高橋 美徳
猛烈な勢力に発達した台風19号:アジア名ハギビスは史上最高の降雨量で231の河川を氾濫させ、死者・行方不明者合わせて100人近い大被害をもたらした。台風15号、17号、19号、21号のもたらした農林水産被害額は1700億円を超え、今後さらに多くなる見込みだ。近年日本を襲う台風の数が多く、雨量も増えてきていると感ずるのは私だけではないだろう。報道各社が記録的な大雨予想が出されたため、「命を守る行動を取るように」と緊迫感を強く伝えていたと思うのだが、被害を受けた方たちの口からは「まさかこれほどとは思わなかった」との言葉がこぼれてきた。天災には私達人類が抗いようのない激しさがある。
去る9月、国連の「気候行動サミット」でスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが将来を担う世代の代表として演説した。地球温暖化による気候異変が世界中で起こっており、それが人類の関与による温室効果ガス排出が原因であることは、多くの科学者が認めているところだ。「今、排出ガス削減の行動を起こさない政治家は、子供世代を裏切り、その権利を侵害している」と訴えた。会場は拍手に包まれたが、表情と語気の強さに驚いた聴衆も多かったのではなかろうか。喉元にナイフの切っ先を突きつけて、脅迫かと思えるほど激しく伝えなければ、老練な大人たちにはぐらかされてしまうからだろうか。最も痛いところを突かれた各国代表者は、問題の本質からグレタさんの持つ障害や背景に目先を変えさせ、彼女は誹謗中傷にさらされてしまうことになった。
日本大会の3試合がラグビーワールドカップ史上初めて悪天候のため中止された。中止引き分けにより決勝トーナメント出場を逃してしまう可能性のある代表チームが、「ワールドラグビーに対し法的措置も辞さない」とした発言が物議を醸した。一方で「ラグビーは人命に関わる災害の前には些細なこと」と批判を一蹴した超人プレイヤーがいた。ホスト国の一員として救われた気がした。日本チーム勝利後のインタビューで真っ先に語られた台風被害者を思いやる言葉は、飾り気はなかったが強く胸に響いた。
同じ内容を話しても、受け手にうまく伝わるときと伝わらないときがある。相手を慮り、使う言葉、伝え方に気をつけたいと思う。
(令和元年12月号)