野村 智幸1)、大滝 一2)
1)のむら耳鼻咽喉科
2)大滝耳鼻科クリニック
Ⅰ.はじめに
耳鼻咽喉科医による学校健診は、実施学年や方法などに関して全国的に統一されておらず、地域差があるのが現状である。そこで、今回我々は新潟の耳鼻咽喉科学校健診の現状を把握し、過去の健診結果について調査することとした。更に、近年重要性が叫ばれている健康教育に関する取り組みについても報告する。
Ⅱ.新潟の耳鼻咽喉科学校健診の現状について
1.新潟県の現状
平成2年の藤崎らの調査によると、新潟県内の小学校689校中62校(9%)、中学校266校中29校(10.9%)で耳鼻咽喉科学校健診が施行されていなかった1)。しかし、平成26年に耳鼻咽喉科学校健診の実施状況を調査したところ、新潟県内の小学校499校のうち、1自治体1校を除いた498校で施行されていることが分かった。ただし、耳鼻咽喉科学校健診は行われているが、耳鼻咽喉科学校医が委嘱されていない小学校が41校(8.2%)あった。また、全学年に毎年健診が行われている小学校は499校中258校(51.7%)と半数余りで、240校(48.1%)では学年選別による重点学年への健診(以下重点健診と略)が行われていた2)。
2.新潟市の現状
新潟市の中で中央区、東区、西区(以下旧・市域と略)と南区、北区、江南区、秋葉区、西蒲区(以下新・市域と略)では健診方法が異なる。旧・市域は、耳鼻咽喉科学校医と健診応援医の医師複数名で、全学年、全児童の健診を一度に行っている。1校の健診時間が30分程度で済み、午前と午後の診療の合間に行っているため、ほとんどの場合、医院の診療時間に支障をきたさないという利点がある。この方法は、昭和46年から新潟市耳鼻咽喉科医会の担当者が中心となって健診日程や健診医の割り振りを行っており、現在まで48年間大きな変更なく継続されている。
一方、新・市域では耳鼻咽喉科学校医が単独で健診を行っている。1回毎の健診人数や健診の回数、時間帯は、それぞれの学校医が中心となり決定している。旧・市域は小学校数48校で医師が29名いるのに対し、新・市域は58校で医師は13名しかおらず、医師1人に対する平均児童数は、新・市域では旧・市域の1.5倍以上となっている(表1)。また、健診の地域が広域にわたり、移動距離が大きいのも特徴である。そのため、新・市域の各学校医の負担は大きく、健診の実施学年は全学年ではなく、学年選別による重点健診が多くなっている(表2)。
Ⅲ.新潟市の小学校の健診結果
新潟市の小学校の耳鼻咽喉科学校健診について、大滝が平成20年度までの30年間の結果を報告している3)が、その後の調査はなされていない。そこで、同様の方法で平成21年度から30年度までの10年間の健診結果を調査し、前回報告と合わせ40年間の推移を見てみた。
今回調査した10年間では、旧・市域59校、新・市域47校の計106校で、受検延べ児童358,361人のうち有所見児童は88,601人(有所見率24.7%)であった(表3)。
1.在籍児童数と受検率の推移
新潟市の在籍児童数の推移を図1に示した。在籍児童数は昭和54年度より増加し昭和57年度が45,658人で最多であった。その後減少し平成16年度には28,140人と最少となり昭和57年度の約6割となった。その翌年の平成17年度には市町村合併により児童数は前年度の1.5倍となったが、平成18年度の44,510人をピークに再度減少し、平成30年度には39,468人となり、合併後のピーク時より1割以上減少していた。
昭和54年度から平成16年度までの平均受検率は98.8%であったが、合併後の平成17年度以降は88.2%と合併前後で約10%の低下がみられた。受検率の推移を図2に示した。平成17年度から28年度までは85~89%台で変動しているが、29年度以降上昇傾向にある。これは、最近2年間で新・市域の西蒲区に於いて複数の小学校が重点健診から全学年健診に変更した事が影響していると考えられる。
2.有所見率の推移
有所見率の年次推移をみると、昭和46年度は32.1%であったが、その後急速に低下し、昭和55年度には最低の17.9%となった(図3)。その後は徐々に上昇し平成1年度以降は30%弱で推移していたが、平成15年度が最高の30.0%となった後は再び減少傾向を示し、平成30年度は21.3%となった。
3.部位別有所見率と疾患別有所見率の推移
今回の10年間の調査では全体の75.3%、約4分の3の児童には異常所見はみられず、何らかの所見がみられた児童は24.7%であった。その内訳は耳が5.6%、鼻が18.2%、咽頭は僅か0.7%であり、部位別有所見率は前回調査と比べ全疾患で少しずつ減少したものの大きな変化はなかった(図4)。
有所見率の推移を部位別に検討した。アレルギー性鼻炎、鼻炎を含む鼻が最も高く、平成1年度以降は20%以上で推移していたが、平成15年度以降、徐々に減少し平成30年度は15.6%となった。耳は5~7%、咽頭は1~2%で40年間大きな変動はみられなかった(図5)。
次に疾患別有所見率の変遷をおおむね10年ごとに示した(表4)。昭和54年度では鼻炎の有所見率が11.2%と最も高く、次いで耳垢が4.0%で、以後、副鼻腔炎、難聴疑い、扁桃肥大の順に高かった。一方、40年後の平成30年度は、アレルギー性鼻炎が最も高かったものの9.7%と10年前より4ポイントほど低下し、耳垢栓塞3.9%、鼻炎3.5%と続くが、10年間で鼻疾患が減少し耳垢栓塞と難聴疑いが僅かに増加していることが分かった。
Ⅳ.健康教育への取り組みについて
我々は、学校医の職務として健康診断を行うだけでなく健康教育の実践も重要であると考えている。
健康教育を推進していく上で我々が実践している具体的な取り組みについて、以下に述べる。
1.健康教育の現状調査
日本耳鼻咽喉科学会(以下日耳鼻と略)学校保健委員会の各都道府県委員長と新潟県内の耳鼻咽喉科医に健康教育について、①現在、健診以外に健康教育を行っているか、②行っている場合どのようなことを行っているか、という内容を含む調査を平成30年に行った。全国の各都道府県委員長は全ての47名から、新潟県は75名から回答を得た。
健康教育の実践については、全国の委員長は47名中25名、53.2%、新潟県は75名中27名、36.0%が行っていた。健康教育の実施内容については、図6に示す通りである。全国の委員長は、委員会での講話、健康相談、児童生徒への授業、保護者への講話の順に多くなっていた。新潟県は地域での講話が委員会での講話、健康相談に次いで多かった。全国の委員長の方がより多く実践しており、健康教育に対する関心の高さがうかがえる。
2.講話・授業の実践
講話や授業を実践する際、スライド作成は手間である。そこで、我々、日耳鼻新潟県地方部会学校保健委員会は、大滝委員長が中心となり講話・授業用スライドを作成し、「耳・鼻・のどの仕組みと病気」としてCD-ROMに保存した(以下スライドCD)。新潟県地方部会でスライドCDを紹介した後、希望のあった県内耳鼻科医55名に配布した(平成28年度)。また、全国代表者会議での発表後、要望のあった41都道府県の学校保健委員長にも送付した。全国の委員長から各都道府県内の耳鼻科医に多くのコピーが配布され、オンラインで配信した県もあった。
平成30年7月、スライドCDを送付した県内耳鼻科医55名に使用の有無の質問を行ったところ、35名より回答があった。スライドCDを「使用した」または「今年度中に使用の予定あり」と回答したのは、35名中11名、32%であった。CD使用の用途は、小学生の授業が4名、学校保健委員会での講話が3名、養護教諭への講話が3名、中学生の授業、看護学校の授業、地域住民への講話がそれぞれ1名であった。
3.新潟方式メール健康相談
平成29年2月、新潟市養護教諭にアンケート調査を行った4)ところ、「健診以外に耳鼻科学校医に望むこと」という質問に対し、「健康相談」が最多で小学校では85名中57名、67%、中学校では46名中37名、80%で希望があり(図7)、健康相談の重要性を改めて認識した。そこで我々は、時間的制約が少ないなど、表5に示すように利点が多いことからメールを活用した健康相談をすすめることとした。
新潟市耳鼻咽喉科医会員の全員のメールアドレスは医会が管理しており、また、同様に新潟市立学校の全ての養護教諭のメールアドレスを市教育委員会が管理していることが確認できた為、メールによる健康相談が実現可能となった。平成30年3月、新潟市教育委員会保健給食課と新潟市耳鼻咽喉科医会で「メールによる健康相談システムに関する取り決め」が交わされ、同年4月1日から養護教諭と学校医の間でメールによる健康相談(新潟方式メール相談)が始まった。「健康相談票」というフォーマットを用意し、当面、相談のやり取りの際は学校保健委員の代表者にC.C.を付けて行うこととした。
新潟方式メール相談を開始して約2か月後の平成30年5月末までに、養護教諭と学校医がメールでの連絡を済ませたのは、小学校106校中76校、72%、中学校56校中36校、64%で、メールでの健康相談は29件あり、うち5件で健康相談票が用いられていた。その後、1年以上が経過しているが、現在までトラブルなく順調に利用されている。
Ⅴ.まとめ
1.新潟の耳鼻咽喉科学校健診の現状について報告した。新潟市に於いては、旧・市域と新・市域の間で健診内容に差があり、今後の課題である。
2.40年間にわたる新潟市の小学校の耳鼻科健診結果について調査、報告した。受検率は増加傾向だが、まだ十分とは言えない。
3.我々の健康教育への取り組みについて報告した。スライドCDを活用しての講話や授業、また、メールによる健康相談を積極的に行うよう、今後も働きかける予定である。
参考文献
1)藤崎隆三、五十嵐秀一、佐藤弥生、大野吉昭、川名正二、中野雄一:学校オージオメータならびに耳鼻科健診の実態調査.耳展、35:141-147、1992.
2)大滝一、廣川剛夫、石岡孝二郎、堀井新、髙橋姿:新潟県における耳鼻咽喉科健診の実態調査結果.日耳鼻会報119:941-948、2016.
3)大滝一:新潟市における小学校の耳鼻咽喉科健診の結果と課題(昭和54年~平成20年度).新潟市医師会報、第488:2-6、2011.
4)大滝一:新潟市における養護教諭へのアンケート調査から~耳鼻咽喉科の学校健診と学校医について~.新潟市医師会報、第572:2-5、2018.
・本論文の要旨は第70回指定都市学校保健協議会の学校医研修会(2019年5月25日、新潟市)にて講演した。
表1 新、旧・市域の比較
表2 新・市域の健診学年
表3 新潟市の小学校の健診結果
表4 疾患別有所見率の推移
表5 新潟方式メール健康相談
図1 年度別在籍児童数
図2 受検率の推移
図3 有所見率の推移
図4 部位別有所見率
図5 部位別有所見率の推移
図6 健康教育の実践内容
図7 健診以外に耳鼻科校医に望むこと
(令和元年12月号)