大嶋 康義1)、坂井 邦彦2)、横田 樹也3)、藤戸 信宏1)、
森谷 梨加1)、穂苅 諭1)、渡部 聡1)、小屋 俊之1)、
菊地 利明1)、大平 徹郎4)
1)新潟大学大学院 医歯学総合研究科 呼吸器・感染症内科学分野
2)新潟臨港病院 呼吸器内科
3)横田内科医院
4)国立病院機構 西新潟中央病院 呼吸器センター内科
はじめに
慢性閉塞性肺疾患(COPD; chronic obstructive pulmonary disease)は、世界における死亡原因の第3位であり、この疾患を予防、治療することは、公衆衛生上重要な課題となっている1)。日本においても40歳以上の8.6%(約530万人)がCOPDに罹患していると推定され2)、過去のたばこの消費量による長期的な影響と高齢化により、今後、さらに罹病率、有病率、死亡率が増加すると予想され、予後の改善には歩数も含めた身体活動性の向上が重要である。健康日本21(第2次)からは、国を挙げて発症予防と重症化予防に取り組む疾患として、がん、循環器疾患、糖尿病とともに、新たにCOPDが加わった3)。新潟県においても、人間ドック受診健常者40,000名/年の中で新たにCOPDが疑われる閉塞性換気障害が約1,000名/年いると推定され4)、多くの新規COPD症例への対応が求められている。新潟市におけるCOPD患者の現状、問題点を調査するとともに、地域医療連携を構築し、COPDに対応していくことが必要不可欠である。そこで、12病院、18開業医、2健診機関にて新潟COPDリンクを運営し、多施設共同でCOPDへの取り組みを始めた。本研究は、新潟市におけるCOPDの現状、問題点をアンケート調査を通じて明らかにするとともに、COPD連携ファイル5)を用いて地域医療連携に寄与できるのか検討することを目的とした。
対象および方法
新潟市のCOPDの現状を包括的に調査するため、一般市民、介護職員へのアンケート調査を実施し、GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)日本委員会によるCOPD認知度把握調査6)と比較を行った。次に医療従事者へのアンケート調査を実施した。また、図1に示すCOPD連携ファイルを作成し、新潟COPDリンク加盟の30医療機関にてCOPD連携ファイルの運用を開始した。
①一般市民、介護支援専門員へのアンケート調査
一般市民を対象としたアンケート調査を2015年10月18日に新潟市中央区万代シティで行われた新潟市民健康福祉まつりの来場者を対象に実施した。次に、健康に興味を持っている市民を対象としたアンケート調査を2017年7月1日に新潟市総合保健医療センターで行われた市民公開講座肺活セミナーの参加者を対象に実施した。最後に介護職員を対象としたアンケート調査を2017年9月1日に新潟県介護支援専門員協会全体研修会の参加者を対象に実施した。調査内容は、性別と年代の特性、喫煙習慣、COPDの認知度、情報源について回答を求めた。
新潟市内で実施したアンケート調査とGOLD日本委員会が毎年実施しているCOPD認知度把握調査結果の中で、2018年12月3日に10,000人を対象に実施された1次調査、さらに予備調査でCOPDがどんな病気かよく知っていると回答した人の中から110人を対象に実施された2次調査の結果を比較、検討した。
②医療従事者へのアンケート調査
医療従事者を対象としたアンケート調査を2018年5月29日に新潟市中央区で行われた第9回新潟COPDリンクの参加者を対象に性別、年代、職種、所属機関、COPDの問題点、COPD増悪の問題点、新潟医療圏病院群輪番制の問題点、COPD連携の問題点、COPD患者の問題点、新潟COPDリンクの問題点について調査した。
③COPD連携ファイル
2016年にCOPD連携ファイルを作成、検証を行い、2017年6月より新潟COPDリンク加盟の30医療機関にてCOPD連携ファイルの運用を開始した。COPD連携ファイルが導入されたCOPD患者の中で、新潟COPDリンク事務局に登録された症例について、性別、年齢、喫煙歴、呼吸機能、自覚症状(CAT; COPD Assessment test7)、mMRC; Modified Medical Research Council Dyspnea Scale8))、フレイルスコア9)、吸入薬について解析した。また、COPD患者の予後予測評価であるADO index10)を求めるとともに、主治医が把握した死亡事例についても追跡調査した。
倫理的配慮
本研究は新潟大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2015-2587)。
結果
1.一般市民、介護職員へのアンケート調査
アンケート調査における有効回答数は、新潟市民健康福祉まつりにおける一般市民から103名、市民公開講座肺活セミナーにおける健康に興味を持っている市民から68名、新潟県介護支援専門員協会全体研修会における介護職員から100名、合計271名であった。回答者背景を表1に示す。
COPDの認知度として、どのような病気か知っている85名(健康福祉まつり7名、市民公開講座17名、介護職員61名)、病名だけは知っている85名(健康福祉まつり24名、市民公開講座25名、介護職員36名)、全く知らない101名(健康福祉まつり72名、市民公開講座26名、介護職員3名)であった。COPDを知っていると回答した170名に情報源を尋ねたところ(複数回答可)、医療機関58名(健康福祉まつり11名、市民公開講座19名、介護職員28名)、テレビや新聞53名(健康福祉まつり19名、市民公開講座18名、介護職員16名)が多かった。一方、COPDを知らないと回答した101名に情報源を尋ねたところ(複数回答可)、テレビや新聞74名(健康福祉まつり54名、市民公開講座19名、介護職員1名)と一番多く、医療機関23名(健康福祉まつり14名、市民公開講座9名)、家族や知人14名(健康福祉まつり8名、市民公開講座6名)であり、インターネットはわずか5名(健康福祉まつり5名)であった。COPDの認知度、情報源の割合を図2に示す。
2.医療従事者へのアンケート調査
医療従事者へのアンケート調査における有効回答数は67名(開業医11名、勤務医9名、コメディカル47名)であった。対象者の性別は男性38名(開業医11名、勤務医7名、コメディカル20名)、女性29名(勤務医2名、コメディカル27名)であった。年代は20代13名(コメディカル13名)、30代24名(勤務医1名、コメディカル23名)、40代14名(開業医2名、勤務医5名、コメディカル7名)、50代11名(開業医5名、勤務医3名、コメディカル3名)、60歳以上4名(開業医4名)、未回答1名(コメディカル1名)であった。職種は医師20名、看護師26名、薬剤師1名、理学療法士14名、作業療法士3名、その他3名であった。所属機関は病院54名、診療所11名、調剤薬局1名、その他1名であった。回答結果を表2に示す。
回答が多かった問題点としては、医師20名からは「COPDの認知啓発活動の推進が必要(80%)」、「患者教育の向上が必要(75%)」、「患者の自己管理能力向上が必要(75%)」、「地域の開業医・病院の連携促進が必要(60%)」であった。医療従事者67名からは「患者教育の向上が必要(85%)」、「患者の自己管理能力向上が必要(81%)」、「地域の開業医・病院の連携促進が必要(75%)」、「情報の共有化が必要(70%)」、「COPDの認知啓発活動の推進が必要(64%)」という結果であった。自由記載として、加盟施設がわからない、COPD連携ファイルの運用方法がわからない、COPD連携ファイルに患者さんが使いたいと思う内容が必要という意見が寄せられた。
3.COPD連携ファイル
4医療機関から35名のCOPD患者が登録された。男性34名、女性1名であり、平均年齢は74.9±7.6歳、平均1秒量は1,320±539mlであった。34名が長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬あるいは長時間作用性β2刺激薬を含む気管支拡張薬吸入で治療を受けていた。患者背景を表3に示す。
COPD患者の予後予測評価であるADO indexは平均で4.6±1.5であった。本研究を行った3年間の経過で4名が亡くなり、死亡原因はCOPD増悪、悪性疾患、急性心不全、不明であった。
考察
新潟市のCOPDの現状を包括的に調査するため、一般市民、介護職員へのアンケート調査を実施し、GOLD日本委員会によるCOPD認知度把握調査と比較を行った。健康日本21(第2次)において、2022年に80%の国民がCOPDを認知することを目標3)と定めているが、全国におけるCOPDの認知度は28.1%とされ6)、本調査でも30.1%であり、新潟市もCOPDの認知度が低く、認知啓発活動の推進が必要と考えられた。情報源としては、本調査でも全国調査でもテレビや新聞、医療機関の割合が多く、これらを通じた認知啓発活動が重要と考えられた。一方、本調査のみで行われたCOPDを知らないと回答した一般市民の情報源の調査では、73.3%からテレビや新聞との回答を得た。テレビや口コミを情報源とする者でCOPDの認知度が低かったとの報告があり11)、テレビは書籍やインターネットに比べて情報入手法が受動的であることがCOPD認知度低下に影響している可能性があり、対象者の特徴を考慮した認知啓発活動が望ましいと考えられた。
次に医療従事者へのアンケート調査を実施したところ、患者教育・アドヒアランスの向上や、地域の開業医・病院の連携促進ならびに情報の共有化が必要との回答が多かった。COPD診断と治療のためのガイドラインでも、多職種からなる医療チームが患者との良好な関係を保ちながら、必要とされる情報を共有し、計画されたケアや自己管理教育を提供することの重要性、プライマリケア医と病院専門医による病診連携や吸入薬をはじめとする薬剤の適正使用やアドヒアランス維持・向上のための保険薬局などとの連携推進が謳われており12)、新潟市においてもどのように協力、推進していくかが重要と考えられた。一方で、SWANネット13)や新潟COPDリンク、新潟医療圏病院群輪番制への要望は高くはなく、COPD増悪に対する新潟市の救急医療体制を維持・継続していくことが必要と考えられた。
最後に、COPD連携ファイルを作成し、新潟COPDリンク加盟の30医療機関にてCOPD連携ファイルの運用を開始した。35名のCOPD患者を登録し、年齢や喫煙歴、呼吸機能などの患者背景や吸入薬による治療状況、CATやフレイルスコアなど現状把握可能なことを確認した。医療従事者が患者の状況把握には簡便で有用である一方、患者側からは教育やセルフマネージメントにつながりにくい、COPD連携ファイルの運用方法がわからない、加盟施設がわからない、多職種協動や医療連携が必要な重症患者が少ないという問題点が明らかとなった。顔の見える関係となりつつ、よりよい運用方法を模索するために、年2回研究会を開いて連携促進とCOPD連携ファイルの普及を行った。さらに、COPD連携ファイルが多職種協動や医療連携が必要な患者向けの応用編となる内容に対して、患者教育やセルフマネージメントにもつながる軽・中等症患者にも適した、導入のハードルを下げるツールとして、COPD連携手帳が必要との結論に至った。新潟COPDリンク加盟医療機関にて協力しながらCOPDの概要、治療、禁煙、運動療法、栄養管理、呼吸の方法、増悪、在宅酸素療法、療養の記録、アクションプランから構成される図3に示すCOPD連携手帳を新たに作成し、今後、運用していくこととした。COPD連携ファイルとともに、今後はCOPD手帳も用いることで、新潟市におけるCOPD患者が安心して質の高い医療を受けるとともに、地域医療連携を円滑に行うことで医療機関の負担軽減など、COPDへ包括的にアプローチを新潟COPDリンクを通じて続けていく方針である。
結語
今回の研究を通じて、COPDは重要な疾患であるが認知度が低く、患者も軽症から最重症まで多彩であり、状況に応じたきめ細かい治療介入を多職種・多医療機関で協力して行っていくことの重要性が明らかとなった。今後は、新潟COPDリンクを基に、COPD連携手帳、COPD連携ファイルを用いて、新潟市におけるCOPD患者が安心して質の高い医療を受けるとともに、地域医療連携を円滑に行うことで医療機関の負担軽減など、COPDへ包括的にアプローチを続けていく必要があると考えられた。
謝辞
本研究にご協力いただいた関係者の皆様に感謝申し上げます。
特に新潟COPDリンクに加盟されている新潟大学医歯学総合病院、西新潟中央病院、新潟臨港病院、済生会新潟病院、新潟医療センター、木戸病院、新潟市民病院、信楽園病院、亀田第一病院、下越病院、南部郷総合病院、県立新発田病院、横田内科医院、中和内科医院、せきやクリニック、幸村医院、土田医院、本町いとう内科クリニック、中新潟クリニック、わかばやし内科クリニック、さとう内科クリニック、ほしの医院、五十嵐医院、田辺医院、こばやし内科クリニック、こなん内科クリニック、ふるしまクリニック、ひらた内科クリニック、金子内科医院、松田内科呼吸器科クリニック、新潟県労働衛生医学協会、新潟県保健衛生センターに深謝申し上げます。
本研究は2016年〜2018年度新潟市医師会地域医療研究助成(支援番号GC01520163)の支援を受けて実施しました。心より御礼を申し上げます。
引用文献
1)World Health Report. Geneva: World Health Organization.
〈https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/the-top-10-causes-of-death〉.(閲覧2019年9月5日)
2)Fukuchi Y, Nishimura M, Ichinose M, et al: COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology, 9: 458-65, 2004.
3)厚生労働省. 健康日本21(第二次).
〈https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html〉.(閲覧2019年9月5日)
4)加藤公則,三間聡,小林篤子,他:人間ドック連続受診者における慢性閉塞性肺疾患(COPD)発症に関わる因子についての解析. 人間ドック,26巻2号:256,2011.
5)COPD連携ファイル
〈https://nishiniigata.hosp.go.jp/contents/bumon/comcoop/doc/copdlink.pdf〉.(閲覧2019年9月5日)
6)GOLD日本委員会によるCOPD認知度把握調査
〈http://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/copd_degree_of_recognition.html〉.(閲覧2019年9月5日)
7)COPD Assessment test
〈https://www.catestonline.org/〉.(閲覧2019年9月5日)
8)Modified Medical Research Council Dyspnea Scale
〈https://goldcopd.org/gold-2017-global-strategy-diagnosis-management-prevention-copd/〉.(閲覧2019年9月5日)
9)荒井秀典:フレイル研究の最前線〜診断から介入への展望〜.第56回日本老年医学会学術集会,2014.
10)Puhan MA, Garcia-Aymerich J, Frey M, et al: Expansion of the prognostic assessment of patients with chronic obstructive pulmonary disease: the updated BODE index and the ADO index. Lancet. 29; 374: 704-11, 2009.
11)片山均,伊東亮治,山本千恵,他:携帯情報端末用禁煙支援アプリ使用者に対するCOPD認知に関するオンライン調査.日本呼吸器学会誌,4巻3号:216-222,2015.
12)COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版2018,一般社団法人日本呼吸器学会,東京,2018.
13)SWANネット
〈http://www.niigata-rc.org/swannet/〉.(閲覧2019年9月5日)
図1 COPD連携ファイル(表紙、登録情報、診療経過)
表1 一般市民、介護職員へのアンケート調査、回答者背景
図2 一般市民、介護職員へのアンケート調査
表2 医療従事者へのアンケート調査
表3 COPD連携ファイル運用状況、患者背景
図3 COPD連携手帳(背表紙、もくじ)
(令和2年1月号)