新潟大学大学院医歯学総合研究科 放射線医学分野 教授
石川 浩志
1.はじめに
肺癌は本邦におけるがん死亡の第一位を占める重要な疾患である。なかでも頻度の高い肺野型肺癌は早期には症状を呈さず、早期発見、早期診断のためには画像診断が重要である。肺野型肺癌は基本的には肺野の結節影・腫瘤影を形成する。肺の結節性病変は薄層CT上の内部濃度に基づき、すりガラス型、部分充実型、充実型に分類できる。このうち、すりガラス型、部分充実型は肺癌であれば腺癌が強く示唆される。腺癌は肺癌のなかでも頻度が高く、特に肺野型では圧倒的に多いため、その画像所見の理解は重要である。充実型結節の場合には、内部濃度だけでは腺癌と非腺癌の鑑別は困難である。すりガラス型の肺癌と充実型の肺癌では増大速度が異なり、経時変化を加えた画像評価が鑑別診断に有用である1,2)。また、肺癌は一般的に18F-fluorodeoxyglucose(FDG)PET/CTで高集積を呈するが、すりガラス型の肺癌や部分充実型の肺癌のすりガラス成分には集積が乏しい場合が多い。以上が肺野型肺癌の画像診断の基本的事項であるが、実際の画像所見は多彩、多様であり、良性疾患に類似する場合も多い。それらはある程度パターン化され、肺癌の画像診断におけるピットフォールとして知られている。本稿では、そのような肺癌に焦点を絞って解説する。
2.非典型的な肺癌の画像所見
代表的なものとして、浸潤影、索状影、石灰化、嚢胞状、境界明瞭・辺縁平滑な類円形、などが挙げられる。以下、順に解説する。
1)浸潤影
胸部X線写真で広範な浸潤影を呈するような肺癌として浸潤性粘液性腺癌がよく知られている。浸潤性粘液性腺癌はかつて粘液性細気管支肺胞上皮癌と呼ばれていたものである。KRAS遺伝子変異を有する率が高く、EGFRの変異は少ないと言われている。原発性肺癌の2-10%を占め、肺癌の発見頻度の高さを考慮に入れると決してまれとは言えない。その名の示す通り粘液産生を特徴とし、周囲の肺胞腔が豊富な粘液で満たされるため、画像上浸潤影を呈しやすく、まずは肺炎と診断されやすい(図1A,B)。あとで振り返ると肺炎としては経過が緩徐である場合が多いため、初期評価の段階で画像経過を把握できればより早くこの疾患を疑えることになる。膵癌など、消化器癌の肺転移が同様の画像所見を呈する場合があるため、病歴も重要である。悪性腫瘍では他に癌性リンパ管症や悪性リンパ腫が肺のびまん性陰影を呈しうる。
浸潤性粘液性腺癌は経気道性に広がりやすいことで局所治療が制限されることから、一般的には予後不良である。しかし、局所にとどまり結節状を呈していれば術後の予後は比較的良好である(図2A,B)3)。その場合、薄層CTでは非粘液性の一般的な腺癌と比べると健常肺との境界が不鮮明あるいは小葉間隔壁により直線状を呈する2)。また、非粘液性の腺癌と比べると経過が速く、炎症としては経過が遅いことが画像でこの疾患を疑う手がかりとなる。また、充実型結節を呈する場合でも、一般的な肺癌と比較するとFDGの集積は低い傾向にある。
2)索状影
肺癌、特に腺癌では、炎症性瘢痕あるいは陳旧性炎症性変化に類似した索状影や線状影を呈する場合がある。特に薄層CTで外に凸の成分や索状影の周囲を縁取るようなすりガラス影がみられる場合は腺癌の可能性を疑う必要がある(図3A,B)。しかし、薄層CTでみられるようなすりガラス成分は単純X線では認識できない場合も多いことから、単純X線での索状影や線状影の評価には十分な注意を払う必要がある。
また、単純X線では腫瘍に伴う胸膜陥入像や腫瘍の末梢側に生じた部分無気肺が腫瘍本体より目立つ場合がある4)。肺癌のリスクのある状況では、陳旧性炎症としては少しでも違和感のある索状影・線状影や過去画像との比較で変化のみられる索状影、線状影については安易に良性と判断せず、CTを追加するなど慎重な対応を心掛けた方が賢明である。
3)石灰化
良性を強く示唆する石灰化のパターンとして、びまん性石灰化、中心部石灰化、リング状石灰化、層状の石灰化、ポップコーン状石灰化が知られている2)。逆に、結節の内部に石灰化がみられてもこれらに当てはまらない場合には慎重な判断が必要である。肺癌自体が石灰化を産生する場合(図4A,B)や、肉芽腫等の既存の石灰化が肺癌に取り込まれる場合がありうる。また、骨肉腫など石灰化や骨化を伴う肺転移巣はびまん性石灰化パターンを呈しうる。既往歴の把握は重要であり、さらに過去画像がある場合には可能な限り比較したほうが無難である。
4)嚢胞状
単純X線よりCTで問題となることの多い所見である。肺癌と診断された病変を過去に遡ってみると嚢胞状を呈していることはまれではない。肺癌CT検診での解析では、最初に見逃された癌の22%が嚢胞に関連していたと報告されている5)。そのような状況を踏まえ、American College of Radiologyが低線量肺癌検診のガイドラインとして提唱しているLung CT Screening Reporting and Data System (Lung RADS)では、atypical pulmonary cystが肺癌の可能性のある嚢胞として2022年版より記載されている。Atypical pulmonary cystには壁の厚い(2mm以上の)嚢胞、多房性嚢胞、壁在結節を伴う嚢胞が該当し、経過観察等の対応をとるように推奨されている(図5A,B)。壁の薄い(2mm未満の)嚢胞は精査や経過観察の対象とはされていない6)。
5)境界明瞭・辺縁平滑な類円形
神経内分泌腫瘍(小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、カルチノイド)の中で最も低悪性度に位置づけられているカルチノイドは良性の特徴ともいえる境界明瞭、辺縁平滑な類円形結節を呈する場合がある。増大速度も比較的緩徐な傾向にあり、好発年齢も通常の肺癌と比べると若いことから、良性腫瘍である過誤腫や硬化性肺胞上皮腫との鑑別が問題となる2,4)。良性石灰化パターンや脂肪が存在する場合には過誤腫と診断することは可能であるが、そうでない場合には、それらの鑑別は困難となる。カルチノイドと硬化性肺胞上皮腫はいずれも内部が良好に造影されることが知られており、画像所見が類似する2)。カルチノイドはFDGの集積も充実型結節を呈する一般的な肺癌と比較すると弱い傾向があるため注意を要する。
腎癌や甲状腺癌などの肺転移は増大速度が緩徐な傾向があることが知られているため、特に多発している場合には鑑別診断として重要である。もちろん病歴に関する情報は重要である。
3.おわりに
画像所見が非典型的で、単純X線やCTで一見良性のように見える肺癌として、浸潤影、索状影、石灰化、嚢胞状、境界明瞭・辺縁平滑な類円形を呈する場合について実際の症例を交えて解説した。CTでの精査や経過観察は被ばくの低減の観点から一律に推奨できるものではないが、本稿で述べた非典型的な肺癌の画像所見のパターンが日常診療において注意すべき症例を見極める手掛かりとなれば幸いである。
本稿は、2025年2月15日に開催された「胸部X線フィルム読影勉強会」における講演「良性に見える悪性病変・悪性に見える良性病変」の内容の一部を再編したものである。
文献
1)石川浩志:小型肺腺癌とすりガラス影、新潟県医師会報849:2-7,2020.
2)石川浩志:04各種病態の画像診断、腫瘍性病変、CTによる肺野結節の診断の基本、胸部画像診断の勘ドコロNEO(編集 髙橋雅士)、第1版、株式会社メジカルビュー社、東京都、152-165、2023.
3)Watanabe H, Saito H, Yokose T, et al. Relation between thin-section computed tomography and clinical findings of mucinous adenocarcinoma. Ann Thorac Surg, 99: 975-81, 2015.
4)石川浩志、山崎元彦、八木琢也、他:【胸部X線診断再入門─症例から学ぶ読影法─】13.肺結節・腫瘤影の読影のポイントは?、画像診断43:S125-S136,2023.
5)Scholten ET, Horeweg N, de Koning HJ, et al. Computed tomographic characteristics of interval and post screen carcinomas in lung cancer screening. Eur Radiol, 25:81-8, 2015.
6)Christensen J, Prosper AE, Wu CC, et al. ACR Lung-RADS v2022: Assessment Categories and Management Recommendations. J Am Coll Radiol, 21:473-488, 2024.

図1 70歳代女性。浸潤性粘液性腺癌。

図2 60歳代女性。浸潤性粘液性腺癌。

図3 60歳代男性。乳頭型腺癌。

図4 50歳代男性。扁平上皮癌。

図5 60歳代男性。充実型腺癌。
(令和8年2月号)