新潟市医師会

  • 新潟市内の医療機関を探す診療科から
    • 内科
    • 小児科
    • 整形外科
    • 皮膚科
    • 眼科
    • 外科
    • 耳鼻咽喉科
    • 産婦人科
    • 精神科
    • 脳神経外科
    • 泌尿器科
    • 脳神経内科
    • 心療内科
    • その他
  • 新潟市内の医療機関を探す地域別から
    地域から探す
    • 秋葉区
    • 北区
    • 江南区
    • 中央区
    • 西蒲区
    • 西区
    • 東区
    • 南区
  • 休日・夜間に病気になったら急患診療センター
  • カラダのこと考えてますか?病気と健康のあれこれ
  • 医師会について
  • 市民の皆様へ
  • 医療関係者の皆様へ
  • 会員の皆様へ
  • 入会申込

新潟市医師会報より

新潟市医師会

新規参入の訪問看護事業所からみた在宅医療・介護

訪問看護ステーションよいとこ 管理者
清水 祐一

はじめに

令和元年に開設した「訪問看護ステーションよいとこ」は、病院等で臨床経験を積んだ看護師3名により設立された。共同創業者の縁と意志の共有により、在宅医療の現場における課題や可能性に着目し、「地域医療・介護を盛り上げたい」という志のもと起業に至ったものである。この講演では、当事業所の設立経緯から、日々の訪問看護の実践の中で見えてきた制度的な課題と可能性、そして今後の提言に至るまで、多角的な視点から在宅医療の現状と展望を論じるものである。地域のニーズに即した看護の在り方を模索し、病院医療との連携を意識した取り組みの重要性を示したい。

訪問看護ステーション設立の経緯と意図

設立の背景には、看護師としての実践を通じて感じた病院看護の限界があった。組織のルールや体制に縛られる中で、患者の本音や希望に応える看護の実現が困難であるという現実を直視したことが出発点であった。設立までには、訪問看護制度に関する調査、法人格取得、資金繰り、人材確保といった多岐にわたる準備が必要であり、構想から稼働までに約5年を要した。理念に「あなたの価値観を大切にし、あなたらしい暮らしを支えます」を掲げ、土日対応可能な体制、ICTの積極的活用、幅広い疾患に対応する柔軟な人材配置といった特色を打ち出した。利用者の生活背景や病態の多様性に応えることを重視する事業計画を策定し、利用者目線での実践を目指している。この理念に共感したメンバーが集まり、令和7年3月時点では9名体制となっている。

直面した社会情勢

設立してから間もなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まった。当初、設立間もない私たちは、組織体制が十分に整っておらず、感染対策の物品備蓄も不十分であり、全国的な物資不足の波を真正面から受ける形となった。マスクや消毒液、ガウンといった衛生物品が確保できず、繰り返し洗って使うなどの対応を余儀なくされ、感染症対応において苦慮が続いた。とりわけ困難だったのは「訪問してみて初めて発熱や感染症状に気づく」という訪問看護ならではの状況である。病院とは異なり、事前の情報が乏しい中で、その場での判断と対応が求められた。すなわち、訪問看護師は感染症患者に最初に接する医療職であり、その役割は非常に重いものであった。また、訪問先ごとに居住環境が異なるため、ゾーニング、PPEの装着タイミング、着脱場所、廃棄物処理などに統一的な対応をとることが困難であった。個々のケースに応じた柔軟な対応を、看護師個々の判断と工夫に委ねられる場面が多かった。標準的な感染対策の枠組みが十分でない中、慎重な対応が必要とされた。

制度的背景としての利用者構造の変化

訪問看護の制度的側面において注目すべきは、要介護度別の利用者割合の推移である。令和4年度までの厚生労働省の統計(図)1)によれば、訪問看護の利用者構成は近年大きく変化しており、要介護度1~2の利用者の割合が顕著に増加している。具体的には、要介護3以上のいわゆる「重度者」だけでなく、中程度以下の介護度でも医療的管理や支援を必要とする利用者が増加傾向にある。これは、独居高齢者や認知症患者、精神的・経済的に脆弱な層など、医療依存度は高くなくとも生活支援の必要性が高い人々が、地域で生活することが一般化していることを示している。新型コロナウイルス感染症対応においても、医療処置だけでなく、感染対策の指導、衛生環境の整備、精神的ケア、家族支援など、包括的な支援が求められた。訪問看護師は医療・介護の中間的な機能を果たし、地域医療の受け皿として重要な役割を担っている。介護現場では利用者の多様なニーズが存在し、今後の訪問看護にはさらなる柔軟性と対応力が求められている。

訪問看護における3症例の紹介と考察

以下では、実際の訪問看護において対応した3つの症例を通じて、現場の実情と看護の役割の広がりについて考察する。

症例1:独居高齢者に対する生活支援としての訪問看護

80代男性、独居、認知症あり、生活保護受給者。居住環境は極めて劣悪で、ネズミの糞、埃の堆積、エアコン不備などにより環境衛生面で大きな課題があった。認知症及び呼吸器疾患を有し、外部との連絡手段も不安定であった。夏はエアコンなしで扇風機と裸で過ごし、冬は灯油ストーブで寒さをしのいでいた。しかし意外にも、当の本人はそのことで困っているという認識はない。訪問看護の主な介入は、服薬管理と季節に応じた環境整備、生活相談支援である。長年の生活スタイルを維持することと、環境衛生面の改善とどちらを取るか、利用者によって価値観が違うことを目の当たりにしたと同時に、「生活そのもの」を看護の対象とする在宅看護の特性が端的に現れた事例である。

症例2:がん末期の独居高齢者における在宅看取り支援

60代男性、がん末期。独居かつ経済的困窮を背景に、「家で自由に死にたい」という強い希望があった。生活保護受給者であり、身寄りもなく、病状から医療機関への通院が困難な状況であった。そのため、訪問診療・訪問薬剤管理・訪問介護・訪問看護という多職種による在宅支援が包括的に導入された。疼痛管理には高用量の経皮オピオイド製剤や坐薬を使用し、静脈ルートを用いず、非侵襲的かつ持続可能な疼痛緩和の方法が問われた症例であり、医療的柔軟性が求められた。経済的困難や身寄りなしという社会的な弱さを抱えながらも本人の希望通り自宅での看取りを実現した事例である。

症例3:指定難病患者の重層的支援

指定難病(神経変性疾患)を患う女性。夫と2人暮らしで、主要生活スペースは2階にあり身体機能の低下と共に生活困難が顕在化した。最終的には寝たきりとなり、訪問看護の頻回訪問、介護職・リハ職との連携、経管栄養・吸引・清潔ケアなどを提供した。多職種による包括的支援体制の構築により、家族による介護の限界を支える体制を整えた。外出への強い希望から、寝たきりになっても車で隣県まで外出するなど、家族の協力が重要な役割を果たした。最終的に自宅での看取りに至り、チーム全体で「やりきった」と充実感があった。

以上の症例から、訪問看護は単にADLが著しく低下した末期患者の支援に留まらず、自己管理困難、独居、精神的・経済的弱さを持つ人々に対してこそ有効である。「在宅では無理」と思われそうなケースでも、訪問看護が本人の価値観と希望を叶える手段の一つであることを示す象徴的な症例といえる。特筆すべきは、本人および家族が「在宅で過ごしたい」という意志を明確に持ち、それを多職種が一体となって支えた点にある。保健師助産師看護師法(保助看法)第5条で定義されている看護師の業務の2本柱「療養上の世話」「診療の補助」のうち、在宅看護においては「療養上の世話」が重視される。これは例えば傾聴、療養環境の整備、家族ケア等を含み、その具体的内容は多岐に渡る。療養の場が病室ではなく生活空間である以上、生活全体を支える視点が不可欠である。

訪問看護における限界と臨床現場のジレンマ

訪問看護は、基本的に看護師が単独で利用者宅を訪問する形で提供される。このことは、患者の生活の場に最も近い場所で看護を提供できるという強みを持つ一方で、急変時の対応における脆弱性や、医療資源の制約といった構造的な限界も抱えている。特に夜間や休日においては医師との連絡が困難な場合も多く、訪問している看護師に判断が委ねられる状況も珍しくない。訪問看護事業所には、各事業所単位でそれらの負担を軽減する取り組みが求められているが、対策を講じていたとしても完全には解消できない現状がある。これにより「本来ならば様子観察で対応できたはずの症状」であっても、対応に迷い、結果として不要不急な受診や救急搬送に繋がる事例が生じる可能性がある。「不要不急な受診や救急搬送」はすでに社会課題化しており周知の事実であるが、ある医療関係者から得た非公式の情報によると、令和6年末から令和7年始の9連休中、新潟市の急患センターでは1日あたり約700名が受診し、最大で待機時間が7時間に達した日もあったという。訪問看護師の多くはこうしたジレンマを日常的に抱えており、現場では「判断を誤れば利用者の命に関わる」という強いプレッシャーの下で看護が提供されている。このような状況下、訪問看護師が「安心して判断できる」仕組みが不可欠であり、その一つの具体的方策として「予測指示(あらかじめの処方・対応計画)」が挙げられる。

「予測指示」による在宅医療の強化:提言と実践例

予測指示とは、訪問看護指示書において、予見可能な症状悪化時にあらかじめ実施可能な対応を記載し、夜間・休日や医師不在時でも一定の処置を可能とする仕組みである。これは以下の3つの観点から重要性がある。

1.重症化の予防
2.救急搬送・医療機関受診の削減
3.看護師の判断負担の軽減

現場で活用されうる予測指示の例として、以下を提示する。

(1)脱水対応
症状:経口摂取量500ml/日未満が3日以上続く
対応:生理食塩水500ml/日 静脈注射(ヘパリンロック可)を5日間実施
条件:主治医への報告、利用者宅への物品事前配置

(2)感染症の早期対応
症状:38度以上の発熱、咳嗽、悪寒、尿混濁など
対応:抗原検査キット等による簡易判定/尿検査試験紙/抗菌薬(例:LVFX)内服開始
条件:主治医への報告、検査キットの配置、事前処方

(3)心不全の兆候への対応
症状:1週間で2kg以上の体重増加、下腿浮腫、呼吸困難の増強等
対応:利尿薬(例:アゾセミド)内服開始、症状経過をモニタリングし主治医へ報告
条件:主治医への報告、事前処方

(4)尿閉・カテーテルトラブル時
対応:導尿・留置カテーテル洗浄/サイズアップ/挿入交換
条件:利用者宅への物品事前配置、主治医への事後報告

これらをあらかじめ訪問看護指示書に明記し、必要な薬剤や物品を利用者宅に保管しておくことで、夜間・休日でも一定の対応が可能となる。あくまでも医師の裁量と法的枠組みの中で指示される必要があるが、患者・家族・訪問看護師にとっての「安全網」となりうるものである。特に大型連休中の救急外来ひっ迫を緩和する効果も期待される。

おわりに

訪問看護に対する医療機関の理解には温度差がある。「訪問看護は不要」といった誤解や偏見も依然として存在する。こうした認識の壁を乗り越えるためには、医療と介護の相互理解や社会全体の認知が求められる。現在、地域の小学校における生涯教育、医療機関における研修、地域の訪問看護管理者会議等を通じて、訪問看護の発信や研鑽に取り組んでいる。感染症という危機の中で培われた知見をもとに、今後も利用者の価値観に焦点を合わせた柔軟な看護を実践し、新潟市における在宅医療・介護体制の構築に寄与していきたい。

令和7年3月5日(水)
第146回 在宅医療講座にて講演

参考文献
1)厚生労働省,第220回社会保障審議会介護給付費分科会資料,P13,要介護度別の利用者割合の推移
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123919.pdf

(令和7年11月号)

図 要介護度別の利用者割合の推移1)
出典:介護給付費等実態統計(各年4月審査分)

  • < 髄液穿刺の方法と所見の解釈について
  • 死後CT診断:一般臨床CTと異なる注意すべき所見 >
新潟市医師会報より
新潟市の素描画
  • 2025年度作品一覧
  • 2024年度作品一覧
  • 2023年度作品一覧
  • 2022年度作品一覧
  • 2021年度作品一覧
  • 2020年度作品一覧
  • 2019年度作品一覧
  • 2018年度作品一覧
  • 2017年度作品一覧
  • 2016年度作品一覧
  • 2015年度作品一覧
  • 2014年度作品一覧
  • 2013年度作品一覧
  • 2012年度作品一覧
  • 2011年度作品一覧
  • 2010年度作品一覧
  • 2009年度作品一覧
  • 2008年度作品一覧
  • 2007年度作品一覧
  • 2006年度作品一覧
  • 2005年度作品一覧
巻頭言
学術
特集
病気と健康のあれこれ
寄稿
開院の自己紹介
わたしの好きな店
マイライブラリィ
私の憩いのひととき
旭町キャンパスめぐり
病院だより
勤務医ツイート
Doctor's Café
理事のひとこと
新潟市一次救急医療施設の利用状況
あとがき
  • トップページへ
  • ホームページTOPへ戻る
  • このページの先頭へ
新潟市医師会事務局
〒950-0914 新潟市中央区紫竹山3丁目3番11号
TEL : 025-240-4131 FAX : 025-240-6760e-mail : niigatashi@niigata.med.or.jp
  • ご利用にあたって
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ
  • リンク
  • お問合せ
©2013 Medical Association of Niigata City.