中井 良育1)、阿部 行宏2)、丸田 秋男1)、渡邉 敏文1)、
河野 聖夫1)、佐藤洋1)、青木茂1)、鈴木昭1)、
渡邊豊1)、渡辺恵1)
1)新潟医療福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科
2)山の下クリニック
1.目的
介護の重度化を予防し、QOLを豊かなものにするためには、早期に個々の心身の状態に応じた支援が必要となる。そのような支援を展開するためには、自立した日常生活に支障をきたしている個人的要因や環境的要因を的確に把握し、介護を必要とする状態に至った課題を包括的にアセスメントするといったケアマネジメントの質が問われてくる。また、支援を必要とする高齢者の生活行為における課題解決や、状態を改善に導き自立を促すためのケアマネジメントの質を向上する必要がある1)。
布花原・伊藤は、ケアマネジャーに対して、気付きの機会を提供する必要性について触れた上で、ケアマネジメントには身体・心理・社会的領域の視点を備えたアセスメント・スキルが求められることを指摘している1)。また、専門職による助言といった取り組みが、ケアプランの質の向上に一定の効果があることも報告されている2)3)。さらに、支援を必要とする者に対する具体的なサービスを検討するケア会議は、異なる観点から、さまざまな職種から意見を求める手段として有効であることが指摘されている4)。したがって、支援内容を検討する会議における多職種の専門的な視点や知見に基づく助言は、ケアマネジャーの気付きを促し、スキルを向上させるうえで重要な機会であり、ケアマネジメントの質の向上をサポートする機能を有していることが考えられる。
多職種が協働して高齢者の個別課題の解決を図り、ケアマネジャーの自立支援に資するケアマネジメントの実践力を高めるのが地域ケア会議の役割であるが4)5)、地域ケア会議において、議論を活性化するためには、助言者の思考を広げたり深めたりすることを促すことや、助言者間の相互作用を引き出すといったコーディネートが重要な役割を果たすことが考えられるため、コーディネートの機能(以下「コーディネート機能」という)による介入が与える影響についても効果検証が必要であろう。
新潟市では、令和2年度より多職種協働による介護予防ケアマネジメントへの助言を得て、介護予防ケアマネジメントの質が向上することで、高齢者のQOLが高まることを目的とした新潟市多職種合同介護予防ケアプラン検討会(以下「ケアプラン検討会」という)を実施している。そこでは、新潟市内の地域包括支援センターの担当者(以下「事例提供者」という)がかかわる事例のうち、専門的な助言が必要と判断された事例について、司会者によるコーディネートのもと、ケアプラン検討会を構成する6職種(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・管理栄養士・薬剤師・歯科衛生士)のそれぞれの専門的な視点から助言を得ることで、事例提供者が高齢者のQOLの向上に資するケアマネジメントをサポートする取り組みが展開されている。
本研究では、このケアプラン検討会に着目し、介護予防ケアマネジメントに対する6職種による専門的な視点や知見に基づく助言と司会者のコーディネート機能がケアマネジメントの質に与える影響を明らかにすることを目的とした。なお、本研究では、ケアプラン検討会に社会福祉士の立場でコーディネーターとして参加している新潟医療福祉大学社会福祉学部社会福祉学科の教員をソーシャルワーク専門職(以下「ソーシャルワーカー」という)として取り扱うこととした。
2.方法
まず本研究では、第1段階目の調査として、介護予防ケアマネジメントに対する6職種による専門的な視点や知見に基づく助言が有する機能を明らかにするため、2020年度に開催されたケアプラン検討会の助言者の質問内容の質的分析を行った。次に第2段階目の調査として、助言が有する機能とソーシャルワーカーによるコーディネート機能がケアマネジメントの質に与える影響を検証するため、2021年度・2022年度 に実施したケアプラン検討会に参加した助言者及び事例提供者、コーディネーターを対象とした量的分析を行った。
2.1 専門職の助言が有する機能
2020年9月1日~2021年2月28日の期間に開催されたケアプラン検討会における助言者の質問内容及び助言内容をまとめた結果表(以下、「事例」という)を研究対象とした。分析は質的帰納的分析方法を参考に、以下の手順で実施した。
(1)事例から助言者の質問に関する記述及び助言内容に関する記述を文脈ごとに抽出し、記述内容を読み取りながら要約しコードとした。
(2)コードから共通した意味のものをまとめ、サブカテゴリを生成した。
(3)さらに、類似性のあるサブカテゴリをまとめ、上位概念となるカテゴリを生成した。
(4)生成されたカテゴリ及びサブカテゴリの傾向を検証するために、サブカテゴリの出現頻度を抽出した。
なお、【 】はカテゴリを〔 〕はサブカテゴリを示すこととした。
2.2 ケアマネジメントの質に与える影響
2021年5月1日~2023年3月31日の期間に開催されたケアプラン検討会に参加した助言者(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師、歯科衛生士)及び事例提供者、コーディネーター(ソーシャルワーカー)を研究対象とした。コーディネート機能の評価については、地域包括支援センターを所管する新潟市各区役所健康福祉課の担当者(以下「行政担当者」という)による第三者評価とした。得られた量的データは、IBM SPSS Statistics Version 26を使用して分析し、検定の有意水準は5%未満とした。
3.倫理的配慮
本研究における調査は人を対象としていることから、調査を実施する際には個人名が特定されないよう配慮を行うとともに、個人情報の保護に関する法律を遵守した。また、調査にあたり事前に新潟医療福祉大学倫理審査委員会にて倫理審査の承認を得ている(承認番号:18622-210528)。なお、調査対象者には個人情報の利用目的及び調査に協力しないことで不利益等を被ることがないことを明示するとともに、書面で説明を行い、同意書の提出又は質問紙の提出をもって同意を得たものとした。
4.結果
4.1 専門職の助言が有する機能
(1)事例の属性
本研究の対象である事例の属性は表1のとおり。性別は女性が約7割を占めており、年齢層は80歳代が6割程度占めている。要介護度は要支援2が最も多いが、事業対象者も約2割を占めていた。
障害高齢者の日常生活自立度は、判定基準が「何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する」であるランクJ(J1及びJ2)が約半数を占めている一方で、「屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない」であるランクA(A1及びA2)は約4割を占めている。また、認知症高齢者の日常生活自立度は、自立及び判定基準が「何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している」とされるランクⅠが約8割を占めており、日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さがみられるといった判定を受けている高齢者はいなかった。
(2)助言者の視点
助言者の質問に関する記述から抽出したコードから共通した意味をまとめた結果、助言者が助言に至るまでの視点は、個人的要因と環境的要因の2つに分類され、8つのカテゴリと48のサブカテゴリで構成された(表2)。
助言の視点におけるカテゴリの出現頻度は、【体の健康に関する視点】(n=132)が最も多い結果であった。一方で【住環境に関する視点】(n=17)や【社会資源に関する視点】(n=18)は低い結果であった。
サブカテゴリの出現頻度は、〔運動機能〕(n=49)が最も多い結果であった。また、〔診療情報〕(n=20)、〔家事〕(n=19)もやや多い結果となっている。
(3)助言内容
助言者の助言内容に関する記述から抽出したコードから共通した意味をまとめた結果、自立した日常生活実現、個人的要因と環境的要因、生活機能が低下した状態の改善の3つに分類され、7つのカテゴリと26のサブカテゴリで構成された(表3)。
助言内容におけるカテゴリの出現頻度は、【日常生活動作の改善】(n=34)が最も多い結果であった。一方で【地域への活動参加】(n=5)や【本人の興味や関心】(n=10)、【本人や家族の意向】(n=11)は低い結果であった。
サブカテゴリの出現頻度は、〔生活習慣の改善〕(n=17)が最も多い結果であった。一方で、〔不安の払しょく〕(n=1)、〔生活環境からの提案〕(n=1)、〔スキルの活用〕(n=2)、〔生活機能改善の工夫〕(n=2)、〔関係者間の検討〕(n=2)などは少ない結果となっている。
4.2 ケアマネジメントに与える影響
(1)記述統計量
① 評価者
助言者(延べ858人)を対象に質問紙を配布し、763人(回収率88.9%)から回答を得た。そのうち、有効回答数は747人(有効回答率87.1%)であった。また、事例提供者(延べ286人)を対象に質問紙を配布し、219人(回収率76.6%)から回答を得た。そのうち、有効回答数は197人(有効回答率68.9%)であった。行政担当者(延べ143人)を対象に質問紙を配布し、98人(回収率68.5%)から回答を得た。そのうち、有効回答数は98人(有効回答率68.5%)であった。なお、評価者の記述統計量は表4のとおりである。
② 評価項目
各評価項目の記述統計量は表5のとおり。助言者の助言に対する自己評価では、「4 個人的または環境的要因の把握(平均値3.79)が最も高く、「2 地域の活動に参加できるための助言」(平均値2.92)がやや低い。助言者の助言に対する事例提供者の評価は、全体的に高い傾向であった。また、コーディネーターに対する行政担当者の評価は、極端に高い評価項目や低い評価項目は確認されなかった。しかしながら、B.10、C.3、C.4について天井効果が確認されたことから、これらの項目は分析から除外した。
(2)助言者の総合的な自己評価に与える要因
総合的な自己評価項目である「自身の専門性を発揮した助言」「本人のQOLの向上に向けた助言」を従属変数、各助言の自己評価を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った。分析の結果、「本人の意思の実現に向けた助言」「個人的または環境的要因の把握」「生活機能が低下した状態の要因への助言」「本人や家族、専門職との間で目標を共有するための助言」が「自身の専門性を発揮した助言」に対する正の標準偏回帰係数(β)が有意であった。「本人の意思の実現に向けた助言」「役割や生きがいを持って生活できるための助言」「個人的または環境的要因の把握」「生活機能が低下した状態の要因への助言」「本人や家族の意向を踏まえた助言」「本人や家族、専門職との間で目標を共有するための助言」が「本人のQOLの向上に向けた助言」に対する正の標準偏回帰係数(β)が有意であった(図1)。
(3)助言者評価と事例提供者評価の関係
助言者の助言に対する事例提供者の各評価を従属変数、助言者の助言に対する総合的な自己評価を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った。分析の結果、「本人のQOLの向上に向けた助言」が「今後の方針の参考になった」に対する正の標準偏回帰係数(β)が有意であった。
事例提供者の助言に対する総合的な評価項目である「今後の方針の参考になった」を従属変数、それ以外の評価項目を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った。分析の結果、「目標を支援するポイントの参考になった」「目標達成しない原因を特定する上で参考になった」が「今後の方針の参考になった」に対する正の標準偏回帰係数(β)が有意であった。(図1)。
(4)コーディネート評価と助言者の自己評価の関係
助言者の助言に対する自己評価を従属変数、行政担当者によるコーディネートに対する評価を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った。分析の結果、「利用者のQOL向上を目的としたケアプランの検討」が「本人のQOLの向上に向けた助言」に対する正の標準偏回帰係数(β)が有意であった(図1)。
(5)コーディネート機能がQOL向上を目的としたケアプランの検討に与える影響
行政担当者によるコーディネートに対する評価項目である「利用者のQOLの向上を目的としたケアプランの検討」を従属変数、それ以外の評価項目を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った。分析の結果、「ソーシャルワークの視点からのアプローチ」「ICF(注)の視点を取り入れたコーディネート」が「利用者のQOLの向上を目的としたケアプランの検討」に対する正の標準偏回帰係数(β)が有意であった(図1)。
なお、助言者の助言に対する自己評価の各項目及び、コーディネートに対する各評価項目間は、中程度からやや高い有意な正の相関関係が示された。
注 ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類)は2001年5月にWHOで採択された「健康の構成要素に関する分類」である。ICFの最も大きな特徴は、単に心身機能の障害による生活機能の障害を分類するという考え方でなく、活動や社会参加、特に環境因子というところに大きく光を当てていこうとする点である。
5.考察
5.1 専門職の助言が有する機能
助言者の視点は、次の2つの要因から構成されていた。第1に、個人的要因である。第2に、環境的要因である。また、助言内容は次の3つの要因から構成されていた。第1に、自立した日常生活実現である。第2に、個人的要因と環境的要因である。第3に、生活機能が低下した状態の改善である。助言者の視点と助言内容を照らし合わせて捉えた場合、個々の健康状態や身体的機能の改善に向けた視点といった医療的目線からのアプローチが、生活習慣の改善や医療機関での治療、安心・安全や療養に関する目標といったといった助言に結びついており、医療的なサポート機能を有していることが示唆された。一方で、本人の意欲や嗜好・楽しみや、人間関係や社会資源の活用、住環境の整備といった生活目線からのアプローチが、内面的な動機づけや生活機能の改善に向けた助言に結びついており、生活的なサポート機能を有していることが示唆された。
5.2 ケアマネジメントに与える影響
研究結果から、専門職の専門的な知識や知見からの助言は、援助を必要とする者のニーズや問題の現状把握だけでなく、目標達成の阻害要因といった過程(プロセス)に対してもポジティブな影響を与えていることが示唆された。特に、QOL向上に資するケアマネジメントを展開するためには、一つの視点だけではなく、本人の意思の実現、個人的または環境的要因、生活機能が低下した要因、本人や家族の意向の確認、本人・家族・専門職間の目標共有といった複数の視点から助言を行い、ケアマネジャーが支援に必要とする知識・判断は何かといった気づきを促すことが効果的であろう。また、ICFの視点から多職種連携のためのコーディネートを展開することで、QOLの向上に資するケアマネジメントにつながることを示唆されていることから、地域ケア会議の実効性を高めるためには、ソーシャルワークやICFの視点による多職種連携やチームケアによる課題解決に向けたコーディネートが重要となることが示された。
【謝辞】今回の調査研究の趣旨に賛同の上、質問紙調査にご協力いただいた調査対象者の皆様に厚く御礼申し上げる。また、本研究は、新潟市医師会地域研究助成事業(支援番号GC03520213)の助成を受けている。また、本研究における第1段階目の調査結果については、中井ら6)で報告を行ったものである。
参考文献
1)布花原明子・伊藤直子:ケアマネジメント場面において介護支援専門員が直面する困難の内容-ケアマネジメントスキル不足の検討-.西南女子学院大学紀要,11:9-21,2007.
2)大分県:大分県における地域包括ケアシステム構築に向けた市町村支援-地域ケア会議と自立支援型ケアマネジメントの推進-.第2回地方自治体特集セミナー,2016.
3)和光市.”和光市における超高齢社会に対応した地域包括ケアシステムの実践と地域ケア会議のあり方”〈https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000114064_7.pdf〉.(2020年9月2日)
4)上原久.ケア会議の技術2 事例理解の深め方.初版,中央法規出版,東京,18-30,2012.
5)長寿社会開発センター.”地域ケア会議運営マニュアル 平成24年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)”〈https://nenrin.or.jp/regional/pdf/manual/kaigimanual00.pdf〉.(2021年12月25日)
6)中井良育・阿部行宏・丸田秋男ほか:地域ケア会議における専門職による助言のサポート機能に関する考察,(丸田秋男監修)新潟医療福祉大学社会福祉学部ブックレット特別号:社会福祉学部20周年記念 研究・実践論集 社会福祉の可能性-教育・研究の発信-,新潟医療福祉大学社会福祉学部,新潟,92-110,2022.
表1 事例の属性
表2 助言者の視点
表3 助言の内容
表4 記述統計量:評価者
表5 記述統計量:評価者
図1 助言者の助言が事例提供者のケアマネジメントに与える要因