空港前クリニック 院長 川﨑 克
はじめに
以前はアレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎のアレルギー3大疾患が主であったが、現在は花粉症、アレルギー性結膜炎、食物・口腔アレルギーが加わり6大疾患となっている。耳鼻咽喉科に関係の深い通年性アレルギー性鼻炎は24.5%、花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)は42.5%で、1998年からの10年毎の統計でスギ花粉症の有病率は調査毎に10%程度ずつ増加し、成人ではスギ花粉症患者は半数に迫っていて、全体で49.2%の有病率1)になっている。今回、当院での患者統計を含め、アレルギー性鼻炎・花粉症にどのような検査、治療が行われているのか、また新潟市における花粉飛散状況・当院の患者受診状況を含め報告する。
疫学
当院で2014年6月~2017年6月までに迅速アレルギー検査、及び一般的な採血によるRAST検査を953例に行った。検査は46%(迅速):54%(採血)と小児への施行例が多いためほぼ半数ずつになっている。RASTの陽性数の多いものを掲載してあるが、ダニ・スギが多くの症例でみられる(図1)。
2014年7月~2017年6月の月別ダニアレルギー患者陽性者数は真冬・真夏以外に多い(図2)。5歳~9歳に最も多くみられ、10歳未満では男児に多い傾向にある(図3)。陽性者は1歳からみられ、2歳になると増加し始め、3歳以上で多くみられる(図4)。陽性率を調べてみると、2歳になると約50%まで増加する。1~3歳頃に陽性率が増加すると言われていてこれに一致する2)(図5)。次にスギ花粉症抗体陽性者は5歳以上で多くみられる(図6)。スギ花粉症と抗体検査で診断された患者年齢は3歳からだが(図7)、無症状でスギ抗体陽性者は2歳からみられて3歳になると陽性率が上昇する2)(図8)。
診 断
アレルギー性鼻炎の診断基準は鼻汁・くしゃみ・鼻閉の鼻症状があり、皮内テスト・RAST・鼻汁好酸球検査・鼻誘発検査3項目の検査のうち、2項目で陽性であれば、正式にアレルギー性鼻炎となる3)。RAST検査は採血針による検血が必要だったが、2014年から20分で8項目の検査が指先からの少量の血液で検査可能になった。さらに2020年からは同手技で41項目の検査を行うことが可能になった。これにより年齢に関係なくリアルタイムに診断が行えるようになった。当院では2014年6月から8項目、2020年8月から41項目の検査を開始した(写真1)。
治療(表1)
鼻アレルギー診療ガイドライン2020を基本にお話しする。アレルギー性鼻炎の治療では患者とのコミュニケーションをベースに①抗原回避②薬による治療③減感作療法④手術療法が行われる4)。①抗原回避に関して、ダニアレルギーでは、ダニ除去用掃除機、布団掃除機での掃除をこまめに行ってもらう。花粉症対策としてはメガネ、マスク、帽子を使用する。屋内に入る前に服に付着した花粉を払う。晴れた日の洗濯に注意を要する。雨上がりの晴れ・晴れた日・気温の高い日・風の強い日には外出を控えるように努める。メディアからの花粉情報の確認が有効である4)。②薬物療法は基本治療として、くしゃみ・鼻汁が強い場合は抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド点鼻薬を使用する。鼻閉が強い場合は抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用血管収縮薬または第2世代抗ヒスタミン薬・血管収縮薬配合剤の使用が効果的である。鼻閉悪化時オプションとして点鼻用血管収縮薬を、花粉症の場合はさらに経口ステロイド薬を1週間程度オプションとして使用する4)。花粉症では症状が出る前(初期治療)から、またはスギ花粉飛散開始と報道された頃から治療を行うと効果的である。遅くとも花粉飛散がピークになる前から治療を行うことが推奨される。2020年からIgE抗体製剤が花粉症の適応になった。2週間~4週間に1回、花粉症発症前後から飛散中は皮下注射を行う。最近の第2世代抗ヒスタミン薬では脳内ヒスタミンH1受容体占拠率は低く非鎮静性が多い。運転注意事項の無い薬剤としてフェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチンの4剤がある。この4剤の中でフェキソフェナジン以外は1日1回内服薬である(図9)。また最近の抗ヒスタミン薬は最高血中濃度到達時間も1時間前後と即効性がある4)(図10)。脳内移行を抑制して鎮静作用が起こりにくくするため、側鎖にカルボキシル基、アミノ基を構造上(化学式内に)もつものが多くみられる。抗ヒスタミン薬の構造として大きくピペリジン・ピペラジン系、三環系の化学式を持った薬剤に分類され、効果が弱い場合には添付文書に沿って、適宜増量して内服してもらう場合や、構造の違いで薬剤を選択する場合がある4)5)(図11)。新潟市耳鼻科開業医6施設共同の花粉症問診票を使用し、当院でも花粉症患者が花粉シーズンの初診時に問診票を診察前に記載してもらい、この内容をみて診察および治療方針の参考にしている。問診票に薬剤の満足度の項目があり、多くの第2世代抗ヒスタミン薬は80%程度の満足度がみられ、特に2000年以降に発売された多くの薬剤で満足度は高いようである(図12)。減感作療法には皮下免疫療法と舌下免疫療法があり、3年以上、1ヵ月に1回受診して治療を行う。特に皮下免疫療法ではアナフィラキシーショックに注意が必要である3)。舌下免疫療法はダニ、スギの2種類に対するものがあり、スギは2014年10月から、ダニは2015年11月から治療が開始された。現在は5歳以上が治療対象である。当院でも舌下免疫療法を行っており、スギ舌下免疫療法、ダニ舌下免疫療法ともに12例に行った。副作用に関してはスギ舌下免疫療法では4例、ダニ舌下免疫療法で6例にみられ、舌の腫脹、咽頭違和感がほとんどであり2ヵ月程度で症状は消失している。副作用で中止になった症例はダニ舌下免疫療法の2症例で、1例は女児で内服により咳症状が続くために中止、もう1例は8歳男児で口唇・口腔底の腫脹が出現、恐怖心で中止となった。スギの舌下免疫療法で副作用のため中止になった症例はなかった。途中脱落症例はスギ、ダニとも1例ずつであり、2例ともに1年以上治療を行ってからの中止であった。手術療法はレーザーなどによる鼻腔粘膜の焼灼が一般的であるが、鼻腔後端からの分泌神経を切断し鼻症状を改善する方法もある4)。以前施行したアルゴンプラズマによる焼灼術を提示した。下甲介粘膜を中心に焼灼を行ったが、鼻粘膜焼灼部に痂皮が付き、鼻粘膜腫脹がしばらく続いた症例があったが症状の改善はみられた。現在、当院では行っていない。
花粉症
2020年の新潟市の花粉飛散状況と当院の患者受診状況を報告する(スギ・イネ・ブタクサ・ヨモギ花粉)。スギは2月中旬から4月下旬頃、イネは4月中旬頃から10月上旬頃、ブタクサは8月中旬から9月下旬、ヨモギは8月下旬~9月下旬に飛散がみられる(図13)。これらが1年間の主な花粉症の原因花粉である。
スギ/ヒノキ花粉症から報告する。スギは2日連続で1個/cm2飛散した初日が飛散開始日となる。新潟市では2月中旬から3月上旬に飛散開始が多い。2020年は2月15日飛散開始した(表2)。当院の2013年から8年間の各年のスギ/ヒノキ花粉飛散数は平均2435個/cm2/シーズンで、2014年、2020年が極端に少なく、2013年、2018年、2019年は多く飛散した(図14)。当院の問診票から、2020年では5歳未満の患者はなく、スギ抗体陽性者のグラフ(図7)と比較では小児に少ない傾向だった以外は類似していた(図15)。当院の患者受診の傾向として2~3日連続して200個/cm2/日飛散すると症状が極度に増悪して受診数が増加する。2020年は3月9日に200個/cm2/日以上飛散し、31例/日の患者が受診した。2020年はこの日を境に花粉飛散が減少し5月3日に飛散終了している(図16)。
イネ花粉は4月に入ってから飛散がみられ始めるが2020年は暖冬で3月下旬から飛散が始まった。ゴールデンウィーク頃には多く飛散して5月24日に春のピーク、8月10日に夏のピーク、9月22日に秋のピークがみられた。イネ花粉飛散は例年5月、8月、9月に飛散のピークがみられる。(図17)
次に有名な秋のブタクサ花粉だが、飛散数は毎年あまり多くはない。8月19日に初観測、9月2日、9月24日に最大飛散し、10月16日に終了している(図18)。
ヨモギ花粉は8月11日に初観測、10月1日に最大飛散、10月25日に終了している。ヨモギは例年9月中旬から下旬頃にピークがあるが、2020年は10月に入るまで温暖で1~2週間ピークが遅れた(図19)。
2020年の花粉症受診患者の動向をまとめると、1月中旬からスギ花粉症患者が受診、3月9日にスギ花粉症患者受診のピークがみられた。5月28日にイネ科花粉症の患者ピークがあり、その後減少して6月下旬には受診しなくなり、9月2日から秋のイネ・ブタクサ・ヨモギ花粉症の患者が増加、9月24日に最大の9例が受診し、10月27日の受診をもって終了した。例年、花粉症患者の受診ピークは3月、5月、9月である(図20)。
2020年の7月は天候不順であったが、6月と8月の天候はよく、また2020年の飛散数が少なかったことから、2021年3月に天候不順がなければ平年並みに飛散すると考えられる。
文献
1)松原 篤ほか:鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年,2008年との比較)速報-日本耳鼻咽喉科医その家族を対象として-.日耳鼻,123:485-490,2020.
2)増田佐和子:小児アレルギー性鼻炎の自然経過.JOHNS, Vol.32 No.6: 717-719, 2016.
3)日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 鼻アレルギー─診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギーガイドライン2020.改訂第9版,ライフ・サイエンス,東京,22-37, 2020.
4)日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 鼻アレルギー─診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギーガイドライン2020.改訂第9版,ライフ・サイエンス,東京,38-72, 2020.
5)久保伸夫:内服薬の種類とそれぞれの使い方について教えてください.JOHNS, Vol.25 No.3: 379-384, 2009.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
写真1
表1
図9
図10
図11
図12
図13
表2
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
(令和3年9月号)