新潟南病院 訪問診療担当内科部長
上原 彰史
はじめに
身体機能の著しい低下で日常生活に介助が必要であったり、認知症が悪化したりなどで、おひとりで通院することが困難な患者さんに対して、新潟南病院(医療法人 恒仁会)ではご自宅や施設にうかがっての訪問診療を行っています。近年、在宅医療専門クリニックが増加していますが、当院の訪問診療は病院、つまり外来医療と入院医療を共にになう医療機関が行っている訪問診療です。1980年代から往診医療は行っていましたが、診療報酬上の機能強化型在宅療養支援病院としては2006年から評価されています1)、2)。また当法人内には、訪問歯科、訪問リハビリ、訪問栄養、訪問看護ステーション、在宅介護支援センターを併設しています。当院訪問診療の「病院が行うがゆえの特徴」について、お話しします。
当院の患者背景
まず当院の患者背景をお話します。当院は総病床数177床で、うち一般病棟108床、地域包括ケア病棟35床、回復期リハビリ病棟34床からなっています。診療科は、内科、外科、整形外科、産婦人科、歯科など10の診療科があります。高齢入院患者が多い内科、整形外科、外科の令和3年度退院患者数を示します(図1)。平均年齢は76.9歳、患者数は2221人。患者数が最多の病名は誤嚥性肺炎で247人、かつ平均年齢が87.0歳と最高年齢でもあります。次がうっ血性心不全で176人、85.1歳、その次が食欲低下などの脱水症で104人、79.5歳と続きます。訪問診療新規患者の約6割が院内からの紹介で入院患者を退院後から関わるケースが多いこともあり、訪問診療患者は必然的にこのような年齢や疾病が多くを占めています。
当院訪問診療の実績ですが、令和3年度の訪問実績は、月平均90.3人の患者さんを訪問し、年間のべ件数は2111件で、うち往診・緊急往診は107件でした。新規患者は50人でうち院内からの紹介が34人、在宅看取りは16人でした。令和4年9月の訪問診療患者実数は82人で、男性22人、女性60人。平均年齢は88.6歳で、100歳以上は8人、最高齢は106歳でした。訪問先は自宅が61%、有料老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅といった施設が39%。要介護度は要介護1~5がそれぞれ20%前後で、平均要介護度は要介護2.8でした。
また、昨年に訪問診療をご利用されている患者さんやそのご家族にアンケート調査を行いました。訪問診療を知ったきっかけは、主治医・看護師・ケアマネージャーからの紹介が78.7%、院内のポスターやパンフレットをみてが14.8%でした。また、開始のきっかけは患者さんご本人の通院困難が63.8%、医療従事者などのすすめが27.7%、通院介助困難が17.0%でした。
病院が行うがゆえの特徴
病院が訪問診療を行うがゆえの特徴はいくつかありますが、主なものを以下に述べます。
1、シームレスな診療
入院患者・外来患者をその診療の延長として訪問診療を導入でき、入院が必要な際には当院内に病床を確保し、かつ訪問診療医が入院主治医として『継続した』診療ができることです。入院患者を退院後から訪問診療が関わる症例が多いです。その場合、病状や自宅の様子などの情報を担当医や看護師やリハビリセラピストから入院中に得ることができるので、スムーズな訪問診療開始が可能です。特に在宅看取り目的の訪問診療の場合は、開始前に時間をかけて家族のお気持ちを聞くことができます。
2、総合病院である
10の診療科がある総合病院であるため専門科への相談が容易に可能です。また訪問診療先では血液検査や心電図検査など限られたものしかできませんが、来院の必要はあるものの自病院でCTやMRIを行うことが予約なしで必要時いつでも検査が可能です。
3、多職種連携
当法人は、訪問歯科、訪問リハビリ、訪問栄養、訪問看護ステーション、在宅介護支援センターを併設しています。これらの在宅療養部門は、互いに連携しながら在宅での療養を支援しています。したがって共通して関与している患者さんの情報共有や相談を行うことが容易です。さらに、例えば嚥下機能が低下している患者さんがいれば、訪問歯科や訪問STリハビリに介入を依頼します。そこで、嚥下機能評価に基づいた適切な食事形態の決定や摂食方法の指導、嚥下機能の改善に向けたリハビリを行い、さらには訪問栄養によって、機能に合った形態食の作成方法の家族指導をすることができます。
在宅看取りについて
当院の訪問診療でも、在宅看取りの対応をしています。平成29年、30年度は10件にも満たない件数でしたが、令和元年以降は増加し、令和3年度は16件、令和4年度は10月までで10件となっています。新型コロナウイルス感染症の流行で当院が面会禁止となったことが増加の一因にあげられます。平成29年4月から令和4年10月までの5年7カ月間で、62人の方を看取りました。看取った場所は、56人(90%)が自宅。死因は老衰36人(58%)が一番多く、次が悪性腫瘍13人(21%)。腎不全が4人(6%)、心不全、脳血管疾患、肺炎/COPDがそれぞれ3人(5%)と続きます。
在宅看取りの際に重要と考えることは多岐にわたってありますが、訪問診療以外に、患者やご家族に関わる様々なスタッフ、職種と頻繁に連絡を取りながら、患者の状態把握に努める必要性があります。またご家族とよく話し丁寧に説明し、精神的・身体的疲労を察しながら慎重に進めることが大事と考えます。当院の訪問診療は訪問診療担当の看護師と共に訪問していますが、看護師は患者やご家族からの相談に応じ不安や疑問を減らし安心して療養生活を送れるよう、医師と連携をとりながら対応しています。一度在宅での看取りと決めたら必ず最期まで貫き通さなくてはいけないことはないこと、いつでも当院に入院しての看取りが可能であることをお話しします。一度自宅で看取ると決心したことでその想いは十分に患者に伝わっているからです。その話をすると、ほっとされるご家族の顔を何度もみています。このような対応を柔軟にできることも、病院だからこそ、と考えます。
症例
訪問診療に加え、当法人の訪問看護、訪問リハビリ(ST)、訪問歯科が介入している多職種連携の症例です。
57歳の女性で、高血圧緊急症後多臓器不全、多発脳梗塞で他院に入院されました。入院中に人工透析を要し、また心肺停止も来たし人工呼吸器管理を要するも共に離脱。胃瘻増設ののち自宅退院となり、退院後より訪問診療を開始しました。家族構成は、同居の夫と義母。要介護認定は要介護5。身体機能は著しく低下し、左半身麻痺で寝たきり。発語はあるも声量は小さく、意思疎通は困難な状態でしたが、言葉は伝わっているようでした。またアイスやジュースなどごく少量の経口摂取をしていました。訪問診療開始後まもなくして誤嚥性肺炎を発症。在宅で抗菌薬加療を開始も改善なく、当院に入院しました。入院後、誤嚥性肺炎の抗菌薬加療に加え、次のことを行いました。まず、栄養剤の変更です。入院前は液体のたんぱく質・糖質調整流動食が腎不全であることから使用されていました。栄養サポートチームや管理栄養士と相談し、血液検査結果を参考にしながら、経腸用半固形剤に変更しました。液体から半固形剤への形態変更により図2のような効果が得られます。なかでも、胃食道逆流の軽減による誤嚥性肺炎発症リスクの低下が最も重要と考えます。さらに栄養投与時間の短縮によりリハビリ時間が確保でき、褥瘡発生の軽減ができます。また、瘻孔からの栄養剤漏れが減少することによるスキントラブルの軽減、下痢の減少で便汚染によるスキントラブルの減少や褥瘡悪化防止にも効果的です。ただ、この症例ではワーファリンを内服しておりました。栄養剤は各々ビタミンKの含有量が異なるため、ワーファリン量の調整を要しました。次に行ったことは、当院歯科医やリハビリSTによる嚥下機能評価と摂食嚥下リハビリです。嚥下内視鏡による精査も併用して適切な食事形態を評価し、それに基づいた摂食方法の指導、口腔ケアの指導も行いました。これらを行い、2週間の入院で自宅に退院。退院後は訪問診療に加え、当法人の訪問看護、入院中に介入した訪問歯科と訪問リハビリ(ST)が継続して介入し、必要時には在宅での嚥下内視鏡で評価を行い、食事形態のアドバイスを行いました。お互いが連携を取り、問題点を話し合いながら対応しています。現在、訪問診療介入後4年ほど経過しておりますが、会話は全く問題なく意思疎通ができる状態にまで改善。栄養の主体は経管栄養ですが、少量ではあるものの多種多様な食べ物を摂取し、食事を楽しまれています。離床も進み2-3時間は車いす乗車が可能となりました。以降一度も入院することなく、在宅での生活を送っています。
多職種が入院中だけでなく退院後在宅でも関わりながら容易に連絡や相談し対応できるのも、病院が行っている訪問診療であるからこそできること、と考えます。
おわりに
新潟南病院訪問診療の、病院が行うがゆえの特徴についてお話ししました。先生方の患者さんで、当院の訪問診療を依頼したい、話を聞きたい、などの患者さんがいらっしゃいましたら、訪問診療までご連絡ください。当院のホームページで訪問診療パンフレット3)をご覧いただくことができますのでご活用ください。
令和4年11月9日(水)
新潟市医師会在宅医療講座にて講演
参考文献、URL
1)日本医師会.地域医療情報システム〈https://jmap.jp/facilities/search/type_zaitaku_hospital:1/searchArea:pref/searchId:15〉.(2023年8月1日閲覧)
2)横山明裕:病院勤務医としての訪問診療と地域医療.新潟県医師会報,780巻:24-25頁,2015.
3)新潟南病院.訪問診療・往診〈https://www.niigataminami-hp.com/effort/visiting/〉.(2023年8月1日閲覧)
図1 令和3年度内科・整形外科・外科退院患者
図2 半固形化栄養剤の液体栄養剤と比較した利点
(令和6年4月号)