小池 由佳1)、伊藤真理子2)、丸田 秋男3)、
佐藤 勇4)、山口 智5)、城丸 恵子6)、
若生 千春7)、川村 雅子7)、佐久間喜和8)
1)新潟県立大学
2)新潟青陵大学
3)新潟医療福祉大学
4)よいこの小児科さとう
5)高崎福祉大学
6)元新潟市社会福祉協議会
7)新潟市社会福祉協議会
8)新潟市こども未来部こども政策課
はじめに
子どもへの不適切なかかわり(マルトリートメント)が社会問題と認識されるようになって久しい。新潟市も例外ではなく、新潟市児童相談所が開設された平成19(2007)年度には、295件であった相談件数が、令和3(2021)年度には、1,431件と過去最高の件数となっている。前年度である令和2(2020)年度と比較しても、169件の増加であり、子ども数の減少にもかかわらず、相談受理件数が維持あるいは減少の様子は見られない。
児童虐待への対応は、平成12(2000)年に制定された児童虐待等の防止に関する法律(以下、児童虐待防止法)及び児童福祉法等関連法令の整備および法改正により予防から介入的支援に至るまで、積極的に取り組まれてきた。平成30(2018)年には「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」が策定され、「暮らす場所や年齢にかかわらず、全ての子どもが、地域でのつながりを持ち、虐待予防のための早期対応から発生時の迅速な対応、虐待を受けた子どもの自立支援等に至るまで、切れ目ない支援を受けられる体制の構築」が目指され、子どもの年齢等にかかわらない、切れ目ない支援を受けられる体制構築が目指されることとなった1)。
切れ目ない支援が強調される背景には、多様化する子ども家庭相談を包括的に受け止め、ニーズを明らかにし、子ども家庭の状況に応じた適切な支援につなげる仕組みの欠如がある。本研究対象である「子育てなんでも相談センターきらきら」(以下、「きらきら」)はこの課題にいち早く気づき、官民協働での「制度外活動」(柏女 20202))として設置された相談機関である。平成22(2010)年に開設されて以降、月あたり延べ100件前後の相談を受理している。しかしながら、開設から今日に至るまで、相談者が「きらきら」にどのようなサポートを求めているのかといった観点からの分析が行われてこなかった。本研究では、「きらきら」が受理した相談内容を、ソーシャルサポートの枠組みを活用した分析を行うことで、新潟市の子育て相談体制の課題と包括的相談支援システムに対する提言を行うことを目的とする。
調査の概要
1.分析対象
「きらきら」が2018年度に電話での相談を受理した全1,630件のうち、以下の条件に該当する858件(52.6%)を分析対象とした。
①電話による相談
②父、母、祖父母、知人等からの相談
③コーディネーターが、初回相談と判断したもの
「業務内容」に記載されている項目のうち、「相談時間」「相談者」「子どもの年齢」および「相談内容」を取りあげて分析している。
2.方法
「きらきら」に対応を求める相談者が支援を受けたい内容を、ソーシャルサポートの観点を以下のとおりに整理し、相談内容のカテゴライズを行った。なお、ソーシャルサポートとは、「社会的関係の中でやりとりされる支援」(厚生労働省)を指しており3)、「良好な対人関係は人の健康に好ましい影響を及ぼす」(浦 19924))という理念に基づいて研究がなされてきた。具体的には、「情緒的サポート」(共感や愛情の提供)、「道具的サポート」(形のある物やサービスの提供)、「情報的サポート」(問題の解決に必要なアドバイスや情報の提供)、「評価的サポート」(肯定的な評価の提供)に分類することができる(厚生労働省)。
本研究の分類を行うにあたって、上記の4種のソーシャルサポートと、「きらきら」の機能について確認したところ、以下の2点について、検討する必要が出てきた。
1点目は、道具的サポートの理解である。「きらきら」では形あるものは提供していないが、相談に対し、実質的な援助そのものを提供しているサービスや相談先を紹介している。情報的サポートに、地域の資源やサービスについての情報を提供することが含まれているが、「きらきら」の強みのひとつとして、実質的な援助につなげる機関への着実なつなぎがある。そのため、情報的サポートのうち、着実に他機関につないだことがわかる相談を「道具的サポート」として分類することとした。
2点目は、評価的サポートである。本研究の実施にあたって、「きらきら」が受理している相談内容を精査したところ、「評価」という観点だけでなく、「きらきら」という相談機関(コーディネーター)に話したいという相談機関の存在そのものへのサポートの期待や、不安や悩みといったストレスを言語化する機会の提供が含まれていることが明らかになった。これらのサポートを「安心・砦サポート」と命名し、1つのカテゴリーとして分類することとした。
その結果、本研究におけるソーシャルサポートは、情緒的サポート、道具的サポート、情報的サポート、安心・砦サポートの4つのサポート内容に基づいて分類することとした。
3.倫理的配慮
「業務報告」の情報提供に関する確認事項を新潟市社会福祉協議会と書面で取り交わした上で行っている。この「業務内容」には、個人が特定される情報(相談者や子どもの名前、詳細な居住地等)は含まれておらず、分析者が個人を特定することはできない。また、研究結果の報告において、個人が特定される形では行わない。また、新潟県立大学倫理委員会の審査を経て、実施している(倫理審査番号2123)。
結果
1.相談者の属性
1)相談者(図1)
相談者は図1のとおりである。「母」が9割を超えている。「その他」には、親族および知人等が含まれている。
2)相談時間(図2)
相談時間は、図2のとおりである。「10分以内」が半数近い割合を占めている一方、「51分以上」と、長時間にわたって相談をしている事例も見られる。
3)子どもの年齢(図3)
相談したい子どもの年齢は図3のとおりである。
就学前児童が占める割合が最も高くなっているが、学童期から高校生までの相談が27.3%を占めており、全体の4分の1以上となっている。
2.必要とされるソーシャルサポート(図4)
「相談内容」を分類した結果、図4のとおりとなった。なお、複数項目に分類しているものもある。
結果、「情報的サポート」が最も高い割合を占めている。「道具的サポート」は、分析対象とした「相談内容」の段階で、相談者が自分のニーズに合わせた機関を紹介して欲しいという「情報的サポート」を求めているが、そこへのつなぎを求める「道具的サポート」までは認識していないことが多いため、この結果となっている。
本研究分類のため設定した「安心・砦サポート」は全体の4分の1程度を占める結果となった。
本研究の限界
以上、ソーシャルサポートを枠組みとして、「きらきら」が受理した相談内容の分類を行った。
ただ、本研究の限界として、以下の点に触れておきたい。
1点目は、分析対象とした「きらきら」の「業務報告」の「相談内容」がコーディネーターの視点での記載という点である。用いた資料は、分析を目的として記録されたものではないため、その記載内容に温度差があること、記載内容から、どのようなソーシャルサポートを求めているかを図るには限界がある。
2点目は、「きらきら」の相談受理体制が「匿名」である点である。これは、相談者が相談しやすい状況を作り出すという長所がある一方で、その内容の真実さを図ることに限界がある。
3点目は、分析の観点を、相談者が話した内容に基づいて分類した点である。相談者は最初から自らが求めているサポートを自覚している場合ばかりではない。コーディネーターとの双方向でのやりとりを通じて、真の求めているサポートに到達することもある。「業務記録」には、それがわかる記載もあるが、本研究の目的が「新潟市の子育て相談体制の課題の明確化」であること、そのため、どのようなサポートを必要とする相談者が「きらきら」を利用しているのかを明らかにするために、初回相談のみを抽出し、コーディネーターが行ったサポートについては触れていない。
考察
上記の限界を踏まえた上で、本研究を通じて明らかになった、新潟市の子育て相談体制の現状と課題を示したい。
1.サポートと社会資源をつなぐコーディネーターの不在
先にも述べたように、「きらきら」相談者が求めるソーシャルサポートは「情報的サポート」が最も多い結果となった。乳幼児期は子育て方法、学童期以降は、子どもとの関わり方、しつけ、子どもの行動理解等の相談内容となっている。「情報的サポート」に含まれる、「子どもの理解につながる情報提供、問題解決に有効な知識を提供すること、地域の資源やサービスについての情報を提供すること」が不足しているようにとらえることができる結果であった。
一方、ここで確認しておきたいことは、子育て情報の発信は十分行われている点である。新潟市においても、官民の多様な媒体による発信がなされている。課題なのは、その情報を自ら置かれている状況に応じて、適宜利用することができるかどうか、である。どのサービスを使うことができるのか、というサービス選択のところから、必要としているサポートを受けるには、このサービスでいいのか、といった判断に至るまで、必要とするサポートと社会資源をコーディネートする仕組みが欠けている点が課題である。「きらきら」の相談受理担当者が、「コーディネーター」と命名されている理由はここにある。本研究を通じて、コーディネーターの必要性が明らかになった。
2.「安心・砦サポート」の顕在化
今回の分析を通じて、「きらきら」相談者が抱えるソーシャルサポートには、「安心・砦サポート」があることが明らかになった。「情緒的サポート」とは違って、この「安心・砦サポート」には、「きらきら」のコーディネーターに話したいといった、「きらきら」の存在そのものに対する信頼感や安心感、こんな内容(軽微・深刻いずれも)を相談してもいいのだろうかという不安への抵抗感の軽減、何かを相談したい、というのではなく、困りごとの言語化を通じて、起きていることを整理していきたいという思い、困りごとについては、すでに関係機関等に相談しているが、次の相談までの間にできることをしたいとか待つ期間が不安、といった内容が含まれる。この「安心・砦ニーズ」に含まれる内容は、以前であれば、家庭や地域がサポートしていた内容といえるだろう。家庭や親族間、子育て経験者や同時期に子育てをしている者同士で支え合い、補いあうことができていたサポートといえる。だが、今日の子育て環境では、これらのサポートを受けることが難しい人たちがいることが明らかになった。家庭や地域が担っていたこれらのサポートを、誰がどのような形で行うのかを構築する必要がある。「安心・砦サポート」は、その名のとおり、ソーシャルサポートの根幹に関わる側面を持ち合わせている。「何かあった時に相談できる」存在は、子育ての安心感と同時に砦でもある。特に、「安心・砦サポート」には、相談者の行動や思いを肯定、承認するという内容が含まれる。子育て中の母や父をエンパワメントすることで、親が育つことにもつながる。そのようなサポートが必要とされていることが明らかになった。
3.公的相談機関に対するハードルの存在
本研究のソーシャルサポートとして、道具的サポートを「きらきら」の機能に合わせて設定し、分類を行った。その結果、全体の割合としては少数ではあるものの、相談者を関係機関につなげていることが明らかになった。
今回分析した相談の中には、「(公的機関に相談することで)おおごとにしたくない」「(家庭で宿題をしないといった)家庭の困り事を学校の先生に相談していいんだろうか」といった、公的機関に対する相談への戸惑いや躊躇、「専門職に相談したが、十分に対応してもらえなかった」「(専門職には)相談したくない」といった、相談で生じたつまずきなども少数ではあるが存在していた。公的機関に従事する専門職の資質向上も課題であるが、どのような相談機関であっても、相談に伴う課題が生じる可能性は否定できない。これを放置することは、相談につながらない人たちを生み出すことになり、結果として、孤立した子育てにつながる可能性がある。「きらきら」の特徴(電話、メール等での匿名相談、相談の主体が相談者にあること)道具的サポートを担うことで、子育て家庭の孤立を防ぐ一端を担っているといえるだろう。
結語
新潟市における子ども家庭相談の課題として、ニーズとサポートのコーディネート、安心・砦となるようなサポートが不足していること、相談に伴うジレンマの発生が明らかになった。この課題を解消するためには、妊娠・出産から青年期に至る包括的相談支援システムの構築が課題解決のひとつの方法といえる。そのイメージは、図5のとおりである。
謝辞
本研究の実施にあたって、新潟市社会福祉協議会にご協力いただきました。御礼申し上げます。本研究は、2019−2021年度新潟市医師会地域医療研究助成(支援番号GC02820193)により実施いたしました。併せて御礼申し上げます。
文献
1)新潟県「新潟県における児童虐待相談対応件数の状況」
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kodomokatei/1356847046001.html
2)柏女霊峰編著、藤井康弘、北川聡子、佐藤まゆみ、永野咲『子ども家庭福祉における地域包括的・継続的支援の可能性 社会福祉のニーズと実践からの示唆』福村出版 2020
3)厚生労働省「e-ヘルスネット」健康用語事典「ソーシャルサポート」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-067.html
4)浦光博著『支え合う人と人:ソーシャルサポートの社会心理学』サイエンス社 1992
図1 相談者
図2 相談時間
図3 子どもの年齢
図4 相談者が必要としているソーシャルサポート
図5 新潟市における包括的・継続的子育て支援体制
(令和6年1月号)