この1年半日常では様々な制約を強いられることとなり、どうもマイナス思考になりがちです。そんな中、何か楽しいことなかったかなあ…と思いめぐらせたところ、ありました。これ、私の中では「妄想旅行」と呼んでいます。やっていることは、いたって簡単。TVで海外の旅番組を観ながら、旅行しているかの如くあれこれ妄想を広げるだけです。
この視点でTV番組表を眺めてみますと、実は数多くの旅番組が放映されていたことに驚かされます。もちろん番組制作者側も渡航が制限されているご時世ですから、再放送のプログラムも多いようですが、そこは新参者の私、どれも初めての映像ばかりで新鮮です。個人的には、自分が歩いているかのようなスピードの「街歩き」タイプの番組がお気に入りです。映像を観ながら「ここの人たちはフレンドリーだなあ。滞在したら過ごしやすそうだな」とか、「この日は晴れていてすごく素敵に撮影されているけど、実際は曇りや雨の日が多いからなあ」などとできるだけ現地を歩いている気分になることが重要です。この時には過去の旅行経験が活かされます。また気に入った場所は、後でグーグルマップのストリートビューで眺めたら、結構街を歩いている気分。妄想旅行も捨てたものではありません。
ただ残念なのは、番組で紹介された美味しそうな料理の数々が実際には味わえないことです。将来は、VRで映像を観ている最中に現地の食事を再現したデリバリーが届いて自宅で実際に味わうことができる(これに近いサービスは既に始まっている)とか、VR+脳への電気刺激でにおいや味が伝わってきて満足できてしまう…などという仮想旅行が当たり前になるかもしれません(このレベルになるとまだ妄想の域)。また、現地に行っても人ごみの後ろから眺めることしかできないような美術品を実際に訪れたかのように間近で鑑賞し、さらにはその作品の手触りなども感じられるような現実を超える仮想旅行、などというものも登場するかもしれません(妄想はどんどん膨らむ)。
先日行われた東京パラリンピック大会で、パラリンピアンの方々は、様々な体の制約があってもそれを強みに変えて生きていくことができる、ということを体現してくれました。制約は、制限ではなく進歩のための第一歩だったのですね。私たちもこの日常の制約を逆に強みとして変わっていかなければいけない時代を生きているのかもしれません。でも、せめてマスクをしていてもお互いの笑顔がわかるようなデバイスをどなたか発明してくださいませんか。そして、汗だくで街中を歩き回り、グーグルマップに載らない露店で極上のバインミーをほおばる…こんな至福の時がまた現実となることを願う自分もいます。
(須田生英子 記)