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新潟市医師会報より

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子宮頸がん予防 ─HPVワクチンの現状─

新潟大学医学部 産科婦人科学教室
工藤 梨沙、吉原 弘祐

はじめに

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは2013年6月に積極的勧奨が差し控えとなり、接種を受ける女子がほぼいない状況が継続していました。その後8年9ヶ月の歳月を経て、2022年4月から積極的勧奨が再開されると同時に、積極的勧奨が中止されていた期間に接種を逃した1997(平成9)年度生まれ以降の女子への救済として、キャッチアップ接種(推奨よりも高い年齢でワクチンを接種する)も同時に開始されました。
ただし、キャッチアップ接種は2024年度までの一時的な救済事業であり、昨年度が最終年度であります。改めて知識を整理するために、本講演会では、子宮頸がんの基礎知識、子宮頸がんの予防法、HPVワクチンの有効性と安全性、積極的勧奨が中止された影響について解説を行いました。

子宮頸がんとは

子宮頸部から発生するがんは子宮頸がん、子宮体部から発生するがんは子宮体がんとなります。発生する部位が異なるだけではなく、原因や特徴も異なる全く別のがんであります。子宮頸がんの原因の95%以上はHPV感染であることが知られています1)。HPVが関与しない子宮頸がんもありますが、稀(数%程度)とされています。
HPVに感染してから子宮頸がんに進展するまでの期間は数年から数十年を要すると考えられています2)。HPVが持続的に感染している状態が続くと、そのうちの約10%の女性は細胞が異常な形に変化して子宮頸部異形成(子宮頸がんの前がん状態)を発症します。異形成には異常の軽い異形成(軽度異形成)、中等度の異形成(中等度異形成)、強い異形成(高度異形成)まであり、異形成の程度が増悪していくと、上皮内がんを経て浸潤がんとなります。異形成の段階では基本的には自覚症状がありませんが、子宮頸がん検診で発見することが可能です。浸潤がんに至る前に検診で高度異形成もしくは上皮内がんの段階で早期発見することが子宮温存と救命のためには重要です。

子宮頸がんの疫学

浸潤子宮頸がんは現在本邦では年間約1万人が罹患し、約2900人が毎年亡くなっています3)。近年は罹患数・死亡者数ともに漸増しており、特に若年者での急増が晩産化と合わせて大きな社会問題となっています4,5)。現在、本邦での浸潤子宮頸がんの罹患率のピークは40歳代であり、50歳以下の若年者であっても、年間約500人も亡くなっています。さらには上皮内がんまで含めると年間約3万人以上が罹患しており、ピークは30歳代となっています。子宮頸がんの前がん状態である子宮頸部異形成の状態で発見するためには、子宮頸がん検診を20歳代からきちんと受けることが重要です。

子宮頸がんの治療

異形成と言われる前がん状態を指摘された場合は、軽度から中等度異形成までは定期的な検査(細胞診や組織診)を行い、進行の有無を確認します。高度異形成から上皮内がんまでは円錐切除術などの子宮の一部をくり抜くような治療により、子宮体部を温存しながら病変を完全切除することが可能です。しかし、円錐切除術には流・早産のリスク上昇、月経流出路の異常、残存子宮への再発などの合併症があるため注意が必要です。浸潤がんとなった場合は進行期や組織型により治療法を選択しますが、基本的に子宮の摘出や放射線治療を要するため、ごく早期で発見された場合を除いて妊孕性を温存することはできません。

子宮頸がん予防

がんの予防として1次予防、即ちがんにならないための予防と、2次予防、即ちがんを早期に発見し早期に治療することで癌による死亡を減らす2つの方法があります。
子宮頸がんは前述のように原因と進展過程が判明しているため、1次予防としてHPVという原因に対して感染予防を行うHPVワクチンがあり、2次予防として前がん病変で発見する子宮頸がん検診があります。一次予防も二次予防も揃っており、疾患を世界から排除させることが可能である数少ないがんです。
実際、WHOは子宮頸癌を制圧することを目標に掲げて様々な介入を続けています6,7)。具体的には2030年までにすべての国々で、①15歳までの女児のHPVワクチン接種率を90%以上とすること、②子宮頸がん検診受診率を70%以上とし、前がん病変の治療を90%以上行うこと、③浸潤がんの治療は90%以上行うことを目標としています。2020年11月16日に子宮頸がん制圧に向けて、2030年までに各国が目標達成に向けて取り組み、今世紀中に子宮頸がんを排除することを目指すよう正式に提言しました。

HPVワクチンの有効性と安全性

HPVワクチンは、2010年に自治体ごとの公費助成が開始され、2013年4月に12-16歳女性を対象として定期接種に含まれました。しかしながら、接種後に生じたとされる多様な症状に関する報道が相次いだ結果、2013年6月に積極的勧奨の差し控えが発表され、積極的勧奨が中止されていた8年以上もの間は、接種者が激減した状態が継続していました。
一方、世界では国家プロジェクトとしての接種が多くの国で推進されており、現在は140カ国以上で接種が行われています。ワクチン接種によるHPV感染率の低下、子宮頸部細胞診、組織診異常率の低下に加えて、浸潤子宮頸がんの罹患率減少が2020年にスウェーデンから、次いでデンマークとイングランドからも報告されています8-10)。特に定期接種の年齢で接種した場合の効果は高く、いずれの報告でも9割近い予防効果を示しています。本邦でも、積極的勧奨が中止される前に接種を受けていた世代(接種率が約70%であった世代)を対象にして、HPV16/18型感染率や細胞診、組織診異常率の低下が相次いで報告されています。
安全性に関しては、世界保健機構(WHO)はワクチンの推奨を考え直さなければならないような安全性の問題は見つかっていないとの声明を出していますが11)、日本人女性に対しても全国的な疫学研究が行われ、ワクチン接種者に「多様な症状」の発症頻度が高いとする疫学的事実は示されませんでした12,13)。
WHOは2019年12月に、ワクチン接種ストレス関連反応(ISRR:Immunization stress-related response )という概念を提唱し、対応マニュアルを発表しました14,15)。ISRRとしては接種直前後に見られる交感神経もしくは副交感神経の亢進に伴う急性反応としての頻脈・息切れ・口喝・手足のしびれや、めまい・過換気・失神等、そして、接種後の遅発性反応としての脱力・麻痺・異常な動き・不規則な歩行、言語障害等の解離性神経症状的反応などが含まれています。前述の通り、国内外において、HPVワクチン自体と多様な症状との因果関係は証明されていません。しかし、ISRRにおいては、局所の疼痛等のストレスをきっかけとして、機能性身体症状が出現する可能性が示されています。接種以外にも疼痛等のストレス因子は日常生活の中に多く存在するため、多様な症状は接種者に多く認められることはないと考えられますが、接種によるストレスが様々な反応を引き起こす可能性については留意する必要があります。そのため、誘引となるような不安や恐怖感等を極力取り除けるよう、医療従事者は接種者との信頼関係構築に努め、接種時には接種のメリットとデメリットについて丁寧に説明することが重要であると記載されています。

積極的勧奨中止の影響

本邦では、積極的勧奨中止の影響により、2000年(平成12年)度生まれ以降のほとんどの女性は、接種を受けていないという状況が継続しています。NIIGATA STUDYでは2014年4月から2021年3月までに子宮頸がん検診を受診した、20-21歳の女性を対象にHPV16/18型感染率の推移を解析しました16)。研究初年度の2014年度はワクチン接種率が約2割でしたが、2015-2019年度には8割を超える接種率となっており、HPV16/18型感染率は2014年度の1.4%から、2015-2019年度は0.5%以下に減少していました。その後2020年度は、勧奨中止の影響でワクチン接種率が42%に低下し、HPV16/18型感染率は1.7%に再上昇しました。
このような状況を受けて、本邦では生まれ年度ごとに将来の子宮頸がん罹患リスクが異なることも示されています17)。ワクチン導入前の世代である1993年生まれの子宮頸がんリスクを1とすると、積極的勧奨中止前の接種世代の子宮頸がんリスクは0.6前後まで低下しておりました。しかしながら積極的勧奨が中止された2000年度生まれ以降のワクチン停止世代ではリスクは上昇し、2024年度までに9価ワクチンで接種率90%を達成できたとしても接種世代のリスクまで改善することは見込めません。2009年度生まれ以降の女性は定期接種として9価ワクチンを60%以上接種すると接種世代よりもリスクを減少することができます。HPVワクチンの普及により一旦は低下した子宮頸がん罹患リスクが、積極的勧奨中止の影響を受けて上昇に転じているという、我が国の懸念すべき状況が明らかになっています。

質疑応答

おすすめのワクチンや接種時期について
15歳の誕生日の前日までに9価HPVワクチンを接種すると2回の接種で接種を完了することができます。ワクチンの効果や接種回数を減らすことができるという点で勧められます。

キャッチアップ接種の効果について
臨床試験では45歳までの2価・4価HPVワクチンの有効性と安全性について証明されています。一方で、キャッチアップ接種は、接種時点で感染していないHPV型の感染予防とそれに伴う子宮頸部病変のリスクを低減できるものの、既に感染しているHPV型は予防できないことから、キャッチアップ接種の対象者には検診の重要性を十分に説明することが必要と考えています。また、未感染のHPV型は予防できることから、細胞診異常者やHPV既感染者を接種から除外する必要はないと、海外や本邦のガイドラインに示されています。

短縮接種について
4価・9価HPVワクチンは最短4ヶ月で接種を完了することができます。接種医療機関とご相談ください。
*補足;厚生労働省はHPVワクチンの供給困難があった状況を踏まえて、2024年度中に1回でもHPVワクチンを接種した者は、2025年度中に接種を完了するならば全て公費とすることが第64回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会で了承されました。2024年3月までに初回接種を行えば、短縮接種とせずとも通常の接種間隔で接種を全て公費とすることが可能となる予定です。

令和6年9月26日(木)
新潟県医師会学校保健研修会にて講演

参考文献

1)Zur Hausen H, et al.: Papillomavirus and cancer: from basic studies to clinical application. Nat Rev Cancer, 2: 342-350, 2002.

2)Ho, GYF, et al.: Natural history of cervicovaginal papillomavirus infection in young women. N Engl J Med, 338: 423, 1998.

3)国立がん研究センター がん対策情報センター.https://gdb.ganjoho.jp/graph_db/gdb4(最終アクセス日2024年12月9日)

4)Motoki Y, et al.: Increasing trends in cervical cancer mortality among young Japanese women below the age of 50 years: an analysis using the Kanagawa population-based Cancer Registry, 1975-2012. Cancer Epidemiol, 39: 700-6, 2015.

5)Yagi A, et al.: Epidemiologic and Clinical Analysis of Cervical Cancer Using Data from the Population-Based Osaka Cancer Registry. Cancer Res, 79: 1252-1259, 2019.

6)WHO: Global strategy to accelerate the elimination of cervical cancer as a public health problem. https://www.who.int/publications/i/item/9789240014107(最終アクセス日2024年12月9日)

7)日本産婦人科学会:全世界的な公衆衛生上の問題:子宮頸癌の排除.https://www.jsog.or.jp/uploads/files/jsogpolicy/WHO-slides_CxCaElimination.pdf(最終アクセス日2024年12月9日)

8)Lei J, et al.: HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med, 383: 1340-1348, 2020.

9)Kjaer SK, et al.: Real-World Effectiveness of Human Papillomavirus Vaccination Against Cervical Cancer. J Natl Cancer inst, 113: 1329-1335, 2021.

10)Falcaro M, et al.: The effects of the national HPV vaccination programme in England, UK, on cervical cancer and grade 3 cervical intraepithelial neoplasia incidence: a register-based observational study. Lancet, 398: 2084-2092, 2021.

11)WHO position papers on Human papillomavirus (HPV). https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/policies/position-papers/human-papillomavirus-(hpv)(最終アクセス日2024年12月9日)

12)Suzuki S, et al.: No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya Study. Papillomavirus Res, 5: 96-103, 2018.

13)Fukushima W, et al.: A nationwide epidemiological survey of adolescent patients with diverse symptoms similar to those following human papillomavirus vaccination: background prevalence and incidence for considering vaccine safety in Japan. J Epidemiol, 32: 34-43, 2022.

14)WHO: Immunization stress related responses. https://www.who.int/publications/i/item/978-92-4-151594-8(最終アクセス日2024年12月9日)

15)厚生労働省 予防接種ストレス関連反応.https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000962339.pdf(最終アクセス日2024年12月9日)

16)Sekine M, et al.: Suspension of proactive recommendations for HPV vaccination has led to a significant increase in HPV infection rates in young Japanese women: real-world data. Lancet Reg Health West Pac, 16: 100300, 2021.

17)Yagi A, et al.: Effectiveness of catch-up and routine program of the 9-valent vaccine on cervical cancer risk reduction in Japan. Cancer Sci, 115: 916-925, 2024.

(令和7年7月号)

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