新潟大学医歯学総合病院 患者総合サポートセンター
新美 奏恵、猪又 孝元
はじめに
現在の超高齢化社会に対応した医療提供体制の構築は、持続可能な社会保障制度を検討、確立する上で重要な課題である。地域医療構想は2025年の医療需要を見据え、地域の医療関係者との協議を通じて病床を高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに機能分化させ、それぞれを連携させる取り組みであった1)。さらに、医療機関の役割分担や将来の方向性を検討するにあたり、客観的な評価方法のひとつがこの4つの病床機能区分を用いた病床機能報告データである2)。これは各医療機関の自主的な選択に依る報告が基になるため、主観的かつ病棟を単位とし、各医療機関の経営判断に用いやすいという側面を持っている。一方で、診療報酬点数算定などの医療資源投入量による区分は客観的な検討が可能であるものの、患者の状態によって日ごとに区分が変わるという側面も持っている。平成30年には埼玉県はこれら双方のデータを用いた医療提供体制分析を行っており3)、その後多くの自治体の医療提供体制分析のモデルとなっている4,5)。本研究では埼玉県方式に準じて新潟市における病床機能、役割分担の解明と医療提供体制の検討を行った。
対象データ
厚生労働省が公開した令和4年度病床機能報告6)を基に、新潟市内の許可病床8,016床のうち、特殊性の強い周産期・小児・緩和ケア、精神科病棟などを除外した6,977床である。
結果
1)病床機能区分と稼働率
対象とした6,977床を病床機能報告の4機能区分に入院料や診療科による区分を組み合わせ、令和4年度1年間の病床稼働率を検討した(表1)。その結果、最も稼働率が高かったのは地域包括ケア病床の111.3%であった(病床数301床)。それに対し、最も稼働率が低かったのは回復期リハビリ病棟の65.9%(病床数705床)であった。
2)入棟・退棟患者の病棟別患者構成割合を用いた主成分分析
病床機能報告で報告されている各病棟における入退院経路の患者構成割合に着目し、主成分分析(principal component analysis; PCA)を実施した。PCAは多変量解析の手法のひとつであり、相関関係のある変数を効率的に統合した上で、全体のばらつきを最もよく表す主成分と呼ばれる変数を合成する。本研究では第1主成分は、サンプル全体から最も多くの情報を含む、入退棟経路情報を統合した新しい評価指標ということができる。次いで第2主成分、第3主成分…と続けて主成分が合成される。主成分分析の結果、13の入退院経路にかかわる要素は5つに分類できた(表2-1)。また、主成分分析の結果は、それぞれの主成分が示す病棟の特徴を以下のように捉えることができた(表2-2)。
第1主成分:入棟経路は家庭または施設からの患者受入れが多く、退棟は退院先が家庭、他施設、または医療の終了となるケースが多かった。このことから、予定された医療の提供と終了を担っている病棟と考えられた。
第2主成分:入棟経路は家庭からの入院がマイナス要因として影響する(家庭からの入院は少ない)一方、退棟経路は各種施設への退院が多い特徴があった。このことから、病状の変化による患者受け入れと、それに応じた施設への転院が主な病棟の役割と考えられた。
第3主成分:入棟経路は介護施設・福祉施設からの入院や他の病院、診療所からの転院が多い特徴があった。一方、退棟経路は院内の他病棟への転棟や治療終了が多く、他院や診療所への転院はマイナスの要因として影響が強い(他院や診療所への転院は少ない)特徴があった。このことから地域からの受入れと、提供する医療の変化や終了への対応が主な役割の病棟であると考えられた。
第4主成分:入棟経路は他の病院、診療所、介護医療院からの受入れが多く、退棟経路は他の病院、診療所、介護医療院への退棟が多いという特徴が明らかとなった。このことから病棟としては病院と施設・介護医療院との間の往復的な連携を担っていると考えられた。
第5主成分:入棟経路は院内の他病棟からの受入れが主となっており、退棟経路は同じ病院内での転棟や介護医療院への入院が多いという特徴があった。このことから病棟として院内の他病棟や地域との連携が病棟の主な役割であると考えられた。
これら特徴と考えられる主な役割から、新潟市内の病棟は①予定された医療の提供、②病状の変化に応じた施設への転院対応 ③地域からの受入れおよび、提供する医療の変化や終了への対応、④病院と施設・介護医療院との間の往復的な連携、⑤院内の他病棟や地域との連携、の5つの主な機能に分類することができた。特に、高度急性期病棟は①、②、急性期病棟は①~③、回復期および慢性期病棟は③~⑤の機能を担っていることが示唆された。
3)主に回復期を担う病床の入退院経路の分析
1)の研究において回復期リハビリ病棟と地域包括ケア病棟の間に稼働率の差が大きかったことから、主に回復期を担う病床の入退院経路の分析を行った。対象は、令和4年度病床機能報告の算定する入院基本料・特定入院料等の状況において地域包括ケア病棟入院料1-4、回復期リハビリテーション病棟入院料1-5いずれかを算定した病棟の1,353床である。1年間の入棟患者のうち、①他の医療機関から入棟の割合、②他の医療機関へ転院の割合、③病院以外(介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護医療院、社会福祉施設・有料老人ホーム等)に入所の割合、④家庭へ退院の割合を算出し、その関連性を検討した。結果を図1に示す。
地域包括ケア病棟は、検討した病棟全てにおいて他の医療機関からの入棟の割合が10%以下の病棟が多くを占めた。退院先は他病院への転院は全ての病棟において10%以下であった一方、病院以外に入所の割合は数パーセントから約60%、家庭への退院は数パーセントから約90%と幅広い分布を認めた。
回復期リハビリ病棟は、検討した病棟全てにおいて医療機関からの入棟が多い群と少ない群の二極化が見られた。退院先は地域包括ケア病棟と同様に他病院への転院は全ての病棟において10%以下であった一方、病院以外に入所の割合は約数パーセントから約60%、家庭への転院は約50%から90%と地域包括ケア病棟より高い割合を示した。
考察
本研究では、新潟市における病床の稼働状況および入退院経路に関するデータを用い、評価を行った。
病床機能区分と病床稼働率の検討では、病床を病床機能区分に入院料や診療科による区分を加えて検討したところ、地域包括ケア病棟では病床稼働率が100%を超えていた一方、回復期リハビリ病棟では65.9%となっていた。このことは、地域で必要とされる病床数と提供されている病床機能が合致していないことを示唆している。しかしながら、これは病床の数のみではなくそれに対応するスタッフ数の不足、リハビリ以外の医療処置が必要な患者が多い、など他の要因も影響している可能性が考えられた。
入棟・退棟患者の病棟別患者構成割合を用いた主成分分析では、13の入退院経路にかかわる要素は5つに分類できた。それぞれ①予定された医療の提供、②病状の変化に応じた施設への転院対応、③地域からの受入れおよび、提供する医療の変化や終了への対応、④病院と施設・介護医療院との間の往復的な連携、⑤院内の他病棟や地域との連携を担う病床、に分類することができ、病棟機能を評価する新たな有用な指標になり得ると考えられた。また、これは患者の高齢化などにより一つの病棟が複数の機能を持って稼働している事が示唆され、同じ病床機能区分においても多角的な方面から機能を検討する必要があると考えられた。
主に回復期を担う病床の入退院経路の分析では、回復期リハビリ病棟では、他院からの入棟割合により病棟間で他院からの入棟割合が高い群と低い群に分類されることが明らかとなった。他院からの受入が低い群に対しては、受け入れ態勢の工夫によってポストアキュートの機能(急性期治療後の回復支援)をより充実できる可能性が示唆された。
本研究では、各病棟を病床機能報告の4機能区分に入院料などの客観的な区分を加えて検討することができ、高度急性期、急性期、回復期ケア、慢性期病床が新潟市内でどのようにより連携していけるかという議論の必要性を示すことができたと思われる。その一方で、本研究の限界は各病院のスタッフ数や患者の医療依存度などは反映できていないこと、検討に用いたデータが令和4年度のものであり、その後現在までの医療提供体制の変化を反映できていない点にある。今後は本研究で示した令和4年度のデータから現在までの病床機能区分や医療資源投入の変化なども検討していくべきと考えられる。
厚生労働省はすでに2040年に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見を発出しており7)、今後急速に進む人口構造の変化に対応した医療・介護複合ニーズに対応できる病床の効率的な利用を可能とするような議論を進めていくべきと思われる。
本研究は令和6年度新潟市医師会地域医療研究助成事業(支援番号GC04520241)の助成により行われた。
参考文献
1)厚生労働省.地域医療構想について https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000686050.pdf.(2025年7月31日)
2)厚生労働省.病床機能報告 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055891.html.(2025年7月31日)
3)厚生労働省.埼玉県地域医療構想 病床機能報告データ等を用いた医療提供体制分析 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000210766.pdf.(2025年7月31日)
4)愛媛県.病床機能報告の分析ツール(定量的な基準)について https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/17235.pdf.(2025年7月31日)
5)千葉県.平成30年度 病床機能の見える化に係る検討状況 https://www.pref.chiba.lg.jp/kf-matsudo/shingikai/iryoukousou/documents/h30dai3shiryou2no3.pdf.(2025年7月31日)
6)厚生労働省.病床機能報告令和4年度病床機能報告の報告結果について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/open_data_00011.html.(2025年7月31日)
7)厚生労働省.新たな地域医療構想に関するとりまとめの概要 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001360724.pdf.(2025年7月31日)

表1 入院料や診療科による区分と、病床機能報告を考慮した令和4年度新潟市の許可病床数と病床稼働率

表2-1 主成分分析による入棟・退当経路の患者構成割合の各主成分に対する影響要因

表2-2 各主成分の入棟・退当経路に関する特徴とそれによって考えられる主な役割

図1 主に回復期を担う病床の他医療機関からの入棟と退院経路の割合の分析
(令和8年7月号)