LGBTQ+とも表現される性的少数者への理解増進を図る法案の国会提出が見送られた。与党保守派から「訴訟が多発する社会になりかねない」との反対意見が出たからだそうだ。
新型コロナウイルス感染症への対応が十分ではない中で、東京五輪開催を1ヶ月後に控えている今、性別適合手術で男子から女子に性別転換したトランスジェンダーのニュージーランド代表重量挙げ選手が出場することになるかもしれない。トランスジェンダーの選手が五輪に参加することは初めてとなる。ハバード選手は8年前に手術を受けるまで男子として競技を行っていたが、IOCのガイドラインでは12ヶ月間の血清中テストステロン値が10nmol/L以下で、性自認が女性であれば女子選手として参加できるとされているため、出場可能と判断された。
似た案件として南アフリカ代表の陸上中距離キャスター・セメンヤ選手のことが想起される。ロンドン五輪とリオ五輪の女子800mの金メダリストである彼女は生まれつきテストステロン値が高いため、今後の競技参加のためには薬剤で人為的にテストステロン値を下げることが必要と国際陸連から申し渡された。彼女のような体の状態を「体の性の様々な発達」Differences of Sexual Development (DSD)というのだそうだ。生まれの性別と相入れない性自認を持つトランスジェンダーの人々との大きな違いは、DSDが性自認の問題ではないこと。セメンヤ選手自身も、「女性として生まれ、自分を女性として認識して生きてきた」と述べてきた。「第3の性別」と言われてしまう場合があるが、当事者の大多数は、全くそんな風には思っておらず、自己認識は完全に女性である。
競技スポーツに関して、テストステロン値が高い女性選手は公平な競争を妨げるので参加すべきではないとの意見もある。しかし、自分の性別に何の疑いもなく競技に打ち込んできて、国際大会に出場可能になったら、実はDSDであったというセメンヤ選手のようなケースを考えると、当事者の苦悩は計り知れない。
社会において性の多様性を認めることと、高テストステロン値を経験してきた女性の競技スポーツへの参加を認めることは別々に考えるべきだろう。IOCのプレスリリースでも「競技を男女別に分けていることの本質を尊重し、すべての女性選手のために、女性競技の公平性・公正性を保証すべきである」と述べられている。
(高橋 美徳 記)