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新潟市医師会報より

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メイドインジャパンが胃食道逆流症(GERD)治療を変える─GERD診療ガイドライン2021を紐解きながら─

杉本憲治クリニック 院長 山下 博司

1.はじめに

胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease: GERD)は、内視鏡的に食道胃接合部にびらんを認める逆流性食道炎(Reflux esophagitis: RE)と、びらんを認めない非びらん性逆流症(Non-erosive reflux disease: NERD)からなる。日本人の食生活の欧米化、ヘリコバクターピロリ菌感染率の低下、肥満の増加などを背景に、本邦のGERDの有病率は10%を超えており、common diseaseと言える疾患である。GERDの主な病態は胃酸が食道内に逆流することであり、治療として酸分泌抑制薬が第一選択薬となる。従来は酸分泌抑制薬としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)が主に使われていたが、2015年にP-CAB(ボノプラザン)が上市され、治療選択肢が広がった。さらに、2021年4月にはGERD診療ガイドラインが改定(第3版)された。筆者は幸いにも今回のガイドライン改定に携わることができたので、委員会での議論の過程も踏まえながら、新しい薬剤を加えたこれからのGERD診療を考えていきたい。

2.これまでのGERD治療

GERD診療ガイドライン2015(第2版)では、GERD治療の第一選択薬としてPPIが推奨されていた。PPIは強力な酸分泌抑制作用を持ち、RE治療において高い効果が期待できる薬剤であるが、ロサンゼルス分類グレードCやDの重症REにおいては、PPIによる粘膜治癒率が70%に止まっている1)。一方、REとNERDにおけるPPIによる症状の改善効果を見た古田らの検討では、REにおいてはラベプラゾールによる症状の完全消失率は、10mgで67.9%、20mgで84%、40mgで91.7%であった2)。すなわちREは胃酸を抑制すればするほど症状のコントロールが良くなることが示されている。このことからは、常用量のPPIでは胃酸抑制が不十分で、粘膜傷害や症状が残存する患者が一定数いることがうかがえる。一方、NERDにおいてはラベプラゾール10mgで42.5%、20mgで61.5%、40mgで68.9%の症状消失率にとどまり2)、酸抑制力をあげても十分な効果が得られず、酸抑制による治療の限界がうかがえる。そのため、PPIによるGERD治療の満足度調査を行ったアンケート結果では、「症状が取りきれなかった」や「薬を飲んでもすぐには症状が取りきれなかった」と訴える患者が多く、約60%の患者でPPI治療に不満を感じていることが報告されている3)。この調査からは、GERD患者は酸分泌抑制薬による治療に、酸抑制力のみならず効果発現の早さも求められていることがわかる。

PPI抵抗性GERDに対する次なる治療として、クエン酸モサプリドのような胃運動機能改善薬を併用することが多いが、システマティックレビューではモサプリドの上乗せ効果は示されていない4)。

ここまでをまとめると、これまでのGERD治療の改善点として、①酸抑制力②効果発現までの速さ③酸分泌抑制薬治療抵抗例への次なる選択肢、が挙げられる。

3.第3版改訂への留意点

2015年2月に新規の酸分泌抑制薬であるP-CAB(ボノプラザン)が上市された。従来のPPIと比較して酸抑制力が高く、かつ胃内pH4以上に到達するのが内服後3時間しか要さず、効果発現が早いことが特徴である5)。ボノプラザンという新たな選択肢が加わったことで、ガイドライン改定の機運が高まり2018年10月に改訂第3版委員会が招集された。

まず改定するにあたり、委員会として留意したことを2点挙げる。①ロサンゼルス分類別で食道内酸逆流時間を検討した検討では、軽症グレードA/Bと比較して重症グレードC/Dでは有意に酸逆流時間が長く6)、さらに出血などの合併症のリスクも有意に高いため7)、軽症REと重症REとで分けて治療方針を示すべきであるとの結論に至った。②ボノプラザンは日本で創薬された薬剤であり、日本人でのデータが豊富であること、GERDは食文化や人種間の酸分泌能も関わることから、治療評価においては日本人のデータを重視することとした。

4.これからのGERD治療

以下、GERD診療ガイドライン改訂第3版8)に沿って、軽症REと重症REの初期治療と長期管理についてそれぞれ解説する。

4−1軽症逆流性食道炎の初期治療

ステートメント「軽症逆流性食道炎治療においてPPIとP-CABはいずれも内視鏡的食道粘膜治癒をもたらし、軽症逆流性食道炎の第一選択薬として推奨する」(合意率100%、エビデンスレベルB)

ボノプラザン20mgとランソプラゾール30mgの内視鏡的粘膜治癒に関して、システマティックレビューを行うと、両群間で有意差を認めなかったため、両薬剤共に推奨されることとなった。

4−2軽症逆流性食道炎の長期管理

ステートメント「軽症逆流性食道炎の長期維持療法にPPIを推奨する」(合意率100%、エビデンスレベルC)、「逆流性食道炎の長期維持療法にP-CABを提案する」(合意率86%、エビデンスレベルC)

ボノプラザン10mgとPPIで直接維持療法を比較した検討はAshidaらの1本しかない9)。しかも、その対照薬となったPPIはランソプラゾール15mgであり、半量のPPIである。半量のPPIと比較してボノプラザン10mgは有意に内視鏡的再燃率が低いが、常用量PPIとの直接比較がないのが現状である。ネットワークメタアナリシスでボノプラザン10mgと常用量PPIを比較すると再燃率に有意差は認めないものの、ボノプラザン10mgのエビデンス不足が否めないため、PPIとは推奨度が異なる結果となった。

4−3重症逆流性食道炎の初期治療

ステートメント「重症逆流性食道炎の初期治療として、P-CAB20mg/日を4週間投与することを提案する」(合意率100%、エビデンスレベルC)

ボノプラザン20mgとランソプラゾール30mgで内視鏡的粘膜治癒をシステマティックレビューすると、4週間治療と8週間治療ともに有意にボノプラザン20mg群の方が高い粘膜治癒を認めた。さらにボノプラザン20mgにおいて、4週間投与と8週間投与で粘膜治癒率を比較すると有意差を認めておらず、そのため4週間投与を提案することとなった。

4−4重症逆流性食道炎の長期管理

ステートメント「重症逆流性食道炎の長期管理については、内視鏡的再燃率の低さからP-CAB10mg/日を提案する」(合意率93%、エビデンスレベルC)

重症逆流性食道炎は維持治療を行わなければ粘膜傷害の再発はほぼ確実であり、出血、狭窄の合併症のリスクが高い。重症逆流性食道炎の維持治療における内視鏡的再燃率は、ラベプラゾール10mgの104週間投与で27% 10)、約20%で出血や狭窄などの合併症がみられる11)。以上のことから、重症逆流性食道炎の長期管理においては、合併症予防の観点からも内視鏡的再燃率が低いことが望まれる。重症逆流性食道炎を対象にランソプラゾール15mg(半量)とボノプラザン10mgとで24週後の内視鏡的再燃率を比較したRCTにおいて、重症逆流性食道炎のサブ解析によると、ランソプラゾール15mgは39.0%に対しボノプラザン10mgは13.2%(p= 0.0114)であった9)。以上より、重症逆流性食道炎の長期管理には、内視鏡的再燃率がPPIより低いボノプラザン10mgを提案するが、標準量PPIとボノプラザン10mgとの直接比較による検討が必要であり、またボノプラザン10mgの長期投与による影響も不明であるため、慎重な経過観察が望まれる。

5.非びらん性逆流症の治療戦略

5−1病態

非びらん性逆流症の治療では酸分泌抑制薬の効果が限定的であることが知られている。その原因として、症状の発現に胃酸逆流以外が関与している可能性が示唆されている。インピーダンス-pH測定が開発されたことにより、胃酸(pH<4)に加えて弱酸逆流(pH>4)や空気逆流が検出できるようになり、あらゆる逆流と症状との関連が評価できるようになった。非びらん性胸やけ患者において、インピーダンス-pH測定で逆流を評価した検討によると、40%のグループは異常な酸逆流がみられ(真のNERD)、20%のグループは生理的範囲内の酸逆流が関与し(酸に知覚過敏)、15%のグループは弱酸逆流が関与し(弱酸に知覚過敏)、25%のグループは逆流が関与しなかった(機能性胸やけ)。これにより、わずかな酸逆流や弱酸逆流によって症状が生じる過敏症性食道という概念が提唱されるようになった12)。逆流が関与しない群には、好酸球性食道炎や食道アカラシアのような運動疾患の鑑別が必要になる。このようにびらんのない逆流症状患者の病態は複雑であり、病態に応じた治療戦略が望まれる。

5−2治療

非びらん性胸やけ患者における治療の第一選択薬は、GERD診療ガイドライン改訂第3版においてもPPIである。しかしながら、非びらん性胸やけ患者におけるPPIの効果は限定的である。その要因として、前述の食道知覚過敏が注目されている。知覚過敏があれば、わずかな酸逆流や弱酸逆流でも症状が出現するため、逆流自体を減らすことが症状の改善につながり、新たな治療となる可能性がある。胃食道逆流は食道胃接合部の一過性下部食道括約筋弛緩で起こり、それは胃適応性弛緩や胃排出能と関連する。日本で創薬された胃運動機能改善薬であるアコチアミドは、胃適応性弛緩や胃排出能を有意に改善させることが報告されている。我々はそこに注目して、アコチアミドにより逆流が減少し、PPI抵抗性NERDにおいて症状の改善が得られるかを、プラセボを対照にして二重盲検試験を行なった13)。対象はPPI抵抗性GERD患者70例で、アコチアミド群35例、プラセボ群35例に無作為に割り付け、2週間後に7段階のリッカートスケールによる全般改善度の評価を行なった。その結果NERD群において改善率が29.6%に対して、プラセボ群が7.1%であり(p=0.03)、有意にアコチアミド群で改善率が高かった。同試験でのインピーダンス-pH解析では、有意に逆流回数が減っており、知覚過敏を有する症例において、逆流減少が症状の改善に寄与した可能性が示唆された。アコチアミドの併用がPPI抵抗性GERDへの次なる手段として可能性が期待される(アコチアミドはGERD治療に保険適応がないため注意が必要)。

まとめ

2021年4月にGERD診療ガイドラインが改訂され、従来のPPIに加えて新規の酸分泌抑制薬であるボノプラザンを加えた治療指針が示された。ボノプラザンは従来のPPIより確実な酸抑制が得られるため、軽症逆流性食道炎と重症逆流性食道炎の治療に有用と考えられる。またアコチアミドは酸分泌抑制薬単独治療に抵抗性を示すときの次なる手として期待される。ボノプラザンもアコチアミドともに日本で創薬された薬剤であり、日本から発信されるデータがGERD治療を変えていくことを期待して止まない。

令和4年7月21日(木)
新潟市内科医会学術講演会にて特別講演

文献

1)春間賢ら: 胃食道逆流症(GERD)治療の実態調査. Ther Res, 33: 665-666, 2012

2)Furuta Tら: Investigation of pretreatment prediction of proton pump inhibitor (PPI)-resistant patients with gastroesophageal reflux disease and the dose escalation challenge of PPIs-TORNADO study: a multicenter prospective study by the Acid-Related Symptom Research Group in Japan. J Gastroenterol , 46: 1273-1283, 2011

3)木下芳一ら: これからの最適な逆流性食道炎の診療を探るー診療の常識・非常識. 医学と薬学, 62: 515-524, 2009

4)Liu Qら: Efficacy of mosapride plus proton pump inhibitors for treatment of gastroesophageal reflux disease: A systematic review. World J Gastroenterol, 19: 9111-9118, 2013

5)Sakurai Yら: Acid-inhibitory effects of vonoprazan 20 mg compared with esomeprazole 20 mg or rabeprazole 10 mg in healthy adult male subjects–a randomised open-label cross-over study. Aliment Pharmacol Ther, 42: 719-730, 2015

6)Adachi Kら: Predominant nocturnal acid reflux in patients with Los Angeles grade C and D reflux esophagitis. J Gastroenterol Hepatol, 16: 1191-1196, 2001

7)Sakaguchi Mら: Factors associated with complicated erosive esophagitis: A Japanese multicenter, prospective, cross-sectional study. World J Gastroenterol, 14: 318-327, 2017

8)日本消化器病学会: 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン改訂第3版. 南江堂, 東京, 2021

9)Ashida Kら: Maintenance for healed erosive esophagitis: Phase Ⅲ comparison of vonoprazan with lansoprazole. World J Gastroenterol, 14: 1550-1561, 2018

10)Fujimoto Kら: The Maintenance Study Group. Risk factors for relapse of erosive GERD during long-term maintenance treatment with proton pump inhibitors: a prospective multicenter study in Japan. J Gastroenterol, 45: 1193-1200, 2010

11)Manabe Nら: Is the course of gastroesophageal reflux disease progressive? Ther Res, 32: 590-593, 2011

12)Aziz Qら. Functional Esophageal Disorders. Gastroenterology, 150: 1368-1379, 2016

13)Yamashita Hら: Adding acotiamide to gastric acid inhibitors is effective for treating refractory symptoms in patients with non-erosive reflux disease. Dig Dis Sci, 64: 823-31,2019

(令和4年12月号)

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