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新潟市医師会報より

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内視鏡検診とピロリ陰性胃癌

新潟市民病院 医療技術部 内科 検査診断科
古川 浩一

はじめに

2023年12日4日に開催されました新潟市医師会胃内視鏡検診研修会の主題内容に沿って報告いたします。

除菌の普及と未感染者の増加

胃癌のほとんどはピロリ感染に伴う慢性胃炎を背景として発生し、ピロリ未感染の胃癌発症は希です。ピロリ感染は胃発癌に最も強く関与する因子としてあげられ、ピロリ除菌による胃癌予防効果は動物実験、コホート研究、無作為化比較試験、RCTのメタ解析にて認められ、除菌による胃癌リスク低下が推測されています。

本邦では2013年2月21日付けで厚生労働省保健局医療課から保険診療によるピロリ感染の診断・治療対象に「胃炎」が追加適応となり、事実上ほぼすべての除菌が認められることになりました。社会背景としても若年層で顕著な感染率の急速な低下とあいまって内視鏡検診においても従来は希とされているピロリ陰性胃癌に遭遇する相対的な頻度は高まるものと予想されます。あらためて内視鏡検診でのピロリ陰性胃癌について通常観察を中心に内視鏡的特徴の理解を深める必要があります。

ピロリ陰性胃癌の通常観察での特徴(内視鏡検診に関連する通常観察を中心に)

(ア)ピロリ除菌後胃癌

除菌後胃癌では除菌により形態変化(平坦、陥凹化)により、発見しにくくなる場合があります。変化として除菌後胃癌は高低差が少なくなり、色調も「おとなしい」印象となります。また、除菌後胃癌は境界が不明瞭化するため境界診断、質的診断が困難となる場合も報告されています。原因として以下のことが考えられます。①表層非腫瘍上皮の被覆が混在、②分化型癌の表層細胞分化などです。いずれも境界部分変化や表面所見が周辺と差異が少なくなり、胃癌の上皮性腫瘍の特性の境界が不明瞭化するという特徴があります。しかしながら、一般的に粘膜内癌であれば発見が遅れても緩徐に増大し、初回判別困難であっても粘膜内にとどまる場合もあります。もちろん、進行により内視鏡治療困難な状況での発見の可能性もあり定期的な内視鏡検査が重要です3)4)5)。

検診観察において除菌後胃癌は、高度粘膜萎縮例に好発し、分化型粘膜癌が多いため、発見が遅れても、ESDで治療可能なことが多いと報告されています。しかし、若年除菌例には軽度~中等度粘膜萎縮例のことがあり、除菌10年以降に未分化型癌の発見率が高まる可能性も報告されています。したがって、除菌後浸潤癌に対して少なくとも根治的な手術が可能な段階で発見することが求められ、除菌後長期例に対する効率的なサーベイランスの構築も今後の課題と考えられます6)。

症例1

60歳代、男性 2017 胃体中部小弯IIa m ESD、除菌 2020 胃前庭部大弯IIc m ESDフォローアップの内視鏡検査。

NBI観察での除菌後胃癌の色合いは「茶色」、背景粘膜は渋めの緑色「老竹色」が特徴です7)。

症例2

70歳代、男性 検診内視鏡にて病変指摘、生検にてGroup 5、tub1 ピロリ陰性(自然除菌、既感染)。

除菌後病変の色あいは周囲の色調に影響を受けるが、分化型管状腺癌の粘膜内癌の典型とされる発赤調ではなく黄色みをおびたオレンジ色を呈することもあります8)。

(イ)ピロリ未感染胃癌

ピロリ陰性胃癌のなかでもピロリ未感染胃癌は慢性持続性感染による萎縮変化のない背景粘膜より発生する比較的希な胃癌でした。しかしながら、急速に若年層よりピロリ未感染が増加し、相対的に胃がんの中でも未感染胃癌の比率は漸増しています。WHO分類や胃癌取り扱い規約においてもあらためて組織学的な分類の定義がなされ、注意を要する胃癌といえます9)10)11)。

ピロリ未感染胃癌は病型と好発部位に以下の様な傾向があります9)。

噴門部、食道接合部:分化型腺癌

胃体上部:胃底腺型腺癌/胃底腺粘膜型腺癌

胃体上部、中部:ラズベリー様腺窩上皮型/

白色扁平隆起型腺癌

胃体下部:印環細胞癌

前庭部:低異型度分化型腺癌

今回は、内視鏡検診領域ではまだ耳慣れない胃底腺型腺癌、ラズベリー様胃腫瘍”癌”について内視鏡画像を提示し理解を深めていただきたいと思います。

(ⅰ)胃底腺型腺癌(15版胃癌取り扱い規約 特殊型)

定義上は、細胞像が胃底腺(主細胞と壁細胞)に類似した細胞からなる腺癌で、病理学的にpepsinogen1やH+/K+-ATPase(プロトンポンプチャンネル)が陽性であることが必須とされます。頸部粘膜腺~主細胞に発現するMUC6もほとんどの症例で陽性。臨床病理学的には胃底腺領域に発生し、脈管侵襲やリンパ節転移、肝転移は希な低異型度・低悪性度の腫瘍腺窩上皮への分化(MUC5AC陽性)は現在悪性度が高いことが報告され、胃底腺粘膜型胃腺癌(GA-FGM;adenocarcinoma of fundic grand mucosa type)として区別し、通常の胃癌として扱うことが推奨されています。また、八尾らの原著では「胃底腺型胃癌」と報告していることから本邦では両者の用語が同義で用いられることがありますが、WHO分類第5版ではGA-FG;gastoric adenocarcinoma of fundic gland type GA-FGとGA-FGMをあわせて「胃底腺型胃腺癌」という用語で表記されています12)。

症例3

70歳代、男性 盲腸癌術前スクリーニングの上部消化管内視鏡検査で病変指摘。

胃底腺型腺癌の白色光観察での特徴:①白色調・褪色調 ②背景粘膜に萎縮を認めます。

胃底腺型腺癌の白色光観察での特徴:③上皮下・粘膜下腫瘍様の隆起。

胃底腺型腺癌のNBI観察での特徴:④拡張した樹脂状の血管を認めます。

注意点としては胃底腺型腺癌の表層は基本的に非腫瘍粘膜で覆われているためインジゴ散布での観察やNBIでの拡大観察でも上皮性腫瘍の特徴である境界が不明瞭で癌診断は難易度が高いといえます。

(ⅱ)ラズベリー様胃腫瘍”癌”13)

定義として腺窩上皮型腫瘍であり、MUC5AC主体の胃型形質をすることがあげられます。肉眼的な特徴は上方発育主体の腫瘍で未感染胃では主にラズベリー様小隆起を呈します(ピロリ既感染胃の場合は粗大な発赤調隆起が典型例とされます)。また、ラズベリー様の腺窩上皮型胃腫瘍は胃体部大弯と胃穹窿部に好発し、2~4個の多発例が多い(約20%)とされています。

胃型腫瘍の潜在的な悪性度から本邦では”癌”診断されることも多いのですが、WHO分類(2019)ではfoverolar-type adenoma、「腺腫」相当の分類とされる場合があります11)。

症例4

70歳代、男性 検診内視鏡検査生検にてtub1指摘され紹介。

内視鏡像が酷似する病変として、ピロリ未感染胃に発生する過形成性ポリープがあります。発生部位、大きさ、形態が腺窩上皮型胃腫瘍と類似しています。

鑑別点として過形成性ポリープはやや色調が薄く、ちなみにNBI拡大観察ではラズベリー様腺窩上皮型腫瘍は乳頭状または脳回様構造を呈し、不整。広い窩間部に拡張した血管が視認されます。一方、過形成性ポリープは腺窩辺縁上皮を反映する「white zone」が厚く、管状構造が含まれることが鑑別に有用とされますが、いずれも主観的な評価で通常観察のみでの診断は難易度が高いといえます。

本例は、ESDを行い、病理所見では乳頭状に増生する腫瘍腺管 基底膜に核は並びhigh-gradeでも間質浸潤を伴うことはありませんでした。

Take home massage

ピロリ陰性胃癌はピロリ除菌後胃癌とピロリ未感染胃癌に分けられ、それぞれの内視鏡所見の特徴があります。ピロリ未感染はさらに病型ごとに好発部位があり内視鏡観察の要点といえます。検診であっても使用可能な様々なモダリティー(NBIやBLIなど)を併用するのもピロリ陰性胃癌診断の向上には有効と考えられます。また、内視鏡による上皮性腫瘍として境界診断が困難な場合だけでなく、低異型度病変や粘液形質の評価もあり病理診断側への丁寧な情報提供も必要です。頻度が低く、鑑別困難な病変にも将来的はAI(病変の疑いのある部位を検出するCADe、病変候補の良性・悪性を鑑別するCADx)支援も期待できるかと思われます。

参考文献

1)Kazutoshi Fukase, et al., for the Japan Gast Study Group*: Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial. Lancet, 372: 392-97, 2008

2)Masaaki Kobayashi, Yuichi Sato, Shuji Terai: Endoscopic surveillance of gastric cancers after Helicobacter pylori eradication, World J Gastroenterol, October 7; 21(37): 10553-10562, 2015

3)小林正明,他.:除菌後発見胃癌の内視鏡診断,胃と腸.57: 40-51, 2022

4)Kobayasi M, et al.: Magnifying narrow-band image of surface maturation in early differentiated-type gastric cancer after Helicobacter pylori eradication., J Gastroenterol, 48: 1332-1342, 2013

5)八木一芳,他.:除菌発見後胃癌の形態学的特徴を検討する意義─従来の胃がんとどこが異なるか?,胃と腸,51: 739-741, 2016

6)満崎克彦,他.:胃内視鏡検診で発見された除菌後胃癌─除菌後サーベイランス期間の検討-J-STAGE,日本消化器がん検診学会雑誌.早期公開3月7日,2022

7)Yagi K, et al.: Green epithelium revealed by NBI a fearture for assessment of extent of gastric cancer after H.pylori eradication., Endosco Int Open 6:E1289-1295, 2018

8)平澤俊明,他.藤崎順子監修:通常内視鏡観察による早期胃がんの拾い上げと診断 p182第1版,日本メディカルセンター 東京 2018(本書には除菌後、未感染の早期胃癌内視鏡画像が豊富です。全国的に内視鏡検診用に教科書として推薦している医師会も数多くあります)

9)吉村大輔,他.:H.pylori未感染胃癌─現状と問題点,胃と腸,49: 658-70, 2018

10)日本胃癌学会(編),胃癌取り扱い規約,第15版,東京,金原出版.2017

11)WHO Classification of Tumorous Editorial Boad(eds). WHO Classification of Tumorous. Digestive System Tumorous, 5th ed. IARC press, Lyon. 2019

12)Ueyama H et al.: Gastric epitherial neoplasm of fundic-glend mucosa lincage: proposal for a new classification in association with gastric adenocarcinoma of fundic-gkland type. J Gastroenterol, 56: 814-828, 2021

13)Shibagaki K, et al.: Sporadic foveolar-type gastricadenoma with araspberry-lile appearance in H.pylori-negative patients Virchows Arc, 479: 67-697, 2021

図1 胃癌内視鏡治療後の除菌無作為化比較試験。我々も参加しましたJGSG多施設共同研究。除菌により2次癌の発生リスク低下が推測されました1)。

図2 県立がんセンター新潟病院小林正明先生らの検討では早期胃癌ESD症例の観察で除菌により2次癌発生が減少した様にみられますが(図2−A)、2次癌より見逃しに相当病変を除くと除菌の有無で2次癌発生に差を認めませんでした(図2−B)。除菌しても決して気を緩めてはならないことが示されています2)。

症例1

症例2

症例3
70歳代、男性 盲腸癌術前スクリーニングの上部消化管内視鏡検査で病変指摘。
胃底腺型腺癌の白色光観察での特徴:①白色調・褪色調 ②背景粘膜に萎縮を認めます。

胃底腺型腺癌の白色光観察での特徴:③上皮下・粘膜下腫瘍様の隆起。

胃底腺型腺癌のNBI観察での特徴:④拡張した樹脂状の血管を認めます。

症例4
70歳代、男性 検診内視鏡検査生検にてtub1指摘され紹介。

(令和6年7月号)

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