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新潟市医師会報より

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肥満症・2型糖尿病の予防・改善に寄与する玄米機能成分をめぐる脳科学・分子栄養学の進歩

琉球大学 大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病 内科学講座(第二内科)教授 益崎 裕章

はじめに:健康長寿と玄米食との関連性

「天然の完全食」と呼ばれる玄米にはビタミン

類、脂質、食物繊維、微量元素をはじめ、実に多彩な機能成分が豊富かつバランス良く含まれており、食後の高血糖を抑制する低GI(glycemic index)食品としても注目されている1)。漢字は物事の本質を端的に表していることが多いが、玄米の部分、糠(ぬか)は米へんに健康の康と書き、糠を取り去った白米は米へんに白、粕(かす:何も残っていない)という文字が当てられている(図1)。第二次世界大戦前、そして、戦後しばらくの間、沖縄地域では白米を常食できるひとは極めて少数であり、多くのひとは玄米および線維成分が極めて豊富でカロリー含有量が少ない煮芋を主食としていた。

このような歴史的背景もあり、健康長寿を体現している80歳以上の沖縄県の高齢者には幼いころからずっと玄米を主食としてきた人たちが少なくない。毎週の病棟の総回診で拝診する入院患者さんの印象として、若い頃から玄米食で過ごしてきた方々は顔にハリ・ツヤがあり、年齢よりもはるかに若々しく見える。玄米の中には種々の抗酸化物質・抗老化物質も豊富に含まれており、詳細な作用メカニズムが分子レベルで解明されつつある。残念なことに、戦後の食の欧米化洗礼を強く受けた現在の沖縄県では、働き盛り世代・若年世代における玄米食習慣は殆ど消失している。

玄米がもたらす抗メタボ作用の脳内メカニズム

世界各地で行われた疫学研究から、2型糖尿病の発症予防に玄米食が有用であることが示されていたが、科学的な分析や分子メカニズムの解明は立ち遅れていた。今も健康長寿を体現している沖縄県の高齢者に玄米食愛好者が多いことに着想を得て、私達は沖縄県在住の壮年期男性でメタボリック症候群に該当する肥満者を対象に玄米食を用いたクロスオーバー介入試験を実施した。この研究は『玄米食の内臓肥満および糖脂質代謝に及ぼす影響(BRAVO研究)』 と命名され、琉球大学医学部第二内科と関連病院の豊見城中央病院で行われた2)。

一日3食の主食が白米である壮年期男性を被験者として抽出し、日頃の食事内容(副菜)を一切、変更せず、白米だけを等カロリーの玄米に8週間にわたって置き換えた。その結果、玄米期間終了後には顕著な体重減少、食後の高血糖・高インスリン血症の改善、血管機能の改善(血管内皮細胞依存性の血管拡張反応の改善)、脂肪肝の改善が観察され、加えて、被験者の動物性脂肪に対する欲求(嗜好性)が和らぐことが判明した(図2)2)。

そこで私達は動物性脂肪に対する嗜好性を高める脳内メカニズムとして視床下部の小胞体ストレスに注目した。動物性脂肪の過剰摂取は視床下部にマイクログリア炎症と小胞体ストレスを誘導し、動物性脂肪に対する依存的嗜好性を形成することが判明している3)。例えば、野生型C57B6マウスを2日間、絶食させた後、高炭水化物餌と高動物性脂肪餌を並べて給餌するとマウスは低血糖の遷延を回避すべく、ほぼ100%、高炭水化物の餌を選択する。ところが、高動物性脂肪餌を与えて肥満させたマウスに対して同様の実験を行うと、低血糖状態にもかかわらずマウスは高炭水化物餌ではなく再び高動物性脂肪餌を選択する。さらに、マウスに通常餌と高動物性脂肪餌を自由に選択させる実験において、小胞体ストレスを軽減する“分子シャペロン”の機能を持つ4フェニル酪酸(4-PBA)を先行投与しておくとマウスが高脂肪餌を選択する割合が有意に減少し、肥満や高血糖が改善することが明らかとなった4)。

C57/B6マウスはヒトと同様、動物性脂肪に対する嗜好性が極めて強く、通常餌と高動物性脂肪餌を同時に給餌して選択させるとほぼ100%高動物性脂肪食を好む。そこで、マウスに与える通常餌、動物性脂肪餌の炭水化物の一部を等カロリーの玄米粉末あるいは白米粉末で置換した餌を個別に作成してマウスに与えたところ、炭水化物の一部を玄米粉末で置換した餌を与えられたグループにおいてのみ、動物性脂肪餌に対する嗜好性が有意に軽減し(約20%)、結果的にマウスの肥満や糖脂質代謝異常が顕著に改善した(図3)4)。さらに、炭水化物の一部を玄米粉末で置換した餌を給餌されたグループのマウスにおいてのみ、視床下部の小胞ストレスのレベルが明らかに抑制されていることが判明した(図4)。

これら実験結果から、玄米の中には視床下部の小胞体ストレスを軽減する“分子シャペロン”として機能する成分が含まれている可能性が強く示唆された。米糠に含有される多彩な成分の構造を分析する過程において私達はγ-オリザノールに注目した。コメの学名はOryza Sativaであり、まさに“コメの油”という名称を冠するγ-オリザノールは1953年に我が国の研究者、土屋らにより玄米から世界で最初に分離抽出された。数種のトリテルペンアルコールのフェルラ酸エステル化合物で、米糠に特異的かつ高濃度に含有され、麦や粟、稗、黍など、他の穀類には一切、含まれない(図5)。私達のマウス実験から、経口投与されたγ-オリザノールの一部はエステル結合を保持した完全体のままで血液脳関門を通過して高濃度で脳に分布し、8時間程度、脳に滞留することが明らかとなった5)。さらに、HEK293細胞を用い、ツニカマイシンによって誘導される小胞体ストレス応答性領域の転写活性を検討した結果、γ-オリザノールは細胞に生じた過剰な小胞体ストレスを有意に抑制することが確認され、生細胞において分子シャペロンとして機能することが実証された4)。胎児マウス大脳皮質由来神経細胞初代培養系を用いた実験においても、γ-オリザノールがツニカマイシンによって誘導される種々のERストレス関連分子の遺伝子発現を顕著に抑制することが判明した4)。また、マウスにγ-オリザノールを投与しながら通常餌と高動物性脂肪餌を同時に与えて自由に選択させると、高動物性脂肪餌を選択する割合が有意に減少し、肥満の進行も明らかに抑制出来た(図6)。

γ-オリザノールによる脳内エピゲノム制御と動物性脂肪依存の緩和

脳の報酬シグナルはドパミンニューロンによって伝えられるが、肥満者ではコカイン中毒者と同様、線条体におけるドパミン2型受容体(D2R)の活動低下が認められる。機能的MRIを用いた臨床研究から肥満者では食事後の線条体の活性化(血流増加)が顕著に減弱しており、D2Rシグナルが低下していることが明らかになっている6)。つまり、食事による満足感・幸福感(=脳内報酬)を受容できないために過食の連鎖が断ち切れない状態に陥っている7)。

脳報酬系の一翼を担う線条体は特定の刺激や行為の価値を学習する役割を担っている。私達の研究の結果、動物性脂肪で誘導した肥満マウスの線条体ではD2R遺伝子プロモーター領域におけるDNAメチル化が亢進しており、転写抑制に伴ってD2R mRNA発現およびタンパク発現レベルの著明な低下が認められた8)。このような現象は脳の中において報酬系に特異的であり、視床下部ではまったく認められなかった8)。さらに、γ-オリザノールと高い構造類似性を示すカフェイン酸やクロロゲン酸がDNAメチル基転移酵素(DNMT)に対する阻害効果を有していることに着想を得て、γ-オリザノールにもD2R遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化を軽減してD2Rシグナルを回復させ、動物性脂肪依存を緩和する効果を想定した(図7)。実際、動物性脂肪で誘導した肥満マウスにγ-オリザノールを投与するとD2R遺伝子プロモーター領域におけるDNAの高メチル化やD2R発現レベルの低下が正常化し(図8)、これに伴って動物性脂肪に対する嗜好性が減弱し、肥満が軽減された(図9)。

動物性脂肪は脳において部位特異性を持って炎症・小胞体ストレスとゲノム修飾を惹起し、視床下部と報酬系の両者を標的として動物性脂肪に対する依存性を形成する。玄米機能成分、γ-オリザノールは視床下部と報酬系の両者に作用して動物性脂肪依存を改善するという極めてユニークな作用機構が世界で初めて明らかになった8)(図10)。

科学的根拠が明確で実効性の高い食事療法の新展開

日本人が古来より慣れ親しんできた玄米食の中に健康的食行動への回帰を促し、食後の過剰な血糖値の上昇を緩和してくれるユニークな物質が豊富に含まれているという発見は画期的であり、日常の食習慣を通して脳機能を改善する新しいアプローチとして注目される。玄米食は糖尿病治療薬(経口血糖降下薬、インスリン注射製剤、GLP-1受容体作動薬)や脂質異常症治療薬の効果を高め、脂肪肝の改善にも優れている。玄米食の優れた効能が科学的に検証出来た結果、琉球大学病院では全国の国立大学医学部附属病院に先駆けて入院患者さんに対する玄米食オーダーシステムを整備し、運用を始めた。全診療科の成人入院患者にアンケート調査を行った結果、全体のおよそ75%が玄米食を選択したいと回答しており、好評を博している(図11)。

人類が持つすべての遺伝子が明らかになったにもかかわらず、肥満症や2型糖尿病の発症・進展メカニズムは遺伝子の構造上の変異(ゲノム変異)では殆ど説明出来なかった。SNPを含む遺伝子自体の構造異常ではなく、不健康な生活習慣の積み重ねが遺伝子の読み取りパターンを変えてしまうエピゲノムの解明こそが生活習慣病の予防・改善の鍵を握っており、現在、ヒトの全エピゲノム解読計画が国際的に進められている。

動物性脂肪の過剰摂取がもたらす視床下部の炎症や小胞体ストレス、脳報酬系におけるゲノム修飾は、人生100年時代を生き抜く健康脳創りに向けた有力なターゲットと言える。γ-オリザノールをめぐる独創的医学研究を通して、ジャンクフード・ファストフード漬けに陥ってしまった現代人の食行動を根本から改善する画期的アプローチが樹立されることが期待される。

令和2年10月15日(木)
新潟市内科医会学術講演会にて特別講演

引用文献

1)Masuzaki H, Kozuka C, Okamoto S et al. Brown rice-specificγ-oryzanol as a promising prophylactic avenue to protect against diabetes mellitus and obesity in humans.
J Diabetes Invest 10: 18-25, 2019

2)Shimabukuro, M. Higa M, Shiroma-Kinjo R et al. Effects of brown rice diet on visceral obesity and endothelial function: The BRAVO study. British J Nutr 111: 310-320, 2014

3)C. Kozuka, K.Yabiku, C.Takayama et al. Natural food based novel approach toward prevention and treatment of obesity and type 2 diabetes: recent studies on brown rice andγ-oryzanol. Obes Res Clin Pract 7: e165-e172, 2013

4)Kozuka C, Yabiku K, Sunagawa S et al. Brown rice and its components,γ-oryzanol, attenuate the preference for high fat diet by decreasing hypothalamic endoplasmic reticulum stress in mice. Diabetes 61: 3084-3093, 2012

5)Kozuka C, Sunagawa S, ueda R et al. γ-Oryzanol protects pancreatic β-cells against endoplasmic reticulum stress in male mice. Endocrinology 156: 1242-1250, 2015

6)Wang GJ, Tomasi D, Backus W et al. Gastric distention activates satiety circuitry in the human brain. Neuroimage 39: 1824-1831, 2008

7)DiLeone RJ, Taylor JR, Picciotto MR. The drive to eat: comparisons and distinctions between mechanisms of food reward and drug addiction.
Nature Neurosci 15: 1330-1335, 2012

8)Kozuka C, Kaname T, Shimizu-Okabe C et al. Impact of brown rice-specific γ-Oryzanol on epigenetic modulation of dopamine D2 receptor in brain striatum of high fat diet-induced obese mice Diabetologia 60: 1502-1511, 2017

図1 白米と玄米に含まれるビタミン類、食物繊維、微量元素類の含有量の比較

図2 『玄米食の内臓肥満および糖脂質代謝に及ぼす影響(BRAVO研究)』で観察された主な代謝改善効果

図3 炭水化物の一部を玄米粉末で置換した餌を与えられたグループのマウスは動物性脂肪餌に対する嗜好性が緩和された

図4 炭水化物の一部を玄米粉末で置換した餌を与えられたグループのマウスでは視床下部の小胞ストレスが抑制された

図5 γ-オリザノールの構造

図6 マウスにγ-オリザノールを投与すると動物性脂肪の餌を選択する割合が減少した

図7 γ-オリザノールと高い構造類似性を示すカフェイン酸やクロロゲン酸はDNAメチル基転移酵素(DNMT)に対する阻害作用を有している

図8 動物性脂肪で誘導した肥満マウスにγ-オリザノールを投与すると線条体におけるD2R遺伝子プロモーター領域におけるDNAの高メチル化やD2R発現レベルの低下が正常化した

図9 動物性脂肪で誘導した肥満マウスにγ-オリザノールを投与すると動物性脂肪に対する嗜好性が減弱し、肥満の進行が抑制された

図10 γ-オリザノールは視床下部と報酬系の両者に作用して動物性脂肪依存を改善する

図11 国立大学病院で初めて運用している玄米食オーダーシステム

(令和3年11月号)

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