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新潟市医師会報より

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私達はなぜ、動物性脂肪にハマってしまうのか?~質の高い健康長寿社会を目指す食・行動科学の進歩~

琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病 内科学講座(第二内科)
教授 益崎 裕章

ヒトはなぜ、太ってしまうのか?

身体には良くないと頭では理解しているつもりでも、ついつい、食べ過ぎや運動不足から抜けられないのはなぜだろうか? 私達は食や運動など、あらゆる行動を決定している脳の機能異常に注目し、沖縄の地で脳科学と分子栄養学のハイブリッド・アプローチにより、質の高い健康長寿社会の実現を目指す研究に取り組んでいる。例えば、動物性脂肪の習慣的な過剰摂取は脳をハッキングし、脂っこい食事に対して病みつきにさせる。身体が本当に必要としているエネルギー量や栄養成分を判断できない脳に変わり、過食行動に拍車がかかり、さらには身体を動かす気分さえも削ぎ落としてしまうという恐ろしい効果を持っている。これらの現象はマウス実験のみならず、ヒトにおいても観察される。運動量が減り、食べ過ぎが重なればマウスもヒトもますます太りやすくなり、血糖値が上昇してくるのは当然の成り行きである。

乗っている自動車には優れたカー・ナビゲーションが搭載されているのに肝心の健康ナビを持たないひとが少なくない。人類史上、未曽有の高齢社会を迎えた我が国において最早、生活習慣病になったら誰かが手を差し延べて助けてくれる時代は終わり、一人一人が最新の正しい健康知識(ヘルス・リテラシー)を駆使して自身の健康に自己責任を持つことが求められる。ロンドン大学 リンダ・グラットン教授のベストセラー著著『ライフシフト』の中で描かれている我が国の近未来シミュレーションでは現在の中学生達が100歳以上の人生を歩む確率は50%を超えており、人生100年が万が一ではなく二分の一になる日が確実に到来する。人口に占める65歳以上の割合が既に28%を超える「超・超高齢社会」に突入した我が国において患者数の増加と疾病構造の高齢化が懸念される三大疾病が糖尿病・がん・認知症であり、肥満はこれら三大疾病に対する強力なリスク因子でもある。

私達はなぜ、動物性脂肪にハマってしまうのか?

肥満症・2型糖尿病の予防や進展阻止において生活習慣の改善は必須であるが、日々3度の食事内容を整え、運動習慣を継続することは大半のひとにとって「言うは易く、行うは難い」の最たるものである。脳(中枢神経系)が担う食欲調節機構には主に2つの司令塔があり、ひとつはホルモン(インスリン、レプチン、GLP-1、グレリンなど)や自律神経を介して末梢組織からもたらされる情報を統合する視床下部が担当する恒常性維持の(homeostatic)調節機構、もうひとつは食事の喜びや満足、ときには快楽過食を作り出す脳報酬系が担当するhedonicな調節機構である(図1)。実際、習慣的な動物性脂肪の過剰摂取は両者の機能に悪影響を及ぼすことがわかっており、超加工食品は特に脳報酬系の機能攪乱に影響する。

一連のマウス実験から、動物性脂肪の習慣的な過剰摂取は脳機能、膵島の内分泌機能(インスリンやグルカゴンの分泌制御)、消化管免疫機能、腸内フローラのバランスと機能に深刻な悪影響を及ぼすことが知られている。図2には動物性脂肪の過剰摂取によって全身で引き起こされる代謝異常の主なものを整理した。脳においては、レプチン抵抗性(脂肪細胞から分泌され、食欲の抑制に働くホルモン、レプチンの効果が脳のレベルで消失する現象)(視床下部)、小胞体ストレスの亢進(これもレプチン抵抗性の要因となる)(視床下部)1)、活動量の低下(=身体を動かす気持ちが失せてしまう)(脳内報酬系)、ドパミン受容体の機能低下(満腹感や食事による歓びを感じにくくなり、過食が遷延する)(脳内報酬系)2)、マイクログリア炎症(視床下部)などが惹起される。最近、マイクログリア炎症と認知機能障害と関わりも大変、注目されており、青壮年期の肥満がのちの人生で認知機能障害を来しやすくなることが明らかになってきている。

一方、動物性脂肪の過剰摂取は膵島に対してはGLP-1受容体数の減少(ダウン・レギュレーション)やDPP-4の活性亢進に伴うインクレチン作用の減弱、ドパミン受容体シグナルの亢進や小胞体ストレスの亢進に伴うグルコース応答性インスリン分泌の低下3、4)を招き、2型糖尿病の発症リスクを高める危険性が示唆されている。さらに、動物性脂肪は酸化ストレスを産生するキサンチン・オキシダーゼ(尿酸合成酵素)を誘導し5)、過剰な酸化ストレスによって細胞老化や代謝病・血管病の進展・悪化を招くことが知られている。

視床下部における小胞体(ER)ストレスと動物性脂肪依存

動物性脂肪の過剰摂取が食の好みを狂わせるメカニズムのひとつが食欲中枢、視床下部における小胞体(ER)ストレスの亢進である。ERストレスは過去にノーベル医学・生理学賞の受賞対象にもなり、様々な生命現象を語るうえで欠かせない。小胞体はタンパク質の合成、修飾、立体構造構築(折り畳み)を司る細胞内小器官(オルガネラ)のひとつであり、正常に折り畳まれないタンパク質が小胞体に蓄積し、細胞において小胞体ストレス応答(unfolded protein response: UPR)が活性化された状態をERストレスと呼んでいる。2型糖尿病の病態を例に取ると、膵β細胞からのインスリン分泌に対する要求性が高まり、注文に応じきれなくなったβ細胞からは折り畳みが不完全な不良品のインスリン(プロインスリン)が分泌されるようになる。プロインスリンはインスリンに比べて生物活性が低く、β細胞から分泌されにくく、β細胞の中に留まりやすい性質がある。このことが膵β細胞に負担を強いて、やがて不良蛋白の処理に窮したβ細胞自身が自殺(アポトーシス)に追い込まれ、インスリン分泌不全に陥っていく。

興味深いことに、動物性脂肪を与えて肥満・糖尿病を誘導したマウスやラットの視床下部においても膵島と同様にERストレスが亢進しており、レプチン抵抗性が惹起される。野生動物にとっては痩せすぎも太り過ぎも生存競争に不利に働く。レプチンは視床下部に働いて食欲をコントロールし、体脂肪が減ると血中のレプチン濃度が下がって摂食を促し、体脂肪が増えてくると血中レプチン濃度が上昇して食欲を低下させ、痩せすぎず、太り過ぎず、体重(体脂肪量)を一定に保つべく機能する。しかし、動物性脂肪の摂り過ぎによってレプチンが視床下部でうまく働かなくなると延々と過食が続くことになる。

マウスを用いた私達の研究から、動物性脂肪の過剰摂取に伴って上昇する視床下部のERストレスは食欲の病的増強のみならず、動物性脂肪に対する嗜好性を亢進させることが明らかになった。脂を口にすると病みつきになる恐ろしい悪循環メカニズムの一端が判明した。一方、先に4フェニル酪酸(4-PBA)などの“ERストレス抑制剤”を投与して視床下部のERストレスを低下させておいてから通常の餌と高脂肪の餌をマウスに自由に選択させると、高脂肪の餌ばかりを好んで食べていたマウス達が通常の餌を選択する割合が明らかに増加する1)。

脳報酬系におけるドパミン受容体遺伝子のゲノム修飾(エピゲノム)と動物性脂肪依存

ゲノム修飾(エピゲノム)とはDNAの塩基配列の変化(広義の遺伝子異常)を伴わずに遺伝子の発現を制御するメカニズムであり、成長や発達、老化、がん化をはじめ、多岐にわたる生命現象に関与している。生活習慣病との関連では食欲やエネルギー代謝に関わる遺伝子の多くがゲノム修飾の標的となっていることに加え、最近では精子や卵子の遺伝子群に生じたゲノム修飾が次世代にまで継承される可能性が注目されている。例を挙げると、以前から、肥満の父親を持つ子供は成人後に太りやすくなる、という有名な疫学研究が知られており、そのメカニズムとして、特に、食欲や体重調節に関わる精子の遺伝子群に高率にエピゲノム変化が生じていることが肥満男性を対象とした研究から明らかになっている(図3)6)。さらに、日頃から規則的に運動させておいた雄マウスを雌マウスと交配させると、生まれて来るマウス達がおとなのマウスに成長してからも糖尿病になりにくいことが報告されており(図4)、ここにもエピゲノムやsmall RNAが関わっていることが示唆されている(図5)7)。このような一連の研究成果を踏まえ、デンマークでは肥満を有する男性はしっかり運動し、一定の減量をしてから子作りをする、という“精子トレーニング”の壮大な実証実験がスタートしている。

マウスを用いた私達のその後の研究から、一定期間、動物性脂肪を多く含んだ餌を与えて飼育すると、脳報酬系に高発現しているドパミン受容体遺伝子の転写調節領域(遺伝子を読み出すかどうかをコントロールする場所)に過剰な “DNAメチル化”が生じ、エピゲノム機序によってドパミン受容体の発現が低下し、動物性脂肪に対する依存に陥ってしまうという新たなメカニズムが明らかになった2)。

すなわち、食事による満足や歓びを感知するドパミン受容体の数が減ってしまう結果、満足できない脳に変わってしまうメカニズムの一端が解明された。海外グループからのラットを用いた研究では母親ラットの脂濃い食の好みは子供ラットにも受け継がれ、ここにもエピゲノムの関与が想定されており8)、脳エピゲノムの制御は不健康な食の好みを是正し、次世代の肥満・糖尿病を予防するターゲットとして期待される。

近年、動物性脂肪に対する依存と麻薬・アルコール・タバコ(ニコチン)などに対する依存の脳内メカニズムにおける共通点が注目されている9)。薬物依存における服用量の増加は薬物の摂取に伴って脳内報酬系の閾値が上昇していき、従来の摂取量ではもはや満足が得られなくなってしまうことに起因している。興味深いことに、コカインやヘロインなどの麻薬依存ラットと同様、動物性脂肪に対する依存に陥ったラットでは摂食に伴う満足感を感じにくくなっており、もっと脂を、もっと脂を、と脂肪を渇望する脳に変わってしまっている(図6)9)。さらに、機能的MRIを用いた研究により、普段から動物性脂肪を好んで食べている肥満者においては麻薬中毒者と同様、線条体(報酬系の主要な神経核)におけるドパミンD2受容体(D2R)が機能していないことが判明している10)。

引用文献

1)Kozuka C, Yabiku K, Sunagawa S et al. Brown rice and its components, γ-oryzanol, attenuate the preference for high fat diet by decreasing hypothalamic endoplasmic reticulum stress in mice. Diabetes 61: 3084-3093, 2012

2)Kozuka C, Kaname T, Shimizu-Okabe C et al. Impact of brown rice-specific γ-Oryzanol on epigenetic modulation of dopamine D2 receptor in brain striatum of high fat diet-induced obese mice Diabetologia 60: 1502-1511, 2017

3)Kozuka C, Sunagwa S, ueda R et al. A novel insulinotropic mechanism of whole grain-derived γ-oryzanol via the suppression of local dopamine D2 receptor signaling in mouse islet. British J Pharmacol 172: 4519-4534, 2015

4)Kozuka C, Sunagawa S, ueda R et al. γ-Oryzanol protects pancreatic β-cells against endoplasmic reticulum stress in male mice. Endocrinology 156: 1242-1250, 2015

5)Masuzaki H, Kozuka C, Okamoto S et al. Brown rice-specific γ-oryzanol as a promising prophylactic avenue to protect against diabetes mellitus and obesity in humans. J Diabetes Investigation 10: 18-25, 2019

6)Donkin l, Versteyhe S, Lars R et al. Obesity and bariatirc surgery drive epigenetic variation of spermatozoa in humans. Cell Metabolism 23: 369-378, 2016

7)Stanford K, Rasmussen M, Baer L et al. Paternal exercise improves glucose metabolism in adult offspring. Diabetes 67: 2530–2540, 2018

8)Ong ZY, Muhlhausler BS. Maternal “junk-food” feeding of rat dams alters food choices and development of the mesolimbic reward pathway in the offspring. FASEB J 25: 2167, 2011

9)DiLeone RJ, Taylor JR, Picciotto MR. The drive to eat: comparisons and distinctions between mechanisms of food reward and drug addiction.

Nature Neurosci 15: 1330-1335, 2012

10)Wang GJ, Tomasi D, Backus W et al. Gastric distention activates satiety circuitry in the human brain. Neuroimage 39: 1824-1831, 2008

図1

図2

図3

図4

図5

図6

(令和3年7月号)

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