石上 和男1)、高野 晃輔1)、皆川 璃子1)、
遠藤 和男2)、佐藤 純子3)、金谷 光子3)
1)新潟医療福祉大学 医療情報管理学科
2)新潟医療福祉大学 健康栄養学科
3)新潟医療福祉大学 看護学科
はじめに
高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう、地域包括ケアシステムの推進を目指して各分野での取り組みが進められ、新潟市においても子供から高齢者、障害者等誰もが気軽に集まり交流できる場である「地域の茶の間」の設置を支援し、市民が安心して安全な生活を送ることができるよう、住民同士が互いに支えあう地域づくりの推進が図られている。
1990年に河田珪子さんが提唱して始まった「地域の茶の間」は新潟が発祥の地であり、2018年の調査では、新潟市内504か所、新潟県内2526か所、全国30000か所以上に広まってきている。「実家の茶の間・紫竹」は新潟市のモデルハウスとして位置づけられ、市と住民の共同事業として運営されており、他者を排除せず、参加者同士がお互いを尊重しながら助け合う姿が見られる。そのコミュニティの構造要因を明らかにすることが、地域共生社会の本質に近づき、新しい地域づくりの在り方を示すものと考え、参加者に対するインタビューを通じて、参加の目的や意義等の構造要因を分析することを目的とした。
なお、ここでいう地域共生社会とは国が提唱した地域づくりの新たな視点で、制度や分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が「我が事」として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域を共に創っていく社会のことをいう。
方法
1)対象
(1)「実家の茶の間・紫竹」の利用者を中心に、①参加のきっかけ ②最初の印象 ③変化があったこと ④どういう場所と感じているか の4項目を中心に半構造化面接を実施した。
(2)利用者には、本研究の目的を事前に書面と口頭で説明し、同意の得られた女性5人(70歳代~80歳代)と男性6人(60歳代~80歳代)、計11人を対象とした。
(3)インタビューは2019年7月~8月に、3人の女性は1グループとしてまとめて教員と学生が一緒になって行い、残り8人は教員が個別に行った。
(4)インタビューは1人につき30分~60分を要した。
2)データ分析方法
テキスト文章の質的分析を行う形態素解析ソフト:KHコーダー(Coder)を用いた。
KHコーダーは、テキスト型(文章型)データを統計的に分析するためのフリーソフトウェアで、インタビュー記録やアンケートの自由記述など、様々な社会調査データを分析するのに利用されており、通常の文章を単語や文節で区切り、それらの出現頻度や出現傾向、時系列などを解析することで有用な情報を取り出す、テキストデータの分析方法である。
一つ一つの文書で出現する単語「抽出語」のうち、「距離」が近いか遠いかを計算し、図示したものを共起ネットワークといい、距離はedge(線)で表現され、抽出語はnodeと呼ばれる円で表現され、nodeはedgeによって結ばれる。edge(線)で結ばれているnode(円)同士は近い「距離」にあり、共通に出現していて共起関係があるという。
円の大きさは出現回数を示し、同じ色の円は距離が近い抽出語同士であることを示している。
3)倫理的配慮
新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得た。(承認番号18228-190705)
結果
共起ネットワーク分析を用いた全体像と、各項目の特徴を抽出し図に示した。
1)参加のきっかけ
毎年10月に行われる開設祝いに町内会や老人会の役員として参加したり、友達と一緒に参加したのがきっかけ。そこでは知らない人同士も友達になり、みんなが一丸となって協力する風土ができている。男衆は立て付けの悪くなったところの補修などを協力して行うなどの役割を担っている(図1)。
2)最初の印象
ここはよそとまったく違う雰囲気がある。座る場所も、自分の都合のよい時間に合わせて出入りするのも自由で、モデルハウスになった素晴らしい場所だ(図2)。
3)変化があったこと
家にいては駄目で、茶の間に来ると、人とのつながりを持つことができる。茶の間に来ることで気の合う友達ができるし、他者とのかかわりの中で自分の性格も変わってきた。集団の中で役割を担って活動することが楽しさや満足感につながっている。みんなが今やっていることに満足している(図3)。
4)どういう場所と感じているか
楽しい場所で、皆さんと一緒に食べたほうが楽しい。気を使わない場所で、自由参加、自由解散、一人で来て、一人で帰ることができる場所である(図4)。
5)通う目的における男性と女性の違い
(1)男性
河田代表から直接声を掛けられ、自分ができることをやろうと思った。男が継続して来るのは、茶の間で友達になるのが楽しいし、居心地が良い。ここは故郷の家族がいた実家と同じように感じる。一人暮らしの人も多く来ており、一人でも参加しやすい良い雰囲気がある。みんなと一緒に活動することで気持ちの面でもよい影響がある(図5)。
(2)女性
友達から「一緒に行ってみましょう」と誘われて来るようになった。毎日一人で家にいるよりも友達と過ごしたい。自由におしゃべりや好きなことができる居心地の良い場所で、気を使わなくてもよい場所だ(図6)。
考察
今回、「実家の茶の間・紫竹」で形成されているコミュニティの構造要因について、利用者を対象にしたインタビューを通じて明らかにすることを目的にした。そこには、国が提唱している地域共生社会という地域づくりの新たな視点で見たときに、「実家の茶の間・紫竹」では他者を排除せず参加者同士がお互いを尊重しながら助け合う姿が随所に見られ、今後構築すべき「支えあい・助け合う」地域づくりの骨格を担うものがあった。
これはまさに制度や分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで、住民一人一人の暮らしを支え、生きがいを生み出すことを意味する。
「実家の茶の間・紫竹」は新潟市のモデルハウスとして位置づけられ、新潟市と住民による協同事業で運営されており、実家のような居心地の良い場所が形成されていることからも地域に波及することが大いに期待されるところである。そのためには住民も行政も共に協同してこの地域共生社会の実現に向けた取り組みが求められている。なお、今回は利用者に対してのみインタビューを行ったものを記載したが、今後は主催者や市町村担当者等にも対象を広げることで、コミュニティの構造要因が一層明らかになると考える。
謝辞
本研究にご協力いただいた「実家の茶の間・紫竹」の皆さんに厚く感謝いたします。
また、本研究に当たり、新潟市医師会地域医療研究助成(支援番号GC02420182)の支援を受けて実施しました。併せてお礼申し上げます。
文献
1)厚生労働省:「地域共生社会の実現に向けて」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184346.html)
2)樋口耕一.社会調査のための計量テキスト分析.ナカニシヤ出版,京都,2016.
3)新潟市:地域包括ケアシステムの構築に向けて
(https://www.city.niigata.lg.jp/smph/iryo/korei/chiikihokatsucare/houkatsucarekoutiku.html)
4)新潟市:地域の茶の間への助成
(https://www.city.niigata.lg.jp/smph/iryo/korei/chiikihokatsucare/tiikinocyanomajosei.html)