新潟大学大学院医歯学総合研究科 小児科学分野 相澤 悠太
はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、感染もしくは濃厚接触のための欠席や学級閉鎖、行事の中止や縮小など、学校活動も大きな影響を受けている。しかし、学校活動を維持することは、子どもの健全な発育のために最も優先されるべき事項であり、日本小児科学会と日本小児科医会から、学校、養育者、行政、医療機関それぞれの対応について提言が出されている1)。本稿は、COVID-19と学校保健について、2022年12月13日に開催された新潟県学校保健研修会の内容を一部最新の資料に差し替えてまとめたものである。
現状の把握の重要性
今後の対応を考える上での大前提は、現状の把握である。皆様は、どのような情報源からCOVID-19に関する最新情報を得ているであろうか。文部科学省や教育委員会、厚生労働省や新潟県(県庁・医師会)などの公的機関からの情報発信の他にも、テレビ・新聞などのマスメディア、ツイッターやインスタグラムなどのSNS、友人や家族親戚などとの会話・口コミ、自身や自分の子どものかかりつけ医、など様々と思われる。COVID-19の特徴のひとつとして、事態がとても流動的で、すさまじいスピードで新しい変化が起こり、それに応じて対策も変更され、さらに新たな知見が集積されてきている。情報源としてお勧めしたいのが新潟大学医学部小児科学教室のSNS(ツイッター、インスタグラム)である。特に近年では誤情報が拡散され、何が正しい情報なのか戸惑う非医療者の方々も多く、フォロワーの皆様に、最新、重要かつ正確な情報をお届けしている。
子どものCOVID-19はオミクロン株出現で事態が大きく変わった
2022年1月から始まった第6波で、感染者数全体の増加に伴い子どもの感染者数も増加し2)、子どものCOVID-19の状況は大きく変わった。パンデミック当初と今では別物であり、子どもにとっては悪い方向にだけ進んでおり、特に第6波から顕著である。具体的には、2021年秋の第5波までは感染したとしても無症状もしくは咳、鼻汁、発熱も少し出る程度、であったのが、第6波(オミクロン株BA.1/BA.2)ではクループ、熱性痙攣、咽頭痛や嘔吐のため経口摂取困難で点滴が必要な子どもが他の感冒と異なり年長児で見られるようになった。2022年夏の第7波(オミクロン株BA.5)では、第6波の特徴に加えて、年少児で熱性痙攣が増加し、痙攣の群発や重積する例も増加した。普通は稀な年齢層である年長児でも熱性痙攣が増加し、脳炎・脳症や心筋炎で命を落とす子どもが日本各地から複数報告されるようになった。子どもの重症化の割合は稀ではあるが、感染者数自体が増えれば、稀ではあっても重症化する子どもの数も増えてしまう(図1)3)。新潟県内の子どもの入院者数は、第1-5波と比べて第6-7波は26倍であり、子どもの入院者数全体のうち約2/3が第7波の7-9月の3か月間に集中した4)。第7波の新潟市内の小児医療は逼迫し、病院を受診しようとしてもあっという間に予約がいっぱいになり受診困難で、週末の急患センターは2、3時間待ちは当たり前であった。子どものコロナ病床が足りないために、新潟市内居住の子どもを新潟市外の医療機関へ搬送したり、通常であれば入院を考慮する状態であっても必須でさえなければ自宅で何とかがんばっていただかざるを得なかったり、と災害モードで診療をせざるを得ない状況に追い込まれた。さらに、ついに感染してしまった、もしくは、発症した子どものつらそうな様子を目の当たりにしてパニックになった保護者からの多数の救急車や問い合わせが相次いだ。そこで我々は、新潟県医師会のウェブサイトに、第7波の子どもで多い症状と対処方法や医療機関への相談が必要な状態を掲載し、病院になかなか受診できない保護者の方への適切な医療情報提供を行った(図2)。さらに、重症化する子どもを減らすため、新型コロナウイルスワクチンに関する最新情報の提供も行った5)。
全国の第7波の子どもの重症者は、2022年8月29日発表の時点で131人であり、5歳未満が約60%、5-11歳が約30%で、小学生以下が約90%を占めた。そして、約2/3は基礎疾患のない子どもであった6)。全国の子どもの死亡者については、2022年1月から9月までの期間で62人の報告があった。2022年1月から継続的に発生し、第7波の期間中の7月11日~7月18日の週から増加を認め、8月15日~8月21日の週が最多であった。そのうち実地疫学調査が行われ内因性死亡と考えられた50人の検討では、5歳未満が約50%、5-11歳が40%で、こちらも小学生以下で約90%を占めた。約60%が基礎疾患のない子どもだった。新型コロナウイルスワクチン接種歴については、当時の接種対象年齢であった5歳以上の26人では、未接種が88%、2回接種が12%だった。2回接種歴のある3人は全員12歳以上で、発症日はワクチン最終接種日から3か月以上経過していた7)。
このように、パンデミック当初と今では子どもにとってのCOVID-19は別物であると言える。しかし、厚生労働省の発行する「新型コロナウイルス感染症の”いま”に関する11の知識」では、「重症化する割合や死亡する割合は以前と比べて低下しており」と記載されている8)。大人だけを見ればその通りかもしれないが、稀ではあっても子どもの重症者数、死亡者数の増加を考慮すると、大人の視点だけで社会の風潮が形成されていないか、よく考える必要があるのではないか。これまでの日本の変異株の流行は、欧米から少し遅れて発生していたため、事前情報を得て、ある程度の動向を予測することができた。しかし、第7波の原因となったオミクロン株BA.5については、日本の子どもたちで見られたような重症者や死亡者の急増は欧米からは報告されていない。もともと熱性痙攣は欧米よりも東アジアで多いことが知られており、今回の第7波の出来事については、東アジア特有の現象の可能性がある。
学校とCOVID-19
文部科学省からも、感染対策を行いながら教育活動を継続し、子どもの健やかな学びを保障することが「学校の新しい生活様式」の〈はじめに〉で記載されている9)。オミクロン株出現後、子どもにとってのCOVID-19が特に変わってきたことを述べてきたが、一方で、基本的な感染対策は感染力の強い変異株であっても変わらない。いわゆる「3密」や特にリスクの高い5つの場面(飲酒を伴う懇親会等、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わり)8)の回避、マスクの適切な着用、こまめな換気、手洗いが中心である。①感染源②感染経路③子ども、のそれぞれのステップで感染対策を考えると整理しやすい。
①感染源については、まずはどこからウイルスがやってきて子どもに感染するかをみてみる。以前は家庭内感染が最多だったが、第6波のオミクロン株の流行が始まり、2022年2月までのデータでは、子どもであっても感染経路不明が最多となった。幼稚園、小中学校いずれも約50%が感染経路不明であり、学校内感染は4%-15%にとどまった9)。つまり、どこからウイルスが来るかわからないので、どこから来ても罹患しないよう、広がらないよう、対策を行う必要がある。文部科学省も、社会全体の感染者数増加に伴い児童の感染者数も増えるため、どんなに対策を行っても感染リスクをゼロにはできないことを前提とした対策を練ることを提案している9)。学校に入ってくるという視点での感染源を絶つためには、体調不良時は休むこと、それは児童にとどまらず教職員についても休みやすい職場環境を整えることも重要である。
②感染経路については、飛沫感染、エアロゾル感染、接触感染の3パターンが挙げられる。接触感染は他の2つと比べれば頻度は低いため、過度な消毒は不要とされている9)。対策全部を完璧にこなせればそれに越したことはないが、継続して実行可能なことが重要なため、特に重要な飛沫感染とエアロゾル感染の2つに手厚く対策し、メリハリをつけて行うことをお勧めする。一般的にCOVID-19の感染リスクが高いと言われる場面は、飛沫感染、エアロゾル感染のリスクが高い、とほぼ同一である。飛沫感染対策としては、マスク装着や咳エチケットが推奨される9)。マスク装着は有効な感染対策手段であり、米国では、マスク着用ルールなしの学校は、マスク着用ルールありの学校よりもクラスター発生が3.5倍多かった10)。また、飛沫感染とエアロゾル感染の特徴と対策を図3にまとめた。それぞれの特徴からヒトとヒトの間の距離をあけることと換気が推奨され、両方に共通する対策としてマスク着用と咳エチケットが位置づけられる。換気の基本は常時換気であるが、冬など寒さで難しい場合にはこまめに(30分に1回以上、少なくとも休み時間ごと)行う、もしくは二段階換気(人のいない部屋の窓を空け、廊下を経由して少し暖まった新鮮な空気を入れると、室温が下がりすぎない)の工夫が挙げられる9)。手洗いももちろん大事であり、マスク着用とならんで、子どもの粘膜にたどり着く前のウイルスを排除する役割がある。手洗いはタイミングを意識することが大事で、具体的に6つのタイミングが挙げられる(外から教室に入るとき、咳やくしゃみ・鼻をかんだとき、昼食の前後、掃除の後、トイレの後、共有のものを触ったとき)9)。食事は子ども大人共通の感染リスクが高い場面であるが、子どもが中心の教室では十分な配慮が行われる一方で、休憩室を兼ねる教職員室の食事時間は気が緩みかねないため、教職員室でも注意が必要である。
③子どもについては、十分な睡眠、適度な運動、バランスの取れた食事が「学校の新しい生活様式」では挙げられているが9)、新型コロナウイルスワクチン接種も重要な要素として挙げたい。前述の子どもとCOVID-19の事態が大きく変わったことと同様に、子どものワクチン接種についても情報の更新が必要である。当初ワクチン接種が始まったときにはオミクロン株の流行が始まったばかりでデータが少なく、日本小児科学会の新型コロナワクチン接種に対する考え方は、健康な小児へのワクチン接種は「意義がある」という表現だった。その後、有効性と安全性の情報が蓄積し、特にオミクロン株を含めて子どもの重症化予防効果が40%-80%あり、メリット(発症予防や重症化予防など)がデメリット(副反応など)を更に大きく上回ると判断され、第7波の最中である2022年8月10日に、健康な小児へのワクチン接種は「推奨します」に更新された11)。一方で、世間では、ワクチン情報が接種開始頃のままで、ワクチン接種の有無で差別しないことが強調されすぎて知り合いの間の会話でも話題に出すこと自体がタブーの雰囲気となり、SNSでは様々な情報が飛び交い不安になる保護者が複数出てくるなど、子どものワクチンの最新情報との間にギャップが少なからず存在しているように思える。変異株は子どもたちにとって悪い方向に進んでいて、稀ではあっても重症化する子どもがいて、誰が重症化するかは現状では予測できない。そのため、重症化予防が期待できるのであれば、少しでも多くの子どもたちにワクチンを接種していただきたいと私は考えている。もともと、健康で重症化することが稀な子どもへの新型コロナウイルスワクチンは、安全性に最大限の配慮が行われて開発されたことも是非知っていただきたい。ところで、子どものワクチンについては、保護者が子どもと一緒に検討のうえで決める、疑問や不安がある時はかかりつけ医などに相談する、と厚生労働省からのお知らせ文書には記載されている。従来、子どものワクチン接種は乳児期を中心に就学前が大部分であったが、小中学校で接種するワクチンとして日本脳炎ワクチン、2種混合、インフルエンザワクチン、女子はヒトパピローマウイルスワクチンがあり、ここに今新型コロナウイルスワクチンが加わっている。小中学校の子どもにとってワクチンは以前よりも身近な存在になってきており、ワクチンとは何か、なぜ接種するのか、ワクチンの子どもへの説明を保護者まかせにするのではなく、学校でもワクチンについて学ぶ、話し合う機会を設けることを提案したい。
おわりに
子どもにおけるCOVID-19とワクチンの意義・取り巻く環境は、大きく変遷してきている。今も海外では新しい変異株が出現しており、早晩日本にも来る可能性が高い。これまでの3年間と同様に今後の展開は不透明のため、信頼できる情報源からのアップデートが随時必要である。また、社会全体の流行状況を参考に、学校内でもメリハリをつけて継続可能な感染対策を実行していくことが重要である。
令和4年12月13日(火)
新潟県学校保健研修会にて講演
文献
1)日本小児科学会.”2022年3月時点での新型コロナウイルス感染症流行下での学校活動について”<http://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=141>(閲覧 2023年1月8日)
2)Aizawa Y, Takanashi S, Ogimi C. Updates on Coronavirus Disease 2019 in Children in Japan. Pediatr Infect Dis J 41: e461-e467, 2022.
3)新潟大学医学部小児科学教室twitter @Niigata_u_ped.”子どもコロナ第7波入院者の急増”<https://twitter.com/Niigata_u_ped/status/1592077501576413184>(閲覧 2023年1月9日)
4)新潟大学医学部小児科学教室twitter @Niigata_u_ped.”子ども入院者数の第7波集中”<https://twitter.com/niigata_u_ped/status/1590310156923203587>(閲覧 2023年1月9日)
5)新潟県医師会.”子どもの新型コロナウイルス感染症への対応について”<http://www.niigata.med.or.jp/file/covid_child.pdf?_=20221114>(閲覧 2023年1月8日)
6)厚生労働省.”第36回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会”<https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27763.html>(閲覧 2023年1月8日)
7)国立感染症研究所.”新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報)”<https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2559-cfeir/11727-20.html.>(閲覧 2023年1月8日)
8)厚生労働省.”新型コロナウイルス感染症の”いま”に関する11の知識(2022年12月版)”<https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf>(閲覧 2023年1月9日)
9)文部科学省.”学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~”<https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00029.html>(閲覧 2023年1月8日)
10)Jehn M, McCullough JM, Dale AP, et al. Association Between K-12 School Mask Policies and School-Associated COVID-19 Outbreaks – Maricopa and Pima Counties, Arizona, July-August 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 70: 1372-1373, 2021.
11)日本小児科学会.”5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方”<https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=404>(閲覧 2023年1月9日)
図1 氷⼭が⼤きいと氷⼭の⼀⾓も⼤きくなる(⽂献3から引⽤)
図2 新潟県医師会のウェブサイトを通した情報発信(⽂献5から引⽤)
図3 ⾶沫感染とエアロゾル感染の特徴と対策(⽂献9から作成)
(令和5年2月号)