佐藤 克郎1)、小林明日香2)
1)新潟医療福祉大学 言語聴覚学科
2)新発田リハビリテーション病院 リハビリテーション科
はじめに
近年、アレルギー性疾患罹患者の増加が社会問題となっており、その背景には大気環境・生活習慣・微生物感染状況の変化などが考察されてきた。特に、アレルギー性鼻炎は本邦において花粉症を含む有症率の経年的上昇が報告されており、現在までさまざまな議論がなされてきた1)。われわれが2015年2)、2017年3)に調査を行って報告した研究においても、アレルギー性鼻炎の有症率は過去の先行研究と比較して高率との結果が得られた。
今回われわれは、2019年度新潟医療福祉大学在籍の大学生に対しアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査を行い、現時点での新潟市の若年者におけるアレルギー性鼻炎の現状を検討したので報告する。
対象と方法
2019年度に新潟医療福祉大学言語聴覚学科に在籍する学生153名を対象に、無記名で直接配布による自己記入式アンケート用紙に出身県と市町村、性別、年齢を記入したうえで以下の12項目の質問に回答を依頼した。
①アレルギー性鼻炎または花粉症ですか。
(はい・いいえ)
②副鼻腔炎にかかったことがありますか。
(はい・いいえ)
③いつ頃から発症しましたか。
④どのような症状がありますか。
(鼻漏・くしゃみ・鼻閉・その他)
⑤通年性・季節性のどちらですか。
(通年性・季節性)
⑥質問⑤で季節性に〇をつけた方はどの季節ですか。(春・夏・秋・冬)
⑦原因はわかりますか。
(花粉・ハウスダスト・ダニ・その他)
⑧新潟県出身以外の方にお聞きします。新潟県に来てアレルギー性鼻炎または花粉症が増悪または緩和されたと感じましたか。
(増悪・緩和・変化なし)
⑨アレルギー性鼻炎または花粉症の他にもアレルギー性疾患がある方は〇をつけてください。
(アトピー性皮膚炎・気管支喘息・その他)
⑩医療機関を受診したことがある方の受診科はどこですか。
(内科・小児科・耳鼻咽喉科・皮膚科・その他)
⑪治療法や薬の種類が分かる方は記載してください。薬の種類は一般用医薬品(市販薬)と医療用医薬品に分けて記載してください。
⑫家族内でアレルギー性鼻炎または花粉症の方はいますか。(いる・いない)
結果
回答者の性別は男性25名(16.3%)、女性127名(83.0%)、無回答1名(0.7%)で、平均年齢は19.6歳であった。出身地は新潟県内77名(50.3%)、新潟県外76名(49.7%)であった。
1)有症率
アレルギー性鼻炎の有症率は、「アレルギー性鼻炎または花粉症あり」と回答した合計(以下「鼻炎あり群」)が93名(60.8%)であった。
2)副鼻腔炎合併
鼻炎あり群のうち、副鼻腔炎との合併は19名(20.4%)にみられた。
3)発症時期
発症時期は、就学前13名(14.0%)、小学生41名(44.1%)、中学生15名(16.1%)、高校生14名(15.1%)、大学生4名(4.3%)、不明が6名(6.5%)であった(図1)。
4)症状
症状は鼻漏のみ4名(4.3%)、くしゃみのみ4名(4.3%)、鼻閉のみ4名(4.3%)、鼻のそう痒感のみ1名(1.1%)、鼻漏とくしゃみ15名(16.1%)、鼻漏と鼻閉13名(14.0%)、くしゃみと鼻閉6名(6.5%)、くしゃみとそう痒感2名(2.2%)、鼻漏とくしゃみと鼻閉34名(36.6%)、鼻漏と鼻閉とそう痒感5名(5.4%)、鼻漏と鼻閉と咳1名(1.1%)、鼻漏とくしゃみと鼻閉と耳閉感と頭痛1名(1.1%)、無回答3名(3.2%)であった(図2)。
5)季節分類と原因
鼻炎あり群のうち、季節分類は通年性36名(38.7%)、季節性55名(59.1%)、両方1名(1.1%)、無回答1名(1.1%)であった。季節の内訳は複数回答の季節を合計すると、春が52名(94.5%)、夏が4名(7.3%)、秋が19名(34.5%)、冬が1名(1.8%)であった。
地域別の季節分類は、新潟県内出身者では通年性19名(46.3%)、季節性22名(53.7%)であった(図3左)。季節の内訳は複数回答を合計すると春21名(95.5%)、夏2名(9.1%)、秋8名(36.4%)であった。
一方、新潟県外出身者は通年性18名(34.6%)、季節性33名(63.5%)、両方1名(1.9%)であった(図3右)。季節の内訳は複数回答を合計すると春32名(94.1%)、夏2名(5.9%)、秋11名(32.4%)、冬1名(2.9%)であった。
原因は複数回答を合計すると花粉67名(72.0%)、ハウスダスト42名(45.2%)、ダニ16名(17.2%)、動物8名(8.6%)であった。
6)転居による症状の変化
新潟県への転居による症状の変化に関しては、新潟県外出身で新潟県に転居してアレルギー性鼻炎の症状が増悪したのは3名(5.8%)、緩和されたのは26名(50.0%)、変化なしが23名(44.2%)であった(図4)。
7)他のアレルギー性疾患罹患
アレルギー性鼻炎以外のアレルギー性疾患の罹患は34名(36.6%)にみられ、アトピー性皮膚炎17名(鼻炎あり群の18.3%)、気管支喘息14名(15.1%)、食物アレルギー2名(2.2%)、アレルギー性結膜炎1名(1.1%)であった。また、アレルギー性鼻炎の発症年齢と他のアレルギー疾患の合併に関しては、就学前発症はアトピー性皮膚炎3名(23.1%)、気管支喘息3名(23.1%)小学生発症はアトピー性皮膚炎6名(14.6%)、気管支喘息6名(14.6%)、アレルギー性結膜炎1名(2.4%)、食物アレルギー1名(2.4%)、中学生発症は気管支喘息1名(6.7%)、高校生発症はアトピー性皮膚炎2名(14.3%)、大学生発症での合併はなかった。
8)受診科と治療法
受診した医療機関のうち、最多の受診科は耳鼻咽喉科で52名(55.9%)、次いで小児科17名(18.3%)、皮膚科11名(11.8%)、内科10名(10.8%)であった。
治療法に関しては26名から回答があり、内訳は内服薬が25名(96.2%)であり、医薬品では内服の抗アレルギー剤が21名(84.0%)と大多数を占めた。
9)家族歴
家族内のアレルギー性鼻炎の罹患は、罹患者あり70名(75.3%)、罹患者なし15名(16.1%)、無回答8名(8.6%)であった。
考察
1)有症率
2013年に報告された研究によると、小学校児童を対象に行ったアレルギー性鼻炎の有症率に関する一連の大規模調査では、1992年の有症率は15.9%で、2002年20.5%、2012年28.1%と経時的に上昇がみられていた1)。また、2015年に発行されたガイドラインに記載された全国の有症率は39.4%であった4)。
今回、2019年度の新潟市の大学生153名における有症率は60.8%であり、過去の報告と比較して最も高値を示した。われわれが同様の対象に2015年に行った調査での有症率は39%で2)、2017年の調査では51.6%であった3)。すなわち、新潟市の大学生におけるアレルギー性鼻炎の有症率はこの4年間で経年的に増加してきたと考えられる。この傾向は、およそ20年前の報告において既に「地域、対象などにより差があるが、アレルギー性鼻炎は増加の傾向にある」と指摘されていた5)。2019年における本調査と2015年2)、2017年3)の調査という、同地域の同年代の対象を調査した定点経時的な研究の比較で、新潟市において2年という短い間隔でアレルギー性鼻炎が10%程度ずつ増加を続けていたことは注目すべきであろう。
この増加傾向の原因には、まずスギ花粉飛散量の増加を考慮すべきである。環境省の調査では、新潟県都市部におけるスギ花粉濃度の2~5月の平均値は2015年22.9個/m2、2016年16.2個/m2、2017年26.4個/m2、2018年17.8個/m2であり6)、われわれがこれまで調査を行った2015年と2017年のスギ花粉濃度を比較するとスギ花粉量の増加がみられていた。しかしスギ花粉量がさらに増加し続けるという確証はなく、今後のデータの公表を待って再検討したい。
2)副鼻腔炎合併
鼻炎あり群における副鼻腔炎の合併率は20.4%であった。アレルギー性鼻炎に伴い副鼻腔陰影が出現するアレルギー性鼻副鼻腔炎は、小児で成人より多いという報告がある7)。また、2011年の報告によると、アレルギー性鼻炎患者の慢性副鼻腔炎合併は37%であった8)。
本調査では耳鼻咽喉科の受診率が55.9%と耳鼻咽喉科受診者を対象とした先行研究8)の約半数であり、画像診断の施行率が低かったと推察される。耳鼻咽喉科施設におけるアレルギー性鼻炎症例に対する画像診断施行頻度の調査をふまえた再検討が望まれる。
3)発症時期
2007年の報告によるとアレルギー性鼻炎の発症時の平均年齢は10.6歳であった9)。本調査でも58.1%が小学生までに発症しており、同様の結果と考えられた。2015年2)と2017年3)に今回と同条件の対象に行った調査でも各々68%、69.2%が小学校までに発症しており、現時点では小学生までの発症が最も多いと思われる。
4)症状
症状はアレルギー性鼻炎の3主徴である鼻漏、くしゃみ、鼻閉が大部分であり、3症状の全てを訴える割合が36.6%と3分の1以上を占めていた。症状の割合はわれわれの前回の報告3)や他の先行研究と4)ほぼ同等であり、現時点では症状の年代や地域による差異はないと推察される。
5)季節分類と原因
アレルギー性鼻炎の増加がみられ始めた1960年代後半ではハウスダスト、ダニによる通年性アレルギー性鼻炎の増加が中心であったが、その後花粉症の増加が著しく、特にスギ花粉症の増加と症状の強さは社会問題として取り上げられた4)。
本調査において通年性より季節性の有症率が高く、季節は春が顕著に多かった。さらに本調査における最も多い原因は花粉で73.1%、次いでハウスダスト46.2%であった。これはスギ花粉症の有症率増加を反映する結果と思われる。季節性アレルギー性鼻炎の発症季節について、本調査では新潟県外出身者に比較して新潟県内出身者では冬が少なく春、夏、秋で多い傾向がみられた。一方、われわれの2017年の調査3)では、新潟県出身者が新潟県外出身者よりも秋の症状発現が多い傾向があった。新潟県内外出身者の差異に関しては、今後の調査継続と検討が必要と思われる。
6)転居による症状の変化
今回、鼻炎あり群の県外出身者が新潟県に転居し症状が緩和されたとの回答が半数から得られた。2016年の報告でスギ花粉症の有症率の全国平均26.5%に対し新潟県で15.0%と低値であり、アレルギー性鼻炎全体でも全国平均39.4%に対し新潟県は26.1%と低値であった4)。スギ花粉症有症率の地域差については花粉数、春の湿度が影響しており、花粉数が多く、湿度が低い地域ほど有症率の増加が顕著であると報告されている10)。本調査の県外出身者鼻炎あり群において福島県出身者が25.0%、次いで長野県出身者が23.1%と多かった。環境省による2018年度のスギ花粉濃度の2~5月の期間平均値は新潟都市部で17.8個/m2、福島都市部で100.1個/m2、長野都市部で63.1個/m2と新潟都市部が低値であった6)。また、気象庁による平成30年度の3~5月の平均湿度は福島県が62%、長野県が66%、新潟県が71%と新潟県の平均湿度が高値であった11)。すなわち、新潟県に転居し症状が緩和された理由として、出身地では新潟県よりも花粉量が多く平均湿度が低値であったことが考えられる。今回県外出身者が多かった近隣県よりも、関東圏などはさらにスギ花粉量が多いことから、地域による有症率の全国的な調査の集計が望まれる。
7)他のアレルギー性疾患罹患
他のアレルギー疾患の合併については、アトピー性皮膚炎と気管支喘息のⅠ型アレルギー疾患が大部分であった。アレルギー性疾患合併の時期は就学前と小学生に比べて中学生、高校生、大学生と減少してきており、アトピー性皮膚炎と気管支喘息がアレルギー性鼻炎に先行するというアレルギーマーチを反映しているものと思われた。
8)受診科と治療法
今回の調査結果では、耳鼻咽喉科が合計55.9%と最も多かった。耳鼻咽喉科の受診はアレルギー性鼻炎の症状によるものであり、小児科と内科の受診は気管支喘息、皮膚科の受診はアトピー性皮膚炎の症状によるものと考えられる。受診科の割合は各疾患の有病率を反映していると推察される。2007年の時点で「アレルギー性鼻炎の低年齢化が問題になっている」とされていた9)ことを考慮すると、今回の調査で耳鼻咽喉科の受診率が約半数であった理由として、アレルギー性鼻炎の低年齢発症により、アレルギー性鼻炎の症状を発症した小児が他のアレルギー性疾患などで受診中の小児科で対応したことが推察される。
治療法・医薬品の調査結果については「抗アレルギー剤を主とした内服薬による治療」との回答が大部分で、アレルギー性鼻炎診療における現状を反映していた12)。アレルギー性鼻炎に対する唯一の根本的治療であるアレルゲン免疫療法は、皮下注射よりも負担の少ない舌下免疫療法がスギ花粉2014年、ダニ2015年に保険適応になった。今回の調査ではアレルゲン免疫療法という回答はなかったが、舌下免疫療法の有効性を含めた今後の調査が望まれる。
さらに、長期間重症のアレルギー性の炎症が続いた結果、鼻ポリープの形成や鼻粘膜の不可逆的変性をきたした症例においては手術的治療も適応となるが12)、今回の調査では手術という回答はなかった。対象が若年者であり罹病期間が短いことに加え、現時点においてアレルギー性鼻炎の適切な治療が行われている可能性も推察された。
9)家族歴
鼻炎あり群における家族の罹患は75.3%と高値で、アレルギー疾患の家族内発症因子として遺伝子素因が重要との報告13)を支持する結果と考えられた。
気管支喘息の家族歴に関する調査によると、家族歴がある場合の児の喘息発症率は61.5%であり、両親とも家族歴ありは68.2%、父のみ61.7%、母のみ61.8%であった13)。今回のアレルギー性鼻炎における家族歴は同調査より10ポイント程度高値であった。しかしアレルギー性疾患の家族歴については気管支喘息に関する報告が大部分であるため、アレルギー性鼻炎の家族内罹患率に関する今後の調査が必要と思われた。
英国とドイツにおけるアトピー性皮膚炎の家族研究では、アトピー性皮膚炎の有病率が家族の人数と逆相関すること、つまり、少人数家庭ほどアトピー性皮膚炎の発症率が高いことが報告されている14)。今回は家族構成の調査は行っておらず、アレルギー性鼻炎における同様の研究が望まれる。
おわりに
2015年2)、2017年3)、今回2019年と同年代の大学生を対象にアンケートを用いた新潟県新潟市での定点調査を行うことにより、花粉症を含むアレルギー性鼻炎を中心としたアレルギー性疾患につき考察してきた。その結果、一連の研究で地域性や年度の推移におけるアレルギー性鼻炎の新しい知見を得ることができた。今後は、これまで観察し得た4年間の経過が今後どう推移するかを明らかにする研究継続とともに、他の地域における同様の研究との比較検討が可能となることを期待したい。
文献
1)西間三馨, 小田嶋博, 太田國隆ら: 西日本小学児童におけるアレルギー疾患有症率調査-1992, 2002, 2012の比較-. 日本小児アレルギー学会雑誌, 27: 149-169, 2013.
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3)北川原真也: 大学生を対象としたアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査. 新潟市医師会報, 580: 2-6, 2019.
4)奥田稔, 今野昭義, 竹中洋ら: 鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年度版(改訂第8版). 株式会社ライフ・サイエンス, 東京, 2015.
5)奥田稔: 鼻アレルギー 基礎と臨床. 医薬ジャーナル, 大阪, 1999.
6)環境省: 2018年2月~6月 花粉観測データ集, http://kafun.taiki.go.jp/Index/pdffiles/2018kafun-joukyou.pdf, 閲覧2019年8月20日.
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8)黒野祐一, 平川勝洋, 飯野ゆき子: アレルギー性鼻炎に合併する副鼻腔陰影の取り扱い-アレルギー性鼻副鼻腔炎の治療方針-. The Japanese Journal of Antibiotics, 64: 345-353, 2011.
9)平松隆: 鼻汁好酸球検査と小児アレルギー性鼻炎-新規の一開業医の視点から-. 耳鼻咽喉科臨床, 100: 979-985, 2007.
10)村山貢司, 馬場廣太郎, 大久保公裕: スギ花粉症有病率の地域差について. アレルギー, 59: 47-54, 2010.
11)国土交通省 気象庁: 過去の気象データ・ダウンロード, https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/, 閲覧2019年8月20日.
12)後藤穣: ガイドラインに基づいたアレルギー性鼻炎・花粉症治療-第2世代抗ヒスタミン薬を中心に-. 日本耳鼻咽喉科学会会報, 122: 187-191, 2019.
13)椎貝典子: 小児気管支喘息の発症に関わるアレルギー疾患 家族歴の臨床的意義について 第1報 家族歴におけるアレルギー疾患による気管支喘息の発症の比較.アレルギー, 44: 1262-1271, 1995.
14)幸野健: アトピー性皮膚炎病院論における諸問題. 日本医科大学医学会雑誌, 7: 83-87, 2011.
図1 アレルギー性鼻炎の発症時期
図2 アレルギー性鼻炎の症状
図3 アレルギー性鼻炎の季節分類
図4 新潟県への転居による症状の変化
(令和3年6月号)