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新潟市医師会報より

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最近の肺癌に対する外科治療

新潟県立がんセンター新潟病院 呼吸器外科
青木 正

はじめに

最近肺癌の外科治療においてもその手技や切除範囲の決定、周術期薬物治療など長期にわたる研鑽の結果で治療方法が進歩してきた。本稿ではこのような進歩に乗り遅れないように日常診療を変化させてきた当科の取り組みを紹介する。

肺癌に対する胸腔鏡手術

肺癌手術治療(主に肺葉切除)において、従来の後側方開胸による大開胸直視下手術に代わる手技として胸腔鏡を用いる手術が主流となっている。導入当初こそ胸腔鏡で胸腔内を照らして術者は小開胸創より直視して手術を行っていた。筆者は2009年に胸腔鏡から得られた画像をモニター視のみで行う完全鏡視下手術を導入した。手術参加医師が限られるなか他病院が三人(術者、助手、スコピスト)で行う完全鏡視下手術をカメラ持ちを器械に任せて二人で行えるように工夫した。しかし導入当初はごく早期の肺癌で分葉良好や左肺上葉切除を除くなど解剖学的にも制限を設けていたので症例数はそれほど多くなかった。2016年当科で3D画像を採用したことで原発性肺癌に対する胸腔鏡手術1、2)が主流となり(図1)、当科の手術の90%以上を占めるようになった(図2)。

3D画像による胸腔鏡手術がここまで増えた理由としては、モニター越しの画像が術者目線なので両手の操作が自然に行えることや胸腔内の奥行きが分かるので血管剥離操作や運針にストレスが無くなったことが大きいと感じている。また術野を術者と助手で共有できるので手術指導や教育にも役立っている。完全鏡視下手術では肋骨切断を必要としないので患者さんにとっても痛み、肺機能、QOLの点でメリットがあると感じている。当科では原発性肺癌は術後8日目に退院するクリニカルパスを使用しているが、開胸時代にはほとんど全例で退院時に鎮痛薬の処方が必要であったが、完全鏡視下手術ではその処方が必要なくなった。また肺機能は術後三か月目および六か月目の回復が有意に良好(図3)で、術後QOLの回復にも役立っている3)。

肺癌診療ガイドラインでは臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌の肺切除において胸腔鏡手術は強く推奨されているが4)、当科では肺門部操作の可能な大きな肺腫瘍5)や肺尖部浸潤肺癌6)や気管支形成術を必要とするような高難易度手術7)にも完全鏡視下手術を導入している。

最近小型肺癌の手術治療においては区域切除が積極的に用いられるようになった8)、区域切除では肺葉切除よりは肺容量を温存できてリンパ節郭清も肺葉切除同様にできる。適応の詳細については事項を参照していただきたい。

当科では転移性肺腫瘍や多発肺癌の術式として消極的に区域切除を適応していたが、小型肺癌の積極的適応として区域切除が有力候補となると完全鏡視下手術で区域切除が行えるように準備した(図4)。区域切除を正確に行うには、切除区域に流入する肺動静脈と区域気管支の正確な同定が欠かせない。まずは肺動静脈の正確な同定のために2018年にシナプスビンセントを導入した(図5)。肺動静脈を3D画像化して切断される肺動静脈の同定や腫瘍の切離縁までの距離を測定可能とし、術前から術者と助手で情報を共有した。2019年にはICG蛍光システムを導入して術中に残すべき区域を可視化した(図6)。さらに2020年には術中気管支鏡を導入して術野とともに気管支内腔からも気管支を同定してより安全確実に区域切除が可能になるように工夫した。2022年に原発性小型肺癌の区域切除のエビデンスが確定してからこれらの術前術中手技を用いて区域切除を行い2025年には区域切除全例を完全鏡視下手術で行った。なお、原発性肺癌に区域切除を導入するにあたり区域切離面が二面存在する複雑区域切除では肺胞ろう(肺切離面からの空気漏れ)や肺炎膿胸といった肺関連有害事象が多かったという報告があり、当科では複雑区域切除は積極的に導入しておらず区域切除の三割に留まっている。

肺癌縮小手術のエビデンス

肺癌外科治療においては標準手術とされる肺葉切除に対して切除する肺容量を減じた楔状切除や区域切除を縮小手術と位置付けている。これまでも縮小術は肺葉切除に耐えられない症例や複数回手術となる多発肺癌に対して本術式を消極的適応として行ってきた。一方で当科も参加している日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)肺がん外科グループでは、2センチ以下の小型肺癌に対する診断と治療(主に手術術式)に関するエビデンスの確立に努めてきた9)。本グループでは、胸部CTで観察される腫瘍の全体径(Tumor)と腫瘍内部の充実部分の大きさ(充実径:Consolidation)の比で表されるC/T比(Consolidation/Tumor Ratio)に注目していた(図7)。胸部薄切CT所見に基づく肺野型早期肺癌に対する縮小切除の検証的非ランダム化試験(JCOG0804)でC/T比が0.25以下の腫瘍は悪性度が低く区域切除より小さな楔状切除で良い予後が得られることを証明した10)。なお、現在ではこのような腫瘍は経過観察も可能ではないかとの臨床試験も行っている(胸部薄切CT所見に基づく早期肺癌に対する経過観察の単群検証的試験:JCOG1906)。

次いでC/T比が0.25以上の症例で、肺野末梢小型非小細胞肺癌に対する肺葉切除と縮小切除(区域切除)の第Ⅲ相試験が計画された。試験途中で、胸部薄切CT所見に基づく肺野型早期肺癌の診断とその妥当性に関する研究(JCOG0201)の結果11)が判明してC/T比0.5以上に変更された。1000例を予定した世界最大規模となる術式比較試験の結果が2022年に公表された。区域切除は肺葉切除と同等の生存割合を示し、2cm以下C/T比0.5以上の症例で区域切除が標準術式と認知された8)。一方で局所再発割合は区域切除のほうが高いことや前項で記載したように区域切除、特に複雑区域切除では肺有害事象が多いことも報告された12)。したがって当科では一律の基準ではなく腫瘍個々の性状や局在により術式を決定している。

バイオマーカーを考慮した肺癌周術期治療

肺癌周術期治療としては、術後に補助治療として細胞障害性抗がん剤が使用されることが一般的で術前治療として有効なものは限られていた。癌領域で治療に役立つバイオマーカーが様々開発され、肺癌周術期治療も大きく変化した。2020年代に入りそれまで切除不能肺癌にしか使用できなかった薬物が周術期治療に使用可能になった13)。現在肺癌周術期では日常診療としてEGFR遺伝子、ALK融合遺伝子、PD-L1(Programmed cell Death ligand 1)が活用されている。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は術後補助治療として細胞障害性抗がん剤とともに、ALK阻害薬は単独で術後補助治療に用いられる。PD-L1阻害薬(免疫チェックポイント阻害薬)は術後補助治療に細胞障害性抗がん剤とともに用いられ、特にPD-L1高発現で効果が高い。PD1(Programmed cell Death 1)阻害薬は術前後に使用可能であり、やはりPD-L1高発現でより効果が高い4)。しかし、これらの薬剤は効果もあるが有害事象も発生することが知られている。有害事象の対策も進歩しているが、その管理には緻密さや多職種で関わることが必要であり当院では呼吸器内科が担当している。また免疫チェックポイント阻害薬による術前治療で恩恵を受ける患者がいる一方で、術前治療中に病状の進行で手術不能となる患者や薬物治療による有害事象により手術拒否患者が合計8%位いること14)、術前治療が奏功したことで手術部位に存在する転移リンパ節が瘢痕化して剥離操作など手術の困難さが増す患者がいる。そして非常に効果があった症例では、各種画像で陰影が残存していても切除標本に癌が無いことを経験する15)。このような症例を手術前に知ることができて不必要な手術を回避できることが好ましいと考える。

最後に

当院で行っている最新の肺癌外科治療について概説した。今後もがん診療連携拠点病院として肺癌患者さまに安全な最新の外科治療を提供するとともに新しいエビデンスの構築の一助を担って行きたい。

令和8年2月7日(土)
胸部X線フィルム読影勉強会にて特別講演

文献

1)青木 正,佐藤 哲彰,岡田 英,他:肺癌に対する完全鏡視下肺葉切除 県立がんセンター新潟病院医誌,56巻,p.109–110,2017年.

2)岡田 英,青木 正,吉谷 克雄:3D胸腔鏡による完全鏡視下肺葉切除の経験 日本呼吸器外科学会雑誌,30巻,3号,2016年.

3)Aoki T., Tsuchida M., Hashimoto T., et al: Quality of life after lung cancer surgery: video-assisted thoracic surgery versus thoracotomy. Heart Lung and Circulation, 16(4), p.285–289. 2007.

4)池田徳彦:肺癌診療ガイドライン2024年版,金原出版,東京都,2024年.

5)田中 博,岡田 英,青木 正:左下葉摘出時に切離した肋骨による術後肺損傷 胸部外科,76(5),p.366–369,2023年.

6)岡田 英,田澤 勝幸,青木 正:第1肋骨を含む胸壁合併切除が必要な原発性肺癌に対するtransmanubrial approachを併用した胸腔鏡下肺切除 肺癌,63巻,562,2023年.

7)岡田 英,田澤 勝幸,青木 正:Nivolmab併用術前化学療法後に鏡視下に気管支形成を伴う肺葉切除を行った原発性肺腺癌の1例 日本呼吸器外科学会雑誌,38巻,3号,2024年.

8)Saji H., Okada M., Tsuboi M., et al: Segmentectomy versus lobectomy in small-sized peripheral non-small-cell lung cancer (JCOG0802/WJOG4607L): a multicentre, open-label, phase 3, randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet, 399(10335), p.1607–1617, 2022.

9)日本臨床腫瘍研究グループ.https://jcog.jp/assets/pdf/LCSSG_202401.pdf

10)Yoshino I., Moriya Y., Suzuki K., et al: Long-term outcome of patients with peripheral ground-glass opacity–dominant lung cancer after sublobar resections. J Thorac Cardiovasc Surg. 166(4), p.1222–1231.e1, 2023.

11)Asamura H., Hishida T., Suzuki K., et al: “Radiographically determined noninvasive adenocarcinoma of the lung: survival outcomes of Japan Clinical Oncology Group 0201” J Thorac Cardiovasc Surg. 146(1), p.24–30, 2013.

12)Suzuki K., Saji H., Aokage K., et al: Comparison of pulmonary segmentectomy and lobectomy: Safety results of a randomized trial. J Thorac Cardiovasc Surg. 158(3), p.895–907, 2019.

13)Felip E., Altorki N., Zhou C., et al: Adjuvant atezolizumab after adjuvant chemotherapy in resected stage IB–IIIA non-small-cell lung cancer (IMpower010): a randomised, multicentre, open-label, phase 3 trial. Lancet, 398(10308), p.1344–1357, 2021.

14)Forde P.M., Spicer J., Lu S., et al: Neoadjuvant Nivolumab plus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer. N Engl J Med. 386(21), p.1973–1985, 2022.

15)岡田 英,青木 正,吉谷 克雄:免疫チェックポイント阻害薬治療後に再燃を疑って完全鏡視下肺葉切除を行った経験 日本呼吸器外科学会雑誌,33巻,3号,2019年.

図1 3D対面 スコープ固定 術者助手ともに3D眼鏡を着用して対面側にあるモニターを観ている

図2 原発性肺癌手術数と開胸方法

図3 開胸法別肺機能変化率(ΔFVC%)

図4 原発性肺癌区域切除数と開胸方法、システム変遷

図5 SYNAPSE VINCENT画像

図6 ICG蛍光システム 切除部には血流がないので着色されない

図7 CTR(Consolidation/Tumor Ratio)

(令和8年7月号)

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  • 新潟市における病床機能、役割分担の解明と医療提供体制の検討 >
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