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新潟市医師会報より

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死後超音波診断(その1)

新潟大学大学院医歯学総合研究科 法医学分野 医学部准教授
舟山 一寿

私は日常の検案において、携帯型の超音波画像診断装置(エコー)を死因診断の一助として使用しています。本稿では、検案にエコーを使用する意義と、エコーによって得られる死因に関連する所見について、実例を交えて概説します。

なぜ検案にエコーを使用するのか

東京都立広尾病院で発生した医療過誤事案(ヒビテン・グルコネート液をヘパロックに誤使用)の最高裁判決(平成15年(あ)第1560号)において、「死体の検案とは、死因を判定するためにその死体の外表を検査すること」と判示されました。しかし、検案を行う事例では病歴や死亡前の経過が不明確な場合も多く、外表検査のみで正確な医学的死因を判断することは、実際には困難であるのが実情です。

2013年3月10日の朝日新聞では“死因の「記載不正確」2割”という報道がなされましたが、これは個々の検案医の問題というよりも、死因究明制度の構造的な制約に起因するものと考えられます。すなわち、警察等が取り扱った死体の解剖率は全国平均で約10%とされており、新潟県ではさらに低く約5%程度にとどまっています。このように、医学的な死因検索が十分に行われない現行制度自体に問題の根源があるといえます。

そのような現状を少しでも改善すべく、2013年4月1日より「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(死因・身元調査法)」が施行されました。同法第5条に基づき「死亡時画像診断」を実施することができるようになり、通常はCTを用いて行われています。ただし同法に基づいて行われるため、CTの要否を最終的に判断するのは警察などの捜査機関であり、医師にその権限は基本的にありません。また警察庁は同法に対して「病死であることが判明すれば、具体的な病名まで明らかにする必要はない」と解釈するとしており、警察が必要と判断した一部の事例にのみCTによる死亡時画像診断が行われているのが現状です。またCTを撮影する場合は、死後のCT撮影が可能な施設までご遺体を搬送する必要が当然ながらありますので、日常の検視・検案において、CT実施の一つの制約要因となっている現状があります。

そのような我が国の十分とは言えない死因究明制度のもとで、現場で検案医ができる画像検査としてエコーが有用ではないかと考え、死体に対するエコー検査(死後エコー)を行うことにしました。私は本学の法医学分野に2008年4月より所属しておりますが、当時は既に日本大学法医学分野准教授(現・東京医科大学法医学分野主任教授)の内ヶ崎西作先生が死後エコーを行っていたため、内ヶ崎先生が使用していた携帯型エコー「SonoSite 180」をお借りして、翌5月より検案と解剖において死後エコーを開始しました。その後は病院で廃棄される据置型エコーを解剖室に譲り受け、解剖例に死後エコーを行い解剖所見との対比をすることで診断精度の検証を行いました。携帯型エコーは当初高価で導入が困難でありましたが、2010年に比較的廉価な機種が発売されたことを契機に、2011年2月にSIEMENS社製「ACUSON P10」を購入しました。購入した直後の2011年3月に発災した東日本大震災では日本法医学会から検案のために岩手県に派遣されましたが、その際に携帯型エコーを持参して検案を行いました。2018年よりGEの「Vscan Extend」を購入し現在まで検案に使用しています。

実は携帯型エコー「SonoSite 180」は警察官が検視に使用するために、2009年に各都道府県警に1台ずつ配備されました。警察大学校などで検視官などの警察官に対して講義や実技指導が行われ、内ヶ崎先生や私も数年間携わったのですが、現在は行われておらず、携帯型エコーを実際に使用した検視は行われていないようです。

死後エコーで何がわかるのか

死後にエコー検査を行うことで何が評価できるのかについては、『救急医学』の拙稿1)にまとめてありますので、ご参照いただければ幸いです。

基本的には液体の貯留の有無が死後エコーで評価可能です。しかしながら検案で死後エコーを行う場合には、死因を示唆する所見を得ることが目的となりますので、例えば小さな腎嚢胞が単発していることがわかっても、死因に直結しないためあまり有用な所見ではありません。『外傷初期診療ガイドラインJATEC』における迅速簡易超音波検査法であるFAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)2)は、心嚢腔・胸腔・腹腔内の出血の有無を迅速に検索する超音波検査法です。死後エコーにおいても、FASTに準じた手技を用いて心嚢腔・胸腔・腹腔内の液体貯留の有無を検索します。なおエコーフリースペースが認められた場合には、通常の検案でも行われる穿刺・吸引によって、貯留している液体の性状(血液・漿液)を確認しています。エコーフリースペースが画面の中央になるようにプローブの位置と角度を調整し、プローブを外したところにその位置と角度で穿刺をすれば、針を液体貯留部位に誘導することが可能です(プレスキャン法によるエコーガイド下穿刺)。音響窓が制限されプローブをそのように調整できない場合や、左心血の採取を行う目的など針先の位置をピンポイントで誘導したい場合には、エコーのビーム面に沿って穿刺をすることで、針先の位置をリアルタイムで確認しながら穿刺することも可能です(長軸平行法によるエコーガイド下穿刺)。

ここからは死因の根拠となる所見の具体例をお示しします。まずは体腔内の出血ですが、心膜腔への出血で生じる心嚢血腫は、日常の検視において死後エコーによって診断が容易になる代表的な病態であり、日常の検視においてしばしば遭遇します。2025年に私が検案を行った294例中8例(2.7%)に心嚢血腫が認められました。

実際の症例を提示します。48歳の男性、仕事中に顔面蒼白になり病院を受診し、心エコーで大動脈起始部拡張・大動脈弁逆流・心肥大を指摘され、ACE阻害薬を内服し1ヶ月後に改善なければ手術も考慮と説明されていましたが、4日後に布団内で死亡していました。死後エコーの左心室短軸像で心臓周囲を取り囲むリング状の等エコー域とさらにその周囲にエコーフリースペースが認められました(図)。これは死後エコーにおける心嚢血腫の典型的な画像所見であり、死後CTにおいてもhyperdense armored heart3)と呼ばれる同様の所見が心嚢血腫で認められることが知られております。これは心膜腔に流出した血液が心臓周囲に膠着するように凝血塊を形成し、時間経過とともに血腫内の血清が周囲に漏出するためだと考えられます。そのためエコーガイド下穿刺にて針先を周囲のエコーフリースペースに誘導し吸引すると、血性液が吸引されることが多いです。しかしながら死亡してから間もない場合は、血腫内で溶血がそれほど生じていないため、血腫から漏出する血清に血色素があまり混入せず、心嚢血腫であってもエコーフリースペースに貯留している液体は黄色~褐色の漿液であることがあり、本当に出血があるかどうか判別できない場合があります。18ゲージの穿刺針であれば、リング状の等エコー域内に針先を誘導し強く吸引すると、シリンジ内や穿刺針の内腔に凝血塊を確認できることが多いです。心嚢血腫が生じてしまうと急激に意識が消失すると考えられるため、私の経験例では、椅子に座ったまま、歯磨き中、料理中、電話中、シャワー浴中、動画視聴中など日常生活が突如として中断された状況で発見されることが多いという印象を持っています。(次回の警察医研修会に続きます。)

令和7年12月23日(火)
第9回 警察医研修会にて講演

文献

1)舟山一寿:【丁寧に,死と向き合う 患者死亡時に必要な知識と対応】死因究明のためにできること・すべきこと 死後画像診断の活用 超音波検査.救急医学,49巻5号:586-591,2025.

2)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第6版編集委員会:外傷初期診療ガイドラインJATEC.改訂第6版,へるす出版,東京,61-62,2021.

3)Shiotani S,Watanabe K,Kohno M,Ohashi N,Yamazaki K,Nakayama H:Postmortem computed tomographic (PMCT) findings of pericardial effusion due to acute aortic dissection.Radiat Med,22:405-407,2004.

図 心嚢血腫の死後エコー画像(左室短軸像)
左心室(LV)を取り囲むリング状の等エコー域(↔)の周囲にエコーフリースペース(*)を認める。

(令和8年5月号)

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