新潟市民病院 患者総合支援センター スワンプラザ 地域医療室
伊部 奈穂子
2024年9月13日在宅医療講座にて、医療福祉相談員としての視点で講演の機会を頂戴し、今回はその講演内容をまとめさせて頂きました。
はじめに
テーマにある『スワンプラザ』は新潟市民病院患者総合支援センターの愛称です。近くの鳥屋野潟に飛来する白鳥が、朝の出勤時間に病院を超えて飛んでいく様子を見ることができ、その環境が名前の由来となっています。
『スワンプラザ』は地域医療室(病診連携・入院支援・退院支援・医療福祉相談)、がん診療支援室(拡大キャンサーボード・がん教育支援・緩和ケア・がん相談支援センター)、患者相談室(患者相談)の3つに分かれており、医療福祉相談員・看護師・事務職・医師・薬剤師など多職種で患者支援にあたっています。私の所属する地域医療室では、診療所や近隣病院の先生方のご協力により、2023年度は紹介率90.6%、逆紹介率116.5%、平均在院日数11.3日とパンデミック以前を遥かに超える状況となり、この場を借りて改めて感謝申し上げます。一方、入退院支援が必要と評価された入退院支援対象患者の平均在院日数は2022年度に33.7日となり、院内全体の平均在院日数の約3倍となりました。この背景には後述する転院・施設入所にかかる環境整備に要する日数を含んでおり、入院前からの環境整備の重要性を感じています。
新潟市民病院の地域医療連携~救急患者の状況~
新潟市民病院の救急患者対応については、救急車受入台数は2020年のパンデミック時に大きく減少した後、2022年以降はCOVID-19、三次救急双方に可能な限り対応し、2023年には過去最高の受入台数となりました。重症患者数についても2022年以降はパンデミック以前より増加しました。
また、年齢区分別搬送人員構成比率の推移については、2016年に51.6%であった高齢者の比率が2022年には54.9%に上昇し、その高齢者をさらに細分化すると、2016年に13.2%だった85歳以上の比率は2020年・2021年にパンデミックの影響を受けつつ、2023年には16.6%に増加しました。
新潟市民病院の地域医療連携~入院患者の状況~
2023年度入院患者を予定入院と緊急入院の入院ルート別に見てみると、予定入院54%(8,358人)、緊急入院46%(7,156人)、平均在院日数はそれぞれ9.6日、16日でした。
また、退院ルート別にみると、予定入院のうちそれぞれの割合と平均在院日数は、自宅退院97%で8.8日、他院転院2%で34.2日、介護施設1%で19日でした。一方緊急入院では、自宅退院79%で13日、他院転院14%で30.7日、介護施設1%で19日、死亡など6%となっています。これらから、平均在院日数は退院ルートで差異が大きく、特に転院は治療期間も含めてではあるものの30日を超える日数となっています。当院のように救命救急センターを持つ病院では重症患者も多く直接の自宅退院が難しいケースも多いため、緊急入院の他院転院の平均在院日数を適正に短縮できれば、三次救急医療機関として今まで以上に役割を果たすことが可能になると考えています。
それらを叶える今後の地域医療体制については、介護施設等の福祉施設からの高齢者の救急搬送に対し、次の受入医療機関の確保というような医療体制の問題に留まらず、その先の福祉領域での迅速なサービス利用、さらに入院・入所手続きにまつわる権利の行使が速やかに行える司法領域の迅速な対応が必要不可欠であり、その環境の中での地域の医療機関や福祉施設の連携が育まれることが望ましいと日々感じています。
アンケートから考える地域医療連携
新潟市民病院で2年に1度登録医の先生方にアンケートにご回答頂いている登録医アンケートから新潟市民病院が地域に果たすべき役割は?という項目について、2020年度と2022年度を比較しました。順位は前後しますが、三次救命救急医療への常時対応、心臓血管疾患に対する専門的医療、COVID-19患者入院に対する常時対応、脳血管疾患に対する専門的医療、小児/周産期救急医療に期待が寄せられており、直近の2024年度のアンケートにおいても同様の5つの内容に期待する状況に変化はありませんでした。また2025年の年明けにご協力頂いたスワンプラザ満足度調査においては、緊急時・時間外の対応について重要度と満足度に一定の乖離が見られ、改善の期待が寄せられていると捉えています。
三次救急救命医療への常時対応については、救急搬送患者の退院支援に対して老々介護・8050問題・身寄りなし等の支援条件を整えるために時間を要すという課題がある一方、10年前に比べると支援の条件を地域で整えられていることが増えているという印象も持っています。以前にある地域包括支援センターからの電話で、地域に受診拒否の強い高齢者がおり、行政・司法・福祉関係者が介入済で、受診して病状把握につながれば支援できる体制があり、ついては今後救急搬送による受診しか想像できないため、新潟市民病院に搬送された場合はご協力頂けるかという相談が来ました。当院はそのような方の入院は日常茶飯事で来られた際にはぜひとも支援チームの一員に入れて頂きたい旨お伝えした記憶があります。困難な場面で力を求められたことや支援の輪が広がっていく様を直接感じることができたことなど、地域の力を体感した嬉しい出来事でした。
近年、支援の条件として要になることの多い成年後見制度についても触れておきます。病院に身寄りのない方やキーパーソン不在の方が入院された場合、治療方針等医療に関する意思決定の推定や金銭管理、物品の用立て、退院先の確保や死亡時の対応などに、成年後見制度利用の調整が必要となり1)、医療機関において平均在院日数を遥かに超える時間をかけ対処せざるを得ません。2023年の成年後見制度申立の動機を見てみると、預貯金等の管理・解約、身上保護、介護保険契約の順に多く、それらは前述の入院中や退院後の生活において必要不可欠なものであり、申立の動機に直結していることが分かります。
その成年後見制度の利用状況は、成年後見・保佐・補助の類型いずれにおいても近年全国的に増加傾向にあり、さらに成年後見制度を申請する親族がいない場合は市町村長申立となり、その件数も全国的に増加傾向にあります2)。このように成年後見制度利用が必要な意思表示が困難でキーパーソン不在の方は年々増加し、且つ申請者もいない人も増加しており、そのような人がある日救急搬送されてくると、私たち医療福祉相談員の出番となります。
心臓血管疾患に対する専門的医療については、2030年にピークを迎える心疾患患者の増加に対応するため、当院でもTAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)実施のためハイブリッド手術室工事から様々な準備を経て、2024年12月3日に実施施設としての認定を受け、2025年1月9日から治療を開始しました。このハイブリッド手術室の稼働により地域医療の期待に応えるためにも、手術目的の患者増加に対して今まで以上に速やかな転院・自宅退院支援に取り組む必要を感じています。
COVID-19患者入院に対する常時対応については、5類移行後は通常の疾患の一つとして支援を行っています。転院先病院でCOVID-19の複数発生が起こると、入院制限が生じて転院調整に時間を要した場面もあり、緩急ありつつ長期にわたる面会制限は患者・家族の転院先選定にも相当の影響を及ぼしました。
脳血管疾患に対する専門的医療については、一次脳卒中センター(PSC)コア施設の認定を受けたことに伴い、地域医療室に脳卒中相談窓口を開設し、発症直後の患者だけでなく、発症後時間の経過した患者も含めて様々な相談に対応できる体制を構築しました。脳血管疾患患者の退院支援においては、重症度や症状の異なる患者の転院支援や自宅退院支援となるため、個別性を意識した支援を心掛けています。
小児/周産期救急医療については、妊産婦に対し外来からの介入を心掛け、必要に応じた情報共有に努めています。また、NICUから退院する医ケア児も多いことから、特定妊婦・未受診出産・医ケア児の退院支援を進める中で、保健師や地域の訪問看護ステーションとの連携は不可欠と考えています。さらに当院は児童虐待対策委員会が設置されており、一時保護児の診察等を含めた市児相・県児相との連携に努めています。昨今の一般的な子育て支援の充実を感じつつ、日々医療と育児への重厚な支援体制を構築する努力を続けています。
そして、2021年度には介護支援専門員と病院に関するアンケート調査を行い、頂戴したご意見から、5つの課題を抽出しました。翌2022年から現在までの間に、院内職員向け地域医療連携講座を介護支援専門員、訪問看護ステーション、地域包括支援センターの方をお招きして開催、従前の介護支援等連携指導書及び退院時共同指導書を記載しやすく必要な情報に整理する形で改定、入院支援において入院前からの介入を目指した医療福祉相談員の参画、退院支援における医療情報の共有の強化を目指した入退院支援看護師の参画を整備することができました。
このように課題整備に取り組む中で、地域の支援者の方からは、連携とは情報と課題の共有であり、情報共有に時間をかけすぎず、課題の共有に時間をかけることの重要性をご教授頂きました。そしてそれぞれ倫理綱領を一にする専門職同士の共有から所属を一にする専門職同士への共有へ繋げる形もまた味わいの異なる連携の形を生み出すことを学び、改めて地域連携の気づきは地域にあると体感しました。
最後に、日頃の地域連携において、また今回の講演及び執筆に際しご指導ご鞭撻頂いた皆様に感謝申し上げ、結びとさせて頂きます。
参考文献
1)厚生労働省ホームページ 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000516181.pdf.(2025年1月31日)
2)最高裁判所ホームページ 成年後見関係事件の概況─令和5年1月~12月 最高裁判所事務総局家庭局
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2024/20240315koukengaikyou-r5.pdf.(2025年1月31日)