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新潟市医師会報より

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ドネペジル経皮吸収型製剤の使用経験

本田脳神経外科クリニック 理事長
本田 吉穗

日本の高齢化率は世界最高水準となっている。高齢化に伴い、認知症・MCI(Mild Cognitive Impairment、軽度認知障害)の患者は次第に増加している1)2)。

65歳以上の要介護者の介護が必要になった疾患の中では認知症が18.1%と最も多い3)。認知症は進行性に増悪する疾患であり、健常者→SCI(Subjective Cognitive Impairment、主観的認知障害)→MCI→軽度認知症→中等度認知症→重度認知症と進行するが、MCIの状態から平均で年間約10%が認知症に進展すると言われている。根本的に治す治療法は無いが、適切な治療を行い認知症の進行を遅らせることは、要介護の状態になるのを遅らせる点で意味がある治療と言える(図1)。

従来の認知症の診断基準は、米国精神学会のDSM-IV-TRによると、記憶障害があり、失語・失行・失認・実行機能障害のどれか一つ以上があり、かつ日常生活に支障がある事とされている。従って社会生活や日常生活に支障が無い症例は認知症とは診断されない(図2)。

運転免許更新時の認知症診断がかかりつけ医に求められているが、この書類の認知症は介護保険法第五条の二「国及び地方公共団体は、認知症(脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態をいう。)に対する国民の関心及び理解を深め、認知症である者への支援が適切に行われるよう、認知症に関する知識の普及及び啓発に努めなければならない。」に規定されるものであるので、日常生活に支障がなければ認知症と診断しないで良い点は注意を要する。

認知症の原因疾患として、アルツハイマー型認知症が最も多く、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などその他の認知症の順に多いが4)、各々の合併を疑われ、病期による症状の変化もあり明確に分類できないことが多い。また、臨床分類は病理学的な分類による統計とは異なっている(図3)5)。

生前に認知症を呈し、剖検で中等度~高度のアルツハイマー病(AD)の病理変化を認めた1839例の神経変性病理および血管病理の年齢別の合併頻度をみると、純粋なADは稀である(図4)6)。

1984年のNINCDS-ADRDA(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke AD and Related Disorders Association)による臨床診断基準では、ADを臨床症状と他疾患の除外により診断していたが、ADでは髄液中のtotal tauが上昇し、Aβ42が低下し、p-tau 181が上昇している事が次々に判明。2004年にはアミロイドPETで老人斑が検出されるようになった。2011年のNIA-AA(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association)による臨床診断基準では、言語、視空間認知、遂行機能の障害など非健忘症状が初期から目立つ例に関し言及。ADを臨床症状に加え、バイオマーカーを考慮した診断が必要と提唱された。その後、タウPETで神経原線維変化も検出されるようになり、2018年のNIA-AAによる研究用診断基準では、研究領域ではADを臨床症状によらず、バイオマーカーで定義すべきと提唱された。2023年にADに対する抗Aβ抗体薬レカネマブが、2024年には抗Aβ抗体薬ドナネマブが保険収載され、Aβを髄液あるいはPETで確認することが抗Aβ抗体薬治療に必須となっている(図5)。

AD病理によるMCIの状態で抗Aβ抗体薬をなるべく早期から使用する事が望まれるが、アミロイドカスケード仮説によると、MCIのおよそ20年前からアミロイド病理が始まり、神経炎症を惹起し、タウ病理が始まり、神経変性から神経脱落を生じMCIそして認知症へと進展すると考えられるので、MCIの段階で抗Aβ抗体薬による治療を開始しても根治的な治療では無く、進行を遅らせることはできても完治を望める訳ではない(図6)。

認知症を疑われる患者に対しては、病歴聴取、身体的・神経学的検査が施行され、甲状腺機能低下症など認知機能低下の原因となり得る内科的疾患を除外し、神経心理学的検査で認知機能を評価し、診断確定のために必要なら脳血流検査等が施行される。そのように診断と治療方針が決定されてきたが、現在はMCI~軽度認知症の患者に対しては抗Aβ抗体薬治療を見すえてAβ病理の有無の検査が必要になっている。

認知症の臨床診断には画像診断は必須ではないが、慢性硬膜下血腫、脳梗塞や脳出血に伴う脳血管性認知症の鑑別診断を行う必要があるので、画像診断を一度はすべきであると考えられる。脳血流検査も認知症診断には有用で、ADやDLB(レビー小体型認知症)に特徴的な血流低下が確認される場合もある。

MCI~早期認知症に対しては、Aβ病理が確認されれば、抗Aβ抗体薬による治療という選択肢があるが、この段階で病院を受診する患者はまだまだ少なく、中等度以上の認知症の状態で病院を受診する患者が圧倒的に多いのが実情である。従って、従来からある症候改善薬による治療が認知症治療の主体となっている(図7)。

症候改善薬には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンという3種類のコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンというNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体拮抗薬があり、まずコリンエステラーゼ阻害薬の中から選択した1剤で治療を開始し、中等度以上の認知症に対してはNMDA受容体拮抗薬が併用される。

コリンエステラーゼ阻害効果は、ドネペジルが最も強く7)最初に試みるべき薬剤と考えられる。

コリンエステラーゼは生体内において、単量体、2量体、4量体と3種類の形で存在しアルツハイマー病の脳では可溶性の単量体が多く、大脳皮質に50%、海馬に17%、線条体に1%の割合で存在している。コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンは単量体選択的阻害があり、他の2剤にはこの選択的阻害が無い。このため、ドネペジルとガランタミンでは脳幹部の4量体の阻害により睡眠障害が、尾状核の4量体の阻害により錐体外路症状が副作用として生じる可能性があり注意を要する8)。ドネペジル、ガランタミン使用例で興奮、不穏、不眠、錐体外路症状が出現した場合、薬剤の副作用を疑い、中止するか他剤への変更を検討すべきであると考える(図8)。

2023年4月から、ドネペジル経皮吸収型製剤のアリドネパッチが薬価収載され使用できるようになった。ドネペジル5mg錠に相当するアリドネパッチ27.5mgと、ドネペジル10mg錠に相当するアリドネパッチ55mgの2剤形がある。ドネペジル錠の初期投与量は3mgで1~2週間の投与の後、5mgの維持量投与となるが、アリドネパッチ27.5mgは経皮吸収型製剤でゆっくり血中濃度が上昇するので、初回からドネペジル5mg錠に相当する量を長期処方可能である。血中濃度はゆっくり上昇し約2週間で安定し、内服薬と異なりピークとトラフのない安定した血中濃度の維持が可能である9)。貼付剤のため、最も多い副作用は皮膚症状であるので、同一部位への反復貼付を避ける必要がある(図9)。

軽度および中等度アルツハイマー型認知症を対象とした、ドネペジル内服薬との二重盲検試験でドネペジル錠に対する非劣性が確認されている。いっぽう、サブ解析ではMMSE(Mini-Mental State Examination)10~20のアルツハイマー型認知症では認知機能の変化に差は認められなかったが、MMSE20~26のアルツハイマー型認知症ではドネペジル経皮吸収型製剤の優位性が確認され、軽度アルツハイマー型認知症に対しての有用性が示唆される(図10)10)。

2024年4月~2025年7月で、49例(男性15例、女性34例)、70歳~101歳(平均年齢83歳)に対しドネペジル経皮吸収型製剤を使用した。

貼付剤の場合、副作用としての皮膚症状の発現が最も問題となる。コリンエステラーゼ阻害薬の貼付剤にはリバスチグミンがあるが、副作用としての皮膚症状の発現頻度が多く、継続使用できなかった症例を多く経験している。いっぽうアリドネパッチでは、皮膚症状の発現頻度が比較的少なく、皮膚症状が出現したとしても、保湿剤やステロイド軟膏による保存的治療で継続投与が可能な症例が多かった。

アリドネパッチは水で濡れてしまうと継続使用は困難になる。従って連日スイミングに行くような患者では他剤への変更が必要になった。また、デイサービスで入浴がある場合、リバスチグミンは貼付したままの入浴が可能であるが、アリドネパッチでは入浴時の貼り替えが必要になった。自分から貼付剤を剥がしてしまう例、貼付剤の管理を認知症患者自身に任せてしまい継続投与が困難な例が認められた。嘔気、食欲不振で継続できなかった例は1例だけ経験したが、この1例はドネペジル錠でも同様の副作用の認められた例である。

アリドネパッチの水を浸透させる点が、皮膚呼吸を阻害しない事につながり、皮膚症状が少ない事につながっていると考えられる。

経口製剤に対する貼付剤の利点として、使いやすさ、投薬状況の視覚的確認が可能、維持容量に持って行くのに漸増の必要性が無い点などがあげられ、ドネペジル経皮吸収型製剤は皮膚症状の副作用も比較的軽度であり使いやすい抗認知症薬と考えられた。

令和7年7月18日(金)
第285回 臨床懇話会にて特別講演

参考文献

1)厚労省研究班「認知症及び軽度認知障害の有病率な並びに将来推計に関する研究」

2)「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(九州大学)

3)「高齢社会白書 令和4(2022)年版」内閣府

4)厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 平成23~24年度総合研究報告書:2013

5)日本神経学会(監修):認知症治療ガイドライン2017 第1版 医学書院 2017;p237(CQ7-1)

6)Beach TG, et al. J Alzheimers Dis 2021

7)Bruno Pietro Impimbo ; Pharmacodynamic-Tolerability Relationships of Cholineesterase Inhibitors for Alzheimer’s Disease. CNS Drugs 2001 ; 15(5) : 375-390.

8)Inglis F, et al. Int J Clin Pract Suppl 127: 45-63, 2002.

9)Oertel W, et al. Rationale for transdermal drug administration in Alzheimer disease. Neurology. 69(4) S4-S9.

10)軽度及び中等度アルツハイマー型認知症を対象とした非劣性試験及び継続投与試験(承認時評価資料):興和株式会社

図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

(令和8年5月号)

  • < 新潟市の大学生を対象とした10年間にわたる4回のアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査結果の検討
  • 死後超音波診断(その1) >
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