細野 浩之
今年は、夏を告げる風物詩となりつつあった「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」が、新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止されてしまいました。2018年に始まったこのイベントは、6月末から9月いっぱい開かれている夏の静かなイベントです。夕暮れ時の美しいひと時、おいしい空気の中、緑のきれいな広々としたやすらぎ堤の芝生の上で、テントやタープやランタンの灯のもと、楽しく飲んだり、話したりできる屋台が並ぶイベントです。河川を生かしたにぎわいづくりの先進例として、国土交通省の「かわまち大賞」を受賞しました。晴れて、早く帰宅できる日は、ちょっと遠回りして、やすらぎ堤を通りながら、ビール一杯飲んで、夕暮れを楽しんでいこうかな…。気軽に、屋台でビールを頼んで芝生や椅子に座って、ゆっくり流れる信濃川の河面とだんだんと輝いてくるビルのライトや街灯を眺めるのが夏のあいだの小さな楽しみでした。
先日、ちょっと遠回りしてやすらぎ堤を通った時、ビールが飲めなくて残念。屋台もなく、テントもタープもなく、ランタンの影や人影もなく、寂しいのかなと思っていましたが、今年は制服の高校生がたくさん、しかもちゃんと間隔を保って集まっていました。トランペットやサックスを吹いていたり、友達とだべっていたり、カップルが楽しそうに話し込んでいたり。春は休校が続き、ようやく学校が始まって「学校楽しみだなぁ」と行ってみたら、体育祭もない、修学旅行もない、学園祭もない、インターハイもない、夏休みもない、ないないづくしになって。三密を避けるようにと指導され、友達同士集まることも禁止され、学校でも閉塞感漂っているであろう中、夕暮れの水辺のコロナウイルスのいない、きれいな空気の芝生の上で楽しそうに過ごしていました。今年は、ビールもつまみもいらない、テントもタープも飲食店もいらない、酔っ払いも大声で騒ぐおやじもいらない、高校生のための「ミズベリング」でした。「来年はおっさんがビール飲む場所として芝生貸してね」と高校生にそっとお願いして、通り過ぎるのでした。
(令和2年9月号)