高橋 淑子
オリンピックイヤーの幕が開けた。
生きているうちに最後になるであろう日本での開催を心待ちにしてはいたものの、チケット争奪戦に参加しなかったのはなぜだろうかと考えてみると、昨年6月に開業したという個人的な事情にもよるが、構想の段階であまりにも暗闇の政治的介入を目にしてきたからだろうか。ここ30年間の夏の開催にも嫌気がさしているし、多額のコストや経済効果に対する懐疑的な心情がそうさせているのかもしれない。
耳を疑ったマラソンの開催地の変更には、開いた口がふさがらなかった。この事実に対しては、自分のなかでも消化できていないし、アスリートをはじめとした関係者の困惑はいかほどのものなのかと心を痛めている。
筋書きだらけのオリンピックではあるが、「スポーツに筋書きは不要」という言葉を改めて感じさせてくれた昨年のラグビーワールドカップの時のように競技は純粋に楽しみたい。
個人的に注目しているのは、競歩の鈴木雄介選手である。現時点で男子20km競歩の世界記録保持者でありながら、約3年に及ぶ故障に苦しみ、復活したものの本職の20kmでは記録が伸びず、昨年初挑戦した50kmの日本新記録を樹立した。続けて酷暑の中、ドーハの世界選手権で金メダルを獲得し、東京オリンピックの代表に内定した。
もう一人は、パラリンピックを目指す卓球の別所キミエ選手だ。御年72歳で「バタフライマダム」の愛称を持つ。金髪に派手な髪飾りでプレーする存在感たっぷりの実力者で、前回のリオパラリンピックでは5位に入賞している。元々車いすプレーヤーだが、2年前に2度の交通事故と右脚骨折が重なり、昨年復帰したばかりだ。
県内出身者では、世界ランキング8位で新発田市出身のやはりパラリンピックを目指す卓球の美遠さゆり選手にも内定を勝ち取ってほしい。そしてなんといっても男子マラソンの服部勇馬選手には、悔いのない走りを願っている。
過去の栄光、怪我、挫折、孤独、恐怖、努力、復活、目標の全てがつまっているアスリートたちに最大限のエールを送りたい。
(令和2年1月号)