伊藤 一寿
昨年の10月に転倒して右肩の腱板を断裂し、手術を受けました。術後はゆっくりと可動域を拡げていく必要があるため車の運転ができるようになるまで2か月、運動ができるようになるのに半年かかりました。医療を受ける側になるのは久しぶりでいい経験になりましたが、半年も好きなスポーツができなかったのは痛恨の極みでした。
転倒について、高齢者が寝たきりになる主な原因の一つであるのは周知のことと思います。家で暮らす65歳以上の方でおよそ2割、施設に入居されている方では3割以上が1年間に少なくとも1回は転倒すると報告されています。そして高齢者が転倒すると10回につき1回の割合で骨折をしてしまうそうです。また高齢者の転倒による死亡が急増しており、特に80歳以上においては不慮の事故による死亡は転倒がその3割近くを占めているのだそうです。
さらに転倒は高齢者だけの問題ではなく、昨今では労働災害としても深刻な問題となっています。厚生労働省「令和2年 事故の型別労働災害発生状況」によれば転倒は休業4日以上の死傷災害全体のおよそ4分の1を占め、最多となっています。中でも食品スーパー及び総合スーパーなどの小売業での労働災害が増加傾向にあります。店舗内での「つまづき」、バックヤードでの「滑り」によるものが多く、例えば建設業における⾼所からの墜落事故のように仕事内容の特性によって起こる事故とは違い、日常の生活でも起こりうるような事故が多いことが特徴といえます。
また職業生活を含めた一般生活の中でも、転倒などが主な原因で亡くなる人は年々増えているそうです。その一方、交通事故で亡くなる人は対策が進んだことなどから減り続けています。平成21年にその数が逆転し、今では転倒死は交通事故死の2倍近くに達しているそうです。転倒災害の防止は今やあらゆる人々が意識すべき課題であるといえます。
ところで転倒はどんな時に起きやすいかご存じでしょうか?止まっていた状態から歩き始める時の一歩目、自宅やコンビニエンスストアなど屋内から外へ出る時の一歩目、乗物から降りた時の一歩目等、一歩目に多いそうです。私はゴルフ場でカートから降りる際の転倒でした。
転倒が思わぬケガにつながることがよくわかりました。人間はだんだんと転びやすくなるもの、慎重な一歩目を心がけたいと思った次第です。
(令和4年10月号)