嚥下1/19(5.3%)、その他(食事をよく噛んでゆっくり食べる)1/17名(5.9%)だった(図7)。
(2)リハに関する指導の実施状況
3か月後調査の有効回答例におけるリハに関する指導の実施割合は、嚥下体操5/24(20.8%)、嚥下おでこ体操 2/18(11.1%)、発声練習 0/6、のどのアイスマッサージ 0/2、頭部挙上訓練 0/1、ブローイング 0/6、その他 0/6名だった(図8)。
(3)導入されたサービスの割合と内容
専門的介入が必要と判断した28名のうち5名(17.9%)に専門的サービスが導入されていた。その内訳は、訪問歯科診療、訪問看護、栄養指導、訪問リハ、訪問薬剤指導それぞれ1名ずつだった。
介護予防が必要と判断した19名中2名(10.5%)にサービスが導入されていた。その内訳は、訪問歯科診療と訪問栄養指導それぞれ1名ずつだった。
(4)摂食嚥下に関係する指標の変化
食事のむせ、水分のむせ、肺炎発症に関しては改善した割合が多かったが、咽頭残留、食事時間に関しては悪化した割合が多く、体重、発熱、口腔残留に関しては改善と悪化が同程度だった(図9)。この内、「食事のむせ」のみが統計学的に有意だった(p<0.01)。
7.摂食嚥下機能評価および指導に関する意見
全般評価に関しては、役に立った 40、少し役に立った 9、どちらでもない 4、あまり役に立たなかった 1名だった。理由は、「どちらでもない」で「介護者が嚥下をみられたのはよかったが、ご本人の理解がない」だった。
依頼の仕方に関しては、現状でよい 53、改善すべき 1名だった。理由の記載はなかった。
検査の流れは、現状でよい 48、改善すべき 3名だった。「改善すべき」の理由には、「本人に食べてもらう方が良い」、「持参する食事の量をあらかじめ指示すべき」があった。
助言・指導内容に関しては、現状でよい 52、改善すべき 0名だった。
自由記載の内容は、「職員、家族にとっては有意義だったが、本人には助言の受け入れがなかった」、「検査を受けたことで本人が納得し、現状を受け入れて、食事の際に気を付けている」、「わかりやすかった」「検査を受けたことで現状把握ができ安心できた。リハビリにより検査時より状況が改善した」、「嚥下リハビリが訪問ではできないことが残念だった」、「家族の注意は無視するが専門職の助言はきいている」だった。
考察
1.摂食嚥下機能評価・指導の対象者の選択
われわれは、摂食嚥下障害を示唆する症状に基づいて受診を勧めたが、嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査の異常所見が91.5%に認められたこと、対象者の87.3%に専門的介入、介護予防が必要だったことを併せて考えると、摂食嚥下障害を疑わせる症状に基づく受診の勧めは妥当なものと思われる。
2.摂食嚥下障害に対する指導と実施状況、サービス導入
食事および摂食に関する指導を行った割合は84.5%で、リハに関する指導を行った割合の62.0%より高かった。これは、食事、姿勢の変更、食べる際の注意については介護者への働きかけで可能であるのに対し、リハは対象者の理解・意欲の影響を受けることから、理解力や意欲が低下している対象者には指導しなかったためと思われる。
3か月後の食事および摂食に関する指導の実施割合は、食事形態の変更、水分とろみ付けで比較的高かったが、姿勢の変更、交互嚥下などの摂食時の注意の実施割合は低かった。一方、3か月後のリハに関する指導は、嚥下体操、嚥下おでこ体操以外実施されていなかった。これらのことから、指導は食事形態の変更や水分とろみ付けに重点を置き、リハが必要なら専門的サービスの導入を勧める必要があると考えられる。
導入されたサービスに関しては、専門的介入が必要と判断した対象者の17.9%、介護予防が必要と判断した対象者の10.5%にしかサービスが導入されていなかった。当地域では訪問や通所の言語聴覚リハの供給体制が不足していること、介護予防事業への誘導が不十分だったことなどが、サービス導入につながらなかった理由と思われる。今後、介護予防事業への参加を促すとともに、地域の専門的サービス供給体制の強化への働きかけが必要である。
3.摂食嚥下機能評価・指導システムの有効性と対象者・介護者の評価
摂食嚥下に関係する指標点数の変化では、「食事のむせ」の改善を認めた。しかし、指標の変化の割合から見ると、改善3指標、悪化2指標、不変3指標と改善と悪化が同程度であったことから、有効性ははっきりしない。これには、対象者数が少ないこと、対象者の嚥下障害の原因疾患・状態の多様性、指導内容の実施率の低さなどが影響している可能性も考えられ、今後のさらなる検討が必要である。
摂食嚥下機能評価および指導に関する意見に関しては、全般評価は「役に立った」が、依頼の仕方、検査の流れ、助言・指導内容は「現状でよい」がほとんどを占め、われわれの摂食嚥下機能評価・指導システムが対象者、介護者にとって有用であることが示された。自由記載からは、対象者および介護者が嚥下機能を視覚的に理解することが評価に対する満足度や助言の理解につながることが示唆された。
著者らの調査によれば、新潟県には摂食嚥下機能評価・リハの受け入れ病院候補になると考えられる30余りの病院が、各地域に分散して存在している8)。それぞれの地域で、摂食嚥下障害診療システムを構築する条件はあり、他地域でのシステム構築の際には本研究が参考になると思われる。
結語
新潟市秋葉区で、摂食嚥下機能評価・指導システムを構築した。評価・指導システムの有効性は十分に示せなかったものの、利用者の評価は高かった。本研究から、摂食嚥下障害の評価に基づく指導は食事形態の変更や水分とろみ付けに重点を置き、リハが必要なら専門的サービスの導入を勧める必要があることが明らかとなった。
本研究は、平成28・29年度新潟市医師会地域医療研究助成(支援番号GC01720162)を受けて行った。
文献
1)Kawashima K, Motohashi Y, Fujishima I: Prevalence of dysphagia among community-dwelling elderly individuals as estimated using a questionnaire for dysphagia screening. Dysphagia, 19: 266–271, 2004.
2)Okamoto N, Tomioka K, Saeki K, et al: Relationship between swallowing problems and tooth loss in community-dwelling independent elderly adults: The Fujiwara-kyo study. J Am Geriatr Soc, 60: 849–853, 2012.
3)公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会:平成26年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業摂食嚥下障害を有する高齢者に対する地域支援体制の取組収集,分析に関する調査研究事業報告書,25–30, 2015.
4)日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:嚥下造影の検査法(詳細版)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会2014年度版.日摂食嚥下リハ会誌 18:166–186, 2014.
5)日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:嚥下内視鏡検査の手順2012 改訂(修正版).日摂食嚥下リハ会誌 17:87–99, 2013.
6)あきは食のサポートチーム〈https://www.akihaesupport.com/〉(閲覧2018年11月20日)
7)パンフレット 摂食嚥下障害でお困りの方へ
〈http://niigata-min.or.jp/kaetsu/patient/gairai/pdf/04okomari.pdf〉(閲覧2018年11月20日)
8)張 替徹,木村慎二,眞田菜緒,他:新潟県内の病院における摂食嚥下障害の評価およびリハビリテーション診療体制調査.日摂食嚥下リハ会誌 22:3–11, 2018.
図1 摂食嚥下障害支援医療機関
表 対象者の属性、居住場所、依頼元、摂食嚥下状況
図2 摂食嚥下障害の原因疾患の内訳
図3 摂食嚥下リハの実施状況
図4 嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査の所見
図5 食事および摂食に関する指導内容
図6 リハに関する指導内容
図7 食事および摂食に関する指導の3か月後の実施状況(N=有効回答数のうち指導された例数)
図8 リハに関する指導の3か月後の実施状況(N=有効回答数のうち指導された例数)
図9 摂食嚥下に関係する指標の変化(N=有効回答数)
(平成31年3月号)