総合リハビリテーションセンター・みどり病院
認知症疾患医療センター 川井 紀子
1 はじめに
脈々と継続されてきた歴史ある新潟市医師会のこの在宅医療講座において、「認知症初期集中支援チーム」(以下、「支援チーム」という)についてお話しさせていただく機会を2021年3月にいただいた。その時の内容をここにまとめるものである。
医療技術の発展や、健康寿命延伸などのさまざまな取り組みによって、我が国は世界に誇る長寿国となった。しかし、人口減少のフェーズに入り、少子高齢化に直面する中にあって、認知症者は2025年に700万人になると予測されている。認知症に対する国民の意識を変え、誰もが住み慣れた場所で望む暮らしを続けることが出来るよう、国は地域包括ケアシステムの構築を推進しているところである。しかし、現実社会においては認知症に起因すると思われる生活上の困難さに混乱する当事者は少なくない。周りの家族や親戚、近所の人達がいろいろと困るようになって受診に至ることが多いが、本人自身も何か今までの自分との違いを感じてはいてもうまく表現できず、そのことを認めたくないがゆえに受診そのものがうまくいかないこともよくある。
このような、「事後的な対応」から「早期・事前的な対応」へとシフトできるよう、支援チームの活用が進められることとなった。2013(平成25)年に全国の14市町村においてモデル事業が実施され、本市においては2016(平成28)年1月より市内に2つある認知症疾患医療センターでスタートした。2018(平成30)年から全市で本格実施となり、現在では8つの行政区を1~2区ずつ分担し、全5チームが稼働している。
支援チームの定義や、支援チームが介入する対象者の条件および活動するうえでのポイント、また今後の課題についてこの後述べることとする。
2 支援チームについて
はじめに、支援チームの定義であるが、「複数の専門職が家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人(以下『訪問支援対象者』という)およびその家族を訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的に行い、自立生活のサポートを行うチームをいう。」1)とされている。当院における支援チームを構成するチーム員の職種は表1のとおりとなっているが、特筆すべき点としては、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を配置していることである。支援チーム内が多職種になっていることにより、アセスメントにおいても本人のストレングスに着目しやすく、チーム員会議の場面においても多面的な見立てが可能となるなどのメリットがある。また、支援チームが対象とする人の条件としては、表2のとおりである。
次に、この認知症初期集中支援の特徴について述べてみたい。まずは認知症初期集中支援の「初期」についてであるが、その意味は2つある。まず一つ目は「認知症の発症後のステージとしての初期病気の早期段階」1)と、二つ目は「認知症の人への関わりの初期(ファーストタッチ)」1)である。認知症になり始めの初期だけでなく、すでに認知症そのものは進行しているが、医療や介護との接触が初めてという場合も対象になる、ということである。これまでの支援チームの実際の活動を振り返ると、二つ目の他者介入が初めてという症例が圧倒的多数を占めていたように思う。本レポートでも先に述べた「事後的対応」の中の、いわゆる「困難症例」と表現されるタイプのものである。様々な経緯から誰にもケアされず、いつの間にか「困難症例」に陥っていくのである。これは、どの立場の人にとってもいいことは一つもない、と筆者としては断言したい。そのため、このような事態に陥る人が一人でも減るよう、認知症そのものが正しく理解されるように普及啓発していくことと同時に、「早期・事前的対応」の重要性も併せてより具体的に伝えていくことが必要であると考えている。
もう一つの大きな特徴としては、認知症初期集中支援の「集中」である。支援チームには関わることのできる目安の期間が定められており、それはおおむね最長6か月とされている。
この支援チームに与えられた6か月=180日間で何らかの成果を生み出さなくてはならない。関わってみると分かるが、180日は長いようで短い。支援対象者との信頼関係を構築しなければ、受診勧奨や適切なサービス導入は困難であるが、信頼関係を構築することに主眼を置きすぎると時間はあっという間に経過してしまう。したがって、支援導入初期における「アセスメント」と「目標設定」をいかに的確に行うか、が重要な要素となる。必要な情報をスピーディーに、かつもれなく聞き取り、その上でアセスメント(課題分析)を行うこと。さらに、導き出されたその課題をどのように解決していくのか、目標と時期を見定めてPDCA(Plan-Do-Check-Action)を早いサイクルでまわしていくこと。この2つが180日間集中的に支援を行う上でのポイントとなる。これは、関わり始めた時点から「終結、成果を意識する」ということを意味しているが、この「終結、成果を意識する」という概念が、特に福祉や介護の領域ではなかなか浸透しきれていない。この点について、ケアマネジメントにおける契約における終了は、本人の死亡や施設入所など物理的な意味合いの方が大きい。終了・終結という観点よりも、いかにこれまでの生活を維持していくかを重視する“習慣”や“クセ”のようなものが大きく影響しているのではないかと筆者は考えている。我々チーム員自身が「終結、成果を意識する」ことがきちんとできるようになれば、さらに質の高い支援チームの活動になっていくはずである。
その他、これまでの実践の中で得られた効果としては、表3のとおりである。
3 今後の課題
主な課題を3点に絞ってまとめたい。
まずは、なんといっても「相談件数の少なさ」があげられる。
表4および表5に示すとおり、新潟市全体の実績としては低調と言わざるを得ない。この類の事業にかかる意見として、「数字が大きければいいというものではない」という言葉もしばしば聞かれることがある。しかしながら、国全体の取り組みであり、本事業は本市においてもそれなりの予算化がされていることからも実績が求められることは必然である。相談件数が増え、それに伴って実際に支援にあたる件数も伸びて、支援の質も向上していくことが望ましい。本市においてモデル事業がスタートしてから丸6年が経過した。6年たってもなぜ未だに相談件数が伸び悩むのかを真剣に考え、事業主体である新潟市と全5チームが一体となって適切に対処していくことが必要な時期なのではないだろうか。
次に、本事業の「認知度」という観点から考えると、「初期集中支援という言葉は聞いたことがあるが、どのようなケースを相談したらいいのかがわからない」という声をよく耳にする。このことからも、本事業が正しく普及・理解されているとは言い難く、認知度も決して高いと評価することはできないのではないかと思う。相談窓口となっている地域包括支援センターおよび居宅介護支援事業所を中心に、事業の趣旨を丁寧かつ具体的に説明を繰り返して行うことが大切になる。話を聞いた直後は理解できたつもりになっても、実際に相談して支援チームとの関わりを体験しないことには本当の理解にはなりにくいのではないか。この支援チームが関わることで、どのようなメリットがあり、どんな成果が生まれるのかを実際の症例の中で体感してもらうことが重要で、何よりも、その関わりが支援を必要とする方の利益となり、望む暮らしの継続につながれば、支援チームが信頼され、認知度も向上につながっていくのではないかと思う。
3点目は、「認知症そのものの初期の段階における介入が少ない」ことである。
これについては、前項でもすでに述べているところであり、本市だけではなく全国的な傾向として捉えられている。認知症のステージがまだ早期の段階で相談にまで至らないのは、認知症が「年のせい」だと考えられて適切な予防的ケアにつながりにくいことも一因であると思う。本人も記憶障害などがあることを認めたがらないため、家族や周囲の人も受診をためらうことが多い。早期の段階で介護保険の要介護認定を申請しても非該当になりやすく、また何らかの認定が下りたとしてもサービス利用を拒否するというパターンも散見される。本人がいいというのだから仕方ない、もう少し様子を見よう、などと考えてしまいがちであるが、これは、まさに「認知症の空白期間」そのものである。「認知機能が低下し、生活機能が低下し、社会的に孤立し、身体的健康状態が悪化することは、一般高齢者のウェルビーイング(Well-being)の低下の危険因子でもある。したがって、経過が進行し、複雑性のプロセスがさらに進展し、本人や家族のQOLが低下する前に、認知症の初期の段階で、必要な支援につながることが出来るようにしておくことが重要である。」2)といわれるとおりである。
4 おわりに
我が国の認知症施策は、2013年から始まったオレンジプラン・新オレンジプランの流れを受けて2019年6月に策定された「認知症施策推進大綱」へと移った。新オレンジプランの中では支援チームを2018年度からすべての市町村で実施する、という目標であったが、大綱においては支援チームにおける訪問実人数を全国で年間40,000件、医療・介護サービスにつながった者の割合を65%にするというKPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator)が掲げられている。よりレベルの高い実践が求められていることを意識しつつ、真に頼りにされる支援チームを目指していきたいと考えている。
今回、このような機会を与えていただいた新潟市医師会の皆様に、この場を借りて心より感謝申し上げたい。
文献
1)粟田主一:認知症初期集中支援チーム実践テキストブック.初版,中央法規出版株式会社,東京,135,2015年.
2)粟田主一:認知症初期集中支援チーム実践テキストブック.初版,中央法規出版株式会社,東京,31,2015年.
(令和3年12月号)