浅井 忍
中国は、春節の前日の1月23日に人口1100万人の武漢市をロックダウンした。中国全土の人が集まる場所を公共・民間を問わず閉鎖し、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の封じ込めに成功した。中国を「隠蔽により初動が遅れ、ウイルスをばらまいた、情報があてにならない」というマイナスの面のみでとらえるべきではない。
新型コロナウイルスは12月31日に武漢市で確認され、1月3日にはワクチン株が分離され、1月7日に国連に提供されたという。中国が感染の中心だった頃は、強権的なロックダウンやテクノロジーによる人々の行動監視システムに対し、人権のない国だからできると揶揄されたが、その後は多くの国で中国方式を取り入れた。
突貫工事でコンテナ病院が建設され、5Gを用いた通信システムによる遠隔診断が行われ、医療用ロボットが体温測定や消毒、医療品の運搬を行った。PCR検査なしでもCT画像から新型コロナを診断してもよいとし、アリババ・グループが、CT画像から20秒で診断するシステムを作り、その的中率は96%だという。3月上旬までに中国の160の病院で採用された。
2月11日、アリババ提供の行動監視アプリ「ヘルスコード」が杭州で導入された。感染の危険性が赤・黄・緑で表示され、緑であれば自由に行動ができ、黄は1週間、赤は2週間の自宅待機が義務づけられる。日本の厚生労働省が「新型コロナウイルス接触確認アプリ」を提供したのは6月19日。腹立たしいくらい遅い。中国では多くの企業が新型コロナ対策に協力した。決済アプリ「アリペイ」に、医療関係者に相談できる無料医療相談機能が設けられた。中国のIT企業は、武漢市の医療関係者に宿泊施設を提供し食料を手配し無料送迎を行うなど、無償で協力を行った。中国では人々は政府を信用していない。医師をはじめとする医療人と企業を信用したのである。
中国での感染が落ち着き、感染が世界に広がると、中国はこれを機にとばかりに、感染拡大国に救援物資を送るマスク外交を展開した。まったくもってしたたかである。
4月22日、武漢市が解放された。市民は「ヘルスコード」で管理されている。5月中旬には観光地の70%が再開した。最近では、6月28日に北京郊外で感染者が出ると、政府は50万人が住むその地区をロックダウンした。単純明快な中国の新型コロナ対策から、引延し作戦をとる日本は学ぶことがある。
(令和2年8月号)