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新潟市医師会報より

新潟市医師会

成人に対する肺炎球菌ワクチン診療について

信楽園病院 副院長
呼吸器内科部長 感染症内科部長
川崎 聡

2014年10月に始まった高齢者に対する肺炎球菌ワクチン定期接種制度は、11年目を迎えた。この間、肺炎球菌血清型置換、新たな肺炎球菌ワクチンの上市、COVID-19に代表される外部環境の変容など様々な変化が生じてきた。次の10年を見据えて、成人肺炎球菌ワクチン診療の今までを総括し、今後のあるべき姿を論じてみたい。

成人肺炎球菌感染症の特徴

1)肺炎球菌の特徴

肺炎球菌はグラム陽性双球菌で、細胞壁の外側に厚い莢膜を有する。莢膜は多糖体からなり、好中球の貪食殺菌に抵抗性を示すとともに、複数の病原因子を含んでいる1)。莢膜は約100種類の血清型に分類されるが、各々の血清型によって頻度や毒性が異なる2)。当院からも、血清3型による重症市中肺炎3)や、血清19A型による施設内クラスター4)を報告してきた。

一方、莢膜は液性免疫のターゲットにもなっているため、肺炎球菌ワクチンで誘導される機能的な抗体、特にIgGの存在下では、そのオプソニン効果により好中球の貪食殺菌能が活性化され、感染症の進展が抑制される。

2)肺炎球菌感染症の特徴

すべての年齢層において感染症を引き起こしうるが、特に小児と高齢者に対する影響が大きい。上下気道炎、中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease;IPD)などの病型を呈する。このうち IPDは、本来無菌である血液や髄液から同菌が分離された疾患と定義され、感染症法5類全数把握疾患に指定されている。感受性良好な抗菌薬が多種類あるにもかかわらず、成人IPDの死亡率は約19%と極めて高く、予後不良である1)。

3)成人肺炎診療の現状

令和5年日本の人口動態統計5)によると、肺炎は死因の第5位、誤嚥性肺炎は第6位、両者を合わせると全死因の8.6%を占め、社会全体に対する疾病負荷は大きい。高齢化社会の継続や革新的な抗菌薬の開発を期待しづらい現状を考えると、今後もこの傾向が継続していくと予想されている。成人市中肺炎と医療・介護関連肺炎の原因微生物では、肺炎球菌が最も多いため6)、その予防対策が重要となる。

肺炎球菌ワクチンの接種意義

1)莢膜多糖体ワクチン

現在本邦で成人に対して使用可能な肺炎球菌ワクチンは3種類ある(表1)。莢膜多糖体抗原からなるニューモバックス®(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine;PPSV23)は、23種類の血清型を含有している。高齢者に対しても、初回接種で特異的IgGとオプソニン活性が有意に上昇すること、安全性に問題ないことが報告されている7)。さらに65歳以上を対象とした国内多施設前向き研究においても、PPSV23接種で、5年以内のすべての肺炎球菌性肺炎で27.4%、ワクチン含有血清型による肺炎球菌性肺炎で33.5%減らすワクチン効果が報告されている8)。現時点で唯一高齢者の定期接種として活用することができる。一方で、多糖体のみを抗原とするため、T細胞を介した免疫系の活性化能が弱く、メモリーB細胞も誘導されにくいとされる。そのため、特に高齢者のIPDに対するワクチン効果の持続性に関する限界が指摘されている9)。

2)結合型ワクチン

莢膜多糖体抗原にキャリア蛋白(CRM197;ジフテリア毒素を無毒化したもの)を結合させたワクチンである。キャリア蛋白の結合により、樹状細胞を介したT細胞の活性化とそれによるB細胞から特異的IgG産生能を有する形質細胞や、一部メモリーB細胞への分化誘導が促進されるため、一般的には莢膜多糖体ワクチンよりも免疫原性に優れていると考えられている10)。現在、バクニュバンス®(15-valent pneumococcal conjugate vaccine;PCV15)、プレベナー20®(20-valent pneumococcal conjugate vaccine;PCV20)が、小児の定期接種、高齢者又は肺炎球菌に罹患するリスクが高いと考えられる者に対する任意接種として使用可能である。

65歳以上を対象にオランダで行われたプレベナー13®(13-valent pneumococcal conjugate vaccine;PCV13)群とプラセボ群による大規模無作為二重盲検比較試験(CAPiTA試験)では、PCV13群でIPDおよび肺炎球菌性肺炎の有意な減少効果が追跡期間中央値3.97年で確認されている11)。PCV15およびPCV20においては、このような大規模比較試験がないものの、同等のオプソニン貪食活性能と安全性が確認され、含有血清型も増えたことから、同等以上の有益性が推察されている。

3)現状

成人肺炎診療ガイドライン202412)では、肺炎球菌ワクチンの推奨度を、それまでの「強い推奨」から「すでに確立された肺炎の予防策」と記載し、その重要性は議論の余地がないものと位置付けている。しかし、その中心となるPPSV23による定期接種率は、最初の5年間(2014〜18年)は30%を超えていたものの、その後は10%台まで低下している13)。COVID-19パンデミック対策が優先された影響もあると思われるが、接種率向上に向けた新たな対策が期待される。

当院の取り組み

1)肺炎球菌莢膜血清型サーベイランス

当院では、2014年から成人気道感染症(肺炎もしくは気管支炎)患者の喀痰から分離された肺炎球菌の莢膜血清型のサーベイランスを継続している(倫理委員会承認番号2022001)。当院細菌検査室で凝集法による簡易検査を行い、さらに国立感染症研究所で莢膜膨化法(標準法)による確認検査を行っていただいた結果、100%近い一致率を示しており、検査精度の高さが確認されている。2014年からの10年で肺炎球菌242株が対象となり、32血清型に分類された(図1)。いずれのワクチンにも含まれる中では、3、6B、19Aなど毒性の強いとされる血清型が多く分離されていた。PCV20もしくはPPSV23にのみ含まれる血清型では11A/Eが多く分離されていた。いずれのワクチンにも含まれない血清型(non-vaccine type;NVT)では、近年35Bの増加が著しい。当院のデータでは、サーベイランス開始時(2014年)には、NVTは20%しか検出されていなかったが、2019年58.3%、2023年82.4%にまで増加した。この現象は血清型置換と呼ばれ、本邦のナショナルデータや世界各国からも同じような報告がなされている14)。小児への結合型ワクチン普及と、それによる成人への副次的効果が主因と考えられている。結合型ワクチンの免疫原性の強さ、それによる集団免疫効果と言い換えることができるかもしれないが、長期的に考えた場合、血清型置換を念頭においた新たな戦略を検討すべき時期にきたのかもしれない。

2)肺炎球菌ワクチンの接種勧奨

当院では、以前から65歳以上の高齢者や肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる成人に対し、肺炎球菌ワクチンの接種勧奨を積極的に行っている。2024年までにPPSV23は、定期接種を中心として延2192人に接種してきた。ただしPPSV23は、前述のごとく、莢膜多糖体のみからなる構造のため、免疫原性が弱く、効果の持続性に限界があると認識している。日本感染症学会等から示されている『65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2024年9月)』(図2)15)でも、これらの状況を踏まえ、PPSV23の定期接種を活用しつつ、さらに1年以上の間隔で結合型ワクチン(PCV15、PCV20)の連続接種を選択肢の一つとして推奨している。当院もこの考え方に基づき、把握しうるだけで571人に対し結合型ワクチンを接種してきた(図3)。このうち267人がPPSV23既接種者への連続接種で、大多数が何らかの基礎疾患を有していた。今後も、特に基礎疾患を有する高齢者に対しては、結合型ワクチンと多糖体ワクチンの連続接種の有用性について、積極的に情報提供していきたい。

今後の課題

前述の血清型置換に対する対応は、大きな課題である。その対策として、各社が含有血清型を増やした製品の開発をしていることは喜ばしいことである。ただしそこには副反応との兼ね合いで自ずと限界があることは容易に推測される。今後は、どの血清型を選択していくことが長期的に有用であるか、場合によっては異なる血清型を含むワクチンとの連続接種などの方策も検討されるべきと思われる。さらに、莢膜多糖体以外を抗原とするワクチンの開発研究の成果が結実することも期待される。

莢膜多糖体ワクチンと結合型ワクチンの使い分けについても議論されている。米国では、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの接種勧奨についても、免疫原性の高い結合型ワクチンを中心にした戦略にすでに移行しており16)、今後本邦でも検討すべき課題と思われる。

今まで論じてきたような有効性、さらに費用対効果も確認されている17)現状でも、接種率の向上、すなわちそれが患者さんのもとに届かなければ意味をなさない。ワクチン接種の決断は、歴史や宗教など様々な価値観に左右され、本邦はどちらかと言えばワクチン忌避が高い国民性と言われてきたが、COVID-19を契機に少しずつ変化の兆しもみえている18)。さらなる改善に影響する因子として、価格を含めた政策内容、メディア等による情報発信、そして最も強く影響するのは、我々医療従事者からの勧奨と言われている19)。今後も、対象者に対し肺炎球菌ワクチンに関する情報を、正確に届けていくことが重要と思われる。

追記

2025年8月に、血清型カバー率向上が期待されるキャップバックス®(21-valent pneumococcal conjugate vaccine;PCV21)が承認された。考え方の一部変更も予想されるため、ご留意いただきたい。

令和7年1月24日(金)

第283回臨床懇話会にて講演

参考文献

1)厚生労働省研究班(大石班).IASR, 39, 114-115, 2018.

2)Weinberger DM et al. Association of serotype with risk of death due to pneumococcal pneumonia: a meta-analysis. Clin Infect Dis, 51, 692-699, 2010.

3)川崎聡ほか.ムコイド型肺炎球菌による重症市中肺炎の1例.日呼吸誌,4, 303-308, 2015.

4)Nagano K, et al. An outbreak of serotype 19A pneumococcal pneumonia in a relief facility in Japan. Infect Control Hosp Epidemiol, 43, 1934-1936, 2022.

5)厚生労働省.令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況〈https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/index.html〉.(閲覧2025年4月8日)

6)Fujikura Y et al. Aetiological agents of adult community-acquired pneumonia in Japan: systematic review and meta-analysis of published data. BMJ Open Respir Res, 10: e001800, 2023.

7)Oshima N et al. Sustained functional serotype-specific antibody after primary and secondary vaccinations with a pneumococcal polysaccharide vaccine in elderly patients with chronic lung disease. Vaccine, 32, 1181-1186, 2014.

8)Suzuki M et al. Serotype-specific effectiveness of 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine against pneumococcal pneumonia in adults aged 65 years or older: a multicenter, prospective, test-negative design study. Lancet Infect Dis, 17, 313-321, 2017.

9) Shapiro ED, et al. The protective efficacy of polyvalent pneumococcal polysaccharide vaccine. N Engl J Med, 325, 1453-1460, 1991.

10) Polland AJ et al. Maintaining protection against invasive bacteria with protein–polysaccharide conjugate vaccines. Nat Rev Immunol, 9, 213-220, 2009.

11) Bonten MJ, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med, 372, 1114-1125, 2015.

12)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会.成人肺炎診療ガイドライン2024.東京,日本呼吸器学会,2024.

13)田村恒介ほか.高齢者肺炎球菌感染症に対する定期接種率と累積接種率の推計値について.IASR, 45, 12-14, 2024.

14)小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報〈https://ipd-information.com/adult/overview/〉.(閲覧2025年4月7日)

15)日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会ワクチンWG/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会.「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方 第6版〈https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/o65haienV/o65haienV_240930.pdf〉.(閲覧2025年4月7日)

16)Kobayashi M et al. Expanded recommendations for use of pneumococcal conjugate vaccines among adults aged ≥50 years: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States 2024. MMWR, 74, 1-8, 2025.

17) Potential public health impact and cost-effectiveness of PCV13 use in adults(Charles Stoecker), Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)Summary Report June, 25-26, 126-131, 2014.

18)Sallam M, et al. A global map of COVID-19 vaccine acceptance rates per country: an updated concise narrative review. J Multidisciplinary Healthcare, 15, 21-45, 2022.

19)Dove E et al. Vaccine hesitancy. An overview. Human vaccines & immunotherapeutics, 8, 1763-1773; 2013.

(令和7年9月号)

表1 本邦で使用可能な肺炎球菌ワクチン(筆者作成)

図1 気道感染患者喀痰から分離された肺炎球菌莢膜血清型の分布(2014〜2023年、信楽園病院データ)

図2 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2024年9月)(日本感染症学会/日本呼吸器学会/日本ワクチン学会 合同委員会)15)

図3 当院における結合型肺炎球菌ワクチン接種者の基礎疾患(2014年10月~2024年12月、信楽園病院データ)

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