新潟臨港病院 内科部長(呼吸器)、在宅医療部 部長 坂井 邦彦
はじめに
在宅での呼吸管理では呼吸困難への対応や機器管理などが求められる。在宅医療は個別性が高いので、科学的なエビデンスを当てはめにくいことが多く、入院中にしっかり準備しても、退院後に想定外の問題が生じることがある。日常生活動作の工夫や増悪に早めに気づく工夫、在宅酸素療法(HOT)、非侵襲的人工呼吸器(NPPV)、在宅ハイフローセラピー(HFT)について、在宅での課題を踏まえつつ説明していく。
息切れを軽くする日常生活動作の工夫
在宅呼吸ケア白書によると、COPD患者が最も日常生活に望むことは「息切れを気にしないで生活したい」であり、療養生活についてもっと教えてほしいことは「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」である1)。
息切れが増強する動作には5つあり、以下に呼吸困難となる理由と具体例を添えて説明する(図1)。
1.運動負荷が強い(酸素需要の増大、例:階段昇降、重い物をもつ)
2.腕を上げる(呼吸補助筋の制限、例:洗濯物を高い所に干す、腕・肘を上げて服を着る・髪を洗う)
3.反復動作(動作が速くなり、呼吸リズムが乱れる、例:身体を洗う、窓やテーブルを拭く、掃除機をかける)
4.前かがみになる(横隔膜の動きが制限される、例:前かがみでズボンや靴下を履く、雑巾がけをする)
5.息こらえ(呼吸が止まり、リズムが乱れる、例:食事、洗顔、排便)2)。
そして、これらが複合すると呼吸困難がさらに強くなる。
日常生活動作の工夫には動作の工夫と道具や高さの工夫がある。前者は口すぼめ呼吸や動作前に大きく息を吸う、息を吐きながら動作を行う、動作前にゆっくりと休憩をとるなどがあり、ある程度の指導経験を必要とする。一方、後者の道具や高さの工夫は知識があれば、すぐに指導でき、在宅でこれらをアドバイスできると信頼関係の構築につながるので、大事なポイントとなる。実地での指導が効果的であり、歯磨きや洗顔、入浴、食事の場面で具体的に説明していく。
歯磨きや洗顔:椅子に座り、肘をついて腕を固定する。息こらえを避けるため、濡れたタオルを利用する。反復動作を避けるため、電動歯ブラシを提案する。上肢の過剰な動きを抑えるため、届きやすいところに物を置くように指導する。
入浴:着替えや洗体の際は、前かがみを避けるように適度な高さの椅子やシャワーチェアーを用意する。上肢の動きや反復動作を抑えるために長めのタオルや大きめのバスタオルを使用するようにする。洗髪で息こらえしないようにシャンプーハットの利用を提案する。
食事:椅子に座り、肘をついて食べる。椅子の高さは前かがみにならず、両足が床につく程度が良い。食事動作では食前に休息をとり、口すぼめ呼吸を行い、食事中の会話を減らし、ゆっくり食べるように指導する。場合によっては食前に気管支拡張薬を使用する。食事内容は本人の好みや状態に配慮しながら、より有効な提案を考慮する。1回にたくさん食べられなければ、1回量を減らし、補助栄養食などを利用して、食事回数を増やす。炭酸飲料やサツマイモ、豆類などのガス発生食品は控える。脂質の利用は少量高カロリーであり、呼吸商が小さくCO2発生を抑えるために推奨される。咀嚼に時間がかかり、呼吸苦が生じるようなら、咀嚼が簡単な軟らかいものを提案する(図2)。
増悪に早めに気づく工夫
増悪に早めに気づくには安定した状態を自分で把握しておくことが大切である。そのために療養日誌を書く習慣をつけるように指導する。当院では療養日誌にCOPDアセスメントテスト(CAT)を用い、咳や痰、息切れなど8項目を6段階でチェックし、そこに体重や歩数を加えたものを用いている(図3)。習慣化を図るため、記載内容を一緒に振り返るようにしている。そうすることでスタッフとのコミュニケーションツールにもなっている。次に増悪に気づいたら、どのように行動するかのアクションプランを用意しておく(図4)。頓用薬は事前に渡しておくが、自己判断で使用せずに訪問看護師に連絡するように指導する。連絡先は自宅のわかりやすい場所に貼ってもらう。連絡を受けた訪問看護師は主治医と連絡をとり、判断をあおぐ連携体制を構築しておくと良い。
しっかりと準備しても、課題となるのは訪問看護師へ連絡するタイミングである3)。不安感から頻回に連絡する方もいれば、タイミングが遅く救急搬送される方もいる。そのため、増悪が落ち着いてから、日誌をみながら振り返りを行うことが重要である。一度で身につけることは難しく、何度も話し合いを繰り返すこともある。そのようにして、その人に合った連絡するポイントを明確化し、スタッフと共有していく。
実際に身につけるのに難渋した症例を紹介する。少し体調が悪くても大丈夫だと思い、「買い物に出かけて」、「競馬場に行って」、「冬支度を頑張って」、増悪を起こし、入院を繰り返す症例があった。医師や訪問看護師と何度も振り返りを行い、自身の行動を見直し、数年後「ようやく分かってきたような気がする」と実感できるようになり、年4~6回の入院が年1回程度に減少した。
HOT
在宅でのHOTで課題となるのは独居高齢者とHOTへの受け入れの悪い症例である。独居高齢者がHOTを導入して退院する際、火器取扱の不安から暖房器具などを電気製品に変更したり、家屋環境を確認して動線を考え、段差があれば、HOTを使用しながらの昇降訓練を行なったりすることがある。退院後、電気使用量の増加に伴い、ブレイカーが落ちてしまう。コンセントの配置まで考慮していなかったことで、延長コードが必要になり、動線の邪魔となる。このような新たな課題に対し、実地での配線の工夫や動作訓練を追加する。また、外出に介助を要する状態であった方が、退院後にADLが改善し、一人で外出できるようになることがある。玄関に段差があれば、スロープや手すりを取り付ける住宅改修を提案し、外出時のHOTの付け替え方法が上手くできなければ、本人ができるように手順を簡便化し、指導していく。
HOTへの受け入れが悪く、在宅で酸素を外してしまう、特にトイレや入浴など酸素需要が高まる状況でHOT装着が習慣化されないことがある。この場合、口頭で酸素をつけるように指導するだけでは無効なことが多い。まずはHOTに対する本人の思いや考え、困り事を傾聴する。その内容を踏まえつつ、HOTの必要性を書面にして説明する。操作に煩わしさを感じているようなら、具体的で簡便な装着方法を書面にして、よく見える所に掲示する。前述した日常生活動作での工夫を同時に指導し、息切れが軽減することを実感してもらえるとより信頼関係が深まり、行動変容につながりやすい(図5)。
NPPV
COPDに対するNPPVはただ装着するだけでは効果はなく、しっかり圧設定して換気補助を行い、PaCO2を下げることで再入院や死亡率の低下が期待できる4)、5)。在宅で課題となるのは自己管理が難しい高齢者にしっかりと有効な設定で使用してもらうことである。NPPVは日中の活動性を考慮し、主に夜間に使用してもらうことが多い。日中の機器管理や開始時のボタン操作・マスク装着は同居の家族に協力をお願いできるが、一番の課題は夜間のマスク外れによるリークやアラーム対応である。当院では訪問リハビリで実地での装着訓練を行い、マスクの種類や固定方法を工夫し、本人や家族がより簡便に介助できるように指導している。
在宅ハイフローセラピー(HFT)
2022年4月に在宅HFTが保険適応となったので紹介する。在宅HFTは従来の主に急性呼吸不全に使用されてきたHFTとは異なり、中央配管からの高濃度酸素は使用せず、在宅使用の酸素濃縮器から酸素を取り入れる治療法である。したがって、在宅HFTは高濃度酸素ではなく、十分に加湿された高流量酸素を利用することが特徴である。その効果は高流量を吹き流すことでの解剖学的死腔の洗い出しやPEEP効果、十分な加湿による繊毛機能の維持などである。その結果、COPD増悪予防やCO2再呼吸の防止、呼吸仕事量の減少、排痰の促進、QOL向上が期待できる(図6)6)、7)、8)。位置付けはHOTとNPPVの中間となる。
その保険適応を要約すると、COPDによる呼吸不全を認め、呼吸困難、去痰困難などの自覚症状があり、PaCO2 45Torr以上の高炭酸ガス血症あるいは在宅NPPV受け入れ困難、夜間の低換気を認める症例である。具体的な臨床像を示すと、COPDでHOT導入して数年後、呼吸困難や去痰困難の増強、あるいは増悪を繰り返す症例で動脈血ガスを調べたら、1)PaCO2 48Torr、2)PaCO2 65TorrでNPPVを導入したが、不快感で継続困難、3)PaCO2 38Torrだったが、夜間パルスオキシメーターで5分間以上のSpO2低下がみられる、のいずれかに該当すれば、適応となる(図7)。
在宅HFTを導入する場合、NPPVと比べ、夜間に本人が対応しなければならないことがほとんどないので、高齢者でも同居者の協力が得られれば、導入は比較的容易である。今後、HOT以上NPPV未満の症例に利用が拡がっていくことが予想される。
令和5年2月16日(木)
新潟市内科医会学術講演会にて特別講演
引用文献
1)日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン.第6版2022,一般社団法人 日本呼吸器学会,東京,125,2022.
2)日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書ワーキンググループ編:在宅呼吸ケア白書2010.社団法人 日本呼吸器学会,千葉,61-71,2010.
3)梨木恵実子 他:訪問看護ステーションの役割.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌,25(2):144-149,2015.
4)Kohnlein T. et al: Non-invasive positive pressure ventilation for the treatment of severe stable chronic obstructive pulmonary disease: a prospective, multicentre, randomised, controlled clinical trial. Lancet Respir Med, 2(9): 698-705, 2014.
5)Murphy P. et al: Effect of Home Noninvasive Ventilation With Oxygen Therapy vs Oxygen Therapy Alone on Hospital Readmission or Death After an Acute COPD Exacerbation: A Randomized Clinical Trial. JAMA, 317: 2177-2186, 2017.
6)富井啓介 他:在宅ハイフローセラピーの現状.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌,28(2):291-297,2019.
7)Storgaard LH. et al:Long-term effects of oxygen-enriched high-flow nasal cannula treatment in COPD patients with chronic hypoxemic respiratory failure. Int J of COPD, 13: 1195-1205, 2018.
8)Nagata K. et al: Home High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy for Stable Hypercapnic COPD: A Randomized Clinical Trial. AJRCCM. 206(11): 1326-1335, 2022.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
(令和6年3月号)