一般社団法人 新潟市薬剤師会 会長 國井 洋子
はじめに
新型コロナウイルス感染症は、2019年12月初旬に中国湖北省武漢市で確認され、2020年の年明けとともに日本に上陸し、わずか数か月ほどの間に、パンデミックとなりました。2020年3月13日新型コロナウイルス感染症対策の特別措置法が公布、2020年4月7日7都道府県、その後4月16日に全国へ緊急事態宣言が出されました。私たちの生活様式も一変し、マスクはもちろんの事、ソーシャルディスタンスをはじめ、感染対策を行い、薬局内の内装も含め、様々なものが変わりました。当初は、マスクも消毒剤も品薄となり、薬局で販売するものもなくなり、自分達が使用するものを集めるにも大変だったことが思い出されます。2023年3月13日、屋内におけるマスクの着用が個人の判断に任されることとなり、2023年5月8日新型コロナウイルス感染症が、2類相当から5類に移行することが決定されました。この3年間で、経口コロナウイルス治療薬が3種類開発され、2種類が特例承認、1種類が緊急承認、当初はいずれも厚生労働省の管轄下、取り扱う薬局はそれぞれの登録センターに登録が必要でした。現在、治療薬に薬価が付き一般流通となり、どこの薬局でも取り扱いができるようになりました。この3年間のコロナ診療と薬局の関わりを紹介します。
コロナ禍での新潟市薬剤師会の動きについて
2020年3月に新潟市集団コロナワクチン接種協力要請に対し、薬剤師会としてまず会員薬剤師のワクチン接種の知識、薬剤溶解、分注等の調製業務、接種前事前確認等に対応できる技術の習得を目的とした、研修・準備をしました。また、国から供給されたマスクや消毒剤等の会員への配布、薬局の基本的感染対策に関する情報提供、市民へのワクチン接種の呼びかけ、自宅療養患者への医薬品供給のための協力薬局選定、休日対応できる薬局一覧の作成、抗原定性検査キットの販売、無料検査事業への協力薬局募集など、様々な対応を行いました。
新型コロナ患者の処方箋発行の流れについて
新型コロナ患者の処方箋発行の流れは、大別して2通りあります。オンライン担当医が処方する場合と、診断した医師が処方する場合です(図1)。
① オンライン担当医が処方する場合は、受診して確定診断後、医療機関は保健所に連絡し、新潟県医療調整本部・患者受け入れ調整センター(以下、PCC)が療養先を、自宅療養なのか、宿泊療養なのか振り分けを行います。看護職が健康観察を行い、必要に応じて、オンライン担当医に連絡し、診療が行われます。PCCが薬局選定補助を行い、薬局に処方箋をFAXします。薬局が患者宅へ薬剤を届け、電話にて服薬指導を行います。後日、オンライン担当医から処方箋が薬局に郵送される流れです。
薬局に対してPCCは、患者自宅近くの薬局を探し電話をかけます。処方された薬が薬局で揃えられるかどうかの確認を行い、その薬局で薬が揃えられなければ、次の薬局を探して、電話をかけ、薬局が決まれば患者情報と処方箋をFAXで送るという、とても大変な作業でした(図2)。
② 診断した医師が処方する場合は、受診後、診断した医師が処方し、医療機関が薬局に直接連絡し、処方箋応需の要請確認が行われます。薬局では、FAXにて処方箋、患者情報を受け付け、調剤後、患者宅へ薬を届け、電話にて服薬指導を行います。後日、処方箋が薬局に届けられる流れです(図3)。
当薬局での、新型コロナ患者の処方箋受付時の対応について
薬局によっていろいろな対応がありますが、当薬局では、PCCまたは医療機関から、在庫確認の電話が来ますと、薬を確認し「ハイ、処方箋お受けします」からスタートします(図4)。
患者情報、処方箋FAXが来ますと、2つのグループに分かれます。処方箋を入力して、調剤をするグループと、住宅地図を広げて住所を確認し、地図をコピーして、患者宅に印をつけ準備するグループです。全部、揃ったところで、薬剤師が患者に電話をかけ、併用薬、アレルギー等を確認し、非対面で受け渡す場所を確認します。ポストに入れる、ドアノブに掛ける場合が多いですが、玄関先のかご、自転車の上という場所もありました。手袋、消毒剤などの感染予防セットを持ち、いざ、患者宅へ出発です。医薬品を指定場所にセットし電話を掛けます。医薬品が本人の手元に届いたことを確認し、医薬品を見てもらいながら、服薬指導を行います。その後、処方箋原本を受領し、保険請求を行います。普段は、COV処方箋がFAXで届くと、すぐに患者宅へ届ける体制でしたが、ある土曜日の夜、診療した処方医師から「翌朝で良いから」と電話連絡があり、日曜日の朝、患者宅へ届け、服薬指導ということもありました。土・日もなく診療している医師の大変さを知ると同時に、医師からの患者病状による薬剤師に配慮した指示に感服いたしました。
薬剤師と患者のあれこれ
2020年当初を振り返ると、コロナ禍での薬の受け渡しは、患者にとっても、薬剤師にとっても、初めての経験であり、ドキドキの対応でした。「どうして、私がコロナなの?」「みんなに移るの?」「私はどうしたら…」と、質問や相談を受けることもありました。薬剤師にとっても、今まで対面が当たり前の薬の説明でしたので、薬の渡し方も対面ではなく、非接触ということで、慣れない中での服薬指導でした。
2022年になると、世の中がコロナという言葉に慣れてきて、薬を届ける電話をしたら、「今、お買い物中なので、30分後に来てください」とか、「今から、薬局へ薬を取りに行くから、来なくていいよ」とか、本人が薬局へ薬を取りに来て、待合室で待っていたり、濃厚接触者という言葉を理解していない老夫婦、電話での説明に、「聞き取りにくいから家に入ってきて説明して」とか、「一度かかっているから平気」という人もいて、慣れは怖いなと思い、薬剤師として服薬指導と共に感染予防の知識啓発が大切だとの記憶がよみがえってきます。
日本で、COVID-19に対して治療の適応がある薬剤について
2022年11月現在、日本でCOVID-19の適応がある薬剤は10種類あります(図5)。
10種類の中で、保険薬局で取り扱った経口コロナウイルス治療薬は3種類となります。発売順にモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル200mg、MSD)、ニルマトレルビルとリトナビルの組み合わせ製剤(商品名:パキロビッドパック、ファイザー)、そして、エンシトレルビルフマル酸(商品名:ゾコーバ錠125mg、塩野義製薬)です。
この3種類は、安定的な供給が難しいことから、一般流通は行われず、当面の間、厚生労働省が所有し、登録医療機関が処方し、登録薬局のみが取り扱える配給制となっていました。
2021年12月24日、ラゲブリオカプセル200mgが、2022年2月10日、パキロビットパックが、特例承認を受け、2022年11月22日、ゾコーバ錠125mgが緊急承認を受けました。
特例承認とは、海外で流通している医薬品を対象に、有効性と安全性の両方を早急に「確認」し、緊急時の拡大防止のため迅速な承認を行うものです。
また、緊急承認制度とは、特例承認より更に迅速に承認を行うことができる制度として「令和4年5月」に創設され、海外でまだ流通していない医薬品も対象とし、安全性の「確認」は前提とする一方で、有効性が「推定」できれば承認することができる制度です。
そこで今回、登場したゾコーバ錠125mgは、制度が適用された第1号かつ、国産初の新型コロナウイルス治療薬となります。
経口コロナウイルス治療薬について
2022年、2023年に、安定的な供給が見込まれたことから、この3種類は現在、一般流通が開始されていますが、特徴を説明します。
まず初めに、ラゲブリオカプセル200mgです。新型コロナウイルス感染症で初めての経口剤で、この2年間、最も動いた医薬品です(図6)。
現在は国購入品から、一般流通品となり、容器にも黒い線がつき、国購入品と区別されており、容器の中に40カプセルが入っていて、自分で4カプセルを取り出して、1日2回服用します。普段、服用している薬はPTPやヒートから取り出して服用することが多いため、容器から薬を出して服用することに抵抗のある患者もいるようでした。
そこで、以下のようなエピソードがありました。
「容器のふたが開かない」誤開封を防ぐため容器の開け方に特徴があり、「押しながらふたを回す」という開け方ですので、まず、容器の開け方の説明を行い、実際に開けて頂きます。「すごい色!」カプセルの色に驚く人もいました。「1回に4カプセルも飲むの?」また、1回に4カプセルと服用する数も多いので、必要量と服用回数をしっかりと説明し、自分で調整せず、5日間きちんと服用するよう説明を行います。
「毎回、きちんと飲めるか、飲ませられるか不安!」年齢、施設など生活環境により、毎回4カプセルを飲ませられるか不安の人には、無包装安定試験により、90日まで安定である結果が得られていますので、一包化することもありました。「大きなカプセル!」カプセルが大きくて飲めない、服用しづらいという人には、服用時に脱カプセルをして、水に溶かしてから服用する方法も説明しました。私たち薬剤師も、コロナ患者に対しての、初めての薬だったため、いかに5日間きちんと飲んでいただくか、試行錯誤の繰り返しでした。2022年8月18日、薬価収載され、ラゲブリオカプセル200mgの薬価が決まり、2022年9月16日から、一般流通され、登録センターが閉鎖し、どこの薬局でも取り扱いができるようになりました。
次にニルマトレルビルとリトナビルが一緒になったパキロビッドパックです(図7)。
パキロビットパックは、1シートが1日分となっており、5日分として、5シート渡します。半分色分けで朝及び夕の2回分が1シートとなり、ニルマトレルビルが下に2錠、上にリトナビル1錠の計3錠が1回分です。左右、朝、夕の色わけされたシートのため、患者にとって、1回量の理解がしやすく、服用の説明が比較的しやすい薬です。
中等度の腎機能障害患者への処方時は、下のニルマトレルビル2錠のうち、朝・夕の1錠ずつを薬局にて取り除き、シールを張って、説明をしていました(図8)。
この、パキロビットパックは、2022年2月に特例承認され、2022年11月に、医薬品製造販売承認を取得し、2023年3月、パキロビッドパック600とパキロビッドパック300が作られ、2023年3月15日、薬価収載、3月25日から、一般流通され、3月29日に登録センターは閉鎖され、どこの薬局でも取り扱いができるようになりました。
パッケージとしては、1シート朝、夕の色分けで、600は黄色と青、300は銀とピンクと色分けしてあり、中程度の腎機能障害の患者には、パキロビットパック300の2か所が、もともと入っていない状態となっておりますので、薬局にて錠剤を取り出す必要がなくなりました(図9)。
パッケージは、国購入品はパキロビッドパックと呼ばれ、英語表記になっており、一般流通品は、パキロビッドパック600とパキロビッドパック300と呼ばれ、日本語表記となり、しばらくは、3種類の異なるパッケージが存在することとなりました。
最後は、エンシトレルビルフマル酸のゾコーバ錠125mgです(図10)。
ゾコーバ錠125mgは、国購入品と、一般流通品は、箱の角の部分の色が違います。錠剤の形状は側面から見てふくらみがなく、平らになっています。妊娠している女性は禁忌となっているため、特に、女性患者に関しては「妊娠していない」または「妊娠している可能性がない」ことを確認しなければなりません。加えて患者用のパンフレットにも妊娠に関する注意書きがあり、服薬説明と共に渡しています。
本剤には、7錠入れのケースがあり、日時を記入し、ケースに入れて、1日1回、1日目は3錠服用し、2日目から1錠ずつ4日間服用するよう説明します。食事の影響はないので、今日の分はすぐに服用してもらいます。
禁忌併用薬・併用注意薬一覧表がありますが、種類が多く、確認に時間がかかりますので、併用に関する情報としては、「薬物相互作用検索」システム1)、相互作用検索ツールが公開されておりこの利用により正確で確実に確認する事ができます。
ゾコーバ錠125mgは、2022年11月22日に緊急承認され、2023年3月15日、薬価収載され、2023年3月31日から、一般流通され、登録センターが閉鎖し、どこの薬局でも取り扱いができるようになりました。
現在、日本で使用可能な3種類の経口コロナウイルス治療薬は、どこの薬局でも取り扱うことができますが、まだ国購入品も在庫している薬局もあります。また、使用期限が変更されることもあり、薬局では厚生労働省及び製造販売業者のホームページを確認し、常に最新の情報を収集しています。
1)エンシトレルビルフマル酸錠の併用に関する情報「薬物相互作用検索」
https://www.shionogi.co.jp/med/products/drug_sa/xocova/interaction/index.html
まとめ
患者さんが安全・確実・有効的な薬物療法を継続できるよう支援を行うことは、薬剤師の重要な職務であります。COVID-19流行下だけではなく、これからも、感染予防対策を行った上で、在宅訪問や、自宅療養者への対応等を通して、薬物療法が、途切れることなく行えるよう支援を行うと共に地域のかかりつけ薬局として、地域に根ざし、市民の健康を守るための一翼を担っていきたいと思います。2023年5月8日以降、新型コロナウイルス感染症は2類相当から5類となり、処方箋の流れ、患者対応も変わりますが、新潟市薬剤師会では情報収集に努め、会員へ情報提供・共有することで市民の健康維持・増進に貢献していく所存です。
令和5年4月20日(木)
新潟市内科医会学術講演会にて講演
(一部加筆)
図1 (新潟県薬剤師会より提供)
図2 オンライン担当医が処方する場合(自宅・宿泊療養者への対応)(新潟県薬剤師会作成資料を一部改編)
図3 診断した医師が処方する場合(自宅・宿泊療養者への対応)(新潟県薬剤師会作成資料を一部改編)
図4 (新潟県薬剤師会作成資料を一部改編)
図5 (COVID-19に対する薬物治療の考え方15版より抜粋)
図6 (MDSconect 提供資材「国購入品及び一般流通品の外観表」)
図7 (ファイザー株式会社提供資材「パキロビットパック及びパキロビットパック600/300の比較表」「国購入品及び一般流通品のGS-1コード及びその外観」)
図8 (ファイザー株式会社提供資材「パキロビットパック及びパキロビットパック600/300の比較表」「国購入品及び一般流通品のGS-1コード及びその外観」)
図9 一般流通されたパキロビット600/300(ファイザー株式会社提供資材「パキロビットパック及びパキロビットパック600/300の比較表」「国購入品及び一般流通品のGS-1コード及びその外観」)
図10 (塩野義製薬株式会社提供資材「ゾコーバ錠125mg包装表示に関するお知らせ」)
(令和5年7月号)