勝井 豊
アメリカのリンカーン大統領は「人民の、人民による、人民のための政治」の必要性を唱え、ケネディ大統領は、国家が国民に何をしてくれるかを考えるのではなく、国民が国家に何をできるかを考えるべきだと、演説していたように記憶しています。国民自身が政治の当事者であり、原動力であるとの趣旨だと思います。
この対極にあるのが、某国の政府がおっしゃる「お神輿理論」ではないでしょうか。65歳以上の高齢者はお神輿に乗せてもらっており、それを担いでいるのが65歳未満の若年者であるとのことで、給付と負担が完全に分離しているとの前提があるようです。私自身はこの理論には、高齢者に対する偏見と誤解があるように感じています。公務員の方で退職後は完全に引退してしまう人もいるかもしれませんが、一般的には定年後も何らかの形で働いている人のほうが多いように思います。
特に開業医は自分自身の体力や能力に合わせた診療を通じて、地域医療に関わっている場合が多いために、65歳を過ぎても現役の医師が大半を占めているように見受けます。当院の場合も平成2年に開業して以来の長いお付き合いのある患者さんもおられますが、「高齢者の、高齢者による、高齢者のための医療」という側面もあるように思います。このような場合には、医師が引退する頃には高齢の受診者も施設に入所するなどして通院しなくなる可能性があるので、医療の需要と供給のバランスが取れやすい面があると考えています。
年金についても、若い人達が掛金として納めたものを高齢者が年金として頂いているとの説明を受けてきましたが、実は自分たちが納めたものを原資として給付を受けているとの前提があって、制度が成り立っているのではないでしょうか。お神輿に乗せてもらっている人は極わずかで、大半の人は家族におんぶをしてもらったり、杖をつきながらも自分自身の足で歩いているように思えます。
(令和元年7月号)