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新潟市医師会報より

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5-FU系抗がん剤治療強度の個別化とAI統合による精密医療の展望

新津医療センター病院 腫瘍センター長
宗岡 克樹

1.はじめに

がん治療は近年、画一的なアプローチから個別化医療へと大きく転換している。このパラダイムシフトの背景には、腫瘍の分子プロファイルだけでなく、患者の全身状態や薬物代謝能力といった宿主側因子を包括的に考慮する必要性が認識されてきたことがある。「患者の全身状態」とは、年齢、生活の自立度(ADL)、他の疾患(糖尿病や心不全など)の有無などを指し、治療への耐性を大きく左右する。「薬物代謝能力」は主に肝臓・腎臓による薬剤処理の能力であり、またDPD酵素などの遺伝的な分解能の差も含まれる。5-フルオロウラシル(5-FU)は大腸癌、胃癌、膵癌などの消化器癌治療において基幹薬剤として広く用いられているが、その薬物動態には大きな個体差が存在する。特に、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)活性の個人差が5-FUの代謝に大きく影響し、DPD欠損患者では重篤な副作用を引き起こす可能性がある。本稿では、5-FU治療における治療強度の個別化について、宿主・腫瘍側因子の動的モニタリングとAI統合の観点から詳細に考察する1)。

2.5-FU治療の現状と課題(大腸癌)

従来の体表面積(BSA)に基づいた投与量設定では、症例の68%が過少投与、17%が過剰投与となることが報告されている2)。BSAに基づいた投与量設定は、患者の身長と体重だけで薬剤量を決定するが、同じBSAであっても薬の体内動態には大きな個体差がある。このため、実際には過少・過剰投与となるケースが多い。この不正確さは、治療効果の低下や重篤な副作用の発生につながる重大な問題である。特に高齢者やフレイル患者では、標準的な化学療法に対する耐容性が低く、適切な投与量調整が求められる。肝機能障害を有する患者の場合、ビリルビン値やAST/ALT値に応じて投与量を75%または50-75%に減量する必要があるが、その基準は必ずしも明確ではない。これらの課題に対処するためには、患者個々の特性に応じた精密な治療戦略が不可欠である。

3.宿主側因子の動的モニタリング(表1)

NLR(好中球リンパ球比)は、簡便な血液検査で得られる値で全身の炎症状態や免疫力を示す指標である。CEAやCA19-9は腫瘍マーカーとして広く使われている。これらを時系列で追うことで治療の反応や経過をより多面的に評価できる。「NLR/TMベクトル」とは、これら多様な指標を組み合わせて、患者ごとに治療効果や変化を動的(時間経過を追って)にモニタリングする手法である。宿主側因子の評価において、NLRは極めて有用なバイオマーカーである。NLR値2.5以下の期間は全生存期間と強い相関(相関係数0.888,p<0.001)を示し、この値を超える前にレジメン変更を行うことが予後改善に寄与する。一方、NLRが5を超えてから介入した症例では予後が極めて不良であった3)。VES-13(Vulnerable Elders Survey-13)4)は高齢患者の脆弱性を評価する簡便なツールで、NLRと有意な相関(相関係数0.62)を示す3)。これらの指標を組み合わせることで、患者の全身状態を多面的に評価できる。

4.腫瘍側因子の評価と統合的アプローチ

腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)は治療反応を評価する上で重要な指標であるが、再発時に必ずしも上昇しない症例も存在する。RECIST基準に基づく画像評価は客観的ではあるものの、腹膜播種などの検出には限界がある。そこで注目されるのが「NLR/TMベクトル」の概念で、宿主側と腫瘍側の因子を統合的に評価することで、より正確な治療効果の判定が可能となる3)。このアプローチは、従来の静的な評価を超え、時間軸を考慮した動的な治療戦略の構築を可能にする。

5.治療薬物モニタリング(TDM)の臨床的有用性(表2)

5-FUの至適AUC(Area under the Curve)は20-25mg・h/Lの範囲にあり、この値に基づいた投与量調整が治療成績を大きく改善させる。FOLFOX療法における大腸癌の成績では、TDMを実施した群では奏効率が63%(非TDM群33%)、全生存期間中央値が34ヶ月(非TDM群14ヶ月)と顕著な改善が認められた。注目すべきは、TDM群ではAUCが高値にもかかわらず、Grade 3以上の副作用発生率が非TDM群と同等であった点である。これはTDMが過剰投与を効果的に回避し、治療効果と安全性の両立を可能にすることを示唆している2)。

6.フレイル患者に対する適応型治療戦略

フレイルとは「加齢や持病によって心身の予備力が低下し、治療ストレスに対する耐性が弱まった状態」を指す5)。臨床現場ではVES-13質問票などを使い、患者の機能的自立度や脆弱性を評価する。フレイル患者に対しては、S-1やCapecitabineの隔日投与が有効な選択肢となる。このアプローチは、投与量を減らすのではなく投与頻度を調整することで、ピーク濃度を維持しつつ総曝露量を制御する。臨床研究では、隔日投与によりGrade3以上の有害事象が減少し、治療継続率が向上することが確認されている。VES-13スコアやNLRの動的モニタリングにより、患者の状態に応じて治療強度を柔軟に調整できる点が大きな利点である6)。

7.AI統合による治療最適化の可能性(表3)

AIは、患者情報・検査値・画像・遺伝子データといった多角的な情報を統合し、治療の効果予測や副作用リスク判定、最適な投与スケジュールの提案などで医療者を支援する。「説明可能性」とは、医師がAIの出した結論を理屈として追えること(ブラックボックスでないこと)を意味している。AI技術は、宿主側・腫瘍側因子の多次元データを統合し、個別化治療をさらに進化させる可能性を秘めている。強化学習アルゴリズムを用いたCURATE.AIは、個々の患者の薬物反応に基づいて投与量をリアルタイムで最適化するシステムである。AIモデルは、NLRやVES-13の時系列データから治療効果や毒性を予測し、最適な介入タイミングを提案できる。さらに、ゲノムデータや画像情報を統合することで、より精密な個別化治療が可能となる。

8.臨床実装における課題(表4)

AIを臨床現場に導入するには、いくつかの重大な課題を克服する必要がある。まず、電子カルテや検査データなどの異なるシステム間でのデータ統合と標準化が不可欠である。次に、AIアルゴリズムの説明可能性を高め、医療従事者がその推奨を理解・検証できるようにする必要がある7)。また、高齢者や特定の人口集団に偏らない、多様性に富んだデータセットの構築が求められる。倫理的観点からは、患者の自律性を尊重し、AIが支援ツールとして機能する枠組みの確立が重要である。

9.今後の展望

今後の研究開発では、大規模前向き臨床試験によるAIモデルの検証が急務である。特に、多施設共同研究により、AIの一般化可能性を評価する必要がある。また、説明可能なAI(XAI)の開発を通じて、医療従事者と患者の信頼を得ることが重要となる。治療効果だけでなくQOLを含む複合的なアウトカムを最適化するアルゴリズムの開発も今後の課題である。これらの取り組みを通じて、AIは従来の治療ガイドライン8)を超えた、真に患者中心の個別化医療を実現する強力なツールとなるだろう。

10.結論

5-FU治療の個別化には、宿主・腫瘍側因子の動的モニタリングとTDMが不可欠である。AI技術はこれらのデータを統合し、治療効果と毒性のバランスを最適化する新たな可能性を開く。臨床実装には技術的・倫理的課題が残るものの、大規模検証とXAIの開発を通じて、より精密で患者中心の医療が実現されると期待される。個別化医療の新たなパラダイムとして、AI統合型アプローチはがん治療の未来を切り開く重要な役割を果たすであろう。

個々の患者背景に即した治療方針決定は、今後のがん化学療法で不可欠になると考えられる。AIを含むITの力を活用することで、日常臨床でも一層の最適化・効率化が期待される。

文献

1)J H Beumer, Edward Chu, K Muneoka et al. Therapeutic drug monitoring in Oncology: IATDM Recommendations for 5-Fluorouracil therapy doi:10.1002/cpt.1124

2)Muneoka K, Shirai Y, Sasaki M, Honma S, Sakata J, Kanda J, Wakabayashi H, Wakai T. Individual dose adjustment of 5-Fluorouracil based on pharmacokinetic monitoring may improve the outcome of FOLFOX for metastatic colorectal cancer. Jpn J Cancer Chemother. 2016; 43:323-326.

3)Muneoka K, Shirai Y, Sasaki M, Honma S, Sakata J, Kanda J, Wakabayashi H, Wakai T. The changes in the neutrophil-to-lymphocyte ratio can predict the timing of chemotherapeutic regimen alteration in patients with metastatic colorectal cancer. Jpn J Cancer Chemother. 2017; 44:1001-1005.

4)Camerio F, Sousa N Azevedo LF : Vulnerebility in elderly patients with gastrointestinal cancer –translation, cultural adaptation and validation of the European Portugeses version of the Vulnerable Elders Survey(VES-13) BMC Cancer. 2015; 15:723.

5)Geriatric assessment and management with a question prompt list using a web-based application to reduce treatment toxicity in older patients with cancer: A randomized controlled trial (J-SUPPORT 2101 study).(ASCO 2025)

6)NAOKI ODAIRA, JUNKICHI KANDA, MASATAKA SASAKI, KATSUKI MUNEOKA, Alternate-day S-1 Oral Therapy for Frail Patients With Metastatic Colorectal and Pancreatic Cancer In Vivo 2025 Jun 27;39(4):2441–2448. doi: 10.21873/invivo.14044

7)Yamaguchi K, Yoshida J, Mizusawa J et al. A phase III trial to confirm the superiority of S-1 adjuvant chemotherapy for vulnerable elderly patients with pathological stage II/III gastric cancer after curative resection: JCOG1507 (BIRDIE). Journal of Clinical Oncology Volume 36, Number 4_suppl

8)Guideline preparation committee for the elderly in cancer. Clinical practice guideline for the elderly in cancer 2022. https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001418/4/the_elderly_in_cancer.pdf (accessed July 31, 2025)

表1 主要なモニタリング指標とその臨床的意義

表2 5-fluorouracil dose adjustment(Group TDM)

表3 AIモデルによる治療強度調整に必要なデータ要素

表4 主要なデータ駆動型治療強度調整試験の比較

(令和8年2月号)
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