黒田 兼
我が家に15歳の雄のラブラドールレトリーバーがいる。これまで腫瘍のため4回手術を受けた。ゴールデンウイークに15歳の誕生日を迎えた頃は元気であったが、その後再発が見つかり急激に状態が悪化した。一時は覚悟を決めたがその後奇跡的に快復し、今のところなんとか小康を保っている。しかしほぼ寝たきりになってしまい、自力で立ち上がることはもはや不可能。日に日に弱っていく老犬の介護に翻弄されている。
さて旧三越の向かい側のピザ屋さんは我が家のお気に入りである。本誌で紹介されたことのあるお店で、一度ここのピザを食べると、チェーン店のピザを食べたいとは思わなくなる。数年前の12月、犬の散歩で店の前を通りかかると、クリスマス用オードブルセットのお知らせが掲示してあった。犬を座らせて読んでいると、お店の方が出てきて詳しく説明してくれた。その後クリスマスの時期だけでなく度々テイクアウトしている。先日このお店のピザを食べようということになり、家に持ち帰った。クワトロフォルマッジという、4種のチーズがたっぷりのったピザのケースを開けたときのこと。犬小屋のそばで死んだようにぐったり寝ていた犬が突然目をひん剝いて顔を上げ、立ち上がるのを手伝ってくれとジタバタしだした。ちょっと手伝ってやると立ち上がり、よろめきながらもピザの方へ直行。幼い頃から食べ物をもらうときの姿勢としてしつけられていた「お座り」をしっかりするのだ。斯くして私のクワトロフォルマッジは彼の胃袋に納まった。
このピザ屋さん、三越の閉店と新型コロナウイルスの影響が重なり大変らしい。以前「わたしの好きな店」で紹介したその近くのフランス料理店のご主人も、お客さんが全然来ないと言っていた。そのお店がテイクアウトを始めた。ピザ屋さんとセットで数回注文した。お店でおすすめのワインを飲みながら、というのも良いが、自宅リビングで横になる老犬の様子を見ながらおいしい料理を頂く、というのも今は心穏やかで心地よい。
(令和2年7月号)