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新潟市医師会報より

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内視鏡検診で見つけてほしい食道がん

新潟県立がんセンター新潟病院 消化器内科
小林 正明

「令和6年度第2回新潟市医師会胃内視鏡検診研修会」が、2025年2月12日新潟市総合保健医療センターで開催されました。この研修会は、胃内視鏡検診受託医療機関にて内視鏡検査を担当する医師向けに、年2回開催しています。検診で早期胃がんが発見された症例検討の後、内視鏡で治療可能な食道がん診断のコツを中心に講演を行いました。

新潟市では、「胃がんの早期発見,早期治療 胃がん死亡率減少」を目的に、内視鏡胃がん施設検診(対策型)を実施しています。検診は胃がんの発見が目的ですが、食道も一緒に内視鏡で観察するため、食道がんも発見される場合があります。過去(R2年度)のデータでは1)、食道がんの発見は、精密検査受診者全体の1.7%、発見された腫瘍性病変の10%でしたので、決して稀ではありません。「酒どころ」の新潟県では、食道がんの罹患率が、全国平均より男性で高い傾向があり2)、新潟市でも同様と思われます。内視鏡検診による食道がん死亡率減少効果などは明らかにされていませんが、胃がんに比べて食道がんは予後不良であり、早期発見による内視鏡治療が望まれます。当院では、新潟市内外より、早期食道がんの精査治療目的に多数の症例を紹介いただいています。昨年(2024年)は94件の食道がんの内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection, ESD)を行い、近年、治療件数が増加傾向です。内視鏡による食道がんの早期発見には、胃がんとは異なるポイントがあるので紹介します。

最初に、内視鏡検査を開始する前に、食道がんリスク因子の有無を確認することが大切です3)。次に示すいずれかの項目が該当する場合は、食道も気を付けて内視鏡観察を行ってください。

【食道がん高リスク因子】
(1)50歳以上の男性
(2)飲酒・喫煙量が多い
(3)飲酒で顔が赤くなる Flusher
(4)赤血球MCV 100fl以上
(5)食道がんや頭頚部がんの既往歴
(6)軟口蓋・咽頭・食道のメラノーシス
(7)食道内にヨード多発不染帯(まだら食道)
(8)アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)ヘテロ欠損型

(3)のFlusherは、飲酒をして顔が赤くなるフラッシング反応を起こしやすい人のことです。赤くなる原因はアルコールが代謝されて生じる有害なアセトアルデヒドです。(8)のALDH2ヘテロ欠損型は日本人に多く、アセトアルデヒドを分解する働きが弱いため、体内に蓄積しやすいとされています。なお、Flusherについては、飲酒を始めた若い頃についての問診が必要です。(6)のメラノーシス(図1)は、淡い褐色・黒色調を呈するメラニン色素の沈着で、軟口蓋や咽頭にも観察されるため内視鏡の挿入時から注意してください。(7)はヨード染色を用いた食道の精密検査歴がなければ不明ですが、通常光観察や画像強調内視鏡(image-enhanced endoscopy, IEE)観察でも、慢性的な炎症を有する食道粘膜であるか否かは判定可能です。

次に、内視鏡検査時の、食道がん発見のポイントを示します。

【食道がん発見のポイント】
(1)唾液や粘液を水洗して、吸引する
(2)通常光観察で、発赤、白濁、血管網不明瞭、光沢の変化、陥凹や隆起に気を付ける
(3)IEE併用観察で、brownish areaを捉える
(4)生理的狭窄部(食道入口部,食道胃接合部)や心臓,左主気管支による壁外圧迫,前壁は観察困難となる
(5)脱気観察がbrownish areaの視認性を向上させる

(1)の唾液や粘液を水洗、吸引することは、最も基本的ですが、非常に重要です。(3)にも挙げていますが、実際の観察では、通常光観察よりIEE観察時に、病変に気づくことが多いと思います。食道扁平上皮癌発見におけるIEE観察の有用性は明らかであり、brownish areaと呼ばれる茶色調の領域に気を付けながら観察を行います4)。Narrow band imaging (NBI)やBlue LASER imaging(BLI)などのIEE観察は、胃内視鏡検診としての必要性は明らかにされていませんが、咽頭・食道病変に対しては、必須とされています。(4)の生理的狭窄部や心臓、左主気管支による壁外圧排の肛門側は死角になりやすいですが、食道の前壁側(12時方向)も接線方向での観察となるため、意識的に注意して観察する必要があります。(5)のbrownish areaの観察には、脱気した方が有利とされます5)。微小血管の密度がより高くなるとともに,周囲の正常扁平上皮が厚みを増すことにより白色が強調され,病変部のbrownish areaとのコントラストが強くなることで、視認性が向上します。

ここで気を付けて欲しいのは、brownish area様に見えるものがすべて「がん」ではないことです。菲薄化した扁平上皮や粘膜表層の剥離、炎症性変化なども限局した茶色領域に見えます。扁平上皮が限局性に菲薄化すると、上皮直下毛細血管網(subepithelial capillary network, SECN)6)と称される上皮下に存在する血管網が透見されやすくなるため、遠景でbrownish areaとして認められます(図2)。食道がんでは、上皮乳頭内血管(intra-epithelial papillary capillary loop, IPCL)の拡張、蛇行、口径不同、形状不均一の所見が認められるため7)、血管パターンの相違によって、非拡大観察でも鑑別は十分可能です。スコープの接触などによる粘膜表層の剥離は、一定の確率で起きてしまうので、食道がんリスクが高い症例の場合、挿入時よりIEEで観察して、抜去時に通常光観察を行うようにしています。以前、IEE観察が始まった頃は、brownish area様の変化を「がん」と鑑別できず、盛んに生検が行われました。最近は、内視鏡医の眼も慣れてきたので、「がん」との鑑別がある程度可能ですが、なかには紛らわしい場合もあり、IEE拡大観察での精査が必要となります。このような病変に対して、ヨード染色は有用ですが、粘膜障害作用があるため、表層部が脱落して非腫瘍性上皮が被覆し境界が不明瞭になることがあります。このため、可能な限り、ESD直前の観察まで、ヨード染色は使用しないことが望まれます。生検時の注意としては、特に小病変の場合、生検によって脱落することを考慮して、辺縁部より小さく採取することが重要です。

この後は、最近、検診や人間ドックなどのスクリーニング内視鏡検査で食道がんが発見され、当院でESDを行った具体例を紹介します。(当日は、紹介元から送付いただいた画像も提示しましたが、本稿では、当院の内視鏡画像のみ掲載します)。

1例目は、70代男性です。毎年、紹介元の人間ドックで内視鏡検査を受けていましたが、今回、胸部中部食道に約半周性の病変を認め、生検で扁平上皮癌(SCC)と診断され紹介いただきました。嗜好歴は、喫煙歴37年、日本酒1合/毎日で、フラッシャーでした。切歯より28cmの左壁側に、わずかな発赤がみられますが、通常光観察での視認はやや困難です(図3a)。NBIでは茶色調の類円形病変の同定が容易となりますが、その周囲にも淡いbrownishな領域がみられました(図3b)。濃い茶色調を示す部分の拡大観察では、日本食道学会分類7)のType B2血管が認められ、ループ状の血管形態が崩れて蛇行する所見がみられました(図3c)。この所見から、深達度MM/SM1と診断しました。紹介元でヨード染色は行われておらず、ESD直前が初めてのヨード染色であったため、病変の境界が明瞭でした。周囲には淡染が多発して、いわゆる「まだら食道」の様相でした(図3d)。ESD後の病理診断はMt,type 0-IIc,33×21mm,SCC(mod),pT1a(M3),Ly1(D2-40),V0(EVG),pHM0,pVM0で、リンパ管侵襲陽性のため、追加の化学放射線治療を要しました。発見の1年前に紹介元で実施された内視鏡画像を見直すと、左主気管支の裏側に病変が隠れて認識ができなかった可能性が考えられました。

2例目は、60代男性で、紹介元で定期的に人間ドックを受けていました。今回、経鼻内視鏡検査が実施され、鼻腔より30cmに6mmのbrownish areaを認め、生検では、suggestive intraepithelial neoplasia of low gradeの診断で、精査のため紹介いただきました。嗜好歴は、喫煙歴なく、ビール350mlを2回/週で、フラッシャーは不明でした。当院で内視鏡再検しましたが、病変は通常光観察では指摘困難ですが(図4a)、NBIでは境界明瞭なbrownish areaを示し(図4b)、ESDの方針としました。近傍には菲薄化した扁平上皮を認めました(図4b,白矢印)。ESD直前のNBI拡大観察では、IPCLは、Type B1に相当しました(図4c)。病理診断は、Mt,type 0-IIb,6×5mm,SCC(mod),pT1a-LPM,Ly0,V0,pHM0,pVM0で、腫瘍表層部は分化していますが、深層1/2は細胞異型と不規則な上皮突起を認め、基底層型SCCの所見でした(図4d)。経鼻内視鏡検査用の細径スコープでも、NBIを併用して、小さな段階で発見可能であった貴重な病変でした。

当日は、この2症例の他に6例提示し、下咽頭癌や頸部食道癌の併存例もありました。これらの部位は、病変の発見が内視鏡的に困難であり、梨状陥凹周囲はスコープ挿入時に、頸部食道はスコープ抜去時に、慎重な観察が必要です。特に食道がんリスク因子を有する症例に対して重点的に行ってもらいたいです。最後に、本日のまとめですが、以下の点に注意して内視鏡検診を行っていただきたいと思います。将来的には、AI支援下診断も期待されますが、食道がんの拾い上げ診断に関しては、まだ実用化には至っておらず、検査医の意識の高さが、早期発見に直結するものと考えております。

【まとめ】
1.NBI/BLIなどのIEEは積極的に利用する
2.観察困難部位では、NBI/BLIでも発見できない
3.リスク症例は、より丁寧な観察を心がける
4.可能な限り新しい機種で観察した方が、画質が鮮明で、病変の発見が容易

文献

1)新潟市医師会胃がん検診検討委員会:令和2年度胃がん内視鏡検診成績.新潟市医師会報650, 25–30, 2025.

2)新潟県立がんセンター新潟病院ホームページ,新潟県がん登録室,新潟県のがん罹患率(令和2年標準集計)https://www.niigata-cc.jp/center/statR02.html

3)横山顕:食道扁平上皮癌の危険因子と頭頚部・胃を含むfield cancerization.日消誌115: 868–880, 2018.

4)Muto M, et al: Early detection of superficial squamous cell carcinoma in the head and neck region and esophagus by narrow band imaging: a multicenter randomized controlled trial. J Clin Oncol 28: 1566–1572, 2010.

5)Iwatsubo T, et al: Narrow band imaging under less-air condition improves the visibility of superficial esophageal squamous cell carcinoma. BMC Gastroenterology 20: 389, 2020.

6)熊谷洋一,他:食道表在癌の拡大内視鏡診断─食道学会分類を検証する,SECNの意義.胃と腸53: 1335–1341, 2018.

7)Oyama T, et al: Prediction of the invasion depth of superficial squamous cell carcinoma based on microvessel morphology: magnifying endoscopic classification of the Japan Esophageal Society. Esophagus14: 105–112, 2017.

図1 軟口蓋のメラノーシス

図2 菲薄化した扁平上皮、NBI観察でSECNが視認される

図3 食道がん症例(1例目);通常光観察(a),NBI観察(b,c),ヨード染色(d)

図4 食道がん症例(2例目);通常光観察(a),NBI観察(b,c),ESD検体・組織像(d)

(令和7年12月号)

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