張替 徹1) 木村 慎二2) 横田 樹也3)
1)下越病院 リハビリテーション科
2)新潟大学医歯学総合病院 リハビリテーション科
3)新潟市医師会
はじめに
2014年6月に成立した「医療介護総合確保推進法」による医療法の改正に基づき、病床機能報告制度が施行され、高度急性期、急性期、回復期、慢性期への病床機能の分化が図られているが1)、それぞれの病床機能を有する医療機関の間の連携は必ずしも円滑ではない2)。
回復期病床機能の一端を担う回復期リハビリテーション病棟は、施設基準により重症度の高い患者を一定割合受け入れているが、集中的なリハビリテーションを行っても重度障害が残り、医療依存度が高い状態に留まる患者も多い。そのような患者を在宅で介護可能な家庭は少なく、介護施設でも受け入れが困難なため、多くが慢性期病床へ転院している。しかし、医療内容、社会的な要因、患者や家族の治療に関する意向などにより慢性期病床への転院に支障が生じているのが実状である。
患者の状態に応じた療養生活場所の円滑な移行のためには、慢性期病床への転院の妨げになっている要因を特定し、改善策を検討する必要がある。そのための基礎資料として、慢性期病床における患者の受け入れ状況等に関する調査を企画した。
対象および方法
対象は、新潟市内の慢性期病床を有する医療機関16病院。慢性期病床は、障害者施設等一般病棟(以下障害者病棟)、医療療養病床、介護療養病床、介護医療院とした。
2022年2月に調査用紙を郵送し、下記の項目に対して郵送で回答を得た。
1.医療処置を要する患者の受け入れ状況
①呼吸管理、②栄養管理、③輸液管理、*中心静脈カテーテル、PICC、CVポートがトラブルを起こした場合入れ替えをするか、④尿路管理、⑤その他
2.社会的問題のある患者の受け入れ状況、
*どこまで解決すれば受け入れ可能か
3.治療希望による受け入れ状況
4.紹介元の医療機関への要望
結果
16病院中14病院から回答を得た(回答率87.5%)。
病棟種内訳は、障害者病棟7、医療療養病床9、介護医療院3、介護療養病床1の計20病棟だった。
1.医療処置を要する患者の受け入れ状況
(1)呼吸管理
吸引頻回、酸素吸入、気管切開は多くの病棟で受け入れていたが、高度な機器や専門的な知識・技術を要する管理は受け入れの割合は低かった(図1)。
(2)栄養管理
腸瘻、食道瘻の受け入れ割合が低かった(図2)。
(3)輸液管理
末梢点滴はほとんどの病棟で受け入れていたが、中心静脈カテーテル、PICC、CVポートは6割程度の受け入れ割合だった(図3)。
中心静脈カテーテル、PICC、CVポートのある患者を受け入れた病棟の入れ替えの状況を図4に示した。入れ替えをする病棟はいずれも4割程度だった。
(4)排泄・その他の医療管理
膀胱瘻、腎瘻の患者の受け入れ割合がやや低かった(図5)。
2.社会的な問題を持つ患者の受け入れ状況
受け入れ可能の割合は、金銭管理ができない7(35.0%)、キーパーソンがいない7(35.0%)、医療同意の相談ができない6(30.0%)、医療費の支払いが滞っている4病棟(20.0%)だった(図6)。
社会的な問題についてどこまで解決すれば受け入れ可能かに関しては、後見人がつけば受け入れ可能が13、地域包括支援センターや行政が関われば受け入れ可能が1病棟だった。
3.治療希望による受け入れ状況
(1)急変時の救命処置や急性疾患罹患時に高度の医療を希望する患者の受け入れ
受け入れている2(10.0%)、場合によって受け入れている7(35.0%)、受け入れていない11病棟(55.0%)だった。場合によってとはどのような場合かについては、医師の判断3、医師と家族の話し合い1、自院がかかりつけの患者、他院では受け入れにくい患者、医療区分2、3の患者1、急性期の協力と対応可能性に対する本人・家族の理解がある患者が1病棟だった。
受け入れていない理由は、医療機器が不足9、医療スタッフが不足7、急変時などに受け入れてくれる医療機関がない5、治療が医療機関の持ち出しになる4、その他3(慢性期病床なので2、当該科がない1)だった(図7)。
4.紹介元の医療機関への要望
紹介元の医療機関への要望は図8に示した。
考察
1.受け入れ可能な患者の医療処置
高度な機器や専門的な知識・技術を要する医療処置が必要な患者の受け入れは少なかった。これは、病棟の医療専門職の配置基準や支払い方式(表)によるものと思われる。二宮らは、療養病床における医療の限界の理由として、担当医の専門性が一様でないこと、包括医療であること、専門医外来受診が容易ではないこと、検査機器や検査技術、読影の限界などを挙げている3)。
医療処置の中で注目すべきは、高カロリー輸液ルート(中心静脈カテーテル、PICC、CVポート)の入れ替えである。高カロリー輸液ルートのある患者を受け入れる病棟の内、入れ替えをしない23.1%、必要に応じてする23.1%、状態によってする7.7%で、紹介元での処置が必ずしも継続されないことになる。高カロリー輸液の継続・中止は生存に関わることであり、医療・ケアチームとして患者本人の意思(表明できない場合は家族等による推定意思)を第一に、QOL、周囲の状況などを勘案して、治療方針の医学的妥当性と適切性を検討する必要がある4)、5)。検討の結果、高カロリー輸液ルートの継続が必要と判断された場合には、それを保障する仕組み(慢性期病床で処置が不可能な場合に処置が可能な医療機関が処置を引き受けるなど)が必要である。
2.社会的な問題のある患者の受け入れ状況
医療費の支払いが滞っている、医療同意の相談ができない、キーパーソンがいない、金銭管理ができないなどの社会的問題を有する患者の受け入れ割合は低かった。
しかし、本調査は、そのような患者の転院を円滑にするには成年後見人制度の利用が有用であることを示している。
なお、医療同意に関しては成年後見人にその権限はないため、意思決定が困難でキーパーソンがいない患者に関しては、身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン6)を参考にした多職種での検討が役立つ。
3.治療希望による受け入れ状況・紹介元の医療機関への要望
慢性期病床への転院の際の最も大きな障壁は、急変時の救命処置や急性疾患罹患時に高度の医療を希望する場合である。そのような患者を受け入れている病棟は10.0%、場合によって受け入れているが35.0%にとどまる。
受け入れていない理由で多いのは、「医療機器が不足」、「医療スタッフが不足」、「治療費が医療機関の持ち出しになる」で、医療専門職の配置基準、支払い方式によるものと考えられ、病床機能分化の必然的な結果である。
「急変時などに受け入れてくれる医療機関がない」も受け入れていない理由として多く、紹介元の医療機関への要望でも急変時の対応に関する要望が多かった。医療依存度が高く、重度の障害を残している患者本人や家族が、できる限りの治療を希望するのは稀なことではない。療養病床の調査では、急性期病院へのアクセスが保証された条件では、重度障害で意思疎通も困難な高齢患者家族の約16%が心肺蘇生を、約37%が急性期病院への転院を希望していた7)。十分な検討と話し合いをした上で、急変時の救命処置や急性疾患罹患時に高度の医療を希望する患者に関しては、紹介元の医療機関が急変時に可能な限り受け入れることが望ましい。しかし、対応が困難な急性期医療機関や急性期医療機能を持たない医療機関からの紹介に関しては、対応可能な医療機関にあらかじめ急変時の対応を依頼しておく仕組みがあるとよい。
4.急性期・回復期病床と慢性期病床の連携の仕組みについて
最後に、急性期・回復期病床と慢性期病床の連携の仕組みについて下記の3つを提案したい。
①急性期・回復期病床と慢性期病床の連携会議の開催
連携のあり方、課題の抽出、課題の解決方法の検討などの場が必要である。
②慢性期病床共通診療情報提供書の書式作成
新潟市介護サービス共通診療情報提供書・連絡票8)を参考に、慢性期病床で求められる項目(医療処置、社会的な問題、治療希望など)を盛り込んだ書式があると良い。
③慢性期病床の医療機能等データベースの作成
医療機能、受け入れ方針、治療方針等の医療者向けのデータベースが転院先の検索に役立つ。
結語
①慢性期病床の医療処置による受け入れの可否は、医療保険・介護保険制度に起因するものが多い。医療処置の中で、高カロリー輸液の継続・中止に関しては課題がある。
②社会的な問題のある患者の慢性期病床への受け入れは現状では困難だが、成年後見人制度の活用により円滑化する可能性がある。
③治療希望による慢性期病床の受け入れ困難に関しては、紹介元の急性期・回復期病床と慢性期病床の間での連携システム構築が必要である。
紙幅の関係上、病棟種別のデータなどは掲載できなかった。下記を参照いただきたい。
https://drive.google.com/file/d/1GcXrMI4XifOM32A1njAgVsCkufCic6W9/view?usp=sharing
謝辞
新潟市医師会長浦野正美先生には調査に当たって多大なご協力をいただきました。この場を借りて、感謝申し上げます。
引用文献
1)新潟県:病床機能報告制度
<https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/chiikiiryo/1356891945988.html>(閲覧2023年3月31日)
2)新潟県:新潟県地域医療構想
<https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/31318.pdf>(閲覧2023年3月31日)
3)二宮里美,田中 眞,竹川節男:療養病床での終末期医療の現状と課題.診断と治療107:1211-1214,2019.
4)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン,2018.
5)Albert R. Jonsen, Mark Siegler, William J. Winslade(赤林 朗、大井 玄監訳):臨床倫理学,新興医学出版社,東京:pp1-11,2017.
6)医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究班:身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン.平成30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業,2019.
7)平川仁尚,益田雄一郎,葛谷雅文,他:療養型病床群1施設における心肺蘇生および急性期病院への転院に関する家族の希望.日老医誌44:497-502,2007.
8)新潟市医師会:新潟市介護サービス共通診療情報提供書・連絡票.
<https://www.niigatashi-ishikai.or.jp/medical/diagnosis.html>(閲覧2023年3月31日)
図1 呼吸管理を要する患者の受け入れ状況
図2 栄養管理を要する患者の受け入れ状況
図3 輸液管理を要する患者の受け入れ状況
図4 中心静脈カテーテル、PICC、CVポートのある患者を受け入れている病棟での入れ替えの状況
図5 排泄・その他の医療管理を要する患者の受け入れ状況
図6 社会的な問題のある患者の受け入れ状況
図7 急変時の救命処置や急性疾患罹患時に高度の医療を希望する患者を受け入れていない理由
図8 紹介元の医療機関への要望
(令和5年6月号)