高橋 美徳
COVD-19パンデミックは2022年11月中旬において全世界感染者6.37億人、死者数661万人を数え、人類に甚大な打撃をもたらしている。
その一方で社会経済活動の一時停止は、地球環境と野生生物に驚くべき影響を及ぼした事が確認された。ロックダウン2週間で大都市のスモッグが消え空気は澄み、インド・パンジャーブ州の都市ジャランダルからヒマラヤ山脈が望めるようになった。ヒトが立ち入らなくなったフロリダのビーチではアカウミガメが落ち着いて産卵ができるようになり、子ガメの孵化率が急上昇した。アラスカでは大型クルーズ船が運行休止となり、巨大なスクリューが巻き起こす海中騒音がなくなったため、ザトウクジラ親子の声による遠距離コミュニケーションが取れるようになった。母クジラは安心して仔クジラを残して群れでのバブル漁に参加可能となり、ひいては仔クジラの生存率上昇も期待できる。騒音でいえば世界で7000頭にまで減った野生のチーターの狩りを見ようと押し寄せていた観光客がいなくなると、喧騒によってかき消されてしまっていた親チーターの呼び声が子どもたちに届くようになった。他の肉食獣に獲物を横取りされやすいチーターが素早く親子揃って食事が摂れる環境になって、幼獣の生存率が明らかに上がったそうだ。
何度も見返す映画に『マトリックス』がある。エージェントと呼ばれる、AIが作り出した敵役を演じるヒューゴ・ウィーヴィングの「自然環境を食い尽くして無秩序に増殖する人類はウイルスと同じ。地球にとっては病気なのだ」という台詞が思い出される。短期間の行動制限で、これほど環境や野生生物に影響が出るとは大変な驚きだ。「地球は限界なんだ!人類は環境汚染を減らすため、ほんの僅かでも皆が何かをなすべきだ」とジャランダルの写真家アンシュール・チョプラは言う。自然との共生のため、引いては人類の生き残りのため、ヒトはどのように振る舞いを変えていくべきなのか。BBC制作の『The year earth changed』邦題『その年、地球が変わった』で、これまで多くの世界の野生生物ドキュメンタリーを手掛けてきたデビッド・アッテンボローが、今後の取るべき行動があるのではと冷静に語りかけてくれる。自国の領土拡大を目的に争う愚行は、今人類が取るべき行為でないことはあきらかだろう。
(令和4年12月号)