上原 彰史1)、小幡 裕明1、2)、渡部 裕1)、
和泉 由貴2)、鈴木 順夫3)、河内 恭典4)、
新保 浩史2)、岡本 麻衣2)、和泉 徹1)
1)新潟南病院 内科
2)新潟南病院 リハビリテーション科
3)新潟南病院 整形外科
4)新潟南病院 栄養管理部
はじめに
2013年4月より新潟南病院では「独歩プロジェクト、DOPPO」を推進している1)。同プロジェクトの効果、身体機能評価と予後との関係性を検討したので報告する。
DOPPOプロジェクト開始の背景
平成28年版高齢社会白書が示すように2)、これから10年以内に75歳以上の高齢者が18%を超え、高齢者が全人口の30%を超える。その結果、ひとりの高齢者をわずか1.8人の壮年者で支えなければならない。また新潟県の2010年報告では3)、非健康寿命が男性 9.59年対9.13年、女性 13.29年対12.68年と全国平均よりも長い。2013年成績では全国平均レベルにまで持ち直したもののまだ非常に長い。これを何とか短縮できれば、またそうでなくともその間の介護必要度を何とか軽くできれば、家族や社会の負担は軽減する。また当院をみると、2016年度の内科、整形外科、外科に入院した成人患者1,915人を概観すると、すでにその平均年齢は75.8歳に達している。つまり後期高齢者が約半数を占めている。一般的に、高齢者は多疾患有病者であり、循環器病、特に隠れ心不全患者や運動器病が多い。その上、超高齢患者では身体的フレイルのみならず、認知症を含む精神・心理的フレイル、あるいは引きこもりを始めとする社会的フレイルも多い。このような限界状況で日常生活を何とか営んできた高齢・超高齢患者が入院を契機に独立歩行が危うくなるのは必然である。このような背景から、2013年4月より“独歩プロジェクト、身体的フレイル高齢入院患者の独歩退院をめざす病院づくり Discharge Of elderly Patients from hosPital On the basis of their independent gait:DOPPO”を系統的に開始した。
なおDOPPOプロジェクトの対象者は身体的フレイル入院高齢患者である。身体的フレイルは図1に示すShort Physical Performance Battery(SPPB)4)を用い、12点未満と定義した。対象患者の入院原因疾患は全く問わない。年齢上限も設定しないが、SPPB評価が出来ないほど低ADLに陥っている患者は適応対象から外している。
方法
DOPPOリハビリへの参加患者は2013年4月~2018年8月(65ヶ月)の間で総計1,094名。その中でリハビリ開始時と終了時で身体機能検査を行い退院出来た65歳以上の連続251名の完遂者成績を対象とした。年齢は82.6±6.7歳(65~95歳)、性別は男性106人、女性145人である。主たる入院病名は循環器・大血管病が34%、運動器病が17%、脳血管・神経病が9%、呼吸器病が9%、手術後後遺症5%であった。多疾患に及び押しなべて多疾患有病者であった。
結果
短期成績を示す。図2のように、平均34.9日のDOPPOリハビリにより、等尺性膝伸展筋力は30.1%が33.9%に、バランス機能としてFunctional Reach Test(FRT)は25.9cmが29.0cmに、片脚立位時間は7.8秒が13.2秒に改善した。その結果、SPPBは7.1点が9.0点になり、SPPB 満点獲得者は43名(17.1%)に及んだ。歩行機能として10m歩行速度は0.85m/sから1.00m/sに、6分間歩行距離は213.1mが265.8mに改善した。また200人(79.7%)が“もと居た住まい”に戻った。
図3はDOPPOリハビリ終了時のSPPB値と6分間歩行距離との関係を示したものである。両者には正の相関関係があり、SPPB9点を獲得できれば、300m歩行の可能性が高まる。また、DOPPOリハビリ終了時の6分間歩行距離や、その300m歩行達成には実施前の10m努力歩行速度が強く関与していることが示された5)。
次に、長期成績を示す。DOPPO退院後1年以上を経過したのは195人である。診療録や電話を用いて調査を行い、追跡不能25人を除く170人(捕捉率87.2%)の長期成績を検討した。年齢は82.3歳、性別は男性77人、女性93人。うち20人が死亡(死因は悪性腫瘍5人、心臓病8人、呼吸器病3人、腎臓病1人、消化器病1人、多臓器不全1人、不明1人)していた。1年生存率は88.2%である。リハビリ終了時のSPPBと1年生存率との関係を図4に示した。年齢や死因に拘わらずSPPB9点以上獲得者は91.7%であり、8点以下の82.3%に較べ予後良好であった。
考察
DOPPOリハビリの6年間の経験を通して、平均年齢82.0歳という超高齢の多疾患有病者を対象としながらも、身体的フレイルは改善し、独立歩行を再び獲得し、そしてセルフケア生活に戻れることが明らかとなり、しかもそれが1年予後にも反映されていた。
まず、SPPBはDOPPOリハビリを実施する上で有力な身体機能評価指標である。これがDOPPOリハビリの進捗をガイドした。SPPBは歩行や立ち上がり、それにバランスの関心領域から構成されているが、それぞれの構成成分に注目することにより、DOPPOリハビリを効果的に処方できた。それのみならず、結果においても成果においても評価指標としてよく機能した。即ちSPPB9点を獲得した高齢者は6分間歩行テストの成績も、1年予後も良好であった。
しかしDOPPOリハビリの限界点もまた明らかである。SPPB9点を達成できない、自立を取り戻せない患者も多く存在するが、彼らに対してのDOPPOリハビリは、介護負担の軽減を目指すことになる。全てのフレイル患者に同一ゴールを設定し、同一の処方で対応し、限られた時間で達成することは無謀である。その意味で、SPPB 評価によって患者に合わせた適切な到達点を設定し、またSPPB結果によりリハビリ内容をガイドし、介護負担の軽減を順次模索する方がより合理的である。
なお、総合リハビリとDOPPOリハビリの相違点を強調する。総合リハビリは対象者が疾患によって奪われた社会的位置への復帰を目指している。従って、ゴールはもと居たポジションへの復帰に見合った身体機能、精神・心理的機能の獲得にある。DOPPOリハビリはフレイルによって生じた高齢者の独立歩行にのみに関心を払う。少子・超高齢社会が必要とする追加的なリハビリ活動といえる。従って、①疾患を問わない、②独立歩行が危うくなった高齢者のみが対象である、③独立歩行を取り戻したいヒトに光を当てている、④ゴールは独歩によるセルフケアの再獲得におかれる、⑤特別の機器や場所を必要とせず自宅や施設でも実行可能な内容に絞っている、などの特徴が挙げられる6)。
結語
筋力サルコペニアを伴う身体的フレイル高齢入院患者に対し、DOPPOリハビリを行った。SPPB、下肢筋力、動静的バランス、歩行速度、6分間歩行距離が改善した。
SPPBはリハビリ効果をガイドする。DOPPOリハビリ開始時7点あれば終了時には9点を、さらには6分間歩行300m以上を達成する可能性が高くなる。退院時SPPB9点を達成すれば1年予後に貢献する。特に、SPPBは年齢や死因に関わらず、予後を予測する身体機能評価指標である。
謝辞
新潟南病院でDOPPOプロジェクトを担っている鈴木正芳士長以下 同院リハビリテーション科療法士スタッフ一同に深謝いたします。新潟南病院におけるDOPPOプロジェクト及びその研究の実施にあたり、平成28年度より新潟市医師会地域医療研究助成(GC01920163 上原)として支援をいただきました。Japan Agency for Medical Research and Development(NO JP17ek0210058 小幡、和泉)、そして新潟県フレイル克服事業(小幡、和泉)からも支援を受けております。併せて御礼申し上げます。
新潟市医師会長をはじめとした関係者の方々に深く感謝申し上げます。
引用文献
1)和泉 徹,他:超高齢者の独歩退院をめざす病院づくり. Jpn J Rehabil Med 53:392-400,2016.
2)内閣府:平成28年版高齢社会白書.http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_1_1.html
3)新潟県:健康にいがた21(第2次)概要版. http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/560/1009/21%20gaiyou,0.pdf
4)Guralnik JM, et al: A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol 49: M85-94, 1994.
5)Akifumi U, et al: Baseline speed of 10-m gait determines ambulatory discharge of hospitalized frail elderly after DOPPO rehabilitation. IJRR 41: 331-336, 2018.
6)上原,他:DOPPO、超高齢者の独立歩行を守るリハビリテーション.理学療法ジャーナル 52:495-503,2018.
図1 Short Physical Performance Battery(SPPB)
図2 短期成績
図3 DOPPOリハビリ終了時のSPPB値と6分間歩行距離との関係
図4 リハビリ終了時のSPPBと1年生存率との関係
(令和2年7月号)