新潟の夏は、ビールと枝豆。ここは知る人ぞ知る枝豆大国です。作付面積は堂々の全国第1位。でも、あるアンケートでは、夏の味の第1位はスイカ。ダントツのようです。
私の記憶の中のおばあちゃんは、酒豪で、プロレスやギャンブルに熱中する男勝りなところがある反面、花を愛し、初孫の私を猫かわいがりした人でした。女手ひとつで3人の子を育てあげ、容易に弱音を吐かない気丈な性格でした。
私は玄米茶を飲みながら晩酌に付き合いました。おばあちゃんは、地元である会津のお酒を熱燗にして、顔色ひとつ変えずに飲んでいきます。味見だと言ってひと口くれるのですが、どこが美味しいのかさっぱりわかりませんでした。酔った時の口癖は「何があっがわがんねえがら、おめも手にしょぐもだねといがんべな(何があるかわからないから、おまえも手に職をつけなさい)」でした。
プロレス中継がある夜は、勉強どころではありません。おばあちゃんと声を合わせて「ワン、ツー、スリー!」と叫びガッツポーズ。猪木はピンチをしのいで必ず逆転勝利してくれます。猪木の対戦相手は皆悪党に見えました。
子供の頃の私は寝つきがとても悪い子で、朝寝坊してよく小学校を遅刻していました。今思えば、玄米茶をがぶ飲みしたことによるカフェインの影響と、就寝前にメディアから受けた過激な刺激が原因でしょう。
そんなある日、私は父から突然おばあちゃん部屋への「出禁」を言い渡されました。何度か私のことでもめていましたが、おそらく麻雀が決定打だと思います。「たまげだ(驚いた)。たいしたもんだ」と知らないおじさん達が目を丸くしていたので、そこそこ筋は良かったのでしょう。娘が、飲酒をして麻雀をして勉強もせずに不眠症になっていたわけですから、親としては妥当な判断だったと思います。
夏。「甘い、甘~い、安くて美味しい新潟のスイカだよ」。軽トラのアナウンスが聞こえると私はダッシュで飛び出します。おばあちゃんは少し遅れてやってきて、荷台に山積みされたスイカをボンボン、ボンボン。手で一つ一つ叩いて、これぞという1個を選ぶのです。
縁側に座って、冷えたスイカに塩をひとつまみ。ん~美味しい。視線の先に咲く、桔梗や薔薇が綺麗でした。大きく息を吸いこんで、空へ向けて口にたまった黒い種をプププーッと飛ばします。お行儀が悪くても楽しくてやめられません。「こらこら。来年は、庭にスイカがいっぺえなっつぉ(沢山できちゃうぞ)」。二人で久しぶりに笑い転げました。そんな素振りはおくびにも出さなかったけれど、きっとおばあちゃんの方が寂しかったはず。今ならそれがわかります。
夏の味は?と聞かれたら、私もスイカと答えます。店頭にスイカが並ぶこの季節には、ふとおばあちゃんのことを思い出します。
(大橋美奈子 記)