大橋 美奈子
昨年の12月15日から、6歳未満に対して乳幼児感染予防策加算が認められた。小児科診療所には、毎日数十人が発熱などで訪れる。子供は何でもペタペタと触るため清拭消毒も手間がかかる。ドアノブ、スイッチは当たり前、壁や床、空気清浄機、洗面台、水槽と挙げたらきりがない。
診察室に透明ビニールカーテンをDIYで取り付けたが、いざ診察するとなればそれを開けなくてはいけない。すると、待ってましたとばかり激しく泣き叫び、咳も容赦なく飛んでくる。小児科医の宿命なのだと覚悟しているが、疲れのせいか時にはこの現実を直視できなくなり、(もしかしてこれはイルージョン……)とふと頭をよぎる。私のような普通の町医者でさえも、PPEでは完全に拭いきれない恐怖感と日々闘っている。
昨年は、全国一斉休校の時期から子供の不定愁訴が増えた。大人の混乱と動揺が子供にも伝染し、先が見えない不安感に押しつぶされたのだ。ポロポロとただ涙を流すだけの子供を目の前にして、何もできない自分がいた。けれど、子供は逞しい。学校が再開されると自然と心の落ち着きを取り戻した。他者との関わりによって感情が解放され、表情に生気が戻ってきた。
今日も炭治郎マスクをした子供が目の前に座る。「煉獄さんがかっこよかった」と目を輝かせている。親子で一つの映画やテレビアニメを観て、感動を共有するのは幸せなことだ。「先生も煉獄さん大好きだよ」と返す。驚いたようにパッと見上げたその笑顔を見ると、疲弊した私の心は癒される。
家では、リラックスするためによくVODを利用する。ハマっているのは『永遠の桃花~三生三世~』だ。「三世」とは、前世、今生、来生をさし、転生しても一途に愛するという意味らしい。2017年に中国で放送された時、テレビドラマ史上初の総配信回数500億回超えを記録し、今では世界各国に配信されている。天族の皇太子・夜華と青丘の女帝・白浅が織りなす波乱万丈の純愛の軌跡を、壮大なスケールで描く全58話。回を追うごとに、演技派俳優マーク・チャオの夜華に魅了されていく。特に、彼が涙するシーンの艶やかさは芸術的だ。今、現実逃避したいあなたに自信を持ってお勧めする、琴線に触れる美しい物語。ハンカチのご用意をお忘れなく。
(令和3年1月号)